毎年11月になると、決まって話題になるのが「ボジョレー・ヌーヴォーの解禁」。今年も、この季節がやってきました。でも「ボジョレー・ヌーヴォー」ってよく耳にはするけれど、実のところ「詳しくはよく知らない」「なんかワインのお祭りみたいなもの?」っていう人が多いんじゃないでしょうか。ワインが1年でもっとも注目を浴びるこの日、せっかくだから、いっしょに盛り上がりたいですよね。そのためには、知っているようで知らなかったボジョレー・ヌーヴォーの世界、この機会に覗いてみましょう。
解禁日はいつ? どこで作られている? なんて超基本から、そもそも美味しいの? 今年のボジョレー・ヌーヴォーはどんなお味? といった突っ込んだところまで、この道30年の“熟成された”ワインジャーナリスト、柳忠之さんに“ボジョレー・ヌーヴォーの本当のところ”を教えていただきました。
Q.まずはボジョレー・ヌーヴォーって何なのですか?
A.
「ボジョレー」とは地名、「ヌーヴォー」とはフランス語で“新しい”という意味です。
フランス・ブルゴーニュ地方の南にボジョレーという地区がありますが、そこで収穫された「ガメイ」というブドウ品種を使ってその地域で作られたワインに、「ボジョレー」という銘柄がつけられるんです。ですから、ボジョレー地区で作られた新しいワイン、を意味します。フランスで一番最初に出来上がるワインなんですよ。
Q.解禁日は毎年違うのでしょうか?
A.
11月の第3木曜日と決められています。ですから今年は、11月17日木曜日です。11月15日と日付が決められていた時代もありますが、お店の営業日や流通の事情などに配慮して、“11月の第3木曜日”と変更されました。ちなみに、昔は解禁=出荷のタイミングだったので、解禁日になるまでは空港の保税倉庫から出すことができず、生粋のファンたちは真っ先に飲むために、なんと保税倉庫まで行って飲んでいたんですよ。いまは、開栓するタイミングが11月17日午前0時以降であればいいので、そういう酔狂な習慣はなくなりましたが(笑)
Q.なぜ解禁日があるのでしょう?
A.
成り立ちから説明しましょう。ボジョレー地区にはさまざまな村がありますが、昔から収穫祭のように、その年にワインができたことを祝う意味で新酒を飲んでいました。近郊の都市、リヨンの人たちは都市生活者らしく新しいもの好きで、じきにそれに目をつけ、街のパブなどで飲まれるように。それはやがて国内最大の都市パリへと波及し、パリで一番早く飲むのは誰か? という競争が始まったんです。そうなると、まだワインとして完成していない、発酵途中のような危ないワインも出回るようになってしまう。それを防ぐために、解禁日を設けたわけです。
Q.ボジョレー・ヌーヴォーっておいしいんですか?
A.
おいしいです。ただし、高級なヴィンテージワインや、1本数百円のハイコスパワインと美味しさを比べるものではありません。ボジョレー・ヌーヴォーなりのおいしさと楽しさと楽しみ方があるんですよ。具体的にどんな味かといえば、新酒ならではのフレッシュさ、ブドウのチャーミングな果実味がします。“ピチピチしたワイン”と表現しましょうか。ブルワリーの、いままさに仕込んでいる蔵の中に入ったような香りがしますね。
Q.毎年“当たり年”なんていわれているけど、どうやって評価しているんですか?
A.
生産者や輸入業者が、毎年キャッチフレーズを考えていますね。実際の出来は、その年の気温や降雨量、日照量によるブドウの出来で決まります。
「ジョルジュ デュブッフ ボジョレー ヌーヴォー 2022」/ サントリー
“ボジョレーの帝王”と呼ばれている名醸造家、ジョルジュ・デュブッフ氏が手がけるブランド。華やかな香りとフルーティな味わいに定評があり、フランス・リヨンで毎年行われている「リヨン・ボジョレー ヌーヴォー ワインコンクール」ではナンバーワンの受賞歴を誇ります。今年の新作のうち、もっともベーシックなこちらは、“感謝”の花言葉をもつひなげし、バラ、ダリアを中心としたブーケをイメージしたラベルデザイン。
Q.ボジョレー・ヌーヴォーはどこの国でも飲めるのでしょうか?
A.
“早さ”が大事なボジョレー・ヌーヴォーは、飛行機で輸送されるほぼ唯一のワインです。いまは世界中のさまざまな国で飲まれています。ちなみに1980年代後半には、バブル期の日本が大部分を買い占めていたなんて話もありますが、実はいまでも輸出量の半分以上は、日本が占めているんですよ。
Q.どんな食事と合いますか?
A.
地元では、サンマルスランという白カビチーズや、近郊のリヨンで盛んなシャルキュトリーと一緒に楽しんでいるようです。ワインの味からいっても、ディナーといっしょにというより、チーズやサラミなどをつまみながら気軽に飲むのがいいと思いますね。ボジョレー・ヌーヴォー自体は、13〜15℃程度の冷やし目で。キンキンに冷やしてはだめですよ。ちなみに、“ボジョレーの帝王”ジョルジュ・デュブッフ氏のお孫さんは、来日した際に「カツ丼にもっとも合う!」と話していました。つまり、先入観は禁物。意外なものとのマッチングも楽しめるわけです。自由に楽しんでみてください。
Q. どのようにして楽しむといいのでしょう?
A.“お祭り”ですから、解禁日に誰かといっしょにワイワイと飲む。これに尽きると思います。
最後に、柳さんはこう話しています。「日本では、1980年代の後半、いわゆるバブル時代に大ブームになったこともあって、ボジョレー・ヌーヴォーを飲むのはミーハーのやることだ、というような見方をするような人もいます。でも、ブームだからとか、みんなが飲んでいるから、ではなく、お祝いごとやお祭りとしての成り立ちを理解して、ぜひ楽しんでほしいですね。これは、日本で伝統的に初鰹を楽しんでいるのと同じですから。日本は時差の関係で、世界で最初にボジョレー・ヌーヴォーを飲める国です。このチャンスを逃さず。この時にしか味わえない新鮮なボジョレーの味を楽しむ。最高の体験だと思います。さらに、飲みやすいボジョレー・ヌーヴォーを入り口に、ワインの世界を広げていってほしいですね」
Profile
ワインジャーナリスト / 柳 忠之
1965年横浜市生まれ。来年、業界歴30年を迎え、ワイン業界で知らない人はいない存在。1000円未満のデイリーワインから100万円以上の“グランヴァン”まで精通する。雑誌への寄稿や著書も多数。ワインスクールの講師も務めている。
取材・文=@Living編集部 写真協力=柳 忠之、GETTY IMAGES