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雑誌『婦人公論』の編集長に聞く女性にどう“伝える”か
女性としてどう“生きる”か

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南青山のブックカフェ「brisa libreria(ブリッサ・リブレリア)」のオーナーであり、“ブックセラピスト”として活動する元木 忍さん。たくさんの本に囲まれた居心地のよい空間で、日々訪れる人たちと会話を交わしながら、その人の気持ちに沿った本選びをサポートしています。

そんないつもは“話を聞く”側の元木さんが、今回はインタビュアーとなって“気になる人”を訪ね、聞きたかったことを根掘り葉掘りうかがいました。登場していただいたのは、今年でなんと創刊101年目(!)を迎えた女性誌『婦人公論』の編集長、横山恵子さんです。
 

100年間、女性を
見守ってきた雑誌

『婦人公論』の創刊は1916年。女性の社会的地位が確立されていなかった戦前から、女性を暖かく見守り、生き方の指針を示してきた老舗雑誌です。その長い歴史の中で、女性編集長は横山さんを含め、わずか4人。現在は隔週刊(毎月第2・第4火曜日発売)、定価570円(税込)。
『婦人公論』の創刊は1916年。女性の社会的地位が確立されていなかった戦前から、女性を暖かく見守り、生き方の指針を示してきた老舗雑誌です。その長い歴史の中で、女性編集長は横山さんを含め、わずか4人。現在は隔週刊(毎月第2・第4火曜日発売)、定価570円(税込)。

 

後ろ指を指されるような人にも
その人なりの理由があり言葉がある

元木:実は私、この雑誌を20年以上愛読しているんです。ちょっとしたお金や政治、病気のことなどを読みやすく記事にしてあり、エッセイや連載の小説もとても楽しみです。とても贅沢な仕上がりで、じっくり読める雑誌ですが、決して“硬く”はありませんし、ライトな文章で気軽に読めます。ちょっとした息抜きの時間には、この雑誌を片手にコーヒーを飲む、というのがお気に入り。それくらい好きで長く愛読している雑誌なので、ぜひ編集長にお話を伺いたいと思っていたのですが、チャンスがようやく巡ってきました(笑)。

早速ですが、まずはこの雑誌を作るうえで、いちばん気をつけていることを教えてください。

横山:たくさんあるんですが……一番は、「女性へのリスペクトを忘れない」ということですね。

元木:女性へのリスペクト、ですか。

横山:そうです。『婦人公論』には、いろいろな人が登場するんです。賞賛される人だけではなく、世間から非難されるような話が出てくることもある。たとえば「子供を虐待してしまった」という読者の手記があったり。美談だけでなく、非常に厳しい話も掲載するのですが、よく話を掘り下げていけば、そうせざるを得なかった理由があり、言葉があるんです。それぞれの生き方にきちんと光を当てることが、いちばん大事だと思っています。そういう意味での「リスペクト」。

元木:すばらしいと思います。新しい言葉のように聞こえる!

横山:ただ、女性同士だと感覚で分かるところもあるのですが、男性編集部員にはきちんと言葉で説明するようにしています。若い部員たちは『婦人公論』の読者世代というと、お母さんくらいの人がほとんどです。アルバイトなどを通して年配の女性に接する機会はあったかもしれないですけど、そう多くはないはずですから、女性が抱える問題や悩みと言われても、どう取り上げればいいか迷うと思うんですよ。そういう時は「女の人への尊重を忘れないでね」とは伝えます。

元木:女性のほうが『婦人公論』は編集しやすいんでしょうか。歴代の編集長には、男性もいらしたわけですが。

横山:女性のほうがやりやすいとは思います。私の前任の編集長は男性でしたが、彼は「すごく苦労した」と言っていました。彼なりに友人を通じて、いろいろな女性たちから意見を聞いていましたね。自分の感覚だけで作ってはいけない、と思っていたようです。でも私に関して言えば、そういう苦労はありませんから。私が最初に編集部に入ったのは28歳でしたが、その時より、年を重ねた今のほうがより実感が伴うようになりました。

元木:28歳というと、約20年ですね。『婦人公論』っていえば老舗の雑誌ですものね。去年100周年で、今年は101年目に突入……。100年の重みってどうですか。

横山:もう、考えないようにしています(笑)

元木:あまり気負わず、リラックスしてやっていらっしゃる?

横山:いえ、リラックスはできないです。去年、100周年ということでこうした取材の機会も多くあって、その時は「箱根駅伝でタスキ渡されて走っている気分です」とお答えしていました。皆がタスキをつないできて、たまたま私がいま走者として、そのタスキをかけて走っている、という。でも、今年の箱根駅伝をテレビで見ながら思ったんですが、箱根駅伝は伴走してくれている人がたくさんいるじゃないですか。目的地も分かるでしょう。ただ私には、伴走してくれる人がね、「今、こうだぞ」とか「給水しなさい」とか導いてくれる人がいない……。

元木:だから走るっきゃない、アクセル全開、そういう感じですか。

横山:暗闇の中をずーっと走っているような。手探りの感覚ですね。

元木:でも、発行部数もすごいですよね。この雑誌不況の時代に19万部も配本できるのはやっぱりすごいなと思います。ところで今、横山編集長は何代目ですか?

横山:はっきり把握していませんが、30人くらいいるのでは、と思います。女性は、私で4人目。実は、ずっと男性が作ってきた雑誌なんですよ。

元木:でも、先ほどのお話のように、男性の目線と女性の目線ってやっぱり違いますよね。女性のほうが近いし、やりやすい……。

横山:ただ女性の感覚が分かる反面、企画のラインナップに意外性がなくなっちゃうんです。「読者はこういうことを知りたいだろう」とか、「こういう記事は読みたくないだろうな」と。女性から見て好まれそうな企画を並べていくだけでは、面白さが出なくなるんですよ。当たり前のラインナップ、同じ定食みたいなのがどんどん出てきてしまう。

元木:いつもの定食じゃなくって、たまにはパクチー食べたい! ってこと、ありますものね。

横山:そうなんです。パクチーみたいな企画があると、「何じゃこれ」ってなる。「好きじゃないなぁ」っていう人も出てくるかもしれないけれど、そういう企画も意識的に入れていかなきゃいけないと思うんです。男性は女性のことがわからないがゆえに、バランスがとれて雑誌としても面白くなる。男性編集長が多かったのは、それもあるのかなと思いますね。女の人は真面目だし、何かまとまっちゃうんですよ。私も、それはよく言われます。もっと“破綻”をしろ、って(笑)。
 

賞賛ばかりでなく
賛否両論ある記事がいいんです

元木:企画は部員から? それとも編集長からこういう企画やって、と与える感じですか?

横山:特集に関しては、部員から出た企画が中心ですね。それ以外の企画は、その時々で、それぞれが持ち込んできた企画をやってもらうこともあるし、私がこれやって、ということもある。最新号のデヴィット・ボウイの企画は、ファッション担当者の提案です。表紙は、表紙担当者が人選案を出してきて、あとは、私が特集を鑑みて、こういう人が出てくださるといいなぁ、なんて言ったり、意見を出し合って、最終的な判断は私がします。

元木:編集長になってから今までで、いちばんの自信作というか、印象的だった企画は?

横山:2016年6月14日号での、瀬戸内寂聴さんと小保方晴子さんの対談ですね。さまざまなメディアで取り上げていただき、重版もかかりました。今、瀬戸内寂聴さんとジェーン・スーさんが交替で巻頭エッセイを書いてくださっていて、その中で瀬戸内さんが小保方さんの『あの日』を読まれて、「わたしもかつてバッシングを受けていたし、彼女にも負けないでほしい」とエールを送ったのが、対談していただくきっかけになりました。

元木:読者の反応としてはどうだったんでしょう。

横山:彼女があんなにバッシングを受けて、心配していた読者もいらしたようで「こんなふうに姿を見せてくれて安心しました」という声が多かったです。一方で「やっぱり許せない」という意見もありました。でも雑誌の企画は、批判もないと話題にはなりません。賞賛ばかりでもだめ。賛否両論ある記事こそ、たくさんの人に読んでいただけたということだと思うんです。

元木:ほかに、今後取り上げてみたい人はいますか?

横山:宇多田ヒカルさんですね。お母さんのこともおっしゃるようになったし、出産も経験なさった。歌いかたも随分変わって、すごくナチュラルになった。ただ、生活の拠点が海外ですから難しい部分は多いんですけど、ぜひ登場していただきたいです。あとは復活を遂げた中森明菜さん。私は彼女の全盛期をずっと見てきて、今でも歌い踊れますけど(笑)、彼女の今の心境をぜひうかがってみたいです。

元木:やはり人生にドラマ性のある人がいい?

横山:そうですね。多くの人が、彼女たちの足跡を知っていますから、読者からの共感も強いと思いますね。

元木:人に歴史あり、ではないですが、共感できる悩みを見つけるって、どこかほっとするところがあるのかな。順風満帆な人だと「私とは違う」と拒否してしまうけど、苦労を共有できると親近感が湧く、っていうのはあるのかもしれないですね。宇多田ヒカルさんと、中森明菜さんの記事、実現するのを楽しみにしています!

横山:出ていただけるように、がんばります(笑)
 

「この先どうしよう」「今のままでいいの?」
と迷ったときに手に取ってほしい

元木:読者に向けて、どういう女性たちにどのように読んでもらいたい、この雑誌から何を感じとってほしいなど、ありますか。

横山:一般の女性誌の多くは読者ターゲットを絞っていますが、実は『婦人公論』では何十代向け、のような枠は作っていないんです。強いて言えば、文字が多いし、人生を考える内容が多いので、40代後半から50代くらいですかね。そのくらいの年齢になると、「この先、私どうしよう」「今のままでいいのかな」とか、「子供が成長してひとりの時間が増えた」とか考える瞬間が出てきます。たとえば、夫が第一線を退く世代になってきて帰宅が早くなった。そういう時に「私、この人とこれからどうしていこう」と思う。あとは健康のことですよね。「疲れやすくなった」とか、「健康診断で病気が見つかった」とか。そういうことが、日々の中にあるわけじゃないですか、そうした「私、このままでいいのかな」「この先どうしようかな」と思った時に、ぜひ手に取っていただけたら、と思います。

元木:そんなふうに考える年齢って、少し早まっている気がしますね。生きることを真面目に考えている若い世代って、食べるものにすごく気を遣っていたり、身体のケアに熱心だったり。男性と女性の関係に関しても、単に結婚したいというのではなくて、どう男性と向き合うかを懸命に考えている。そういう女性たちには、若くても『婦人公論』をぜひすすめたいな、と思うんです。今のうちにこういう雑誌を読んで知識を蓄えておけば、“その時”がやってきた時に、不安じゃなくなるのでは、と。実際、私も20代後半から愛読していて、そこで学んだことが今の仕事にも生かされている気がするんです。ともかく読みごたえ、抜群ですよね。

横山:月刊誌のボリュームを隔週で出していますから、2週間じゃ読みきれないという声をいただいたりすることもあるんです(笑)
 

子育てには、本当に
自信がないですね……

元木:話題は変わって、少し編集長のプライベートもお聞きしたいんですが。お子さんもいらっしゃるんですよね? “お母さん”でもある。

横山:“お母さんしてる”とはとても胸を張って言えませんが……。中学1年生の子がいます。

元木:仕事との両立、大変ですよね。苦労なさっているのでは?

横山:何もしてないんですよ。保育園や学童に全面的に頼っていましたし、ずいぶん親にも見てもらいましたし。校了が月に6日間あるので、その時は全面的に夫に任せています。

元木:産休は取得されたんですか?

横山:産前産後合わせて、4か月間ほど休みました。当時は、会社でお乳しぼってました(笑)。

元木:でも、二足のわらじは、今も続いているわけですものね。お子さんはそれに慣れた、という感じなのでしょうか。

横山:慣れたというより、諦めているんじゃないかな。子育ては、本当に自信ないですね……。子どもに「お母さんがいない」とか「なんでいないの?」って言われるとつい「ごめんね」って答えちゃう。でも一方で、「あなたを信頼しているから、お母さんはお仕事をやっていける」ということも、最近は伝えるようにしています。ただ、後ろめたさはどこかぬぐえないですね。

元木:その分、時間があるときは、いちゃいちゃしてきます?

横山:休日は、ほぼ一緒に過ごすようにしています。平日、私は21時位に帰りますが、子どもは22時には寝ますから、会話できる時間は1時間ほど。その間に「宿題は?」とか「明日は何時に学校に行くの」みたいなことを聞いたりしながら、洗濯物をたたんだり犬にエサをあげたり、諸々の家事もして。だから子どもが「学校でこんなことあった」「友だちとこんな話をした」みたいなことは聞き流しがちで、「早く寝なさい〜」で終わっちゃう。特に平日は、あまり子どもと話す時間がないですね。

元木:平日はすれ違いが多そうですが、週末は、どうやって過ごしていらっしゃいますか?

横山:基本的には家事をして過ごしています。一週間分の掃除とご飯の仕込み。冬であれば、カレーや鍋をどーんと、ひとつのメニューで2日いけるぞ(笑)という感じですが、夏はそうもいきませんから、悪くならないように工夫したり。掃除は週末でまとめてやって、あとは布団干しです。
 

人生経験を経た人たちの
言葉が詰まっているんです

元木:お子さんに本はよく与えるほう?

横山:本は欲しいと言ったら、何でも買うようにしています。一緒に買いに行ったりも。『婦人公論』で紹介している本の中で、いいなと思うのがあったら、すすめたりもします。なるべく興味に引っ掛かるような要素があるもの、中高生が主人公とか、そういうものを選んで渡してみたりしています。

元木:今回はそんな編集長に、@Livingの読者におすすめの本を選んでいただきました。
まず1冊目、実は選んでいただいたものの、若干タイトルが過激なので、ここで紹介していいかどうか悩んだんですけど……実際読んでみたらそうでもなかったので。

横山:『夫のちんぽが入らない』です。こだまさんという著者の実話です。最初は同人誌で発表され、その後コミケで販売したところ、ものすごく反響があったそうなんです。今、話題になっていて、実際よく売れているそうですよ。

元木:個人的には、コメントが苦手なジャンルなのですが(笑)

横山:でも、読むと全然、平気でしょう。セックスもの、というのではなく、自分の育ってきた環境や、仕事の悩みといった話が多い。著者のこだまさんは、もともと小学校の先生だったんですが、学級崩壊しているようなクラスを受け持って、最終的には自分まで壊れてしまう。それで、仕事を辞めちゃうんですね。しかも自己免疫疾患を患ってしまう。彼女は大学生の時から付き合っていた、やはり先生をしている男性と結婚するんですけど、できないんですよ、性交が。いろいろ試すんだけど、何をしてもうまくいかない。ただ、他の人とはできるんです。夫は風俗、彼女はゆきずりの人となら、なぜかできる。でも夫婦ではできない、っていう。そのことでお互いとても悩んでいるのに、さらに自分たちの仕事のいろんな悩みが出てきたり、実母から「早く子ども作れ」とプレッシャーをかけられる。「いや、そもそも私たち、できないんです」と言えたらラクなのに、言えない。

元木:この本を読んで、「あー、やっぱり婦人公論の編集長だなぁ」と思いました。これはもう、職業病ですね(笑)。

横山:『婦人公論』には昔から「読者ノンフィクション」という読者投稿の手記があって、この本はそれに通じるものがあるなと思いました。

夫のちんぽが入らない こだま(著) 扶桑社 1,404円(税込)

『夫のちんぽが入らない』
こだま(著)

扶桑社 1,404円(税込)

 

元木:そしてもう一冊が『ヨーコさんの“言葉”わけがわからん』ですね。

横山:先ほど元木さんが「若い人にも『婦人公論』を読んでほしい」って言ってくださいましたが、この本も『婦人公論』と共通する部分がすごくあると思ったんです。この本には人生経験を重ねた人たちの言葉がたくさん詰まっていて、たとえば、昔は親が嫌いで、「あんな親になりたくない」と思っていたのに、いざ自分が親になってみると「親にされたような説教を子どもにしている」とか、「年老いた親の顔に自分が似てきた」とか……。でも「それはそれで、そう悪い感じでもないね、人の世を生きていくことってそういうことだよね」ということが凝縮されていて、とてもいいなと思うんです。だからぜひ、若い人たちにも読んでほしいと思いますね。

ヨーコさんの“言葉”わけがわからん 佐野洋子(著) 北村裕花(絵) 講談社 1,404円(税込)

『ヨーコさんの“言葉”わけがわからん』
佐野洋子(著) 北村裕花(絵)

講談社 1,404円(税込)

 

皆、それぞれ折り合いを
つけて、生きているんです

元木:特に1冊目の『夫のちんぽ〜』は、タイトルだけを聞いて、えっ? と思いましたけど、読んでみて、ほっとしました。

横山:確かに、タイトルは(笑)。でも実際世の中は、セックスだけの問題ではなく、若い世代でも夫婦でどう向きあうか悩んでいる人はたくさんいるんじゃないでしょうか。今は、かつてのように夫が稼いで妻は家を守るとか、夫の三歩後ろを妻はついていく、というような価値観での結婚ではないですからね。男性か女性か、どちらか一方がリードする結婚じゃなく、お互いが納得して、選択する。子どもをつくる、つくらないもそうかもしれないけど、明らかに昔の結婚とは違ってきているんです。

ただ、そういう時代だと思って編集していても、いやいや本当にいろいろな人、夫婦、家族があるなとつくづく思わされるのが、この雑誌の興味深いところでして。たとえば本当に「もう離婚すればいいのに」っていう話もけっこう寄せられるんです。「社会ではお前なんか何の役にも立たない」と言われるとか、夫から月に5000円しかもらえなくて「これで1か月やれ」と言われるとか……。そんなのあり得ないと思うでしょう? 「どうして別れないのかなー」と思うわけですよ。でも実は、そういう境遇にいる人がいるんですよ。

でも一方で、その夫婦なりの歴史やコンビネーションもあるんです。「その夫婦でしか分からない呼吸もあるんだなぁ」と思うと、一概に「女性も自立しろ」とか、「自分でなんとかしなさい」なんて言えないんです。「理不尽だけれど生きて行く、生きて行こうよ」っていうところにいく。ただ、だからといって皆、すごく暗いわけじゃなく、どこか、のほほんともしてるんですよね。端から見ると「別れたほうが自由になれるよ」っていう話がたくさんあるんだけど、実際には別れない人も多い。でもそれは、最初のリスペクトの話につながるんですが、その人にはその人なりの人間関係があって、その中でいいこともあるんだろうと。皆、それぞれ折り合いをつけて生きている。
 

ひと言で“自立”といっても
それは人それぞれ違うもの

元木:逆もありますよね。たとえば離婚して水を得た魚のようにキレイになる人もいる。女も男もだけど、依存しない生き方をしている人もいるじゃないですか。

横山:私も、基本的にはそういうほうがいいと思ってます。「女性も手に職を持って、自立した生き方したほうがいい」と思っていますけど、最近はそれだけを振りかざすのもな、とも思っています。たとえば、老後の特集をやるとすごく売れるんですが、つまり皆、不安なんですよね。閉塞感というか。でもそういう中でも生きていかなきゃいけないと考えた時、「ともかく自立」とか、「お互い依存し合わず、対等な関係でいるべき」みたいなことをあまり声高に言うと、それはそれでプレッシャーになる人もいる。どう生きたいかは人それぞれなので「こうあるべき」と決めつけるのは、よくないのかなと最近は思っていますね。それぞれが今の自分の生き方で、幸せを感じる瞬間もある、と思えれば。

元木:編集長自身が、読者に対して、やさしい目線に変わってきたということでしょうか。

横山:“自立”ということでなく、“幸せ”という視点のほうがいまの時代に合ってるのかな、と。その人なりに自分の幸せを考えた時に、もしかしたらそれは夫と一緒にいることかもしれないし、離婚して一から自分の生活を作っていくことかもしれないし、子どもを産まないということかもしれない。それは人それぞれなんだなぁと。ただ“自立”ばかりを言ってもあんまり響かないのかな、と最近は思うようになってきたんです。

元木:『婦人公論』のスタンスも、そうですよね。いろんな意見があって答えを導くのではない……。

横山:そうです。だから「私はこう思う」「私はこうしてきました」というのをいろいろな人に話してもらう。でもそれは「あなたもそうしろ」じゃないんです。そこは編集側としても意識しているところで、それをイコール『婦人公論』の主張、にはしないようにしています。この方はこういう選択をしているけれど、それはすべての人に当てはまる選択かというと、そうではないわけですから。

元木:つまり、いろいろな人の話を読んで、共感できることが見つけられればいいんですね。

横山:そう、これだけありますから、皆、何かしら心に引っ掛かる言葉があると思います。『婦人公論』は地方の読者が多くて、宣伝も全地方紙に出しているという今どき珍しい媒体なんですけど、その新聞広告を見て買ってくださる方も多いんです。私のおすすめは「読者のひろば」という連載で、ここがまた、そうした読者の切実な気持ちが見えるんですよ。今の読者のリアルな気持ち、ごくごく一般的なふつうの家庭の女性の代表の声、です。

私みたいに朝から晩まで会社に缶詰になって地下鉄で帰って……というような生活をしている人ではなく、朝ちゃんと早く起きて、夫と子供の朝ごはんやお弁当を作って、親の介護もして、8時からパート行って、終わったら夕食の買い物をして、帰って夕飯を作る……。そういう地に足のついた生活をしている方々の声、そのつぶやきが、ここにはあるんです。

夫がうっとうしい、息子が働かない、お嫁さんにこう言われた、パート先でこういう人がいる……。本当に小さい生活の中の細かい細かい話なんですよ。ですけど、皆、同じようなことでもやもやしたり、心を痛めたりしている。そういう話が、たくさんここに送られてくる。

元木:実はそれって、世の中の縮図みたいなものですよね。皆、いろいろ悩んでいる、そういうことの代表事例が出ているという。

横山:そうですね、それもあって、私はこのページを読むのが好きですね。

『婦人公論』の編集部に宛てて、読者から送られてくる手記から、毎号2通ずつを掲載。それぞれの日常に起きたことへの、自身への皮肉も含んだ目線がリアルで、かつ暖かい。
『婦人公論』の編集部に宛てて、読者から送られてくる手記から、毎号2通ずつを掲載。それぞれの日常に起きたことへの、自身への皮肉も含んだ目線がリアルで、かつ暖かい。

 

どんな人にも、いろいろな
紆余曲折があって今がある

元木:若い女性には、どう読んでほしいですか?

横山:今、スターといわれる方でも、そこに至るまでさまざまな紆余曲折があって今がある、というような話がたくさん載っているので、そのあたりでしょうか。皆さん、決して順風満帆ではなく、それぞれ苦労があったり、壁にぶつかって、悩みながら仕事をしている。その過程で周りの人の思いやりに気づいたり折り合うことを知ったり、自分の役割とは何かということを見つけようとしたりしてきているわけです。そんな話の中から共感する部分はあると思いますね。

元木:実際、自分の母親に似ている人の話が出てきたりするんですよね。それで「お母さん、もしかして私のこと、こんなふうに思っているの?」みたいな見方をすることもある。あと「旦那さんのお義母さんとうまくいってない」みたいな愚痴に付き合うことも多いんですが、そういう話も載っているので、同じような相談をされた時のアドバイスのヒントにしたり、言葉を見つけたりもします。

横山:最新号では美輪明宏さんのインタビューを掲載していますが、お話の中に気づかされることがとても多い。「もしかして親が、上司が、言っていた言葉って、こういうことだったのかな」というように、つながってくる。人に思いやりを持つとか、想像力を持つ、というようなことって、仕事にも人間関係にも役立つと思うんです。出てくる事例に自分がぴたり当てはまらなくても、また、特に悩みもなく困っていなくても、言葉自体に非常に普遍性があるので、自分を見つめ直す、いいきっかけになるのかなと思います。
 

完璧主義では壊れちゃうから
家では仕事はいっさいしません

元木:最初に「伴走者がいない」っておっしゃっていましたが、編集長って孤独ですか?

横山:孤独です(笑)。ただだからといって、周りに意見を求めすぎても一冊にまとまらないし、周りも「どうしよう?」「どう思う?」なんて言われてばかりだと不安になるでしょう。実は私、本当に決められなくて、自分でも困るくらい! いつも「タイトルどうしよう」「表紙どうしよう」って迷ってる。

元木:そうした中でも、やっていかれる原動力は?

横山:タスキの話ではないですが、100年も続いてきて、ここで終わるわけにはいきません(笑)。何より毎号楽しみにしてくださっている読者の方がいる、ということですね。

元木:では、家に帰っても仕事のことが忘れられない?

横山:いいえ、忘れちゃう(笑)。わたし、家では仕事しないんですよ。よほど「これを家でやんないと締め切りに間に合わない」という場合はやらないこともないですが、基本的に家ではやらないし、やらないようにしている。というより、できないんです。自分でも不思議なんですけど、家では、仕事モードにならないんです。ときどき持って帰ったりもしますけど、結局やらずに、朝、会社に行ってやることが多いです。

編集長になった時「ちゃんと休みを作れ」と上司に言われて、「よく言うよ」と思ったんですが(笑)、でも、家でやらない、やる気が起きないというのは、無意識に切り替えているのかもしれません。どこかに“余白”もないと。完璧主義だと壊れちゃいますよね。

元木:家事がリラックスになっているということでしょうか。

横山:仕事とは全然違う“頭”になるじゃないですか。「ここにある材料で何か作らなきゃ」とか「掃除しなきゃ」って。でもまあ、仕事よりは楽かな。家事は、やらなければいけないことやゴールが分かっていますけど、仕事にはゴールがない。どこまでやればいいか分からないし、正解は分からないから、仕事のほうが厳しいですね。

元木:忙しいから、逆に家事がはかどる?

横山:うーん、それは感じないけど、昨日も校了(締め切り)で、朝5時くらいに帰ったら、テーブルの上がぐちゃぐちゃで、つい片付け始めたりして。そこにストレスの塊がある気がして、やらないでいられないってことはあります。1時間でも早く寝たほうがいいのにと思いながら。

元木:忙しくしてらっしゃる間は、いろいろなネタが出てきそう(笑)。これから、ますます楽しみです! 今日はありがとうございました。

横山:ありがとうございました。
 

※敬称略


 

 
取材・文=原口 りう子 撮影=田口陽介

Profile

横山 恵子

横山 恵子

1998年、中央公論社(現・中央公論新社)入社。同年3月に、判型を大きくし、月刊から月2回刊にリニューアルした『婦人公論』編集部に配属。2009年に副編集長に就任し、2014年4月より編集長を務めている。

 

元木 忍

元木 忍

brisa libreria 代表取締役。大学卒業後、学研ホールディングスで書店営業やマーケティング、楽天ブックスではECサイト運営や物流、CCCでは電子書籍ビジネスの立ち上げと、一貫して書籍にかかわる仕事を担当。東日本大震災を機に人生を見直し、2013年、サロンを併設したブックカフェ brisa libreria を南青山に開業。オーガニックスパサロン spa madera も経営している。