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雑誌『ワイン王国』の編集長に聞くワインのその先にある
「楽しさ」を伝えること

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@Livingでもすっかりおなじみ、東京・南青山のブックカフェ「brisa libreria(ブリッサ・リブレリア)のオーナー兼ブックセラピストとして、“素敵な本”との出会いを提案してくださる元木 忍さん。ワインセミナーも開催するほど、自他ともに認めるワイン好きの元木さんが今回インタビューしたいと訪ねたのは、ワイン専門誌の先駆的存在である『ワイン王国』の編集長・村田惠子さん。爽やかなロゼ・スパークリングを飲みながらの対談、スタートです。

 

 

ワインの魅力を伝えて
まもなく創刊100号

元木忍さん(以下、元木):毎号、無駄なページが一切なく、読み応えたっぷりでとても楽しみにしています。誌面のいたるところからワインへの愛情が伝わってきますが、創刊して何年になりますか?

村田惠子さん(以下、村田):1998年の12月に創刊して、今年(2017年)の8月5日発売号で創刊100号を迎えます。

元木:100号! それはおめでとうございます! 98年というと、ちょうどワインブームでしたよね? 私もその時代にワインが好きになったんです。

村田:はい、その通りです。ワインは1970年前半の外国産輸入ワイン自由化をきっかけに、第1次ブームがはじまり、78年、81年、87〜90年、94年とそれぞれムーブメントがありました。創刊時期の97〜98年が第6次ブームと言われています。バブル期の高級ワインブームからチリや南半球のワンコインワイン、そして国産低価格ワインの台頭を経て、第6次は健康志向に後押しされたブームでした。

元木:ポリフェノールがカラダにいいと知られ、「なんでもいいから“赤ワイン”ください!」と言う人がたくさんいたことを思い出します(笑)。村田さんは創刊時から編集スタッフだったのですか?

村田:いいえ、2000年にフリーランスとして関わるようになって、2004年に編集長に就任しました。

元木:当たり前すぎる質問ですが、やはりワインがお好きですか? 飲む頻度も教えてください。

村田:もちろんワインが大好きです。ほぼ365日、ワインを飲んでいますね。毎日飲むことで、体調管理のバロメーターにしているほど(笑)。例えば「ちょっとお酒のまわりが早いかな」と思ったら、軽めの白ワインにしたり、赤ワインでも「少し冷やして1杯ぐらいにしておこうかな」というように、その時々によって飲むワインは変わりますけれどね。

元木:ふつうの人のバロメーターといえば「調子が悪いから、今日は飲むのをやめよう」となるのに、毎日とはさすがです(笑)。きっとランチタイムも一杯……やっていらっしゃいますよね?

村田:はい(笑)。朝から試飲会がある場合もありますしね。あくまでも仕事ですからスピット(※吐き出すこと)しますが。編集部の近くにおいしいうどん屋さんがあるのですが、そちらはワインの品揃えもよくて。ランチのときに一杯いただくことで、豊かな時間を過ごすことができますね。

元木:お好きなワインはどのようなタイプですか?

村田:「すべてのワインが好きです」とお話ししようと思ったのですが、昨夜、夫とワインを飲みながら「私はワインならなんでも好きよね?」と尋ねたところ、「でも、君はいつもフランスのワインが好き。エレガントで酸味がキレイでおいしいって言ってるよ」と。そうか、やっぱりフランスのワインが好きなんだ、と気づかされました(笑)。

元木:フランスはブルゴーニュ地方ですか?

村田:そうですね。ピノ・ノワールが好きなんでしょうね。ピノ・ノワールというと、みなさん「色は淡いけれど香りがすばらしい」とおっしゃいます。私は香りも好きですけれど、それよりもピノ・ノワールのエレガントな酸味と、清々しい果実味のバランスのよさに魅せられています。

 

今回の対談をきっかけに、村田編集長はあらためてフランスワインが好きだと認識したそう。ブルゴーニュとボルドーはともにフランスを代表する銘醸地。大きな違いは、ブルゴーニュでは赤はピノ・ノワール、白はシャルドネとそれぞれひとつの品種でつくり、ボルドーでは2種類以上の品種でつくるという点でしょう。
今回の対談をきっかけに、村田編集長はあらためてフランスワインが好きだと認識したそう。ブルゴーニュとボルドーはともにフランスを代表する銘醸地。大きな違いは、ブルゴーニュでは赤はピノ・ノワール、白はシャルドネとそれぞれひとつの品種でつくり、ボルドーでは2種類以上の品種でつくるという点でしょう。

 

元木:ワインはその土地土地によって個性が異なる……“テロワール”が魅力です。村田さんがこれまで取材なさってきたなかで、魅力的な生産者さんはどのような方でしたか?

村田:いろいろな産地に行きましたが、とても印象深かったのがイタリアのトスカーナ、モンタルチーノ地方です。とってもエレガントで典雅なワインをつくるワイナリーで、小高い丘の上にポツンとあるんです。お庭もお家の中もキレイで素敵。生産量が少なく、セラー(醸造所)は小さいのですが、これまたキレイで。清潔というのは、こういうことを言うんだなというお手本になるほど! 熟成しているものをステンレスタンクや樽から出して、順番にサンプルテイスティングすると、タンクごと、樽ごとにグラスを交換してくれる。使ったグラスはすぐに洗浄して棚に片付けるという几帳面さでした。ワインも、本当にキレイでおいしい。まさに、造り手の人となりが現れているんです。お顔はちょっと怖いんですけど(笑)、物静かで繊細。ワインへの情熱が深く、「余計なことはしない。ブドウが完全に熟すまで待つ。それだけをしている」という哲学を語ってくださいました。

元木:不器用だけれども、いい男(笑)。その方に惚れてしまいそうですね。

村田:でも奥様には逃げられたと(笑)。お部屋に戻ると、大ぶりのグラスでロッソとブルネッロをいただきまして。彼がお菓子やパスタなどを保管している戸棚を開けた時に、チラッと覗き見したら、パッケージごとにズラリと並んでいて(笑)。こんなところにも几帳面さが現れているなぁ、と微笑ましくなりました。あ、でも、近所では“変人”と言われているとか……。

元木:ますます訪れてみたくなりますね(笑)。

 

トスカーナ地方の内陸部に位置する、イタリアワインの中心地であるモンタルチーノ村。ここで生まれるブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、ピエモンテ地方のバローロ、バルバレスコと並ぶ、イタリア三大赤ワインのひとつで、サンジョヴェーゼの変異種・ブルネッロを使用した力強い味わいが特徴です。
トスカーナ地方の内陸部に位置する、イタリアワインの中心地であるモンタルチーノ村。ここで生まれるブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、ピエモンテ地方のバローロ、バルバレスコと並ぶ、イタリア三大赤ワインのひとつで、サンジョヴェーゼの変異種・ブルネッロを使用した力強い味わいが特徴です。

 

元木:さて今後、話題になりそうなワイナリーは?

村田:ワイン造りの歴史はとても古いのに、田舎くさいとか、洗練されていないと思われがちで、言わば忘れ去られていた国があるんです。

元木:それはどちらですか?

村田:ギリシャです。それからイスラエル、ジョージア(旧グルジア)、クロアチア、ルーマニア、ブルガリアも。いずれも古くからワイン造りをしていた国ですが、最新の醸造技術が取り入れられ、土着品種のほか、国際品種、さらにはそれらをブレンドするなど非常に注目度が高いですね。

元木:私は、ワイン会を主宰しているんですが、この間、ギリシャのワインをいただきました。最高ですよね! インポーターさんがそうした新しい世界に興味がある人が増えたんだなぁ、と実感しました。

 

 

日本のワイナリーも
どんどん進化している

元木:では、日本のワイナリーはどうでしょうか?

村田:日進月歩です。いま注目しているのが九州と東北。九州は大分の安心院葡萄酒工房と熊本の熊本ワインがすばらしいですね。どちらもシャルドネでスパークリングもつくっています。

元木:日本のワイン、品質がとてもよくなっておいしいですよね。注目度も高いですし。

村田:東北では岩手のエーデルワインが目を引きます。白はリースリング・リオンを使っています。

元木:リースリング・リオンというとドイツのイメージがありますが、岩手とは!

村田:リースリング・リオンは、リースリングと甲州三尺を掛け合わせた品種で、岩手の気候風土に合っているといわれています。赤はツヴァイゲルトレーベがいいですね。あとは山形の高畠ワイナリー。こちらはシャルドネです。ブルゴーニュのシャルドネにも負けないほど素晴らしい。同じく山形の朝日町ワインのマスカット・ベーリーAも特出していますね。

元木:本当、いいワイナリーが日本にも増えてうれしい限りです。

 

 

誌面づくりの肝は
正しい情報をタイムリーに

元木:『ワイン王国』は2カ月に1回発行される隔月刊誌です。制作にあたって、重要なところや気をつけている点はどこですか? やはりタイトルでしょうか?

村田:ええ、タイトルは大切ですね。興味を持っていただき、手にしてもらってページをご覧いただけるようにしないと。ワインも同じこと。開けて飲んでもらわないと、そのよさがわかりませんから。

元木:第1特集に魅かれますが、どなたが企画を決めるのですか?

村田:私が決めています。シャンパーニュやスパークリングが飲みたくなる季節には「泡の立つワイン」を、秋にはブルゴーニュ、冬にはボルドーと季節感に則っています。

元木:意外性を狙ったところ好評だった、という特集はありますか?

村田:ワインそのものには意外性はたくさんあると思うんです。ただ、雑誌づくり、こと第1特集に関しては、意外性よりも、ボルドーとかブルゴーニュ、シャンパーニュ、イタリアならバローロやブルネッロといった王道が好まれます。ですので、細かいコンテンツで新しいこと、現地取材などでバリエーションを見せていますね。

元木:情報量も素晴らしいですが、何人で編集なさっているんですか?

村田:私を含めて5人ですね。

元木:もちろん、編集部のみなさんはワイン好きですよね?

村田:仕事ですからね! 「編集部で試飲してください」と頂戴するワインも多く、きちんと試飲したうえで、リポートしフィードバックしています。例えば、ロゼがたくさん集まってきたら、ずらっと並べてみんなで飲み比べを。お仕事が終わっていたら、持ち込みできるレストランに持って行ってお料理と合わせていただきます。そして「こういうお料理と合いました」とご報告しています。

元木:まさにカラダを張ったお仕事ですね! 読者にどんなことを伝えたいですか?

村田:ワインに関わる正しい情報です。いち早く、しかもタイムリーに。そう、早すぎても遅すぎてもダメなんです。はじめてワインを飲み始めた読者もいらっしゃる。「ワインの世界って楽しい」「もっと深く知りたい」「ワインを飲みに行きたい」「ワインを買いたい」そんな雑誌にしたいと思います。そうしたあれこれを、楽しく、おいしく、わかりやすく伝えたいと思います。

 

 

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ワイン王国

¥1,620(税込)

ワインの情報を正しく伝えることに注力した専門誌として大きな賛同を得て約20年。夏には泡系、秋にはブルゴーニュ、12月〜2月はボルドーを特集するなど季節感を大事にしている。ワインビギナーにもわかりやすい誌面が好評。偶数月・5日発売。

 

 

ワインとの付き合い方は
刻々と変化している

元木:流行りの飲み方はありますか?

村田:これから梅雨に入り蒸し暑くなって、そして夏になると、泡(スパークリング)が欲しくなりますよね。ここ数年のトレンドですが、氷を浮かべて楽しむために造られたスパークリングが登場しています。大きく膨らんだボール型のグラスに注いで氷を入れてみてください。そこにスライスした野菜やカットフルーツを入れても!

元木:氷とは斬新ですが、きっと爽やかですよね!

村田:はい。きちんと計算されてつくられているんです。そのままだと甘めなのですが、氷がだんだんと溶けていくにつれ、ほどよい爽やかさを残した甘口になるようになっています。

元木:時間の経過も楽しめるお酒ですね。そう聞くと、ワインの価値観も変わったように思います。

村田:かつては、赤ワインは室温、白は冷やして。赤にはお肉、白にはお魚というように、格式張ったというか杓子定規でした。けれども、今はそんなことはありません。少し冷やしたほうがおいしくなる赤ワインもあります。ヨーロッパと日本の温度は違いますからね。それに、こうして楽しくお話ししながら飲んでいると、グラスの中のワインの温度が上がっていくので、最初は少し冷やしてもいいと思います。私は好きですよ。

元木:私自身は、ワインを好きになって、ワインばかりを飲むようになって……ただの飲兵衛だったのですが、ワインを知ることで苦手だった“地理”がおもしろく感じるようになったんです。ワイナリーの場所を地図でチェックしてみて、「近くまでいったことある!」となると楽しくて。

村田:私も地理が苦手でしたが、ワインを通じて、地形、地勢、風土、海に近いのか、山のなかなのか、標高は高いのかが気になってくる。それはテロワールに通じるもので、好奇心が刺激されました。

元木:同じ品種のブドウでも、日陰と日向で育ったワインはこんなに違う、ということがわかるのもワインのおもしろさですね。ところで、日本のワイン人口は増えているのかしら?

村田:増えていますね。2011年からの5年間は年間2.31リットルだったのが、現在は2.98リットルになっています。フランスやイタリアは日本の20〜30倍は飲まれますから、世界的にはまだまだですが。

元木:もっともっとワインを広めたいですね。

村田:本当に。それにワインそのものだけじゃないんです。ワインを好きになると、ワインが好きな人と巡り会う。そこからまたおいしいワインに出会い、そのワインの先に愉快な仲間たちがいる。さらに、その人の先にまたおいしいワインがある。それはずっと繋がっていく、そのワインライフを楽しんでいただきたいですね。

元木:そうそう! カクテルやウイスキーはひとりでもいいですが、ワインのおいしさはみんなで分け合って楽しみたい。だから、あのサイズ(容量)なんだと思います。

村田:自分ひとりだと飲み切れなくても、みんながいれば、もう1本ぐらい開けちゃおうかな、となる(笑)。

元木:友達がいると景気良く開けちゃいますし。いいワインは独り占めしませんよね。

村田:そうです。人がいらっしゃるときや集まるときに、みんなで飲もうってなるんです!

 

 

手土産にもぴったり。
編集長のおすすめは?

元木:いま、飲んでおくべき、編集長おすすめの2本を教えてください。

村田:まずは、南アフリカのKWVのスパークリングワインです。KWVは1918年に創業した、南アフリカ最大のリーディングカンパニー。レンジも幅広くて、品質が非常にいい。お値段も2000円前後と高くなくて。凝縮感があり、エキゾチックなスタイル。切れもよく、しっかりした酸味があります。

元木:インターネットでの評判も高いんですね。

村田:もう1本はフランス、ルイナールのロゼ・シャンパーニュ。創立が1729年と、シャンパーニュ最古のメゾンと称されています。1764年には最初のロゼ・シャンパーニュをドイツに出荷したという文献もあるほど。とにかく色が美しい。清らかでエレガントなのに軽いのではなく、ふくよかなコクもあって、しなやかな味です。

元木:村田さんのコメントを聞いているだけで、「飲みたい」という欲求が高まります。そうやっておいしさや特徴を的確に伝えることができるのって素敵ですね。

村田:ワイン好きですから。そして飲まないと言えませんし書けませんからね(笑)

元木:では、もうちょっといただきましょうか(笑)

 

KWV「キュヴェ ブリュット」はシュナン・ブラン種を主体とした、シャープな切れ味を持った辛口のスパークリングワイン。繊細な泡立ちも美しく、フレッシュな果実味も楽しめます。
KWV「キュヴェ ブリュット」はシュナン・ブラン種を主体とした、シャープな切れ味を持った辛口のスパークリングワイン。繊細な泡立ちも美しく、フレッシュな果実味も楽しめます。

 

ルイナール「ロゼ・シャンパーニュ」は、ピンクがかったゴールドの色合いがなんとも美しい。口当たりは滑らかで、赤い果実のアロマも特徴的です。ピノ・ノワールとシャルドネを使用。
ルイナール「ロゼ・シャンパーニュ」は、ピンクがかったゴールドの色合いがなんとも美しい。口当たりは滑らかで、赤い果実のアロマも特徴的です。ピノ・ノワールとシャルドネを使用。

 

取材・文=山﨑真由子 撮影=田口陽介

 

Profile

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ワイン王国編集長 村田惠子(左)

1986年よりワインのインポーターに勤務する傍ら、ワイン関連の記事を執筆。その後、ワインコーディネーター、ワインエデュケーターとしてジャーナリスト活動をスタート。ワイン専門誌をはじめホテル・レストラン専門誌、一般誌、書籍のワイン関連企画・編集・執筆を行う。2000年より、世界各国のワイン情報を掲載するワイン総合誌『ワイン王国』にフリーランスのジャーナリストとして参画。2004年に編集長、翌年取締役編集長に就任。2013年より代表取締役社長兼編集長となり、現在に至る。毎年世界のワイン産地を訪れ、生産者や業界関係者、ジャーナリストと交流。ワイン業界を中心にコンサルティング、セミナー、各種イベントの企画を手がけ、「ホテルオークラ ワインアカデミー」など講師活動も盛ん。フランス政府農事功労章シュヴァリエ受章。

元木忍(右)

brisa libreria 代表取締役。大学卒業後、学研ホールディングスで書店営業やマーケティング、楽天ブックスではECサイト運営や物流、CCCでは電子書籍ビジネスの立ち上げと、一貫して書籍にかかわる仕事を担当。東日本大震災を機に人生を見直し、2013年、サロンを併設したブックカフェ brisa libreria を南青山に開業。オーガニックスパサロン spa madera も経営している。