ペットの代表格である猫。身近な相棒的存在として、猫にエネルギーをもらっている人も多いのではないでしょうか。できれば飼い主である人間も、ペットに幸せをもたらず存在でありたいもの。
今回は猫の話題を中心に、ペットが私たちに癒しや元気をくれる理由と、ペットと人が良好な相互関係を築くためのポイントを、動物と人との関係にくわしい東京農業大学動物科学科の内山秀彦先生に教えていただきました。もちろん、ただただ“かわいい!”存在であることは承知のうえで、ちょっと学問的にひも解いてみました。
ペットが人に与える効果。根本は「ストレスの低減」

猫が好きな人ならば、猫が「癒し」の存在と考える人は多いでしょう。なぜ私たちは猫に癒されるのでしょうか?
「まずは『癒し』とは何か?というところから考えてみましょう。『癒し』はリラックスや安らぎをイメージさせがちな言葉です。ところが、猫が私たちに与えてくれるものは、リラックスだけではありません。
ひざに乗せて猫のやわらかさを感じているときや、なでているときは副交感神経が優位になりリラックスしていると言えますが、じつは『かわいい』と感じるだけでも認知機能が高まります。コミュニケーションをとったり、遊んだりすれば、なおのこと脳が活性化します。楽しい、うれしいといったポジティブな感情を得ているときは交感神経が活発に働いているのです。したがって、『猫に癒される』という体験には、リラックスの側面と活性化の側面の両方が含まれているといえます。
猫とふれあうことによって気持ちが引き上がることもあれば、落ち込んでいるときや疲れているときに安らぎを得られることもある。これは、動物との暮らしが人間の交感神経、副交感神経のバランスを取ることにつながっていると言い換えることができます。猫やペットはさまざまな角度から私たちの心のバランスを取ってくれて、包括的にストレスを低減してくれる存在なのではないかと私は考えています」(東京農業大学動物科学科 内山秀彦先生 以下同)
猫による健康効果は複合的

「ペットが人に与える効果の根本にあるのはストレスの低減です。生理学的に言えば、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの低下という現象が起きています。ですから、猫がもたらす健康の効果も、ストレスの低減に伴う血圧の降下や認知機能の低下予防が考えられます。
では、例えば猫の何がどんな効果につながるのか、ひとつひとつの感覚刺激が人に与える影響を研究したこともあります。
猫が発するゴロゴロ音の音域はおよそ25〜150ヘルツです。これは筋肉の緊張をほぐしたり血行をよくしたりするために使われる低周波治療器の周波数と重なっています。そのためひざに乗せた猫が喉をゴロゴロと鳴らしているときなど、音の振動を人間が直接受け取っていれば、それによって癒されることもあるでしょう。
一方で、『要求ゴロゴロ』と呼ばれる喉の鳴らし方もあります。エサがほしい、なでてほしいなど、何かを要求するときに鳴らすゴロゴロ音には、平均300ヘルツ前後という赤ちゃんの泣き声に近い周波数が含まれています。赤ちゃんの泣き声を聞いて、大人が何かしらの緊急性を感じて行動を起こすように、猫の『要求ゴロゴロ』にも人間が応答したくなるような音域の周波数が混じっています。それを聞いた多くの飼い主は猫の要求に応えようとするでしょう。このようにゴロゴロ音ひとつとっても、私たちの心理に複雑な影響を与えているといえます。
また、猫は『ツンデレ』と言えるような気ままな行動が特徴的です。この行動が人の脳によい刺激を与えている可能性があります。
一例として猫に『お手』をさせる実験では、猫がすぐに言うことを聞かなかったときのほうが、脳の前頭前野がより活発に働くという結果が出ています。『どうすれば言うことを聞いてくれるんだろう』と思考するプロセスが認知機能の低下防止につながるのではないか、とする見方もあります。
ただ、ここで忘れてはならないのが、人は猫を『猫として』見ているという点です。手ざわり、におい、見た目、鳴き声など、複数の感覚を通して動物とふれあう中で受け取った刺激が、複合的に作用して私たちの心身によい影響を与えているのだと考えてよいでしょう。もちろんこれは、犬など他の動物についても同じことが言えます」

猫はかすがい?! 動物がもたらす社会的な効果
「動物との暮らしがもたらす好影響は、個人的な範囲にとどまらず、より大きな人間関係にも広がります。動物を介して家族の会話が増えたり、動物の屈託のない行動によって家庭内の雰囲気が和らいだりといった経験をしている人は多いのではないでしょうか。犬を飼っている場合は散歩に出かけることで交友関係が広がったり運動習慣が身につくといったこともあるでしょう。これらはペットがもたらす社会的な効果のひとつといえます。
また、小学校低学年くらいのお子さんのいる家庭で猫を飼い始めたとします。猫は15年前後から20年近くも生きる動物ですから、その子は受験、進学、就職、結婚といった人生の節目を猫とともに迎えることになりますよね。ストレスのかかるライフイベントの場面で、傍らに動物がいることは、その子にとっても家庭全体にとっても、非常に大きな支えになるのではないでしょうか」
本当に猫は人をなぐさめてくれるの?

「落ち込んでいるときに寄り添ってくれた」「不調で寝ているとき、そばにいてくれた」と感じる猫の飼い主は少なくありません。はたして猫は本当に飼い主を「なぐさめ」てくれているのでしょうか?
「『なぐさめる』とは、相手の状況を認識したうえで、相手の気持ちに共感し、寄り添い、調和するように行動するという行為です。人で言えば通常4歳頃から発達するような高次元の能力が必要です。ですから厳密な意味で、猫がなぐさめの行動をとっているかどうかを証明するのは難しいと言えます。
ただわかっているのは、猫には『社会的認知能力』があるということです。社会的認知能力とは、相手の状況を観察・認識した上で自分の行動を変化させる能力のこと。猫も人の感情に合わせて、大なり小なり行動を変化させています。また、猫はニオイで知っている人と知らない人とをかぎ分けますし、人の感情をある程度読み取ることもできます。よって猫との信頼関係を築いている飼い主が、落ち込んでいるときに『猫からなぐさめられた』と感じることはごく自然なことですし、実際にストレス低減の効果につながっていると考えられます」
猫は、じつは人が好き?!

猫と暮らしていると、「自分は猫が大好きだけれど、猫のほうは自分をどう思っているのだろうか」と感じることがあるかもしれません。猫は人のことをどのように思っているのでしょうか?
「マイペースで気まぐれなイメージの強い猫ですが、じつは根本的に人のことがとても好きな動物です。『におい』『食べ物』『おもちゃ』 『人との交流』の4つを比較した結果、最も多く猫に選ばれたのは『人との交流』だったという実験結果があります。また、例えば猫が猫じゃらしのおもちゃで遊んでいたとします。猫は猫じゃらしを獲物のように追いかけますが、猫は本気でおもちゃを獲物だと思って追いかけているのではなく、おもちゃを通して人とのコミュニケーションを楽しんでいるのだということがわかる実験結果もあります。
人と猫との関係は、決して人からの一方的なものではなく、双方向のコミュニケーションが成り立つものだと言えます。人が猫をよく理解して生活を共にすることで、両者に愛着と信頼が生まれるのです」
猫と良好な関係を築くコツ
では、猫と良好な関係を築くにはどのようにしたらよいのでしょうか。内山先生によると、大きく分けて2つのことが必要だそうです。ひとつは「猫のことをよく知り、よく見て、猫からの要求を見逃さない/求めていないことをしないこと」。もうひとつは「時間をかけて愛着関係を築くこと」です。これらを行っていくためのコツをうかがいました。
猫の習性をよく知ろう

猫と暮らすのであれば、猫の特性や習性をよく知ることが大切です。猫を犬のように、犬を猫のように扱ってしまうと、適性な関係は築けません。「アイコンタクト」を一例として考えてみましょう。
もっと遊んでほしいのに飼い主が遊びを途中でやめた場合、多くの犬は飼い主の目を見て催促します。一方、猫はおそらく飼い主の手やおもちゃを見ます。また、飼い主が犬や猫をなでているときに「もっとなでて」と言われているような感覚を覚えることがありますね。その場合も、犬は飼い主の顔を見ますが、猫は飼い主の手を見たりなでてほしい部位をすりつけたりする傾向があります。
犬は視線の意味を本質的にわかっています。したがって視線を交わすことで問題解決を図ろうとしますが、猫はこうしたアイコンタクトを行いません。それどころか猫にとって視線のやりとりは、 基本的には威嚇といった意味を持ちます。犬を飼っている人が、飼い犬とアイコンタクトをとるのはコミュニケーションとして成立しますが、猫を飼っている人が飼い猫とアイコンタクトをとろうとすることは、一概に正解とは言えないのです。
なお、猫にはスローブリンクという行為があります。これはゆったりとしたまばたきで、猫からの親愛の情を表します。飼い猫からスローブリンクをされたら、こちらからもゆったりとしたまばたきを返してあげるとよいですね。
猫の表情は276通り!

飼い猫の様子をよく観察することも大切です。猫は、耳やひげ、口周りの動きや瞳孔の開き具合などの組み合わせによって276種類もの表情があることがわかっています。目を閉じ、耳とひげを前の方に移動させていれば、おおむね友好的でリラックスしていると判断できますし、瞳孔が収縮し、耳が頭と平行になり、舌で唇をぬぐう仕草をしていればその反対です。猫の顔まわりの動きを見ることで、猫の大まかな状況を知ることができます。
さわられて喜ぶところと嫌がるところがある

赤:多くの猫が嫌がるところ(腹部、尾のつけ根)
黄:猫によって反応が異なるところ
【参考】Scott, L., & Florkiewicz, B. N. (2023)改変
猫がさわられて喜ぶ箇所と嫌がる箇所も知っておくとよいでしょう。顔まわりをなでられると喜ぶ猫が多い反面、お腹やしっぽのつけ根をさわられると嫌がる猫が多いことがわかっています。意外なことに、自称「猫好き」は猫の嫌がるところにさわりがちという傾向があるので要注意かもしれません。猫によって反応が異なる箇所は好みが分かれるところ。先ほど挙げた猫の表情なども参考にしながら理解を深めていく必要があります。
「猫なで声」は効果的
高めの声でやわらかい口調で話しかける、いわゆる「猫なで声」も猫にとって有効です。もちろん興味を示さないこともありますが、優しく名前を読んだり、短いフレーズで繰り返し話しかけるのは、猫との信頼関係を築くうえで効果的と言えます。
猫が嫌がるのは「環境の変化」

「猫は家につく」という言葉通り、猫がいちばん嫌がるのは環境がガラリと変わってしまうこと。大きなものでは引っ越しです。匂いや光も含めてテリトリーが根こそぎ変わってしまうからです。蛍光灯のヘルツ数の違いなど、人間にとっては気にならないレベルでの光のちらつきが動物の目線では気になるといったことも起こり得ます。
部屋の模様替えも環境の変化といえます。そこで、猫のよく行動する部屋は家具の配置換えをしないとか、広めのケージを設置しておくなどして、猫が安心できる場所を家の中に用意しておくのがおすすめです。動物病院へ行くときや、災害で避難しなければならないときに安心して入れる移動用ケージを用意して、普段から慣れさせておくことも必要です。
ときどき「猫を一生、家の中に閉じ込めておくのはかわいそうなのではないか」という声を耳にすることがあります。しかし猫にとって、自分のテリトリーである家の中は最も落ち着ける場所です。人と一緒にいることに喜びを感じる猫にとって、安心できる家の中で、信頼できる人と暮らすことは十分に幸せな環境だと言えます。
人間の気まぐれな感情も猫にとっては「環境の変化」
猫は穏やかで落ち着いた接し方をされることを好みます。いじめ行為は論外として、感情を気まぐれにころころ変化させたり、急に大きな声を出したりするのは避けたいもの。猫は人間の感情を認識できるので、怒っている人のそばからは離れますし、人が落ち込んでいることに対しても、いつもと違う状況と判断して、かなり敏感に反応すると考えられます。その意味では飼い主の落ち込みに対するなぐさめのような行動は、「いつもと違う、どうしたんだろう、何とかしなきゃ」という気持ちから来た彼らなりの対処であり、じつはストレスになっているとも言えます。
同じ理由から、一方的に追いかけたり、猫が求めていないのになで回したりするのは禁物です。予測のつかない動きで猫を追い回す子どもが嫌われがちということも説明がつきます。
もちろん猫が苦手とすることを完全に避けるのは難しいかもしれませんが、こうした特性を知っておくと、猫に対する態度もかなり変わってくるのではないでしょうか。
愛着は時間をかけて育てるもの

「家族として迎え入れた猫がなかなかなついてくれない」「自分は猫に好かれているのだろうか」と悩んでいる飼い主もいるかもしれません。そういった場合でも「焦ることはありません」と内山先生は言います。
「人間関係と一緒で、打ち解けるのが早い猫もいますし、遅い猫もいます。飼い主との相性や飼い始めの動機はあまり重要ではなくて、時間をかけて少しずつ打ち解けていく、その過程を楽しむことが何よりも大切です。
猫をよく観察し、適切な環境を整え、猫という動物を理解しようと努めることで、自然と愛着は深まっていきますので、楽しみながら根気よく愛着を育てていきましょう。 具体的には、なでてほしそうなときになでてあげたり、遊んでほしそうなときに遊んであげたり、スローブリンク(ゆっくりしたまばたき)にスローブリンクを返したりといったコミュニケーションを積み上げていくということです。そのうちにふと『あ、打ち解けた』という瞬間がやってきます。
じつは愛着というのは、 飼って2年くらい経つとぐっと上がってくるんです。そして生理的な健康効果も愛着の上昇に伴って顕著になるという研究があります。飼い主は、家族として迎え入れた猫の一生を背負う存在です。猫との信頼関係を、責任をもって大切に育んでいく姿勢と、猫からもたらされる健康への好影響は密接に関係していると言えます」
改めて考えたい動物と暮らす幸せ

人にとって猫とはどのような存在なのでしょうか。最後に、メッセージをいただきました。
「人と猫の共生の歴史は非常に長く、およそ9500年前のキプロス島での発見が家畜化の最も古い記録とされています。もともとは農耕文化における穀物倉庫のネズミ退治が始まりで、犬のように積極的に『仕事をさせる』のではなく、人の生活の傍らで共に暮らす『共有共生』という形で関係が深まってきました。日本では平安時代の書物に、すでに猫の記録が残っています。古代エジプトの猫の神様バステトや日本の民間伝承としての化け猫など、神格化されたり不思議な力をもつ存在として、時代を超えて大切にされてきた存在であることも特徴的です。
猫というのは究極的に人の憧れなのかもしれませんね。優雅な立ち居振る舞いや人の懐にすっと入ってくる愛嬌。周囲になびかない気高い雰囲気を醸し出したかと思えば、日常生活で見せるのんびりとくつろいだ姿にはこちらも気持ちがゆるみます。表情豊かな猫の特性全体に人は長いこと惹かれてきたのではないかと思います。
猫が人にもたらす心身への効果は、研究に基づくと難しい言い方になってしまいますが、猫と暮らしたことがある人のほとんどは、感覚として知っているのではないでしょうか。私たちが何も意識しなくても、猫たちは飼い主の気持ちや状況に寄り添いながら生きてくれて、その時その時に応じた好影響を与えてくれます。その恩恵や幸せの大きさは計り知れません。
だからこそ猫の生活に対する理解も、楽しみながら深めていってほしいと思います。例えばエサを欲しがるだけ与えるのではなくて、彼らの健康を維持するための適正量を守るといったことも大事になります。そうすればもっと長い時間を一緒に過ごすことができますよね。自分たちの生活とともに動物たちの生活を大事にしていくことで自然といい関係が生まれ、結果的に私たちの心と体にも、よりよい働きがもたらされると言えるのではないでしょうか」
Profile

東京農業大学 農学部 動物科学科教授/内山秀彦先生
東京農業大学 農学部 動物科学科教授。ヒトと動物の関係学会 理事。専門は「ヒトと動物の関係学」「動物行動学」。アニマルセラピーによる癒やしのメカニズムや猫と人との関係について研究を行っている。
*先生の研究室のねこちゃんたちにも多数、出演していただきました🐾