今、日本酒を取り巻く環境が大きく変わってきています。男性よりも女性ファンが急増し、若い造り手が人気銘柄を世に送り出し、こだわりの地酒を揃える飲食店は和食だけでなくフレンチやイタリアンにも波及。日本酒はオヤジくさい、ダサい、二日酔いする…というネガティブなイメージは、すっかり過去のものになりました。
今回は、「今、女性に提案したい日本酒の楽しみ方」をテーマに対談を企画。新時代を迎えた日本酒をフラットな視点で取材し、ライフワークとして日本酒を楽しむ浅井直子さんが対談相手に指名したのは、西麻布の人気店「角屋」の若き店主・友寄樹さん。日本酒って難しい? 敷居が高い? なんて思っている女性にお届けしたい、酒場対談です。
――そもそも女性と男性では、日本酒の楽しみ方に違いはあるものでしょうか?
浅井:日本酒の楽しみ方の違いではありませんが、男性は20代や30代に関わらずどの世代も10年前よりもお酒を飲まなくなっているというデータが出ているんです。でも女性は違って、40代だけお酒を飲む人が10年前より突出して増えているんですね。自分の周りにいる女性を見渡してもそれは実感しますし、よく飲む女性が増えていますよね。そんな時代なので、女性が新たな日本酒のスタイルを作っていく可能性は高いんじゃないかなぁ。
友寄:女性は冒険心が強いですよね。例えば「それ飲んでみたい」という発想が女性。「これが飲みたい」というのが男性的な発想なのかなと思いますね。日本酒に対して固定概念を持たず、辛口とか甘口とか銘柄ではなく、その日のシチュエーションで自由に楽しむことを自然にできる人が、女性には多いと思います。
浅井:私も、このお店なら何を出してくれるかなって、期待感を持って飲みに行くことが多いですね。お店側の提案を楽しみたいというか、お店に委ねる楽しさもありますから。
――お客さんから「日本酒のセレクトはお任せします」と言われたら、どう提案していますか?
友寄:今日はどんなお料理が食べたいのか、まずそこをうかがいます。やっぱり日本酒は料理と一緒に、その瞬間の気分と劇場型のお店の雰囲気を楽しんで欲しいので。
浅井:私が角屋さんにお邪魔したときは、いつも「本日の盛り合わせ」を最初に頼みます。今日の盛り合わせも、お肉も野菜もあって、甘と酸、食感の違いも楽しめる。とてもバランスがいいんです。だから、とりあえずこれを頼んでおいて、ゆっくり次を考えるという感じ。最近は気のきいた前菜の盛り合わせを出してくれるお店が多いですからね。
――初めの一杯の日本酒には、何を提案しますか?
友寄:お料理と一緒にどっぷり味わいたいなら「群馬泉 山廃もと 本醸造」、この後もお料理やお酒を楽しみたいなら「龍力 純米酒 ドラゴン緑」、スターターとしては包容力のある「勝駒 純米酒」もおすすめですね。スターターのお酒って、自分の気持ちを作るものだと思うんです。まず一杯目は軽めに楽しみたいという方には、香りがあってしゅわっとガス感のあるお酒も提案しています。今日なら「澤屋まつもと 純米吟醸しぼりたて」とか。
――浅井さんはスターターの定番酒って何かあるんですか?
浅井:レモンサワー(笑)。まずチェイサー代わりに頼んで、とりあず泡(炭酸系)でのどを潤す。シャンパンと同じ発想ですね。ごくごく飲みたいので。あと、泡を飲むとスイッチが入りますよね。
――では、レモンサワーの次に飲みたい日本酒は?
浅井:今は搾りたてのお酒が飲める季節なので、今日のラインナップだと「鶴齢 純米酒生原酒 しぼりたて」や「AKABU F NEWBORN」に目が行きますね。やっぱり搾りたてのフレッシュなお酒は、飲み初めのほうにいただきたい。「AKABU」(赤武酒造)は個人的にも注目しているお蔵さんで、杜氏さんも若いですし、蔵人さんの平均年齢が20代というのも応援したくなるなぁと。それでいて味わい的には落ち着いているところも面白くて。
――浅井さんは日本酒初心者の女性に対して、どんな提案をしています?
浅井:「白ワインみたいな日本酒もあるよと言って、酸の高いお酒を提案したりしますね。「醍醐のしずく」や「鷹長」は、日本酒を飲み慣れている人もおっ!と思う酸があるので。酒質で言ったら、あとはガス感ですね。「新政 天蛙(アマガエル)」とか「風の森」とか。やっぱり女性はしゅわしゅわしているお酒が好きなので。
友寄:最近はそういったガス感を残したお酒が多いですよね。
浅井:でも、ずっと飲み続けられるお酒かというと、ちょっと違うのかなって。
友寄:スターター向きなお酒ですよね。
浅井:女性って冷え性の人も多いから、最初は冷たいお酒からスタートして、暖まりたくなったらお燗をチョイスする人も多いですね。女性同士で飲んでいると、だいたい話が止まらなくなるじゃないですか。喋りに集中しちゃって何飲んでてもいいってモードに突入したときは、「白陰正宗」や「肥前蔵心」みたいな、ゆるゆるダラダラ飲めるお燗がおすすめ。冷めてもおいしいし、何も気にしないで飲めるお燗は女子トークに向いてると思うんです。それって、おじさんと同じ考え方?(笑)
友寄:いや、むしろそれが今の女性らしい飲み方のような気がします。あまり頭で考えずに、楽しんで飲むのが一番ですからね。このお酒おいしい! それで十分。日本酒には純米酒とか本醸造とか特定名称酒という区分けもありますけど、そういった蘊蓄を頭に叩き込むよりも、まずはお酒をシンプルに楽しんで欲しいですね。知識は後から勝手についてきますから。
――自分の好みの酒質と出会うコツってありますか?
浅井:好みって、人それぞれですからね。まずは、飲んでみたいと思う理由探しだと思います。女性って、何に心が動くかが重要じゃないですか。それがラベルでもいいですし、若い人が造っているというストーリーでも、搾りたてのように今だけの味を楽しむというアプローチでもいい。ミーハーかもしれませんけど、蔵元がイケメンだからって理由でもいいと思うんです(笑)
――ちなみに、女子ウケのいい蔵元って?
友寄:「寫楽」の宮森義弘さんですかね。男前ですし、酒質としても蔵のストーリー的にも。
浅井:会津弁が抜けないところもいいですよね。「山和」の伊藤大祐さんは九頭身くらいに見える小顔でおしゃれさん。あと、鉄板ですが「新政」の佐藤祐輔さん。
――このお酒を飲んでみたいと思う理由は、何でもいいってことですね?
浅井:私はそう思います。自分の地元のお酒を飲んでみるという選択肢もあり。私が日本酒にハマったのも、「醸し人九平次」を飲んでからなので。愛知県出身なのに、地元にこんな素晴らしいお酒があったんだって感動して。実は自分の地元に酒蔵があることを知らない人って、けっこう多いんですよね。だから、地元の酒蔵を入り口に日本酒を知るのも、ひとつのきっかけ。今は造りの時期なので機会は減りますけど、酒造りが終わる4月~9月は蔵元さんと触れ合う機会がたくさんありますからね。日本酒イベントは全国で頻繁に行なわれていますし、角屋さんでも定期的に蔵元イベントをやっていますよね?
友寄:はい。佐賀の「七田」さんや福岡の「三井の寿」さんは、イベントじゃなくても普通に来てカウンターで飲んでますけど(笑)。そういったシチュエーションで蔵元と話ができると、お酒がより身近に感じますよね。
――いい店を選ぶコツって、何だと思いますか?
浅井:一番のポイントは、働いている人が楽しそうなお店。角屋さんもそうですけど、東京なら「GEM by moto」(恵比寿)、「青二才」(阿佐ヶ谷)、「Umebachee」(渋谷)とか。店員さんのグルーブがお客さんに伝播して、居心地の良さを作っているんですよね。実際、緊張感なく楽しめて、面倒なお客さんがいないお店には、女性客が多いと思います。
――最後に改めて「今、女性に提案したい日本酒の楽しみ方」とは?
友寄:気分で楽しむこと。日本酒は懐が深いお酒なので、女性らしく気の向くままに楽しんで欲しいです。今その瞬間、飲みたいものを飲む。そこが現代の女性らしい日本酒の楽しみ方なのかなと思います。
浅井:日本酒にも低アル(低アルコール酒)傾向はありますけど、必ずしもアルコール度数が高いことが悪だとは思っていません。アルコール度数が高いと、気持ちがほぐれる時間が早い。たまたま席が隣だった人と仲良くなれたり、そこから違う世界が広がると思うんです。連絡先を交換して、また違うお店に行ったり、一緒に酒蔵の見学に行ったり……。日本酒で繋がった縁がきっかけで、もっと日本を知れて、今まで知らなかった世界が見れるという楽しさも、女性にはお伝えしたいですね。あと、日本酒を飲むときは、お水も忘れずに。これ、すごく大切です!
取材協力:西麻布 角屋
住)東京都港区西麻布4-2-15
TEL)03-6427-5771
営)17:00~3:00(フードL.O.2:00/ドリンクL.O.2:30)
休)日祝
◎カウンター13名程、テーブル2卓×2席
◎喫煙可
◎カード可
◎予約可
聞き手・文=馬渕信彦 写真=三木匡宏