スペイン語で“やさしい風の本屋”を意味する「brisa libreria(ブリッサ・リブレリア)」。そんな素敵な名前のブックカフェが、南青山にあります。ここの店主、元木忍さんは“ナチュラルに生きる”ことを目標としているとか。だから「brisa libreria」の品揃えは、ターミナル駅にある総合書店やいわゆる街の本屋さんとは、ひと味違っています。ナチュラルに生きるための指針となる、いわば心の栄養となる本だけを集めた、まるでわが家の本棚のような空間なのです。
そんな元木さんならではの視点で、クローズアップされた前回のテーマは「家が好きになる本」。住むことは生きること−−−−−−部屋が乱れている人は、心も乱れているものです。早く帰りたくなる、そんな素敵な家に暮らそうというメッセージを込めた9冊を紹介してもらいました。
では、日々の迷いや心の乱れは、どう落ち着かせたらいい? そんな素敵な部屋の力も借りて身を委ねつつ、“心を整える”ために読みたい本を、今回は選んでもらいました。
本を読むことは
自分を知るための作業なんです
「あなたの心は、きちんと整っていますか? 仕事、お金、家族、仲間の事などうまくやらなきゃ! って気持ちだけ焦っていることはありませんか? また、この不安な時代をどう乗り越えるかと考えるだけでも、ついイライラしてしまいますよね。でも、そのイライラの原因を探ることが、生きるうえでは必要な作業なんです。
実はそのイライラは、自分のことをちゃんと理解していないことからくるものなのかもしれません。ですから今回は、“心を整える”をテーマにぴったりの本を選んでみました。“心を整える”というと、そのときの気持ちを鎮めるだけと捉えられてしまうかもしれませんが、実は少しだけ俯瞰してみると、自分のことを知っていく大切な作業なんです。年齢に関係なく若い人でも自分をちゃんとわかっている人もいるし、年は重ねて立派な立場の人でも自分自身を理解していないってことあるんですよね……。
ちゃんと自分を知るということは、いつも意識を持って自分の考えを持つことでもあり、それが本を読むということで教えられることにつながるんです。本は、読書は、生きるためのヒントです。読むことで、喜怒哀楽が生まれ、自分の身に起こったすべてのことに柔軟に対応ができて、シミュレーションができるようになっていくんです。1冊1冊の活字の中に“自分と同じだ”と共感をしたり“素敵だな”と思い、少し真似をする。そんな繰り返しが、自分自身を少し変えてくれるんだと、私は思っています」
Selected Books
フィクションによるメンタルセラピー
『アルトリ岬』
加治将一(著)
PHP文芸文庫 ¥720
過去を水に流し
現在を賞賛し
未来を応援する
<元木さんコメント>
「バラバラな家庭が、人生のあるサインによって再生していく姿に、こちら側も一緒にハラハラし、そして癒される、そんな“無償の愛”の物語です。いつのまにか父親の気持ち、母親や子どもの立場と一緒になって、自分に置き換えて心を整えて読める作品です。この本はまさに現代社会に必要なセルフセラピー本だと思います!」
<概要>
作家であると同時にセラピストでもある著者による、フィクションの中にセラピーを織り交ぜながら展開される“小説”。自信なく、家庭でも仕事でも目立たないように生きてきた平凡な男に訪れた、自身のリストラ、妻の借金、息子のひきこもり、娘の放浪癖……と、ある日を境に表面化していく家庭崩壊の危機。そんな絶望的な家族が出会った謎の男が施す、“奇跡のカウンセリング”とは?
最古のラブストーリーを読み解く
『女と男の万葉集』
桜川ちはや(著)
阪急コミュニケーションズ ¥1,728
白露と 秋萩とには 恋ひ乱れ
別くこと難き 我が心かも
(巻十・二一七一 詠み人知らず)
<元木さんコメント>
「『万葉集』は、何度も読んでも案外と難しいものですよね?例えば布団の中で子どもたちに読み聞かせをするような万葉集のひとコマでも、全てが現代に置き換えられた話が加えられていて、新たに理解しながら読めるんです。恋話も最高に面白い!!」
<概要>
日本最古の歌集『万葉集』。憧れや嫉妬、未練、激情など繊細な心情を大胆に表現した恋歌も多く収録しており、およそ1300年前に編まれた書物なのにもかかわらず、いま読んでも色褪せない魅力をもっている。その歌それぞれの現代語訳と解説を、歌から生まれた現代のラブストーリー103篇とともに楽しめる。いつの世も変わらない女と男の恋心を綴った、一番古くて永遠に新しい恋歌集。
人生はまるで料理のよう
『ライフレシピ Recettes de Vie
フランス流「シンプルで豊かな暮らし」を手にいれる30 のレッスン』
パトリス・ジュリアン(著)
講談社 ¥1,512
毎日、家から始まって家で終わる。だから、住むところというのはとても大事だ。強いこだわりをもつべきだと考えている
<元木さんコメント>
「パトリスさんは、日本人である私の方が恥ずかしくなるほど、日本の文化や人のことをよく知っていらっしゃいます。その知識を活かしながら、『自分の考え方次第で、もっともっと楽しく生きられるよ』と生きるという大切な意味を教えてくれています。本当に素敵な本です」
<概要>
フランス大使館文化担当官として1988年に来日した著者は、「ル・クルーゼ」「プロヴァンスのハーブ」「ゲランドの塩」などフランスの食文化を日本に伝え、ビストロやカフェブームの立役者となった人物。2014年に日本に戻り活動再開、日仏それぞれを知るパトリスさんならではの経験を踏まえながら、“おいしくて素晴らしい人生”を過ごすための30の“レシピ”を、再び日本に伝える。
答えながら自分を知っていく
『<からだ>の声を聞く 日々のレッスン
——人生に<気づき>をくれる365日のセルフワーク』
リズ・ブルボー(著)、浅岡夢二(訳)
ハート出版 ¥1,944
121日目
私は、それらの成功は、自分の心のあり方によって引き起こされたのではない、と本当に信じているのだろうか?
<元木さんコメント>
「自分への問いかけに答えながら、“気持ちを棚卸しする”本です。やっぱり素直になれずにいい人を演じて書いてしまう日もあるかもしれませんが、毎日自分に向き合うことで、きっと素直になれるはず。この1冊終わった頃には、あなたの心は解きほぐされていると思いますよ!」
<概要>
トップセールスウーマンとして活躍したのち、その成功体験を分かち合うために世界20カ国以上でワークショップや講演を行っているリズ・ブルボー。1日1問のシンプルな問いかけに答えるために、日々自分を観察し、身近な人を観察し、答えを記録していく。それを積み重ねることで、自分の中にある“恐れ”や“思い込み”に気づき、自分を知ることになる。
禅の教え×ドイツ式片付け術
『禅と掃除 清々しく暮らす』
枡野俊明(著)、沖幸子(著)
祥伝社 ¥1,512
持たない暮らしは、生活に必要な最低限のものを、大切に手入れをしながら使うために、日々、知恵を磨くことでもあります
<元木さんコメント>
「実は、禅の教えは掃除につながっているんです。知っていました? 欲張らないとか、ものを増やしてはいけないとか、とても奥が深いのです。ものの減らし方の3原則もまとめられているので実践しやすい一冊、自然と心を整える方法が身につきます。」
<概要>
「世界が尊敬する日本人100人」(ニューズウィーク・日本版)に選ばれたこともある曹洞宗の僧侶、枡野さんと、ドイツ・イギリス・オランダで生活マーケティングを学んだ“そうじのカリスマ”沖さん。このふたりのタッグによる、禅の考え方を交えながら理解する、簡素に生きるための片付けと掃除の方法と、さらにシンプルで心豊かに暮らすための、さまざまなヒント集。
旬のものを集めた図鑑
『福を招く 食と暮らしの七十二候』
石倉ヒロユキ(著)
幻冬舎 ¥1,512
柳葉魚 ししゃも 十月〜十一月
昔神様が、食べ物に困っていたアイヌの人々を見て、川に流した柳の葉を魚にかえてくれたという伝説もあります
<元木さんコメント>
「旬のものを食べると健康でいられるとか、薬だといわれますよね。この本は旬のものがとてもきれいに季節ごとにまとめられています。この本を読むと旬の食材を買って帰り家でおいしいものが食べたくなりますよ。心だけじゃなく、胃袋も癒してあげましょう」
<概要>
自然の恵みに感謝しながら、旬の食材を見つけ、知り、味わって喜ぶのが、幸せな暮らし。本書は、旧暦における季節の移り変わりを表現した、秋分や立冬などの「二十四節気(にじゅうしせっき)」、それを3分割した「七十二候(しちじゅうにこう)」を基にした。新玉葱・初鰹・夏みかん・鮟鱇などその時期の旬の食材のほか、縁起物やお祭りなど、福を呼び込む事柄をまとめた図鑑。
仏教をベースにトレーニング
『図解 マインドフルネス
−−しなやかな心と脳を育てる−−』
ケン・ヴェルニ(著)、中野信子(訳)
医道の日本社 ¥2,916
庭掃き
これは、禅仏教の古典的なマインドフルネスの瞑想法です。葉の動き、葉を掃く自分の身体のリズム、呼吸、葉を掃く音に注意を向けましょう
<元木さんコメント>
「只今“マインドフルネス”実践中♪ですが、まだまだわからない人も多いと思います。この本は図解がとてもわかりやすく、ちゃんと導いてくれる本ですので、自然と思考や気持ちを整理することができるんです」
<概要>
“マインドフルネス”とは、今この瞬間に集中することで、自分の思考や心の状態に気づけるように訓練していくメンタルトレーニング。仏教をベースにしたものながら、監訳を脳科学者が務めることで、より科学的に解説され、例えば“ボディ・スキャン”はどのような環境でどのようなプロセスを経て行うかなど、実践的にアプローチできる内容にまとめられている。
カリスマ編集者のポリシーに学ぶ
『100の基本 松浦弥太郎のベーシックノート』
松浦弥太郎(著)
マガジンハウス ¥1,620
テレビ、
新聞は遠くから見るだけ。
<元木さんコメント>
「自分の部屋を誰に見せても大丈夫ですか? 心や暮らしぶりは、すべて自分のスタイルに現れてしまいます。心の乱れをチェックするには、この本を常に手元に置いておきたい本です。」
<概要>
雑誌『暮しの手帖』編集長を務めていたことでも知られる文筆家による本書。自身が日常的に心がけることとして書き出し、普段から意識しているという100の項目を、簡潔にまとめている。小さい約束ほど大切にする、指先と手を常に清潔に、などどれもシンプルで腑に落ちる内容。後半には、著者が経営する書店「COW BOOKS」のスタッフと共有している100のルールが。
ハワイ式の物事の捉え方
『ホ・オポノポノ ライフ
ほんとうの自分を取り戻し、豊かに生きる』
カマイリ・ラファエロヴィッチ(著)
平良アイリーン(訳)
講談社 ¥1,646
自然が好きだから
孫も子どもも広々と遊べる、くつろぐスペースが欲しいから
チャレンジしてみたいから
<元木さんコメント>
「“ホ・オポノポノ”をテーマにした本はたくさん出版されていますが、私はこの本もおすすめしています。他人に何もかも求めてしまうのではなく、まずは感謝の心を持つ=自らの考え方を変えることが一番の近道なんです」
<概要>
ハワイの伝統的な思考法、問題解決法である“ホ・オポノポノ”。起こることすべての原因を自分の中に求め、自分自身に「ありがとう」「ごめんなさい」「許してください」「愛しています」というだけで潜在意識の中にあるネガティブな記憶を浄化するという。例えば雨が降った憂鬱な日でも、“恵みの雨”だと感謝することでポジティブに変換できるなど、心が浄化されていくはずだ。
シンプルな84のヒント
『じっせん こころのヨーガ』
赤根彰子(著)
アノニマ・スタジオ ¥1,296
「目を覚ます」ということは
こころを覆っている闇をはらうこと。
窓を開けて、こころもオープンにします
<元木さんコメント>
「朝起きて、窓を開けない人って意外と多いようですね。でもそれじゃだめ。天気にかかわらず、窓を開けて部屋の中の気を変えなければ。寒さや暑さを感じることで、あなたの心も開くはずです」
<概要>
インドに何千年も伝わる秘法、ヨーガ。本書は、身体を動かし体勢を整えるヨーガとは異なり、静かにすわって呼吸を整え、心を落ち着かせる“こころのヨーガ”を提唱している。特別な技術も道具も必要なく、迷う心に出口を示してくれる。シンプルですぐ取り入れられる、とはいっても日常の中で忘れてしまいがちな、考え方や行動のヒントが84、詰まっている。
Profile
元木 忍
brisa libreria 代表取締役。大学卒業後、学研ホールディングスで書店営業やマーケティング、楽天ブックスではECサイト運営や物流、CCCでは電子書籍ビジネスの立ち上げと、一貫して書籍にかかわる仕事に携わる。東日本大震災を機に人生を見直し、「ブックセラピスト」として精力的に活動。
取材・文=@Living編集部 撮影=田口陽介