災害はいつ発生するかわからないもの。いざというときに、慌てず、的確な行動を選択できるようにするためには、日頃からの防災を意識した準備が欠かせません。防災グッズや備蓄の準備がひと段落したら、日頃身につけているスマートフォンやスマートウォッチを駆使した防災対策もしっかり考えておきたいところ。
そこで今回は、国内での利用率が高い「iPhone」や「Apple Watch」に関する準備や心構えについておさらい。これらの機器における、迅速な避難や安全確保のために役立ちそうな設定・機能や、あらかじめ備えておきたいことなどを、ガジェットライターの井上 晃さんに聞きました。5つのポイントにわけてご紹介します。
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1.防災に備える準備をしておこう
まずチェックしておきたいのが、iPhoneの標準機能に関する設定です。
「とくに重要になるのは、気象庁や政府が発信する災害情報をリアルタイムで受信するための「緊急速報」。これについては、「設定」アプリの「通知」画面の最下部にある「緊急速報」の項目が有効になっているかどうかを確かめておきましょう」(ガジェットライター・井上 晃さん、以下同)
「常に警報音を鳴らす」が有効になっていれば、消音モードの場合でも警報音が鳴るそうです。

「設定」アプリで「通知」→「緊急速報」と画面を進め、設定の状態を確認しておきましょう。
一方、防災関連の詳細な情報を得るには、サードパーティアプリを活用することが必要になると井上さんは言います。
サードパーティ製アプリまで範囲を広げると選択肢は膨大になるので、おすすめのアプリを2つ教えてもらいました。
「1つ目は『Yahoo! 防災速報』です。自宅や実家などのエリアを指定しておくことで、気を付けるべき災害や犯罪などの情報について、こまめに通知が届くようになり、防災マップや防災手帳なども同アプリ内から確認できます。
2つ目は『全国避難所ガイド』です。周辺のハザードマップや避難所の位置を端的に確認できます。たとえば、洪水や津波で注意しなくてはいけないエリアを視覚的に把握しやすいので、生活圏で備えておくのにはもちろん、引越し先の候補地や、旅行先の周辺情報などをリサーチする際などにも活躍します」
2.緊急時の操作をチェックしておこう

続いて、万が一の事態に命を守るための操作についてです。
「iPhoneには、簡単な操作で、警察(110)や、海上保安庁(118)、火事/救急車/救助(119)のどれかに電話を発信できる『緊急SOS』機能が備わっています」
緊急SOSを発信するには、サイドボタンと音量ボタン(上下どちらでもOK)を同時に長押しすればOK。画面に表示された「緊急SOS」のスライダーを操作するか、そのままボタンを長押しし続けるか、どちらかの操作をすれば緊急SOSの画面が開くので、そこで発信先を選択しましょう。

また、緊急SOSは普段意識しない機能のため、これを機に関連の設定もチェックしておくのがいい、と井上さんは言います。
「『設定』アプリの『緊急SOS』の項目に集約されています。たとえば『サイドボタンで通報』がオンになっていれば、サイドボタンを5連続で押す操作で、素早く緊急SOSを実行できるようになります。
また、『ヘルスケア』アプリで、家族や親戚、友人などを緊急連絡先として登録しておくことも可能です。こちらの設定をしておくと、緊急SOSを発信した旨と、現在地情報が指定の連絡先に共有されるようになります」
なお、Apple Watchでも、通信環境が整っていれば、緊急SOS機能を利用できます。こちらは、より身につけている時間が長いため、自分の身を守るためには覚えておきたいところ。
「サイドボタン」(Digital Crownではない細長い方のボタン)を長押しすることで、同様の操作ができます。上位モデルの「Apple Watch Ultra」の場合は「アクションボタン」の長押しでも同様の挙動になります。

「こうした緊急SOSは、大規模な災害よりも、事故や病気の際により役立つことが期待できるものではありますが、操作を把握しておいて損はありません。
ポイントは、ロックを解除できない他人のiPhoneでも利用できること。万が一の際に、サッと扱えるよう、平時のうちに操作の流れをイメージしておくことが重要です。ただし、誤発信してしまうことはないよう気をつけてくださいね」
3.位置情報の共有の仕方を確認しておこう

外出先で被災した場合には、音声やテキストでの安否確認のほか、家族や友人などに現在地を伝えられるとより安心でき、行動計画も立てやすくなるでしょう。
「iPhoneには位置情報を共有するための複数の手段がありますが、いざというときに使えないのは困るので、家族同士でお互いにチェックしやすい方法を、予備を含めて、平時にいくつか確認しておくおのがベター。
具体的には、『メッセージ』アプリ内での位置情報の共有や、『探す』アプリでの位置情報の確認、あるいは『LINE』や各種SNS等での共有操作などが候補です」
たとえば、iOS標準の「メッセージ」アプリでは、チャットを開いた画面で「+」をタップし「位置情報」を選択することで、現在地や場所を指定した位置情報などを相手に共有できます。
連絡先がわかっている相手に対して、シンプルな操作で位置情報を共有できるので、何度か練習しておくと良いかもしれません。

4.伝言板サービスの候補も決めておこう

ただし、大規模な災害時には、電話やチャットが使える状態とは限りません。避難時にスマートフォンを紛失したり、破損したりしている可能性もあります。
万が一連絡が取れなくなる場合のことも想定して、「伝言板」の使い方も把握しておく方がいいと井上さんは付け加えます。
「被災地への通信が増加し、通話がつながりづらい状態などになると、災害用伝言ダイヤル(171)の提供が開始されます。『171』=『イナイ』で覚えておきましょう。
たとえば、伝言を残す場合には、固定電話または携帯電話から、この171に電話をかけ、自動音声に従って、『1』をプッシュ。相手の電話番号を入力し、30秒の音声メッセージを残すという流れです。
細かい使い方は、NTT東日本・西日本のWebページにて解説されているので、目を通しておきましょう。ちなみに、大手携帯キャリアが展開する伝言板アプリなども多数あるので、こちらも有事の際にどれを使うのか、家族で事前に打ち合わせしておくことが重要になります」

5.バッテリー管理の基本を覚えておこう
災害時の初期対応が終わり、もし充電手段が確保できていない場合には、スマートフォンなどのバッテリーを節約するのが大切です。この際のポイントが大きく2つあると、井上さんは言います。
「1つ目は、iPhoneの電源をオフにするか、使うとしても『低電力モード』に切り替えておくことです。複数の設定を手動で制御するよりも確実にバッテリーを節約できます。
2つ目は、Apple Watchを利用している場合には、その電源をオフにすることです。基本的には、Apple Watchとの接続によって、iPhoneのバッテリー消費は早まりやすくなりますので、細かい制御は考えず、iPhoneの電源を長持ちさせるように割り切るのがよいでしょう」

また、あらかじめ被災時に備えて充電手段を確保しておくことも重要だとのこと。当然、機器類の準備には、検討の時間も費用もかかるので、余裕があるときに考えておかなくてはいけません。
「家が無事な場合でも、普段使いのモバイルバッテリーだけでは、数日間以上の停電には対応しづらいと思われます。
スマートフォンの充電だけでなく、照明や、消費電力の小さい家電なども使用したい場合には、中容量以上のポータブル電源を確保しておき、できればさらに何かしらの発電手段も確保しておけると安心です」
「自動車がある家庭では、車のアクセサリーソケットの直流電流を、家電で使える交流電流(コンセントにプラグを指して使える状態)に変換できる『車載用インバータ』などを用意しておくとスマートフォンの充電やノートPCの使用くらいは対応しやすくなります」
いざというときに慌てて操作ができなくなるのはもちろん、事前に設定しておかないと必要なときに使えない機能もたくさん。毎年3月11日と、防災の日である9月1日には、設定と操作方法を確認するなどルーティン化し、災害に備えてはいかがでしょうか。
Profile
ガジェットライター / 井上 晃
スマートフォンやスマートウォッチ、タブレットを軸に、ICT機器やガジェット類、ITサービス、クリエイティブツールなどを取材。Webメディアや雑誌に、速報やレビュー、コラムなどを寄稿する。
撮影=鈴木翔子