四季の豊かな日本には、季節ごとに大切にしてきた暮らし、行事があります。とくに年末から年始にかけては、しきたりや習慣を知らないと「どうしたらいいの?」と迷う場面がたくさんあります。人とのお付き合いにおいて迷いがあると、余裕がなくなり、人を思いやる心が欠けてしまうことも……。つまり、マナーは自分に「心の余裕」を与え、相手に「思いやりの心」を伝えるためのルールなのです。
古くからの行事や風習の多い年末年始に備えて、「現代礼法研究所」を主宰する岩下宣子さんに、“いまさら聞けない年末年始のマナーの基本”を教えていただきました。
【お歳暮の送り方】
ずっと贈り続けるお歳暮は身の丈に合った範囲で!
お正月の品を送る場合は事前にお知らせしましょう
私たち日本人は1年に2回ご先祖をお迎えします。それがお盆とお正月です。その時期になると大掃除をするのは、ご先祖様をお迎えするから。そしてご先祖様への感謝の気持ちとしてお供え物もします。その習わしが、両親やお世話になった方々へと広がって行ったものがお中元とお歳暮なのです。
お中元やお歳暮で注意しなければいけないのは、一度贈ったらずっと贈り続けなければいけないということ。ずっと贈り続けるのですから身の丈に合った金額の範囲内でお付き合いを続けていくことが大切です。金額の目安は感謝の度合いで違ってきますが、3000~5000円が一般的です。ちなみに一昔前は月収の2%が目安といわれていました。月収20万円なら4000円となります。
いつまでに贈るかというと、12月の暮れまでに贈るのが通例。直接相手のお宅を訪問してお渡しするのが正式ですが、最近ではデパートなどからの配送や宅配便も一般的になっています。直接お届けできなくて心残りだというのでしたら、挨拶状を別で送るか、カードを事前に書いてデパートに持っていけば贈り物と一緒に包装してくれるところもあります。「デパートから贈った品が〇月〇日に届くと思います」と一言メールを活用するのも現代の習慣からすればOKだと思います。
運送会社の事情もあり、届ける日にちの目安は12月25日くらいといわれています。いくらや数の子などのお正月に使う物は、12月28日くらいにお届けするほうが使い勝手がいいと思います。その際はお電話で「数の子をお送りしようと思いますが、12月28日ごろのお届けでよろしいでしょうか」と事前にお伝えしておくと、お正月の準備品が重ならなくて心が届くと思います。お歳暮やお中元の時期を、普段なかなか伝える機会のない感謝を示すいいチャンスととらえるのが、大人のたしなみだと考えてください。
【箸の使い方】
箸先の汚れ具合で教養が知れる?
汚していいのは1.5cm、多くても3cmまで
年末やお正月は、友人とのパーティや親戚との会食などが多い季節。特におせち料理に代表されるような、和食を食べる機会が多いものです。そんなときは、お箸の使い方にもマナーがあります。
お店の人は食後、椅子がキチンとテーブルの中に入っているか、また箸が箸置きにキチンと置いてあるかでその人の教養を見ているそうです。それだけ箸の使い方は重要です。昔から食後の箸先の汚れ具合を見ればその人の育ちがわかるといわれています。箸置きを汚さないように箸先は少し出して置く。箸の先で汚していいのは1.5cm、多くても3cm。
箸先を汚す人は他の人を不快にさせる「忌み箸」をしている人に多いようです。たとえば、食器に盛りつけてある料理を上から食べず、かきまぜて好きな物を探す「探り箸」や箸を深く舐める「ねぶり箸」が「忌み箸」の一例です。お味噌汁などの汁物を食べるときに汁を混ぜたいときには、箸を深く入れてかき混ぜると汚れてしまいますので、そういう場合は少しだけ箸先をつけてさざ波を立てるようにかき混ぜると箸先を汚さずに済みます。
長い間の習慣で箸の使いかたは癖になっていますから、なかなかすぐには直せません。また自分では気がつかないものですので、家族で指摘し合って直すのはいかがでしょうか。大切な方との会食で箸使いがキレイだと一目置かれるようになります。
【お酌のしかた・受けかた】
お酌はタイミングよく、声をかけてから!
女性は広口の酒器が品よく飲むポイント
年末年始はお酒の席も多いもの。「今日は無礼講で」というのは、あくまで身分や役職の上の人が下の人に対して「あまり堅苦しくなくやろう!」と気遣いで掛ける言葉。「何をやっても構わない」と勘違いして羽目を外してはいけません。
お酌のしかた、受けかたにもルールがあります。まず気をつけたいのが、目上の人がグラスや盃を持ってから持つこと。お酌のタイミングは相手のグラスや盃が少しなくなってから。「いかがですか?」と声を掛けて、相手が盃を持ってから徳利を持つものです。
盃を持つ手は男性の場合は左手。右手は空けておくのが実は正しいそうです。これは大工道具のノミは左手に持つことから、転じて左手が「飲みの手」となったとのこと。ただし、ビジネスの時は左手だけで受けるのではなく右手を添えたほうがいいでしょう。女性は右手に盃を持ち、必ず左手を添えましょう。
女性が魅力的に見える酒器は、平べったく、底の浅いものがおすすめです。なぜなら、飲み干すときにあごをクイっと上げずに飲めるため優雅に見えます。酒器の糸底(底の円形の部分)を中指と薬指の間で挟んで、持ち上げるように口にしましょう。くれぐれも口で酒器を迎えに行かないように。広口の酒器で、あおらずにスッときれいに飲むと気になる首筋を強調しないので、なお女性らしく品があります。
日本酒の場合、酒器を逆さにして置いておけば「もう結構です」という意味になります。またお酒が弱い人は「少しにしてください」「体質なので申し訳ありません」とお酌の際に相手にきちんと伝えることは非礼にはなりません。
続いて、年賀状の書き方や、初詣の正しい参拝方法などを確認しましょう。