家族の一員として、かけがえない存在であるペット。一緒に過ごすなかで癒されることや楽しませてもらうことも多いものですが、どうしても考えなくてはならないのが“お別れ”のとき。ペットが亡くなるときについてです。
犬や猫の寿命は、どんなに長くても16~18年ほどで、ハムスターやうさぎなどは、1~3年ほどと短い命。毎日そばにいてくれたペットを、感謝を込めて手厚く見送るにはどうしたらいいのでしょうか? ペットの葬儀も行う浄土宗感応寺の住職・成田淳教さんに伺いました。また、弔いに必要な揃えたい仏具についても紹介します。
弔いへの準備は、実はペットを飼い始めたときから
ペットの命の長さには個体差があり、人と同じようには想定できないものです。どんなに大切に飼っていても、健康管理をしていても、ある日突然に亡くなってしまうことだってあります。ですからペットの弔い方については、実はペットを飼い始めるときから、ある程度考えておきたいことなのです。
「はじめてペットを亡くした場合は特に、急に決めなければならないことが多くなります。悲しみの中でいろいろと考えるのは負担にもなります。葬送の形はそれぞれですし、プランによってもできることが違います。できるだけ生前から葬送について調べておき、寺院や火葬業者などを訪ねて、何ができるのか、どんな雰囲気なのかを見学しておくことをおすすめしたいです。後悔がないよう、準備できることは先にしておきましょう」(浄土宗感応寺 住職・成田淳教さん、以下同)
それでは実際に、ペットの葬送について、何をどんなふうに決めておいたらいいかを見ていきましょう。ペットの葬送は人のそれとは法律が違い、異なる部分もたくさんありますので、ルールまできちんと確認しておくのが安心です。
亡くなった当日にするべきこと
たとえば人が自宅で亡くなったときは、必ず病院に搬送して死亡診断書を医師に書いてもらう必要があります。しかしペットが亡くなったときは、ご自身で確認するだけでも問題はありません。ただし、保険に加入している場合は、失効日の決定のため死亡診断書が求められることもありますので、確認しておきましょう。
1. 手を合わせて感謝の気持ちを伝える
「感謝の思いを送ることが、最大の弔いです。まずは手を合わせ、お念仏を唱えてあげましょう。お念仏以外の信仰をお持ちであれば、それぞれの仕方で感謝の気持ちを伝え、来世でのしあわせを願ってください」
2. ご遺体を保冷する
「ペットは、右脇を下に横向きに寝かせてあげましょう。目が開いたままで気になる場合は瞼を閉じるといいですが、必ずしも瞼を閉じる必要はありません。お腹のまわりに保冷剤をあて、ご遺体を保冷しましょう。体液が出てしまう場合は、お尻と顔の下にペットシーツを敷き、保冷剤を当ててバスタオルで包んであげます。
ドライアイスは、密閉した室内で用いると酸欠になる危険性がありますので、使用しないでください。夏場は冷房をかけ、冬場は暖房を切って部屋の涼しさを保ちましょう」
合同葬、個別葬、土葬……葬送の方法を考える
火葬にはさまざまな形があります。人と同じように個別で火葬する以外にも、ペットには合同葬といって、他のペットといっしょに火葬する合同葬もあります。また、車に火葬炉がついていて、ご自宅前などに駐車して火葬するスタイルもあります。
「ペットは人間と違い、場所を守れば土葬することもできます。土葬を考えている方は、その土地に埋葬してもいいか、管轄の保健所や環境課に確認しておきましょう」
・合同葬で注意したいこと
合同葬では、他のペットといっしょに火葬するので、骨を個別に取り出すことができません。お骨を手元に置いておきたい場合や埋葬場所を決めている場合は、個別に火葬してください。ただ、供養の意味に違いはありませんから、合同でも個別でも都合や気持ちに合わせて選びましょう。
・土葬で注意したいこと
ほぼ恒久的に自身が所有するであろう土地であれば、土葬することができます。ただし、公園などの公共の場、他者所有の土地などへの埋葬や散骨は不法投棄となります。ご自宅の庭などに埋葬する場合は、30cm以上は深く掘って埋葬し、墓標を立てましょう。
火葬の予約は亡くなった翌日までに済ませる
ご遺体は、冬場や保冷状態によって数日間は問題なく保たれますが、遅くとも亡くなった翌日には、葬儀の予約を取るようにしましょう。
「希望の日時で予約できなかったり、空きがなかったりする場合もありますから、早めに予約の電話をしておくのが安心です。そのためにも、葬送をどこにお願いするか、どんなプランにするかを生前に考えておくといいでしょう」
お骨をどうするか考える
火葬した後は、ご遺骨が手元に戻ってきます。人の死と同じように、四十九日忌で埋葬か納骨するのがいいでしょう。
「お手元にずっとお骨を持っておきたい、という思いもよくわかりますし、決まりごとはありません。ただ、ご供養の意味からは、ご遺体やご遺骨は過去世の体として、土に還すべきものと考えています。肉体を離れた魂が生まれ変わり、お葬式を通じて極楽浄土に往生した後は、納骨をおすすめします。
しばらくご自宅に安置する場合は、扉つきの棚などに隠してあげてください。また、現実問題として、たとえば飼い主だった方が急逝した場合、ペットのご遺骨をどうするかは周囲の判断に委ねられることになります。当寺では、人とペットが一緒に入れる永代供養塔の生前契約もありますし、ご遺体の土葬のように、火葬後に庭などに埋葬することも可能です。葬送と同じようにご遺骨をどうしたいかも考えておくといいですね」
弔う上で大切にしたいのは葬式と位牌
葬式をせずに火葬だけした場合、火葬後に葬式を行うこともできます。できたら葬式を行い、家の中に供養できる場所を設けるといいでしょう。
「葬式とは、ペットと来世での待ち合わせの約束の意味や、感謝を込めてこの世からお魂を送り出す儀式です。また、位牌には、極楽浄土の魂とご縁をつなぐ“お魂入れ”という儀式を行います。位牌があると、気持ちをこめて供養しやすくなります。ペットの写真やおりん、お線香、お花などがあれば、より丁寧な供養ができると思いますが、極楽は満ち足りていますので、お供えは必ず毎日ではなくてもかまいません」
ペットロスになっても立ち直ることを急がずに過ごす
予期できていたときもそうでないときも、ペットが亡くなった後はペットロス症候群になってしまう方もいます。ペットロス症候群とは、その悲しみからうつ状態になったり、やる気が出なかったり、重い精神疾患につながる場合もあるのです。
「ペットが亡くなると、死因や生前の後悔がついてまわるかもしれません。また、楽しかった生活を喪失した今現在のこと、来世でまた会えるかという未来に関する思いなども感じるでしょう。どんなことを大きく感じているかにもよりますが、立ち直ることを急ぐ必要はないかもしれません。悲しんでいる時間も、ペットとの大切な時間と考えるのもいいでしょう。また、新たな家族を迎えて、亡くなった子から学んだことを活かすことも、ご供養のひとつになると考えています」
編集部が選ぶ、インテリアに馴染む弔いアイテム
ペット用の仏壇や仏具など、弔いのグッズは、 一般のペットショップでは取り扱いを敬遠する傾向にあります。とはいえ、身近に大事にしていたペットの存在を感じていたい、インテリアに溶け込むようなデザインのグッズで弔いたい、と考える人は、専門のショップを活用してはいかがでしょうか。今回は、文具メーカーのキングジムが2019年にオープンした、ペット供養アイテムを揃える「おもいでの国」から、アイテムをチョイスしました。
・箱型で移動も便利!必要なものが揃ったセット
「手元供養BOX(ブラウン)」
1万7164円+税
箱型の仏壇の中に、ろうそく立てや水入れ、供物入れ、線香やろうそくまでセットになった、手元供養ボックス。インテリアにもなじむ木製で、ブラウン以外にナチュラルとホワイトがあります。来客やちょっとしたお掃除の時には閉じることもできます。
・コンパクトなステージタイプ仏壇
「ステージ型仏壇・仏具セット」
8982円+税
マグネット式で写真が入れられる本体に、ろうそく立てや花器などがセットになったステージ型仏壇です。幅18cm、奥行き12cm、高さ17cmと小さくまとまった仏壇は、一人暮らしの方にも人気。供養はしたいけれど、置いておく場所がない方にぴったりのサイズ感です。
・遺骨や遺毛、思い出の品を閉じ込めて
「HOUSE」
4万2000円+税
柔らかな印象の天然木で作られた家型のボックスには、遺骨や遺毛、思い出のものを入れておくことができます。真鍮でできた十字架や星のモチーフと、ペットが安心して過ごせていた家という形が、安らぎを与えてくれます。
・祈りや供養の気持ちが美しい音色に
「Cherin」
1万円+税
オブジェのような形をしたおりんは、ころんと丸い部分をりん棒で軽く叩いて使います。真鍮でできているため、経年によって音にも変化がでて、味わい深いものがあります。インテリアに馴染みやすく、その美しい音を鳴らすたび心を癒してくれるでしょう。
家族だった大切な存在がいなくなってしまうことを考えると、それだけで胸が締めつけられるものです。でも、そのときに慌ただしく準備をしたり決めたりするのでは、満足に見送ることができないかもしれません。大切だからこそ、いつか訪れる送る日のことも考えて、後悔のない葬送ができるようにしておきたいですね。
Profile
浄土宗感応寺・住職 / 成田淳教
動物供養協議会理事。昭和50年世田谷区大吉寺に生まれ、平成13年より感応寺住職となる。平成17年ごろからホームページを開設し、ペット供養や水子供養、祈願など、できる限り要望に応えることを意識して寺院運営に勤めている。ペットは猫。
取材・文=吉川愛歩 構成=Neem Tree