古くはファミコンを筆頭に、現在ではさまざまなゲーム機が国内に存在しスマホアプリでも楽しめるなど、誰にとっても身近な存在になっている“ゲーム”。通勤や移動時の電車内など、暇を見つけてはプレイするのが趣味という人も多いはず。そこへ2017年あたりから急激な盛り上がりを見せ、最近何かと話題に上ることが増えてきたのが「eスポーツ」です。2018年の流行語大賞トップテンに選ばれたことで、あらためて認識した人もいるでしょう。
正式名称は、エレクトロニック・スポーツ(electronic sports)で、要するに複数の人数でインターネットを介してコンピュータゲームを対戦プレイし、勝ち負けや得点を競い合う、というものです。盛んに言われる、
「オリンピックで正式種目に採用されるかも」
「大会になると数億円規模の賞金額」
「プロになればゲームプレイヤーで生活ができる」
なんて、なんだか夢のような話ですが……とにかく、どうやら「eスポーツ」がすごいことになっているようなのです。このビッグウェーブに乗り遅れないためにも、eスポーツの始め方や楽しみ方を知っておこう! ということで、専門家に話を聞きました。
Q.そもそも「eスポーツ」ってスポーツなの?
A.頭脳を使ってプレイする「マインドスポーツ」に分類されると思っています
「“eスポーツ”という言葉自体は、1980年代の後半ぐらいからあると言われています。そこでまず、eスポーツについて話す前に知らなくてはならないのが、“スポーツ”の語源について。これは“楽しいこと”を意味しています。つまり、『楽しむ』ということと『競技する』という両面を持っている。その中で、肉体を使う“フィジカルスポーツ”と、頭脳を使う“マインドスポーツ”に二分されるんです。
スポーツというと日本人がイメージするのは、主にフィジカルスポーツの方。一方、eスポーツという言葉は“エレクトロニック・スポーツ”の略なので、『電子上で行う競技』ということになり、マインドスポーツに分類されます。だから“スポーツ”とくくられているわけです」
こう解説してくれるのは、筧 誠一郎さん。国内向けのeスポーツ関連事業の主催やイベント運営などを手がけており、大学で講演したり、企業や地方自治体などに『eスポーツとは』をテーマにした講演を行ったりしています。
Q.「eスポーツ」ってどんな種目がある?
A.おもに6種類。特に人気なのは「FPS」や「MOBA」と呼ばれるジャンルです
「eスポーツには、いろいろな競技があるんです。代表的なものは6ジャンルくらいあります。ひとつは、原点と言ってもいい“FPS(=ファーストパーソン・シューティングゲーム)”。これはガンシューティングで、チームを組んだり、1対1で相手を殲滅したりするというゲームです。もうひとつは“MOBA(=マルチオンラインバトルアリーナ)”で、複数の人間が、あるエリアの中で陣地を取り合うゲーム。このジャンルが今世界で一番流行っていて、『リーグ・オブ・レジェンド』というタイトルが代表的です」(筧さん)
1. FPS(=ファーストパーソン・シューティングゲーム)
2. MOBA(=マルチオンラインバトルアリーナ)
3. デジタルカードゲーム
「次点が“デジタルカードゲーム”というジャンルで、『マジックザギャザリング』とか『遊戯王』など、リアルなカードゲームをデジタルに置き換えたもの。国内で言うと『シャドウバース』が有名ですね」(筧さん)
4. スポーツゲーム
「4つめが“スポーツゲーム”。いわゆる野球やサッカーで、リアルなスポーツをゲームにしたもの。国内では『ウイニングイレブン』、世界的に有名なのは『FIFAサッカー』です。例えば後者だとプレイヤー人口が約2千万人います」(筧さん)
5. RTS(リアルタイムストラテジー)
「5つめのジャンルが“RTS(リアルタイムストラテジー)”と言って、韓国ではすごい人気を誇りました。ここから“MOBA”が派生したという経緯もあります。『スタークラフト』シリーズが代表的ですね」(筧さん)
6. 対戦格闘ゲーム
「最後は日本のお家芸と言われている“対戦格闘ゲーム”ですね。大きく分けると2Dと3Dのソフトがあり、それぞれのジャンルにさまざまな人気ゲームが存在します。2Dジャンルには『ストリートファイター』シリーズや『ドラゴンボール ファイターズ』『ギルティギア』シリーズなどが、3Dジャンルには『鉄拳』シリーズや『バーチャファイター』シリーズなどがあります」(筧さん)
Q.初心者が「eスポーツ」を楽しむには、どうしたらいい?
A.好きなプレイヤーを見つけて、ファンになるのも面白いですよ
多彩なジャンルとプレイスタイルがあるというeスポーツですが、プレイするだけではなく、観戦者としての楽しみ方もあります。筧さんいわく、野球中継と同じように見るだけでも面白いとのこと。ただ野球と違うのは、テレビではなくインターネットがデバイスになる点。移動中でも自宅でも、場所を選ばず観られるため、観戦人数はかなり多いようです。
「『YouTube』はもちろん、eスポーツ動画専門の配信サイトでは『Twitch』というサイトが世界でもっとも一般的です。日本では『オープンレック』というサイトがあって、ここが日本で一番派手なイベントをやっていますね。最近のイベントではなんと200万人が観ていたようです」(筧さん)
「FPS」や「MOBA」は男性人気が高いようですが、『ぷよぷよ』などの、いわゆる“落ちゲー”では、女性のプロゲーマーも活躍しています。誰でも参加できる大会がさまざま場所で頻繁に開催されていたり、プロの大会と連動したりしているものもあるので、一度参加してみてからプロの試合を観るのもおすすめだとか。
ここで、筧さんが提案するeスポーツビギナーの楽しみ方をうかがうと、「選手には人間的に魅力的な人が多いので、ファンになると取っ掛かりになるかもしれません。その人のバックボーンを調べるだけでもかなり面白いですよ。イケメンもたくさんいるので。お気に入りを見つけて欲しいなと思います」とのこと。そこで、注目のプレイヤーをピックアップしてもらいました。
筧さんが太鼓判、注目のeスポーツプレイヤー
チョコブランカ
「『ストリートファイター』を中心としたマルチゲームプレイヤーで、日本人初の女性プロゲーマー。パートナーもプロゲーマーです。ものすごくクレバーな人で、彼女の発言にはいつも学ぶ事が多いです。日本のeスポーツ界にはなくてはならない先駆者のひとりだと思います」(筧さん)
Twitter公式アカウント「@chocoblanka」
Ceros(セロス)
「『リーグ・オブ・レジェンド』のプレイヤーで、“DetonatioN FocusMe(デトネーション フォーカス ミー)”というチームにいます。この3-4年挑戦し続けて、ようやく世界リーグの予選を突破できた。実はこれ、本当にすごいことなんです。努力に努力を重ねて日本の底力を上げてきた立役者と言う意味で、注目のプレイヤー&チームですね」(筧さん)
Twitter公式アカウント「@trollceros」
梅原大吾
「どうしても外せないのが、梅原選手。本を出版してベストセラーになっているし、テレビにも頻繁に取り上げられている、日本の格闘ゲーム界の確固たるレジェンドです。2004年にアメリカの大会で彼が見せた『背水の逆転劇』の動画は世界でも有名です。是非YouTubeで見てほしいですね」(筧さん)
Twitter公式アカウント「@daigothebeastJP」
くまちょむ
「個人的にも仲がいい『ぷよぷよ』のプレーヤーで、『ぷよぷよ3』というタイトルで日本で初めて20連鎖を達成した男なんですよ。勝負強さがすごく、テレビ番組などで、なかなかできないような大連鎖を決める精神力の強さを持っています」(筧さん)
Twitter公式アカウント「@kumachom」
ゴールデンボンバー・歌広場淳
「プロゲーマーじゃないんだけど、芸能界ナンバーワンの『ストリートファイターⅤ』のプレイヤーであり格闘ゲームファン。彼が“eスポーツ”っていつも言ってくれてるから、一般の人たちも注目するようになった。そういう面での功績が大きいので、彼の発信する力はeスポーツというシーンが一般化するのに必要なんだろうなと思います」(筧さん)
公式ブログ https://ameblo.jp/sexy-m0xi/
Q.今後、日本でも「eスポーツ」プレイヤーが大勢現れる?
A.間違いなく増えます! 専門学校も続々と設立されていますよ
気になるのはプロゲーマーはどれくらい稼げるのか? 果たしてeスポーツで生活していくことは可能なのか? ということ。
「いま国内で、プロと名乗っているのは300~400人だと思います。ゲームだけを生業にしているのは100人前後ですね。賞金総額で言うと、日本でもっとも多額の賞金をもらっている人で、4000万円くらいでしょうか。ただ、それ以外に給料、スポンサー契約料、イベント出演料など、収入にはいろいろ種類があります。ただ、世界には4~5億円の賞金を稼ぐ人がいるんです。それに比べると、ひと桁違う“壁”があるのは確かですね」(筧さん)
世界的には、大会の賞金総額が「28億円」を記録したこともあるそう。もはや異次元の世界! 日本のゲーム事情を聞けば「圧倒的なeスポーツ後進国です」と即答。任天堂やソニーなどゲーム機自体は豊富ながら、現代の世界における国産ゲームのプレイ状況はかなり低調なのだとか。とはいえeスポーツは浸透しつつあり、プロを目指す人材も着実に増えているといいます。
「2年前、東京アニメ・声優専門学校に『eスポーツ学科』ができたんです。当初は10人ぐらい入る教室が空いていたのが、50人ぐらいの生徒が押し寄せました。教室を増床して、今は100数十人にまで膨らんでいます。また、去年、北海道・恵庭の『北海道ハイテクノロジー専門学校』に、今年は大阪の『OCA大阪デザイン&IT専門学校』にeスポーツ学科ができましたが、どこも生徒がパンパンな状況です」(筧さん)
プロチームには戦力補強のために海外から選手を招聘したり、専門学校にプロの人が教えに来たり、積極的にレベルアップが図られているようです。
楽しみ方は人それぞれで、プロを目指すも楽しくプレイするも自由。“スポーツ”に分類されるだけあって、そんな懐の深さもeスポーツの魅力でしょう。「スポーツの語源は“楽しむ”だから、難しいことは考えずに楽しめばいいんですよ。ピラミッドの頂点にプロがいるだけ。今後もeスポーツの波は大きくなっていくと思います」(筧さん)
Profile
eスポーツコミュニケーションズ 代表 / 筧 誠一郎
1960年、東京生まれ。成城大学法学部卒業。1983年電通に入社し、おもに音楽・ゲームを中心としたエンタテインメント事業に従事。2006年にeスポーツの存在を知り、その魅力と可能性について全国の企業・大学・官公庁などで講演。2010年電通を退職し、さまざまなeスポーツイベントや施設をプロデュース。2016年に「eスポーツコミュニケーションズ合同会社」を設立。現在、全国のフランチャイズチーム総当たりによる「日本eスポーツリーグ」を主催するなど、数々のイベント運営などを手がける。
eスポーツコミュニケーションズ http://www.esportscom.jp/
Twitter https://twitter.com/miximouse
取材・文=三宅 隆 撮影=田口陽介