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ここへ行きたい! を1冊に凝縮。雑誌『CREA Traveller』編集長に聞く
旅の醍醐味

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旅とは「謎解き」。
予想とは異なる答えが楽しい

元木:1冊の構成は、どのようになっているんですか?

倉林:第1特集は海外で、旅先はひとつで100ページほど。第2特集以降は国内を紹介しています。そのなかで、私は海外の50ページ程度を担当しています。

元木:おおっ! 編集長自らがつくっていらっしゃるんですね。

倉林:編集部は私を含めて3名ですが、ライターさん、カメラマンさん、コーディネーターさんなどたくさんの方々と一緒に1冊をつくりあげています。

元木:構成で心がけていることは?

倉林:インターネットのおかげで、世界各国のことを知った気になってしまいがちです。でも、探せば絶対にあるんですよ、われわれの知らないものが。できるだけ斬新なものを探しています。

元木:たとえば?

倉林:台湾の特集(2016年春号・「美麗なる台湾」)でのことです。まだ知られていない、見たことのない“富豪”の家があるのでは? と探し回りまして。英語のサイトだけでなく、台湾語のサイトもくまなくチェックをしましたら、霧峰林家(むほうりんけ)という台湾5大豪族のひとつで、こちらの大邸宅が見学施設としてちょうどオープンすると知ったんです。

元木:日本で言うところの文化財住宅みたいなものでしょうか。で取材を申し込んだんですね。

倉林:はい。すぐにアポイントをお願いしました。とにかく素晴らしくて。この屋根の“反り”、すばらしいでしょ?

台湾を特集した号が好評だったため、コンパクトサイズの別冊が誕生した。本誌では、この写真の正面(かつ夜に撮影したもの)が堂々と表紙に。見たことのない風景で話題をさらった
台湾を特集した号が好評だったため、コンパクトサイズの別冊が誕生した。本誌では、この写真の正面(かつ夜に撮影したもの)が堂々と表紙に。見たことのない風景で話題をさらった。

元木:とっても象徴的ですね。

倉林:この“反り”の角度が大きくなればなるほど、権力を持っている証なんですって。ここまでの跳ね上がりは皇帝に匹敵するとか。これを見つけたときに「やったー!」と思いました。諦めずにコツコツ調べたことが報われた思いでした。
この号、台湾でもとても売れたんですよ。日本語なのですが、中国語でスポット名を記載したことも、功を奏したかもしれませんね。

元木:台湾には、感度の高い人たちが集まっているイメージがあります。私たちが洋書に憧れるように、台湾の人たちにとっては日本の雑誌がおしゃれなんでしょうね。
それにしてもバイタリティがすばらしいです! 取材中、毎日予定が変更になるなんてしょっちゅうですよね? 現地の一般の方にもリサーチするんですか?

倉林:「あそこがいいよ」と言われたら、すぐに行動してますね。

元木:予想に反して読者からの評判がよかった、食いつきがよかった、という号は?

倉林:ニューヨークでしょうか(2015年秋・「華麗なるニューヨーク」)。『CREA Traveller』の読者は、歴史や文化が好きな方が多いので、都市はあまり特集にしていません。が、“ニューヨークの食がおいしくなっている”という事情を検証したり、美術の最新事情を大特集にしました。
一方、私はニューヨークではなく、グランドサークルを担当しましてね。ちょうどそのころ、アンテロープキャニオンが話題で、アメリカ先住民の方に案内いただいて月明かりの下で、撮影したんです。「たぶん、売れないだろうなぁ」と思っていたのに、売れてちょっとびっくりしました(笑)

元木:では、そんな倉林さんが、旅先で必ず行く場所、チェックするものはありますか?

倉林:本屋さんや市場があれば必ずチェックします。あとはトラムというか地下鉄。電車に乗ると、その町の物価がわかるので。

元木:町の風景や、人となりがわかりますものね。
さて、最新号(2018年3月発売予定)についてこっそり教えてください。

倉林:2年半ぶりのパリ特集です。ちょっと見ないうちにこんなに素晴らしくなっていたのか? というのを実感していただけるかと。世界中の鉄道好きが集まってくるような「地下鉄の奥の奥まで見学できるツアー」や、ル・コルビュジエの建築が集まった町に出かけたり、マルシェでの肉市場、解体するところも取材しており、ちょっとした“大人の社会科見学”になっています。

元木:きっとまた深くて濃い内容なんでしょうね、楽しみです。

美しいビジュアルも『CREA Traveller』が支持される理由のひとつ。「毎号が、名刺代わりのようなもの。取材地で外国の方にお配りしても“とてもきれい!”と評価いただいています。ですから、写真のクオリティは下げたくない。今採用している紙は発色のいい高級紙ですが、これからも使い続けます」
美しいビジュアルも『CREA Traveller』が支持される理由のひとつ。「毎号が、名刺代わりのようなもの。取材地で外国の方にお配りしても“とてもきれい!”と評価いただいています。ですから、写真のクオリティは下げたくない。今採用している紙は発色のいい高級紙ですが、これからも使い続けます」

元木:最後に、倉林さんが“旅に求める”ものってなんでしょう?

倉林:そうですね……「謎解き」でしょうか。想像や事前知識とは異なる“答え”が出ると、おもしろいですね。
ある方が興味深いことをおっしゃっていたんですが、人類はアフリカで誕生してヨーロッパ大陸を渡ってアジアに来て、そして南米に、というように、われわれには“旅する遺伝子”が備わっているってね。「旅したい!」には理由がないというか、本能のような気がします。

元木:なるほど、とても合点が行きました。こうお話をしていて、誌面には出てこない「裏話」のようなものをもっと知りたくなりました。倉林さんだけでなく取材陣のエピソードなんてどうでしょう? 旅エッセイみたいな感じで?

倉林:「裏トラベラー」ってどう? なんて冗談でよく言っていますけどね(笑)。裏はさておき、この春には『CREA Traveller』のウェブサイトがいよいよスタートする予定です。こちらもどうぞお楽しみに!

Profile

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CREA Traveller 編集長 / 倉林里実(左)

大学卒業後、証券会社の国際金融部を経て、アメリカ・ハーバード大学に短期留学。帰国後の1994年、出版業界へと転身しライフスタイル誌の編集部に。2008年、文藝春秋に入社。デスクとして『CREA』に配属。2010年に編集長を務める。2013年より『CREA Traveller』の編集長に。

CREA WEB「CREA Traveller
http://crea.bunshun.jp/traveller

ブックセラピスト / 元木 忍(右)

ココロとカラダを整えることをコンセプトにした「brisa libreria」代表取締役。大学卒業後、学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とつねに出版に関わり、現在はブックセラピストとして活躍。「brisa libreria」は書店、エステサロン、ヘアサロンを複合した“癒し”の場所として注目度が高い。
brisa libreria http://brisa-plus.com/libreriaaoyama

 

取材・文=山﨑 真由子 撮影=泉山 美代子