グルメの話題には事欠きませんが、まだ知られていないポスト・トレンドグルメはほかにもたくさん控えています。「ビリヤニ」「香港グルメ」「ノンアルレモンサワー」といった料理&ドリンクから、「次世代型自販機」「プラントベースフード」「ハラール料理」「シン完全栄養食」「ゼロ・ウェイスト」など世相を反映するカテゴリーまで。
フードアナリストの中山秀明さんに、キーワード別に教えていただきました。
1.スパイス料理界期待の星「ビリヤニ」
スパイスカレーが一定の認知を得てきました。スパイスカレーとは、明確な定義はないものの、スパイスを印象的に操る、小麦粉を使わない、和ダシを用いる、ワンプレートで美しく盛り付けるなどの自由度の高さが特徴とされています。そんなスパイス料理界でのネクストブレイク候補といえば、ビリヤニ。
「ビリヤニとは、肉や野菜などの具をスパイスと一緒に炊き込んだご飯のこと。南アジア地域におけるムスリム(イスラム教徒)文化圏メニューであり、つまりビリヤニ=インド料理ではありません。スパイスマニアの間ではおなじみでしたが、東京都内ではここ1~2年で専門店が増え始め、また高級スーパーではレトルトのビリヤニを見かけることも多くなってきました」(フードアナリスト・中山秀明さん、以下同)
「国ごとに味わいも異なります。南インド式、パキスタン式、バングラデシュ式などバラエティ豊か。なかでもパキスタン式は、見た目の華やかさが特徴のひとつで、人気急上昇中です。また、冷凍通販を始めるお店が増えたことも、ビリヤニ人気の理由のひとつでしょう」
また、ビリヤニとともに注目してほしいメニューもあるとか。
「インドやパキスタンレストランには『プラオ』というメニューを提供する店があり、こちらは“ビリヤニの原型”“ピラフの仲間”ともいわれる米料理。ビリヤニを好きになったら、ぜひプラオもお試しあれ」
2.台湾の次に来るのは「香港グルメ」
タピオカミルクティー、ジーパイ(台湾風唐揚げ)、ルーローハン、シェンドウジャン(定番朝食の豆乳料理)など、台湾グルメがブームから定番になりつつありますが、2022年に盛り上がりが注目されている上陸グルメは香港だとか。
「2021年の9月には、人気中国料理グループ『味坊集団』が香港スタイルの点心店『宝味八萬』を代々木八幡に出店して話題となりましたが、2022年に入って香港グルメの勢いは加速。2月には、江戸川橋と白山でそれぞれ人気の『フジ コミュニケーション』『also』の姉妹店、香港ストリートフードを提供する『香記豚記(ホンキートンキー)』が新中野に、3月には香港発クラフトブルワリーの直営店『Carbon Brews Tokyo』が赤坂にオープンしました」
「そして香港グルメのトレンドを決定づけたのが『譚仔三哥米線(タムジャイ サムゴー ミーシェン)』の日本上陸です。3月31日に日本1号店が開業となり、4月には吉祥寺と恵比寿にもオープンしました。
同店はライスヌードル『麺線』の一大チェーンで、もちもちの麺とコク深いスープ、140万通りにカスタムできる自由さが特徴です。手掛けているのが『丸亀製麺』を手掛ける企業であることもポイント。2024年の3月までに日本国内25店舗を計画しているとのことで、目が離せません」
3.ふたつのトレンドが組み合わさった「ノンアルレモンサワー」
お酒のカテゴリーで人気のレモンサワー。
「2022年になってノンアルコールタイプの新商品が立て続けにデビューしました。『ノンアルレモンサワー』としての存在感が、いっそう増しています。
ニューカマーのひとつは、レモンサワーブームを語るうえで欠かせないヒットブランド『檸檬堂』から2月に発売された『よわない檸檬堂』。もうひとつは、クエン酸の働きで疲労感を軽減する機能性表示食品として、3月に登場した『サッポロ LEMON’S FREE』です」
「これまで、同カテゴリーはサントリーの『のんある晩酌 レモンサワー ノンアルコール』だけだったところ、一気に3ブランドがしのぎを削る状況に。以前『進化する“お酒”、「ノンアルコール」の世界』で『ソバーキュリアス』(積極的にシラフになりたいマインド)カルチャーに触れましたが、ノンアルトレンドにはますます注目です」
4.できたて本格ラーメンが最旬な「次世代自販機」
コロナ過によって非接触の販売手法が礼賛されるなか、自動販売機にもスポットが当たっています。
「話題の中心となっているのは冷凍食品で、餃子、ラーメン、カレー、牛丼などさまざまな料理が登場。一方、テクノロジーを駆使した最新型としては、レジ会計のないサラダストア『CRISP STATION』(QRコードからスマホで決済する無人販売店)が話題に。
そしてもっとも旬な次世代自販機といえるのが、『Yo-Kai Express(ヨーカイエクスプレス)』です。生麺タイプのできたてラーメンを提供するのが特徴で、羽田空港と首都高芝浦パーキングエリアで3月末から稼働がスタートしました」
「日本には昭和の時代から、ドライブインなどを中心にうどん、そば、ラーメンの自販機が設置されていますが、『Yo-Kai Express』はより細かくレシピを設定できるのが大きな特徴。醤油、塩、味噌、博多豚骨など、細分化されているラーメンの味をしっかり再現できるのです。
『Yo-Kai Express』のベースとなるラーメンは冷凍ですが、90秒でできたてアツアツを提供できる高度な調理技術もポイント。応用すればラーメン以外の料理も提供できるそうで、今後の拡大にも期待が集まります」
5.卵料理の登場で一層注目の「プラントベースフード」
世界中でSDGsが叫ばれるなか、食の業界では環境にやさしい「プラントベースフード」が存在感を増しています。昨年「『代替肉』の最新事情」でも紹介しました。
「プラントベースフードとは、植物由来原料から作られた食品のこと。例えば、肉であれば牛や豚を育てるため大量の飼料が必要となりますが、代替肉であれば一時原料をそのまま加工して肉に近しい味を作れます。また、屠殺(とさつ)しないので倫理的であるともいえるでしょう。
ベジタリアンやヴィーガン(卵や乳製品を含む動物性食品を一切口にしない、完全菜食主義者のこと)が多い海外は、日本よりプラントベースフードが浸透していますが、SDGsの流れも影響して日本でも徐々に普及。食品ジャンルとしてはプラントベースミート、プラントベースミルクが先行していましたが、新たに広がっているのがプラントベースエッグです」
「なかでも勢いを増しているのが、プラントベースフードのスタートアップ『2foods』が今春新発売した『Ever Egg(エバーエッグ)』。カゴメとの協業によりオムライスとしてメニュー化&商品化し、自社店舗や応援購入サイト『マクアケ』で販売を開始しました
また、キユーピーは『HOBOTAMA 加熱用液卵風』と『HOBOTAMA スクランブルエッグ風』をこの3月からオンラインで新発売。スーパーでプラントベースエッグを見かける日も、そう遠くないはずです」
6.グローバル化で浸透中の「ハラール料理」
「ビリヤニ」や「プラントベースフード」に関係するフードトレンドが、「ハラール料理」。
「ムスリムは教義において食にも戒律があり、合法なものをハラール、非合法なものをハラームといいます。
食材の非合法を挙げれば、豚肉が代表的。一方で、基本的に野菜はすべて合法です。とはいえ料理にアルコール入り調味料が使われていると非合法になるなど、細かな規定があるため、ムスリムの方にとっては、食品を買ったりレストランで食べたりするときに“ハラール認証”であるか否かが大切なのです」
日本でも国際化が進むにつれ、年々ハラールの注目度が高まっています。
「パキスタンなどムスリム文化圏レストランの多くがハラール認証店であることはもちろん、ハラール認証であることをうたうハンバーガーショップやラーメン店も増えています。
また、イスラム教の国が多い中東発祥のフードで昨今人気なのが、『ファラフェル』という豆のコロッケです」
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7.カレーや味噌汁など惣菜系が面白い「シン完全栄養食」
コロナ禍によって免疫力が注目を集めるなど、食への健康意識は年々高まっているといえるでしょう。これに伴い市場規模が拡大しているのが、完全栄養食です。これは、一般的に厚生労働省が提示した基準に基づき、1食あたりの必要な栄養素をすべて摂取できることを目標に開発された食品のこと。
「当初はオンラインなど販路が限られていましたが、いまやコンビニでも発売されるほどメジャーになりました。また、商品のバリエーションが広がりを見せており、パウダー状のものや麺類、パン、グミといった食品のほか、味噌汁の『MISOVATION』、カレーの『KOREDE(コレデ)カレー』といった『シン完全栄養食』といえるタイプも登場しています。
なかでも『KOREDE(コレデ)カレー」はユニーク。水で溶かせるパウダー状のカレーになっていて、従来のカレーに比べて低脂質かつ高たんぱく質のプロテインカレーでもあるのです」
「飲むカレーとして味わったり、ご飯にかけたりカレーうどんの材料にしてもよし。アウトドアシーンや非常食としても活用してくれることでしょう。今後、どんな『シン完全栄養食』が出てくるのかにも注目です」
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8.容器持参で量り売りを楽しむ「ゼロ・ウェイスト」な食品店
プラントベースフードのところでSDGsに触れましたが、環境問題の面でいえば脱プラスチックも課題のひとつです。2020年の7月にはレジ袋が有料化したことで、エコバッグが身近になった人も少なくないでしょう。
「こういった流れのなかで、プラスチックだけでなくさまざまな梱包物を極力なくしていこうと取り組む企業が増え、量り売りを採用する『ゼロ・ウェイスト』(ゴミゼロのこと)型の食品店も増加中。有名なのは、イオンが日本で展開するフランスのオーガニックスーパー『ビオセボン』の量り売りコーナーで、さらに『ゼロ・ウェイスト』を徹底しているのが京都発の『斗々屋』です」
「『斗々屋』は全食品が量り売りで、2021年には東京に進出。国分寺のオーガニックカフェ『カフェスロー』内に『ニュ・バイ・トトヤ』をオープンしました。販売している食品もオーガニックのものが多く、また地元生産者によるこだわりのフードも多数。量り売りでスタッフとコミュニケーションを取るという、ユニークな買い物体験も新鮮です」
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以上8つのキーワードを解説していただきました。まだまだ2022年後半も新しいトレンドが生まれることでしょう。目が離せません。
Profile
フードアナリスト / 中山秀明
フードアナリスト・ライター。なかでもビールに関する執筆が多く、大手メーカー、マイクロブリュワリー、ブリューパブ、クラフトビアレストランなど、小売り、外食問わず全国各地へ取材に赴いている。