3月は、三寒四温で寒暖差があったり花粉が舞ったりと、お肌トラブルが発生しやすい時期です。空気の乾燥と暖房の風の刺激により、肌の内部は乾燥しているのに表面はテカる、 “インナードライ”に悩まされる人も多いのではないでしょうか。
今回は、ビューティーレシピやエイジングケアレシピなど、美と健康をテーマに料理教室を主宰する”粮理家”の松見早枝子さんに、肌を内側から潤すインナーケアに必要な食習慣やレシピをご紹介いただきます。
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内側から潤う美肌を保つ食習慣とは?

透明感があり、しっとり潤った美肌の持ち主である松見さん。美肌を保つために、松見さんはどのような食習慣を取り入れているのでしょうか。
「乾燥や花粉など、外部刺激が多いこの早春は、肌がゆらぎやすい時期です。肌を潤わせ美しく保つには、化粧品によるスキンケアはもちろん、食生活や睡眠で体の内側を整えるインナーケアも欠かせません。肌力を高めるには、“体に悪い影響を与える食べ物を避けること”と、“体によい食べ物を食べること”、この2つを意識することが大切です」(粮理家・ウェルネスフードスタイリストの松見早枝子さん、以下同)
お肌の老化を加速させる
「糖化」と「酸化」って?

体に悪い影響を与える食べ物とは、添加物が多く含まれる加工食品、揚げ物や油脂を含むお惣菜やお弁当、菓子パンやチョコレート菓子などの糖分を多く含んだ食べもののこと。これらは、肌にも悪影響を及ぼすそうです。
「体の“糖化”と”酸化”をご存知でしょうか。この2つは、美肌の大敵ともいわれる現象です。
糖化とは、過剰に摂取した糖分がたんぱく質や脂質と結びつき、老化を促進する物質を発生させる現象のこと。糖化はシミやシワ、たるみの原因になります。そして酸化は、体内に発生した活性酸素が細胞を傷つけてしまうこと。糖化と同様に、肌の老化を引き起こします」
具体的には、お腹がペコペコの状態でごはんを大量に食べる、チョコレートやお菓子を頻繁に食べる、コンビニの揚げ物やスナック菓子など、油が酸化した食品を日常的に食べるといった習慣が、糖化や酸化につながるそうです。
美肌作りに欠かせない!
積極的に摂りたい食材
反対に、美肌を作る体によい食材にはどのようなものがあるのでしょうか。「お肌を潤す食材」、お肌と密接な関係がある「腸内環境を整える食材」、健康な細胞を作る「良質な油脂」の3つに分けて、ご紹介します。
お肌を潤す食材
「薬膳の世界では、お肌を潤すには「白い食材」を摂るといいと言われています。代表的なものは、中華食材の売り場にある『白きくらげ』。そのほかに、山芋、れんこん、白胡麻、ヨーグルト、豆乳、ハチミツなどもおすすめです」
腸内環境を整える食材
「腸内環境と肌の状態は密接に関わっていて、美肌は、不要なものを溜め込まない『美腸』から作られると言われています。腸内環境を整えるには、食物繊維やミネラル、乳酸菌を積極的に摂りましょう」
・食物繊維が豊富な食材
根菜、きのこ

「私は、きのこのなかでも“きくらげ”が大好きで、ほぼ毎日食べています。きくらげは食物繊維が豊富で、肌のバリア機能を改善し、肌の炎症を抑えてくれます。とはいえ、特定の食材に偏った“ばっかり食べ”は、栄養のバランスを崩し、かえって不調を招くので要注意。食材に含まれる栄養はそれぞれ異なるので、さまざまな種類をバランスよく食べることが大切です」
・ミネラルが豊富な食材
昆布やわかめ、海苔などの海藻類

「ミネラルは、体内の老廃物を排出する働きをもち、肌のターンオーバーを促すうえで重要な役割を担っています。また、肌の隅々まで栄養を届けるサポートもしてくれます」
・乳酸菌が豊富な食材
納豆やキムチ、味噌、塩麹、甘酒などの発酵食品
良質な油脂

「油脂は、健康な細胞を作るために必要な栄養素。とはいえ、何でもとればいいというわけではなく、油脂のなかでもオメガ3系脂肪酸などの良質な低温圧搾の油を選び、適量を摂るのがおすすめです。スナック菓子やファストフードは、同じ油脂でもトランス脂肪酸が多いので避けたほうがいいですね」
・オメガ3系脂肪酸
イワシ・サバ・ブリなどの青魚、エゴマ油、亜麻仁油
・その他の良質な油
米油、オリーブオイル
さらに松見さんは、上記に加え下記の栄養素も積極的に摂るといいと言います。
・たんぱく質

「たんぱく質は、肌のハリや弾力を保つコラーゲンの材料であり、肌の再生や正常なターンオーバーを保つために必要な栄養素です。脂質が過剰に含まれていない赤身肉や魚、豆、卵など、さまざまな食材からバランスよく摂取しましょう」
・ビタミンB群
「肌のターンオーバーを促し、健康な皮膚を維持するビタミンB2、B6は、美肌に欠かせないビタミン。赤身肉や魚、玄米や納豆などに多く含まれます。外食や飲み会料理に多い糖質や脂質、たんぱく質を代謝するときに消費されるので、外での食事が続くと不足しがち。また、ビタミンB群は水溶性のため一度にたくさん摂っても蓄積されないので、毎日摂取することが大切です」
・ビタミンA、C、E

「ビタミンAは肌を正常に保ち、肌のうるおいを維持するために必要な栄養素。ビタミンCには、肌のハリやうるおいを保ち、シミやシワを防ぐ働きがあります。ビタミンEには血流を促し、細胞の老化を防ぐ効果があります。これら3つを同時に摂ることで抗酸化作用(酸化を抑制すること)が高まり、美肌効果がより期待できます」
加工食品を避けてできるだけ手づくりするには?
体に悪い影響を及ぼす食材を避け、体によい食事を摂るためには手づくりが不可欠です。しかし、忙しい日々のなかで、手作りを続けるのも大変です。無理なく続けるコツはあるのでしょうか。
「大切なのは、あまり完璧を求めすぎないことです。たとえば、調理方法一つ取っても、美肌を極めるなら、揚げる・焼くなどの高温調理は避けるのがベターではあります。なぜなら、糖とたんぱく質が結びついてできる老化原因物質は、糖質とたんぱく質を高温で調理することでも増えるから。
しかしすべてにこだわりすぎると負担が増え、その我慢がストレスを生むことにも。ストレスは腸内環境に悪影響を及ぼすので、結果的にお肌にもマイナスです」

「美肌のためにと凝るのではなく、『簡単だから続ける』という意識を持てるよう、自炊をシンプルにすることが大切です。たとえば旬の食材であれば、シンプルな味付けでもおいしく仕上がりますし、キムチや納豆などの発酵食品は、調理をしなくてもそのまま食べられます。
多くの方にとってハードルが高い“出汁を取ること“も、日高昆布を使えば、水に入れて5〜10分放置するだけ。出汁を取ったあとの昆布は柔らかくなっているので、刻んでスープに使えば栄養をまるごと摂取できますよ」

「このように意外と簡単にできることも多いので、料理って大変そうという先入観にだまされずに挑戦してみてください」
料理への先入観が減ったところで、定期的に作っても苦にならない“簡単美肌レシピ”を3つ教えていただきました。
・「豚肉ときくらげのしょうが醤油スープ」
・「鶏ささみとごぼうのキムチ和え」
・「ブリとパプリカの味噌カレー風味煮 あん仕立て」
出汁昆布まで残さずいただく
「豚肉ときくらげのしょうが醤油スープ」

「ビタミンB群が豊富に含まれる豚もも肉、肌をうるおす働きがあるきくらげと長芋、ミネラルと食物繊維が豊富な昆布、カロテン(ビタミンA)が豊富なにんじんを組み合わせた一品です。肌によい栄養素をバランスよく摂ることで、肌の代謝を正常に導きます。出汁として使う日高昆布は、刻んで一緒にいただきましょう」
【材料(2人分)】

・きくらげ……50g(乾燥7g)
・にんじん ……1/4本(上から4cmほど)
・万能ねぎ……3本
・長芋 ……100g
・豚肉……150g
・植物油……大さじ1
・酒……大さじ1
・塩、こしょう……各少々
[出汁]
・出汁昆布(日高昆布)……4g
・水……600ml
[A]
・醤油……大さじ1
・しょうが汁……1かけ分
【作り方】
1.昆布を分量の水に浸けて広がるまで置き、出汁を取る。残った昆布は縦半分に切って端から5mm幅に切っておく。
2.きくらげ(乾燥の場合はぬるま湯で柔らかく戻し)は、硬い部分があれば切り落として一口大に切る。にんじんは縦半分に切り、端から薄切りにする。万能ねぎは長さ3cmの斜め切りにし、白い部分と緑の部分で分けておく。長芋は皮を剥き、縦半分に切って1cm幅に切る。豚肉は食べやすい大きさに切る。

「肌をうるおす力のある長芋は、ぜひ積極的に食べていただきたい食材。生でも食べられるので、皮をむいて切るだけと、手間がかからないのも魅力です」
3.鍋に植物油を熱し、万能ねぎの白い部分を入れて中火でさっと炒めたら、豚肉と酒を加えて炒める。肉の色が変わったら、塩、こしょうを入れる。きくらげ、にんじん、長芋の順で加え、さっと炒め合わせたら、1の出汁と昆布を加え、火を強める。煮たったら中火に戻し、3分ほど煮る。

「昆布のうまみに、豚肉やきくらげから出るうまみが加わるので、短時間で取った出汁でも滋味あふれる味わいに仕上がります。昆布を入れるとアクが固まりやすいので、アクが出たら取り除きましょう」
4.[A]と万能ねぎの葉の部分を加えて完成。
低脂肪・高たんぱくで食物繊維も豊富!
「鶏ささみとごぼうのキムチ和え」

「低脂肪・高たんぱくな鶏ささみに、食物繊維たっぷりのごぼう、ビタミンA・C、鉄分、カルシウムなどのミネラルが豊富なほうれん草を組み合わせました。ミネラルと良質な脂質を含むごまを、脂溶性のビタミンAと一緒に摂ることで吸収率が高まります。発酵食品のキムチで味付けすることで、調理が簡単になります」
【材料(2人分)】

・鶏ささみ ……2本
・酒 ……大さじ1
・塩、こしょう……各少々
・ごぼう……15cm
・ほうれん草……1株
・キムチ ……60g
・すりごま……大さじ1
【作り方】
1.鍋に湯を沸かし、鶏ささみと酒を入れる。再び煮たったら火を止めてフタを閉め、7分置いて余熱で火を通す。鶏ささみを取り出して、手で細かく裂いたら塩、こしょうをまぶす。

「加熱のし過ぎによるたんぱく質の変性を避けるために、余熱調理がおすすめです。これにより、鶏肉のパサつきを抑えることもできます」
2.ごぼうは縦半分に切り、長さ4cmの斜め薄切りにする。5分ほど水にさらしてアクを抜き、塩少々を加えた熱湯で3分ほど茹でる。ザルにあげて水気をよく絞る。ほうれん草は熱湯に茎から入れて20秒ほど茹で、冷水に取る。絞って水気を切り1cm幅に刻む。キムチも1cm幅のざく切りにする。

「ごぼうなどの食物繊維が多いものを食べると、自然と咀嚼の回数が増えます。咀嚼することで増える唾液には、細胞の成長を促す成長ホルモンが分泌されているので、よく噛むことはエイジングケアにもつながります」
3.ボウルに1、2とすりごまを入れてよく和える。

「ごまには、抗酸化作用のあるビタミンEやセサミンが含まれています」
魚が苦手な人も食べやすい!
「ブリとパプリカの味噌カレー風味煮 あん仕立て」

「細胞の生成に欠かせないDHAやEPAなどのオメガ3系脂肪酸豊富なブリをたんぱく源とし、ビタミンA・C・ Eを豊富に含むパプリカとピーマンを組み合わせました。脂溶性のビタミンAとEは、脂質と一緒に摂ることで吸収率がアップします。また、魚の脂は調理法により失われやすいため、煮汁ごといただけるあん仕立てにしました」
【材料(2人分)】

・ブリの切り身……2切れ
・塩、こしょう……各少々
・パプリカ……1/4個
・ピーマン……1個
・しょうが……1かけ
・植物油……大さじ1
・カレー粉……小さじ1/4
[A]
・味噌…… 小さじ2(12g)
・酒、みりん……各大さじ1
・醤油……小さじ1/2
・水……100ml
・水溶き片栗粉 ……片栗粉小さじ1を水大さじ1で溶く
【作り方】
1.ブリの切り身は皮を取って一口大に切り分け、軽く塩、こしょうをふっておく。パプリカとピーマンは縦半分に切って種とわた、ヘタを除いてから小さめの一口大に、しょうがはみじん切りにする。[A]は混ぜ合わせておく。

「ブリのドリップは、臭みの原因になるのでキッチンペーパーなどでふき取っておきましょう」
2.フライパンに植物油としょうがを入れて熱する。しょうがの香りが立ったらパプリカとピーマンを加えて中火でさっと炒め合わせ、カレー粉を加えてさらに炒める。

「カレー粉は炒めることで香りが立ち、食材に馴染みやすくなるので、野菜を炒めるタイミングで加えます」
3.ある程度混ざったら分量の水とブリを入れる。火を強め、煮立ったら[A]を加えて落としブタをし、 3分ほど煮る。火を止め、水溶き片栗粉を回し入れたら再度火をつけ、煮立たせながらかき混ぜる。均一にとろみが付いたらできあがり。

「ブリは煮崩れ防止のため、極力触らないようにします。片栗粉を加えるときは、一旦火を止め、汁気をフライパンの片側に寄せてから入れるとよいでしょう」
内側から肌をうるおし、肌のバリア機能を高めるには、まずは食生活を整えることが大切。美肌への近道は、自炊の機会を増やすことです。松見さんが教えてくださった簡単レシピを参考に、バランスの取れた食事から始めてみましょう。
Profile
粮理家 / 松見早枝子
2003年度ミス・インターナショナル日本代表を経て、粮理家として多くの方々の心身の健康に貢献すべく、各メディアで活動中。体と心の糧になるという意味を込め、「粮」の字を使っている。
料理教室 Tronc(トロン)、Tronc オンラインサロンも主宰。オンラインサロンでは健康や美容によい料理や情報、季節の手仕事、心地よいライフスタイルについて発信し、料理教室ではおもてなし料理を伝えている。 新規会員の募集期間は毎月26〜30日。応募はインスタグラムのプロフィール欄のリンクより。
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取材・文=加賀美明子(Neem Tree) 撮影=鈴木謙介