気温が上がってくると、活動が活発化する虫たち。とくに6月ごろから、ゴキブリや蚊、コバエなど、やっかいな虫たちを家の中で見かけることが多くなっていきます。
そこで、ゴキブリとコバエを中心に、その生態や発生を防ぐ対策、意外と知らない害虫たちの生態など豆知識を紹介。「バルサン」で知られるレック株式会社の研究員であり、害虫の生態に詳しい亀崎宏樹さんに解説していただきました。
CONTENTS
最低気温が20℃を超えると要注意!
虫たちが活発になる時期って?
現在生息している多くの虫たちは、屋外で生活する種類。ゴキブリやコバエも、本来は屋外に住んでいるものが主で、家に入ってきてしまうほんの一部の種類が “害虫” と呼ばれています。
「屋外で暮らす多くの虫たちは、気温の上昇とともに活動を開始します。ゴキブリやコバエも種によって異なりますが、だいたい10℃を超えたくらいに眠りから覚め、最低気温・最高気温がどちらも20℃を超える頃には、より活動が活発化するのです。
ただし、なかにはハウスダストのダニやチャバネゴキブリなど、屋内だけに適応している虫もいます。これらの種類も暖かい季節に活動は活発になっていきますが、寒い季節も暖房を常につけているなど、家庭のライフスタイルによって発生パターンが異なるものもいるので注意が必要です」(亀崎宏樹さん、以下同)
まずは知っておきたい、
家に出るゴキブリの種類は?
対策にはまず、敵の正体を知ることから。まずはいつのまにか屋内に入り込んでいるゴキブリ。具体的な生態について、代表的な4種を解説していただきました。
■ クロゴキブリ
体長:23~35mm
生息地域:南日本
「一般家庭でよく見かけるのは、黒に近い暗い茶褐色をしたクロゴキブリ。ベランダや庭の植木鉢の下、ダンボールなどに潜伏し暖かくなると、繁殖のために家屋内に侵入してきます」
■ ワモンゴキブリ
体長:30~45mm
生息地域:沖縄・九州・本州の一部
「一番暖かいところにいるのが、ワモンゴキブリ。沖縄に行くと外を歩いているのは主にこの種類ですね。ワモンゴキブリは屋外性が高いのですが、家にも入ってきます。とにかく暖かい場所が大好きで、最近は大阪や東京のマンホールの下のなど、温かい水がながれているところでも多く見かけるようになっています」
■ ヤマトゴキブリ
体長:20~25mm
生息地域:東北・関東・北陸
「ヤマトゴキブリは、寒さに強いゴキブリで関東以北に住んでいます。小さいからだと高い屋外性が特徴。郊外の家によく出没するといわれています」
■ チャバネゴキブリ
体長:10~13mm
生息地域:全国(北海道~沖縄)
「チャバネゴキブリは他3種と異なり、一生を建物のなかで生活するのが特徴です。一般家庭よりも、ビルや飲食店などの建物に多く生息しています。これまで、ゴキブリがいないとされていた北海道に現れたのもこの種類。本来ゴキブリは寒さに弱いのですが、1年中暖かいビルや深夜まで営業している飲食店があれば、建物の余熱で冬が越せてしまうんです。暖かい建物があればどこへでも分布を広げることができるので、チャバネゴキブリの生息地域は全国区となりました」
観葉植物やバスルームも要注意!
家に出るコバエたちの生態
続いてはコバエ。ゴキブリはゴキブリ目という分類種類があるのに対し、コバエは「小さいハエ」のことを総称して呼んでいるもの。種類によって好みのにおいや発生場所や異なるので、それぞれの特徴を知っておくことも大切です。そのなかでも屋内でよく発生する種を紹介していただきました。
■ ショウジョウバエ
「生ごみの周りでよく見るショウジョウバエは、発酵した植物系のにおいに惹かれてやってくるコバエです。屋外から侵入し、ビールやウイスキー、よく熟成したスイカやメロンなどにも集まってきます」
■ ノミバエ
「ノミバエは動物系のにおいが大好き。過去に、大発生したコバエの発生源を調査したことがあるのですが、ノミバエが燻製系のイカやサラミなどの食品に集まってきていることがわかりました。動物の死骸などにも集まるので、ネズミやゴキブリの死骸が家のどこかにあったりすれば、それだけで大発生することがあります」
■ クロバエキノコバエ
「堆肥や観葉植物から発生する種類。室内に観葉植物を置いていたりすると、土に混入した卵が孵化して、クロバエキノコバエが室内で発生する可能性があります」
■ チョウバエ
「チョウバエは、トイレ、お風呂場、台所などの排水管の流れが滞りヘドロのようになってしまった場所に発生する種類です。お風呂や洗面台の排水溝で見かけるのも、このチョウバエですね」
わずかな隙間もすり抜ける!
その害虫、どこからやってくる?
屋内性の「チャバネゴキブリ」以外は、屋外から侵入してくる虫たちばかり。彼らはどこから家の中にやってくるのでしょうか?
「ドレインホースや排水管と壁の間、窓の隙間、排水溝など、少しの空間があれば入ってきます。例えばゴキブリは、横にした割り箸が入る場所であれば侵入してくる可能性があるといわれています。幼虫であれば、もっと小さな隙間でも侵入するので、隙間があるような場所は注意が必要です。
また、玄関やベランダの扉の開閉にも気を付けてください。洗濯物を夕方に取り入れているときにのんびり窓を開けたままにしておくだけで、サッと入ってきてしまいます。網戸は非常に有効なのですが、コバエのなかには残念ながら網戸を通り抜けてしまう小さな種もいるんですよ」
侵入させない、発生させない!
ゴキブリ・コバエ対策のポイント
では、具体的にゴキブリやコバエを侵入させない、発生させないためにはどうすればよいのでしょうか? そのポイントを亀崎さんに伺いました。
1.対策アイテムを使って、侵入経路を断つ
「まず大切なのが、侵入させないこと。ゴキブリの侵入経路の一つでもあるドレインホースの周りは、湿度が高く、乾燥を嫌う害虫たちの格好の潜伏場所となっています。侵入を防ぐ対策アイテムとして、防虫キャップなどの製品が販売されていますので、それらを用いるだけでも効果的です。
また、『チョウバエ』は、洗面台や浴室の排水溝が主な発生源。チョウバエが侵入しにくい機能を付けたヘアキャッチャーなども販売されていますので、そういったアイテムを上手に用いて侵入を防ぐことも重要です。
また、食べ物が保管している場所はやはり虫が出やすくなります。小さな隙間でも餌に引き寄せられて入ってしまうので、密封できる容器に入れる、冷蔵庫に入るものはできるだけ冷蔵庫に入れるなどの対策も大切だと思います」
2.コバエは発生源を見落とさず、こまめに清掃を
「コバエは網戸をすり抜ける種もいますので、侵入対策をするのは大変です。これらに関しては、発生源を作らない、見落とさないということが重要なのです」
おどろくべきはコバエの繁殖力です。
「コバエは発育期間が早く、約25℃の気温であれば、10日で卵から親に成長します。早く親になる上に1ヶ月ほど寿命があり、その間に産む卵の数は500個以上。ものすごい繫殖力を有しているんです。
つまり、侵入してきたコバエが放置されている生ごみに卵を産んだとしたら、2週間たたないうちに次の世代が生まれてしまうわけです。『家の中で大発生している!』と感じるのは、その次世代が生まれたとき。ですので、大繁殖してしまう前にごみや汚れを放置せず、『2週間以上気づかない』という状態をなくすことが大事なのです。とりわけ、それぞれのコバエが生息する場所や好きな臭いを発する場所は要注意です」
そのために必要なのは、やはりこまめな掃除。
「毎日は難しいと思いますが、気づいたときに『普段見ないところ』を見てみる、ということを心掛けてみてください。例えば、シンクの下。食品を置いていたりすれば、さまざまな虫が発生してしまいます。そういった場所をさっと見てみて、ほこりがたまっていたら定期的に掃いてあげるといいですね」
3.ゴキブリが好む「暗くて・狭くて・暖かいところ」は要チェック
「ゴキブリが好きなのは『暗くて、狭くて、暖かい』ところ。この3つの条件がそろった場所を探して、清潔にしておくといいと思います。ゴキブリはお互いのにおいで仲間を呼び寄せているので、集中していることが多いです。とくに、冷蔵庫の下、電子レンジの裏などは要注意ですね。
ゴキブリがいた場所には、フンが転がっていたりしますので、見つけたら早めにふき取り、待ち伏せ型のスプレー剤などを塗布しておくといいと思います。ちなみにゴキブリのフンは、種によって大きさも違いますし、コロッとしたフンをする個体もいれば、べちゃっとするフンをする個体もいるんです。一般家庭によく出るクロゴキブリであれば、1mmほどのコロッとしたフンやべちゃっとした汚れがあれば注意が必要です」
4.生態を知って、効果的な対策を
「虫たちの生態を知って、効果的な対策を取ることも重要なんです。例えば、ゴキブリを駆除しようと、対策アイテムとして毒えさ剤を使う人は多いですよね。ゴキブリは圧倒的に建物や部屋の隅を這う習性があります。ですので、毒えさ剤やトラップ剤も、部屋の端に置くのがベストです。ゴキブリが好きな『暗くて、狭くて、暖かいところ』や、見かけたところに置くというのもいいですね。
そしてみなさんには、勇気を出して仕掛けた毒餌剤の中をのぞいてみてほしいんです。置き場所に成功している毒餌剤は、中にある毒餌が食べられて噛み跡があるはず。毒餌剤を仕掛けた後もゴキブリを見かけるという場合には中を見て、置き場所が正しかったのかを調べていただけたらと思います」
1匹見たら家に100匹いる? 殺虫剤が効かない個体も?
ゴキブリについての気になる疑問
「ゴキブリを1匹見たら家に100匹はいる」「殺虫剤が効かないゴキブリもいる!」などの噂を聞いたことはありませんか? そうしたちょっと気になるゴキブリに関する素朴な疑問を、亀崎さんにぶつけてみました。
Q.ゴキブリを1匹見たら家に100匹はいる?
「ゴキブリの種類や見かけた時期、建物の環境によって大きく異なるので一概に正しいとは言えません。例えば、クロゴキブリが屋内に入ってくるような暖かい時期に見かけたのであれば、家にさっと入ってきた1匹を見かけただけで、何匹ものゴキブリが住んでいるというわけではないと思います。
そして、夜に見たのか、昼に見たのかにもよります。前述の通り、ゴキブリは夜行性なので昼にあまり現れません。にもかかわらず、昼間あふれ出るようにゴキブリを見かけるということであれば、夜になるとおぞましい光景が広がるかもしれない。例えば、繫殖力が高く、夜行性のチャバネゴキブリを、何も対策のされていないビルの中で昼間に1匹見かけたのであれば、100匹以上いるという可能性はあるかもしれませんね。つまり、環境条件によって異なる、というのが答えです」
Q.ゴキブリに洗剤は効く? 叩くと卵が飛び散って危険?
「殺虫剤には、『気門封鎖剤』という、昆虫の呼吸器官『気門』を防ぐことで駆除するものも一部にあります。洗剤もそれに似ていて、その気門を防ぐといわれています。しかし洗剤は食器を洗うものであって、害虫を退治する目的で作られていません。ですので、きちんと虫への対処を考えて作られた殺虫剤を使っていただきたいですね。
また、叩いて退治すると卵が飛び散るというのも、かなりのレアケースですが可能性はあるかもしれません。卵を産み付ける前のメス成虫は、2-30個体が連なる卵のさや(卵鞘)をおしりにくっつけています。その時におしりを叩いてしまうと、卵が飛び散るかもですが卵の殻は成虫より硬いですし、まれだと思います」
Q.殺虫剤に強くなっているゴキブリがいる⁉
「実際にそうした個体が確認されています。ただ、殺虫剤に対して抵抗性を顕著に持っているのは、屋内に住むチャバネゴキブリだけ。他の種も抵抗性を持ち合わせているかもしれませんが、大きな問題にはなっていません。チャバネゴキブリは体調が小さく、屋内、とりわけ飲食店に多く生息しています。飲食店の方は、以前からこまめに殺虫剤で処理しているので、チャバネゴキブリは殺虫剤の洗練を浴び続けてきたことも原因のひとつかもしれませんね。
ここで重要なのは、チャバネゴキブリの発育期間が短いということ。クロゴキブリなどの他のゴキブリは成虫になるまで2-3年かかるのに対し、チャバネゴキブリはなんと数か月で成虫へと成長してしまいます。発育期間が短い中で殺虫剤の洗礼を浴び続けていると、弱い個体は淘汰され、死にきれなかった個体が生き残る。生き残った個体が繁殖を続け、今では多くのチャバネゴキブリが殺虫剤の抵抗性を持つようになりました」
夏に要注意の害虫はほかにもたくさん!
話題の「トコジラミ」って?
気温上昇とともに、日本でさまざまな虫の活動が活発になります。だからこそ、ゴキブリやコバエ以外にも気を付けるべき虫は多い、と亀崎さん。その代表的な虫について教えていただきました。
■ 蚊
「やはり蚊は、病気を持つ可能性もあるので注意が必要ですね。2014年に、デング熱が70年ぶりに日本で国内発生したのですが、この現象はもっと増えてもおかしくないといわれています。
デング熱は『ヒトスジシマカ』や『ネッタイシマカ』というヤブカが媒介します。『ネッタイシマカ』は日本には常在しないのですが、日本の国際空港の周辺で見つかったという例があります。幸い、この種は日本の冬の寒さで死滅していると考えられていますが、地球温暖化で日本でも生息しやすくなる可能性もあります。また、たまたま温水が流れているところなどに住み着いて越冬してしまうとすると、よりデング熱の発症率は上がってしまうのではないかと考えられています。ですので、蚊に対する備えは大切ですね」
■ トコジラミ(ナンキンムシ)
「最近ニュースやSNSでも話題となった『トコジラミ』。実は2000年くらいから問題となっており、旅行者のカバンやもの、人についてやって来る害虫です。よく『ホテルで刺された』という話を聞きますが、ホテルのレベルに関わらず、刺される可能性はあると思います。病気を媒介することはありませんが、噛まれると強いかゆみを伴いますので要注意です。
何より問題なのは、トコジラミが殺虫剤にとてつもない抵抗性を持っているということ。現在ほとんどの殺虫剤に使われている『ピレスロイド系』という薬剤が効かないため、“薬が効かない害虫”と言ってしまっても過言ではないでしょうね。
しかし、トコジラミに有効な成分系統もあります。例えば『プロポクスル』という成分は、トコジラミにも効く系統だといわれています。つまり、正しく言うとトコジラミは『非常に強いピレスロイド耐性を持っている』ということ。約2万倍の抵抗性を持っている個体群も確認されており、そのようなトコジラミには、極端に言うとピレスロイド系殺虫剤の原液をかけても駆除できない、やっかいな害虫です」
「生態を理解し、発生源を断つこと」が本当の害虫対策
「ゴキブリもコバエも同じですが、本当に大切な対策は『発生源を断つこと』です。
害虫を見かけたとき、みなさんはスプレー剤をかけて退治するでしょう。ところが、それは見かけた個体を退治するだけで、発生源を断ってはいないのです。だからこそ、こまめな掃除はもちろんのこと、害虫の生態をきちんと理解し、待ち伏せ型のスプレー剤やくん煙剤、毒えさ剤など有効な手段を用いて発生させない、侵入させないということを念頭に対処するようにしてください」
Profile
獣医学博士・レック株式会社研究開発部 / 亀崎宏樹
レック株式会社研究開発部で「バルサン」などの製品開発を担当している、通称「虫博士」。学生時代には農業害虫の生態を研究。以来30年以上、害虫の生態や駆除剤の研究に携わる。学会で研究成果を報告するほか、大学での講演や一般向けの害虫対策講座なども行っている。
取材・文=室井美優(Playce)