アイデアを整理する方法として、文房具好きのあいだで注目を集めている「コモンプレイス手帳術」を知っていますか? 心に残った言葉や気づき、アイデアなどを1冊のノートに集約し、後から見返しやすく整理するノート術。デジタル全盛の今、あえて手書きで思考を整理したいというニーズが高まっており、それとともにじわじわと人気を集めています。
そこで今回は、手帳YouTuberとして手帳術について情報発信を続けているMiiCHOS(ミーチョス)さんに、コモンプレイス手帳の魅力や基本の作り方、おすすめアイテムを教えていただきました。従来の手帳とはひと味違う、コモンプレイス手帳で、自分らしい手帳づくりを楽しんでみませんか?
CONTENTS
ありふれた日常のなかの
気づきやアイデアを記録する手帳術

コモンプレイス手帳とは、心に残った言葉や情報、ひらめいたアイデアなどを、ジャンルを問わず1冊のノートに書き留めていくノート術のことです。
英単語の「コモンプレイス(commonplace)」には、「ありふれたこと」「平凡なこと」といった意味があり、「ありふれた日常のなかにこそ、自分にとって大切な気づきがある」という発想から生まれた手帳術です。
「中世ヨーロッパでは、哲学者などの学者たちが気になった論文の一節やアイデアを自由に書き留める、『コモンプレイスブック』を使っていたといわれています。それがここ数年、SNSなどを通じて注目されるようになり、“自分の思いやアイデアを記録する手帳”という形で広がりました」(動画クリエイター/イラストレーター・MiiCHOSさん、以下同)
コモンプレイス手帳で使われる「KEY(キー)」って?
コモンプレイス手帳の最大の特徴は、「KEY」という分類の仕組みを使うこと。KEYとは、情報の種類やカテゴリーを示すための記号や色のことで、手帳を見返す際に役立つ“アイコン”のような存在です。
これにより、さまざまな情報を1冊に集約しても、あとから必要な情報を探しやすくなるのです。KEYの種類や数は、自分がよく書き留める内容に合わせて、自由に設定できます。

たとえば以下のような内容をノートにまとめる場合、ジャンルごとに異なるKEYを使って分類します。
・本や記事からの知識や引用
・映画や動画を観ていて印象に残ったシーンやセリフ
・仕事中に浮かんだ企画やアイデア
・友人との会話で心に残った言葉
・覚えておきたいレシピや料理のコツ
・忘れたくない買いたいもののメモ
自分が興味を持ったことが一冊にまとまり、スムーズに見返せるところが魅力です。
「バレットジャーナル」とは何が違うの?
数年前にブームになり、いちジャンルとして定着した手帳術に「バレットジャーナル」があります。これは、行動や思考を箇条書きで書き出して整理・管理する手帳術。スケジュールやタスク、アイデア、目標、夢などの先頭に、「・(バレット)」という記号をつけるのが特徴で、この記号にちなみ「バレットジャーナル」と呼ばれています。

コモンプレイス手帳とバレットジャーナルは、どちらも人気のある手帳術で、共通点も多くあります。しかし、MiiCHOSさんは、目的や使い方にははっきりとした違いがあると言います。
「私の感覚では、従来の手帳はスケジュール管理、バレットジャーナルはタスク管理がメイン。一方でコモンプレイスは、予定やタスクの管理というよりも、情報や考えを記録し蓄積しておく場所というイメージに近いです。実際、私はバレットジャーナル用のリフィルと、コモンプレイス用のリフィルを併用しています」
バレットジャーナルが「これからやるべきこと」を管理するための手帳術だとすれば、コモンプレイス手帳は「思いついたこと」や「覚えておきたいこと」を記録していくためのもの。目的が異なるからこそ、自分が何をどう管理したいかによって使い分けできそうです。
実践! コモンプレイス手帳の作り方と活用術

コモンプレイス手帳の仕組みはとてもシンプル。特別な道具を用意する必要がないので、今すぐにでも始めることができます。
「モノトーンでまとめるのであれば、黒いペン1本とノートが1冊あれば始められます。私もコモンプレイスを始めたときは、思いついたことを書き留める雑記帳からスタートしました」
いざ、コモンプレイス手帳を作ろうとしたときに、KEYをどのように設定するか悩む人もいるそうです。
「KEYはあくまでも情報を探しやすくするための“工夫”にすぎません。最初は、書きたいこと・残しておきたいことを自由に書き出し、メモがある程度たまってから、ゆるやかにカテゴリー分けしていくくらいのラフさでOK。最初から完璧に決めておく必要はありません」
ノートや手帳を書くときに、きれいにまとめようとしたり、完璧に仕上げようとしたりする人も多いでしょう。でも、あくまでコモンプレイス手帳は自分のためのもの。まずは気負わず書いてみるのがおすすめ、とMiiCHOSさんは言います
「コモンプレイス手帳は、自分のアイデアを振り返るために見返すことが多いので、まずはとにかく書いてみることが大切。書いているうちに自然と同じようなトピックが繰り返し登場するようになるので、そうなってからそれをKEYとして設定したほうが、書き続けやすい手帳になると思います。」
KEYの色分けのポイントは?

MiiCHOSさんは具体的にどのようなKEYを設定しているのでしょうか。
「『どんなときに見返したいか』を考えて、アイデアは『YouTube』や『Instagram』などアウトプット先ごとに分けています。今使っているKEYのなかでとくにおすすめなのが、『LOOK BACK』です。これは、どのKEYにも当てはまらないけれど、あとから見返したい情報につけるKEY。このKEYがあることで、分類に迷うメモもひとまず書いておけるし、あとから他の色と組み合わせて整理することもできるので、なにかと便利です」
また、コモンプレイス手帳に使うノートを選ぶ際は、「持ち運びしやすいこと」を重視するのが大切だそう。
「持ち運びやすいノートであれば、アイデアを思いついたときにすぐに書き留められます。そこで私は、デザインフィルの『トラベラーズノート』のA5スリムサイズを使っています。罫線は、自由に書きやすいドット方眼がおすすめ。グリッド線が目立ちにくく、レイアウトにも柔軟に対応できるのが特徴です」
とはいえ、「使いやすいものは人それぞれ。いろいろ試して、自分に合うものを見つけるのがいちばんだと思います」とMiiCHOSさん。
試行錯誤しながら“しっくりくる方法”を探していくことも、コモンプレイス手帳の楽しみのひとつかもしれません。
アイデア、記録、気づき……
コモンプレイスで整理できること

ジャンルを問わずさまざまな情報を整理できるのがコモンプレイス手帳の魅力。
「私自身は、YouTubeの動画の企画や、作ってみたいグッズのアイデアなどを記録しています。『そうそう、こういうふうに考えていたな』という断片的なメモが手帳に集積され、いつしかバラバラだったアイデアがつながり、ふくらんで、そこからデザインが生まれたり、企画が生まれたりするんです。そういうときに、コモンプレイス手帳を書いていてよかったな、と思いますね。友達や視聴者の方におすすめの文房具やおすすめ情報を教えてもらったときも、手帳に書き込んでいます!」
ゆるく、楽しく! コモンプレイス手帳を続けるコツ

コモンプレイス手帳を長く続けるためのコツは、「なによりも楽しむこと」だそうです。
「これは手帳全般に言えることかもしれませんが、書くハードルを上げないことがいちばん大事だと思っています。『完璧に書かなきゃ』『きれいにまとめなきゃ』と思いすぎると、手帳を開くことすらおっくうになってしまうんですよね」
また、書きやすい環境を整えておくことも、手帳を続けるための大切なポイントだといいます。
「いつでも書けるように、手帳をすぐ手に取れる場所に置いておくのがおすすめです。机に出しっぱなしにしておいてもいいし、開きたいページを開いたままにしておくのも一つの手。思いついたときにパッと書ける環境をつくっておくと、無理なく続けられると思います」

MiiCHOSさん自身も、「手帳を開かない日」「書かない日」もあるのだとか。
「心に余裕がなくなってくると、すべての情報をシャットダウンしたくなるんです。そういうときは、『今日はもう手帳もパソコンも開かない』と決めて、何も書きません。でも、書いていない期間があっても、『この時期は余裕がなかったんだな』と、それも一つの記録として捉えるようにしています」
また、コモンプレイスやバレットジャーナルは、日付を自分で書き込むスタイルの手帳術でもあります。そのため、書かない日があっても空白が目立ちにくく、気になりにくいのもメリット。「毎日書かなきゃ」とプレッシャーを感じやすい人にも、ぴったりの手帳術といえます。
「実は私、日記が続かないんです。始めても、2日で終わってしまうんですよね。でも、コモンプレイスやバレットジャーナルは、自然と続けられています。生活スタイルが変われば、必要なものも変わってきます。そのときどきで、自分に合う手帳も変わるし、自分のベストな方法も常に変化していくもの。だから、最初から完璧を求めるよりも、とりあえずやってみて、自分に合うやり方をその都度見つけていくのがいいと思います」
もっと自分らしく!
手帳時間が楽しくなるアイテム&カスタマイズ術

最後に、手帳時間がちょっと楽しくなる、お気に入りアイテムを教えてもらいました。
書き心地のよい紙を選ぶと、手書きメモもはかどる!

traveler’s company「トラベラーズノート リフィル MDクリーム」264円(左/税込)330円(右/税込)
「私はコモンプレイス手帳には、トラベラーズノートのリフィルを使っています。このシリーズはさまざまなリフィルが発売されていますが、そのなかでも『MD用紙』を使ったものがとくにおすすめです。『MD用紙』とは、デザインフィルという会社のミドリというブランドが作っている紙の名前。トラベラーズノートのレギュラーサイズリフィルとして商品化したものが『MDクリーム』です。
『MD用紙』は思わず『もっと書きたい』と思ってしまう書き心地のよさなので、毎日の書き込みもはかどります。万年筆でも裏抜けしないため、安心して書けるのも魅力です」
「KEY」の色分けには、マステ素材の丸シールが便利!

SYALOGY「マスキング丸シール」275円(税込)〜
「KEYを色分けするためのツールとしては、STALOGYの丸マスキングシールがとても使いやすいです。おすすめのポイントは、色のバリエーションが豊富なところ。現在は3色セットのものが8種類展開されていて、コモンプレイス手帳との相性も抜群です。さらに、シールのサイズも複数あり、丸の大きさが選べるのも楽しいポイント。私は5mm間隔のノートを使っているので、シールも主に5mm径のものを愛用しています」
専用ノートなら、気軽にコモンプレイスを試せる

ミドリ「コモンプレイスブック用ノート<A6>」418円(税込)
「『コモンプレイスブック用ノート』は、コモンプレイス手帳に特化した専用ノートです。ノートには、ジャンルごとに色分けしやすいガイド線があらかじめプリントされていて、すぐに使い始められるのがポイント。さらに、おすすめのKEY一覧も掲載されているので、そこから自分に合いそうなものを選んでスタートできます。初めてコモンプレイス手帳を書く人でも、気軽に取り組める工夫が詰まっています」
好きな組み合わせにカスタマイズした「KEY」を持ち運ぶ!

ミドリ「ジョインドッツ」594円(税込)
「コモンプレイスにぴったりの3色連結ペンです。これ1本でさっと色分けできるのが魅力。3色をひとつにまとめて持ち歩け、ペンを持ち替える手間がないので、思いついたときにすぐ書き留めたいコモンプレイス手帳にぴったりのアイテムです。先ほどご紹介したコモンプレイスブックノートと合わせれば、『コモンプレイス手帳のスターターキット』として使えます」
もっと詳しく知りたい人はMiiCHOSさんの著書をチェック!

MiiCHOS著「アイデアを書き留めて日常をワクワクさせる コモンプレイス手帳のつくりかた」(日貿出版社)1980円(税込)
コモンプレイス手帳についてもっと知りたい方は、MiiCHOSさんの著書もぜひチェックしてみてください。アイデアのまとめかたのコツや、手帳の作例が豊富に紹介されていて、すぐに取り入れたくなるヒントが詰まっています。
コモンプレイス手帳を日々の暮らしに取り入れ、楽しんでいるMiiCHOSさん。最後に、これからコモンプレイス手帳に挑戦してみたいと考えている方へ、メッセージをいただきました。
「ワクワクしながら、楽しんでほしいです。自分の考えや、興味のあることを手帳に書き出すことで、思いがけず考えが深まったり、アイデアがふくらんでいったりすることもあります。気負わず、自由に書いて、どんどん楽しく広げていってほしいと思います」
コモンプレイス手帳は、自分の興味や大切な情報を集めるための、あなただけの“記録の場所”。シンプルなルールで、自分のペースで楽しみながら続けられるのが大きな魅力です。
まずは、ペン1本とノート1冊から。あなたの毎日に、小さな発見やよろこびをもたらしてくれるパートナーになるはずです。
Profile
動画クリエイター・イラストレーター / MiiCHOS
【BitStarアカデミー所属】書くこと・描くことを楽しむ日々の記録や、文房具・手帳の活用アイデアを、YouTubeやInstagram等のSNSで発信中。自身のイラストを使ったノート術や記録の工夫が多くの共感を呼び、2024年に著書『コモンプレイス手帳のつくりかた』(日貿出版社)を出版。“手帳にアートを“をコンセプトに日常を彩る文具の制作・販売も行っている。文具を通して自分らしい表現の場を広げながら、見る人の創作意欲や記録する楽しさを引き出せるような発信を続けている。
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構成=Neem Tree 取材・文=猪狩はな 撮影=MiiCHOS