近年、Z世代を中心に注目を集めている「オールドコンデジ」。オールドコンデジとは、2000年代から2010年代頃に製造・販売されたコンパクトデジタルカメラのことで、手軽に持ち運べるサイズ感と、独特のレトロな写りが魅力です。
今回はフォトグラファーのオガワタクヤさんに、オールドコンデジの魅力や、より味のある写真を撮るための撮影テクニックについてうかがいます
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懐かしくて新しい!
あえて今、オールドコンデジが選ばれる理由
「コンデジ」(=コンパクトデジタルカメラ)とは、小型で軽量なデジタルカメラのこと。一眼レフカメラやミラーレスカメラほど大きさや複雑な操作性はなく、持ち運びがしやすいため、手軽に撮影できるのが特徴です。
なかでも、近年10代から20代の間で流行しているのが、「オールドコンデジ」と呼ばれる古いモデルのコンデジです。スマホの普及により、高画質な写真を手軽に撮影できるようになったため、一時、コンデジの需要は減少していました。しかし2020年代に入り、平成レトロブームの影響やY2Kブームの再燃とともに、再び注目を集めています。
「今の10代は、スマホで高画質の写真を撮れるのが当たり前の環境で育っていますよね。そんな彼らにとって、オールドコンデジ特有のレトロな雰囲気の写真は新鮮で、特別なものに感じられたのではないでしょうか」(フォトグラファー・オガワタクヤさん、以下同)

独特のレトロな色合いや、フィルムライクの温かみのある質感は、解像度の低い古い機種だからこそ生み出せるもの。「こういった色味や質感は、最新スマホのような高解像度でハイスペックなカメラではなかなか再現できないんです」とオガワさんは語ります。
さらに、コンパクトなカメラで撮るからこそ引き出せる自然な表情も魅力だそう。
「スマホは撮影以外の機能も多いため、ふとカメラを向けられたとき、写真を撮られているのか、スマホをいじっているのかが分かりづらいことがあります。その点、コンデジは撮影に特化したカメラなので撮られていることがわかり撮影モードにはなりますが、一眼レフなどよりもコンパクトで圧迫感がないため、自然といい表情を引き出せます。友達や大切な人の、よりリラックスした表情を写せるのも、コンデジならではです」
購入前に要チェック!
古い機種ならではの注意点
では、オールドコンデジはどこで購入すればよいのでしょうか?
「カメラショップの中古コーナーや、リサイクルショップなどで販売されていることが多いです。フリマサイトやオークションサイトでも流通していますが、手軽に購入できる一方、商品の状態が保証されていないというリスクがあります。そのため初心者の方は、プロの目で検品されたものを購入するのが安心ですね」
オールドコンデジはほとんどが中古商品のため、付属品が揃っていないことも多いそう。また、古い機種のため、現行の外部アクセサリーが対応していない場合もあります。とくに注意したいのが、記録メディアとバッテリーです。
【チェックポイント1】SDカードに対応している機種を選ぶ
機種によっては、メーカー独自の記録メディアにのみ対応している場合もあります。こうした記録メディアは現在、入手困難なことも多いため、SDカード対応の機種を選ぶのがおすすめです。

また、SDカード対応の機種でも、「SDメモリーカード」と呼ばれる低容量のSDカードにのみ対応している場合があります。
「SDカードは容量によって種類が異なります。現在はSDHCカードやSDXCカードといった大容量のSDカードが主流ですが、これらに対応した製品が登場したのは比較的最近で、オールドコンデジには対応していないものがほとんどです。『SDメモリーカード対応』と記載されている機種を購入した場合は、必ず2GB以下のSDメモリーカードを用意しましょう」

【チェックポイント2】バッテリーが劣化している場合は互換品を探す
オールドコンデジは、スマホのように直接コードを差して充電するのではなく、リチウムイオンバッテリーを専用の充電器で充電する機種がほとんど。バッテリーの種類も機種ごとに異なるため、対応する充電器がなかなか見つからないこともあります。
「バッテリーが劣化している可能性が高く、購入後に『思ったより充電が持たない』と感じることもあります。互換品が販売されている場合があるので、バッテリーの型番をECサイトなどで検索して、適合するものを探してみてください」
オガワさんは、フォトグラファーとして活躍する傍らオールドコンデジ専門ショップ「Tsugumi」も運営されています。
「Tsugumiは、『どんなカメラを選んだらいいかわからない』『選択肢が多すぎて絞れない』という方が、直感的に好きなカメラを選べるお店です。初心者の方でもすぐに楽しめるように、僕自身が実際に1~2週間持ち歩き、バッテリーなどの点検も行ったうえで、使いやすいと感じたものだけを販売しています」

初心者でも使いやすい!
今、手に入れたい名機たち
各地からオールドコンデジを仕入れ、自宅には常に40台以上の機種が並ぶというオガワさんは、まさにオールドコンデジのプロ。そんなオガワさんに、初心者におすすめの機種を3つセレクトしていただきました。
おすすめ機種1/オールドコンデジといえばコレ! Canon「IXI」シリーズ

「オールドコンデジといえばこの『IXY』シリーズというくらい、スタンダードなモデルです。キヤノンは証明写真やプリクラなど、人物撮影に優れたメーカーで、肌を美しく表現できるのでポートレート撮影に向いています。なかでもおすすめは『IXY DIGITAL 30』。僕自身も手放したくないくらい気に入っています」
おすすめ機種2/入手しやすくビギナーも使いやすい!CASIO「EXILIM」シリーズ

「『EXILIM』シリーズは流通量が多く、今でもカメラ本体やバッテリーともに入手しやすいモデルです。なかでも『EX-Z4』はSDカードにも対応していて、初心者の方でも使いやすいモデルですね」
おすすめ機種3/乾電池でも駆動するから使いやすい! PENTAX「Optio」シリーズ

「『Optio』シリーズのなかでも、『Optio E30』は2007年発売と比較的新しいモデルで、SDカードに対応しているだけでなく、単3電池2本で動作するのが特徴です。バッテリー充電の手間がなく、電池を交換するだけですぐに使用できます」
オールドコンデジで切り取るノスタルジー
ひと味違う写真を撮る3つのコツ
オールドコンデジは、光の入り方やブレ感を活かすことで、記憶の中の風景を映し出したような、ノスタルジックな写真を撮ることができます。ここでは、オールドコンデジの良さを活かした撮影術について、オガワさん撮影の作例とともにご紹介します。
【コツ1】昼と夜で「光」を使い分ける
オールドコンデジは夜景撮影が得意ではないため、基本的には昼間の撮影がおすすめ。もし、夜撮影する場合はフラッシュを使いましょう。メーカーによって違いはありますが、次の設定を試してみると、より雰囲気のある写真に仕上がります。
・昼間や室内の撮影の場合:「フラッシュ禁止モード」を使用(フラッシュオフ)

「昼間の撮影ではフラッシュ機能をオフにして、被写体の背後から当たる逆光や、被写体の左右など側面から当たる斜光など、光の当たる方向を活かして撮るのがおすすめです。オールドコンデジは光が柔らかく写るので、自然で温かみのある、ふんわりとした空気感の写真が撮れます」
・夜の撮影の場合:「フラッシュ強制発光モード」を使用

「反対に夜はフラッシュ撮影で輪郭を際立たせましょう。コンデジにはストロボが内蔵されている機種が多く、フラッシュを焚くことで、被写体がくっきり浮かび上がったレトロな雰囲気の写真を撮ることができます」
【コツ2】被写体を中央に置いて撮る
被写体を画面の中央に置く「日の丸構図」は、非常にシンプルで簡単な構図ですが、被写体を際立たせた印象的な写真を撮影することができます。

「昔のカメラは画面の中央部にしかピントが合わない機種が多いため、日の丸構図がとても活きてきます。ポートレート(人物撮影)にも向いています」
【コツ3】あえて「ブレ」を強調してみる
カメラを揺らしながら撮影して、被写体をブレさせてみるのも一つの表現方法。オガワさん自身も、普段の撮影で取り入れている手法だそう。

「オールドコンデジは、少し輪郭がぼけたような、淡い雰囲気の写真を撮るのが得意です。意図的にブレさせることでより不鮮明になり、まるで思い出の中のワンシーンのような写真に仕上がります。くもりの日や薄暗い室内での撮影におすすめです」
自分だけのときめく一台を探して、
日常をもっと特別に
日常の新たな相棒となる一台を選ぶポイントについて、オガワさんは「見た目がタイプの機種を選ぶことも大事です」と話します。
「オールドコンデジにはシンプルなデザインのものもあれば、フィルムカメラのようなクラシックなもの、少し大きめでゴツゴツしたものなど、さまざまなデザインの製品があります。
洋服やアクセサリーを選ぶときのように、自分が一番好きなデザインのカメラを選ぶことが、結果的に撮ることへのモチベーションにつながると思います。ファッションアイテム感覚で持ち歩きながら、写真撮影を楽しんでほしいですね」

最後に、オールドコンデジを始める方へ、オガワさんからメッセージをいただきました。
「スマホで写真を撮っても、なんだか心に残らない、味気ないと感じることはありませんか? それは、スマホの写真があまりにもクリアで鮮明すぎるがゆえに、どこか無機質に思えてしまうからかもしれません。きれいすぎる写真が当たり前になると、シャッターを切った瞬間の感動やその場の空気感までもが埋もれてしまう気がしています。
オールドコンデジは、古い機種ゆえにボケたりブレたりすることもありますが、そんな不完全さもまた魅力のひとつ。鮮明ではないからこそ、あとから見返したときに、どこか懐かしい気持ちになるものです。いつもとは違う雰囲気の写真を撮りたくなったら、友達を誘って特別なシチュエーションで撮影を楽しんでみるのも面白いかもしれません。ぜひ、“自分だけのカメラ”を見つけて、大切な思い出を誰かと共有してみてください」
Profile
フォトグラファー / オガワタクヤ
大阪府在住のフリーランス写真家、フォトグラファー。バンドのアーティスト写真・MV・ライブ写真の撮影をメインに、雑誌やブライダル、古着屋の撮影などを手掛ける。オールドコンパクトデジタルカメラ専門ショップ「Tugumi」を運営。
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取材・文=粟屋芽衣 写真提供=オガワタクヤ