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家をもたない暮らしから、多拠点居住へ。“旅”とともに
生きていくための家探し -前編-

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生き方にこだわる人、こだわりのある暮らしをしている人。そんな人にスポットをあて、こだわりを貫くために住まう家とはどのような場所なのか、それぞれにとっての「家」の存在を紐解いていきます。

 

世界中を旅しながら、好きな文章を書いて暮らす。物書きや旅行好きなら誰もが一度は夢見てしまう、そんな生き方を約2年間にわたって実践している女性がいます。

「これからの暮らしを考えるウェブメディア」として2015年に生まれた「灯台もと暮らし」の編集長であり、ライターやフォトグラファーとしても活動する伊佐知美さん。彼女は2016年4月から現在にいたるまで、ライターとして文章を書きながら世界約40カ国100都市と国内を旅し、“家をもたない暮らし”を続けてきました。いまなお、その旅を継続中の彼女ですが、最近になって、東京に「家」という拠点を持つべく物件探しを始めたのだとか。

幼い頃からの夢だった、街から街へと気ままに旅する日々を愛してきた彼女が、なぜいまあらためて、「家」を持とうと思ったのか。世界中でAirbnb(宿泊施設や民泊のシェアサービス)などを利用し、多種多様な住居に触れてきた彼女が描く、理想の住まいの姿とは……? 物件探し中の現在から、実際に契約して暮らしをスタートさせるまで、前・後編にわたってインタビューをお届けします。

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↑今回の主役、編集者でありライター、フォトグラファーでもある伊佐知美さん。オーストラリア・バイロンベイのビーチにて

 

タワマンに憧れていた女性が
スーツケースひとつで旅に出るまで

両親が転勤族で、小学生のときに初めて転校した場所が上海。その後は地元・新潟を転々と。そんな原体験から、旅や異文化への関心を持つようになった伊佐さん。本好きだったこともあり、その関心はいつしか「文章を書きながら世界中を旅する」という夢へと繋がっていったそうです。実際に29歳のとき、現在勤めている会社「Wasei」でその夢を叶えた彼女ですが、実はほんの数年前までは、本当に「普通の暮らし」をしていたのだとか。

「国公立の大学に通い、出版社に就職したかったけれど、面接は全滅。たまたまご縁があった金融系の会社で総合職に就き、24歳のときに一度結婚をしました。それまでも、旅や書くことへの憧れはずっとあったけれど、バックパッカーになる度胸があるわけでもなく、がんばって年に2~3回海外旅行に行くくらい。豪華なタワーマンションに暮らすことに憧れていた、わりとミーハーな人だったと思います。でも、結婚を機に仕事を辞めて、これからの生き方を考えていた冬のある日、エアコンが動くのを見ながら『こうやって“生産”もせず、ただただお金を消費している自分の人生ってなんだろう?』と疑問を持ってしまったんですよね。『私って何のために生きてるんだろう?』って(笑)」

やっぱり前向きに生産したい、できることなら文章に携わる仕事がしたい。あらためてそう思った伊佐さんが見つけたのは、大手出版社のアシスタント職でした。しかし、やはりライター未経験者が突然大手出版社のライターになれるはずもなく、彼女はあるときTwitterで流れてきた、新しいウェブメディアのライター募集ツイートを見つけて応募。社外で兼業ライターとして活動をスタートさせます。

「始めたころは、記事1本のギャランティが500円。それが半年後には1万円、そして2万円になり、ウェブだけではなく、雑誌の仕事もいただけるようになっていました。 この仕事を海外にスライドできたら、世界一周の旅が実現できるかも……そんなことを考え始めた矢先に、今所属している株式会社Waseiの代表に、『新しく立ち上げるウェブメディアの編集長をやってみないか』と声をかけてもらいました。結果、立ち上げから一緒にやれることに」

とはいえ当時から「“いずれ旅に出る”という選択肢も捨てきれてはいなかった」という伊佐さん。それでも編集長になることを選んだ理由は、自分が信頼する仲間らとメディアを立ち上げるという経験と、その時間がとても魅力的に映ったから。

「今思えば、20代後半は、やっぱり子供がほしいなぁという気持ちもあって、それが旅に出ることをためらっていた理由でもあった気がします。まぁでも結局のところ、私はやっぱり長い旅に出てみたかったんです。それも20代の、若い感性があるうちに。

だから、非常識だなとは思いつつも、その気持ちが消えないので『旅に出たいです』と、ほどなくして家族や仕事仲間に相談しました。普通は反対されたりすると思うのですが、元夫(後に離婚しちゃったんですけれど!)は大学時代の同級生で、学生の頃から「書き物をしながら旅がしたい」と夢を語っていた私を知っていたので、やさしく『行ってきな』と言ってくれました。仕事仲間にいたってはむしろ『やっと行くんですね!』と背中を押してくれて…… 本当にありがたいですよね。

そして仕事や身の回りを整理して、よし旅に行くぞ! と準備ができた頃、書籍『移住女子』の執筆依頼や、世界一周の連載依頼をいただきました。『灯台もと暮らし』編集長も続投させてもらえることが決まっていたので、結果としてですが、晴れて『海外を旅しながら書き仕事をする』状態が整いました」

↑『移住女子』(新潮社/1404円)都会ならではの息苦しさから解放されるべく、地方へ移住し、そこで自分らしくのびのびと生きる、8人の女性たちのルポ
↑『移住女子』(新潮社/1404円)都会ならではの息苦しさから解放されるべく、地方へ移住し、そこで自分らしくのびのびと生きる、8人の女性たちのルポ

29歳のとき、ついに叶った幼い頃からの夢。旅立ちは2016年4月のことでした。

「旅中はもちろん家なし。寝泊まりは、民泊サービスの『Airbnb』が7割。あとはゲストハウスやホテル、現地知人の家などがメイン。けれど、旅立つ当初に設定した『世界一周は8か月間!』という期間もいつしか延び延びになり、『帰国しました宣言』をしないまま今に至ってしまっています(笑)。だから実は、もうかれこれ2年ほど固定の住居がありません」

↑ベトナム・ホイアンにて
↑ベトナム・ホイアンにて
↑白亜の大理石で築かれたシェイクザイード・モスク(アラブ首長国連邦)
↑白亜の大理石で築かれたシェイクザイード・モスク(アラブ首長国連邦)

 

では、意気揚々と念願の海外へ出かけた伊佐さんが、“固定の住居がない”毎日に感じたこととは? 次のページで詳しくうかがっていきます。