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家をもたない暮らしから、多拠点居住へ“旅”とともに
生きていくための家探し -前編-

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「人生にはやっぱりリビングが必要」

「家をなくして旅をし始めた当初は、『これって最高に自由!』と感じてすごく楽しかったです。だって、家がないから今日どこに泊まってもいいなんて、そんな環境下に置かれたことがなかったから。

でも、今思い返すと笑い話ですが、実は出発してから数ヶ月後のしばらくの期間は、『私には家がない』という状況に精神的に落ち込んだ時期もあったんです(笑)。帰れる場所といったら新潟の実家だけ。それも素晴らしいことなのですが、世界一周中も仕事の都合で東京に度々帰ってきていたので、そのとき『どこで寝泊まりすればよいのか』と悩んでけっこう辛かったですね。

ただ、『家がない生活』も、一山越えると(?)日常に近付いてしまうのか、途中からなんだか慣れました。宿泊先を決めずに移動しても、いまはスマホさえあればウェブの力を駆使してどうにかなる。そもそも仕事で日本にいる以外は海外を旅し続けていて、その間は『家なし』なんて考える暇がないくらい、やっぱり最高に楽しかったですしね」。

↑スペイン・バルセロナの街角のカフェにて
↑スペイン・バルセロナの街角のカフェにて

今はこのように、明るく話す伊佐さん。けれど、当時彼女が抱いた『家がない不安』とは、具体的にどんなものだったのでしょう? モノがないこと、落ち着いて眠れるベッドがないこと、夜の寝床を確保するたびに、いちいち出費がかさむこと……。激動の人生に心を震わせながら、それでもなお旅を続けた伊佐さんは、このあとひとつの答えに辿り着きます。

「旅に出たときは70ℓのスーツケースを持っていきましたが、今は機内持ち込みできる35ℓのスーツケースとリュックサックだけに減りました。実際、旅をしてみると、肌身離さず持ち歩くほど、毎日に必要なモノってそんなにないんだなって気づいたんです。人は世界中どこでも暮らしていて、人が暮らしている限りそこにはモノが存在します。最終的に、私が『これは日本から絶対に持っていかねば』と感じたのは、自分の眼に合ったコンタクトレンズくらいのものでした。

でも、ちょうどイギリスのロンドンでAirbnbを利用していたときだったかな。広くて心地いいリビングダイニングが、すごく心地よく感じて、なんだか無性に泣きたくなったことがありました。お気に入りのモノが置ける場所があり、いつでも好きなようにくつろげるソファがある。キッチンがあって、そこには食べかけのグラノーラだったり、ラップで包まれた野菜の切れ端が冷蔵庫に入っていたり、『温め直して食べてね』というメモとともに、鍋が置いてあったり……。そういう、家というか、日常の積み重ねが一番美しいんだってことに、ふと気付いてしまったときがあって」

↑モロッコ・マラケシュの“家”では、陽射しがあふれるポーチでも仕事を
↑モロッコ・マラケシュの“家”では、陽射しがあふれるポーチでも仕事を
↑スペイン・シッチェスの“家”のリビングダイニング
↑スペイン・シッチェスの“家”のリビングダイニング

「旅を続けることって、日常の営みみたいなものをすべて失っていくことの繰り返し。実はリビングのような場所って、家の中だけではなく外にもあると思うんです。それは道端で毎日顔を合わせる人の存在だったり、行きつけの八百屋さんがあることだったり、大好きな人がそばにいてくれることだったり。一方の旅人は、どこにいてもやっぱりよそ者。自由で解放感に溢れてはいるけれど、毎日シャンプーとコンディショナーを持ち運ばなきゃならないし、電源とWi-Fiを探して街をさまようこともしょっちゅうです。毎日同じお風呂に入って、そこにいつも同じシャンプーが置いてあることの素晴らしさって、みなさん感じたことありますか? 私はあるんです(笑)」

必要最低限の荷物を持って暮らす……というと、少し前に話題になった、ミニマリストの生活を連想する人もいるかもしれません。しかし伊佐さんは、モノを持たずに暮らしていく術を体得し、旅の魅力に今なおとりつかれていながら、「やっぱり今もタワマンは好きだし、インテリアに関する理想もたくさんある!」と言い切ります。

「人生に、『お気に入りのモノ』は必要なんです(笑)。多くを持ち歩けない、究極のミニマリストみたいな暮らしを一定期間続けてみた結果、自分が気に入ったモノを購入して、毎日それに囲まれて生きることって、本当はすごく贅沢で豊かな体験だったんだなって実感しました。それはもしかしたら、人生で味わえる最大の楽しみのひとつなんじゃないかとさえ、今は思います。確かに余計なモノは要らないし、使い捨てのモノだけを選んでも生きていける世の中ではあるけれど、だからこそ多少値が張っても、自分が心地いいと思う家具や、食器に囲まれて暮らしたい。自分の感覚に従って厳選したものに毎日触れることは、人生に必ず大きな影響を与えると思うんです。それを改めてやりたくなったから、私はいま家という拠点が欲しくなったんだと思います」。

↑クロアチア・ドゥブロヴニクの“家”での仕事は、風通しのいいベランダで海を眺めながら
↑クロアチア・ドゥブロヴニクの“家”での仕事は、風通しのいいベランダで海を眺めながら

 

そうして、お気に入りの物に囲まれて過ごす楽しさに気づいた伊佐さんが出した、“家”への答えとは?