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大事なワインを、どう保管すればいい?“保管”のスぺシャリストが教える
ワイン熟成の奥深い世界

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お祝いや旅先の思い出に、ちょっと奮発して買った大事なワインを、どう保管すればいいのでしょうか?

ボジョレー・ヌーボーなどフレッシュな新酒のような例外もありますが、5〜10年、それ以上と、じっくり熟成されたワインを味わうのはワインラバーにとって格別の楽しみでしょう。“若い”うちはまだ酸味や渋味が強いものの、長期熟成によって味わいはまろやかになり、香りはふくよかでさまざまなニュアンスを含んで、“ブーケ”と呼ばれる特有の香りが引き立つように。“ドライフルーツ”や“なめし皮”といった独特の表現が用いられる、複雑な香りに変化していくのです。

保管する環境には、一定の条件が必要です。

ワインが美味しく熟成する条件

・温度:13℃~15℃の低温で温度変化が少ないこと
・湿度:60%~80%程度
・日光:紫外線によってワインは劣化するため、暗所であること
・振動:ボトル内の空気がワインと触れると過度な酸化が促進されるため、振動が少ないこと

ワインを熟成させるためには、冷蔵庫に放り込んでおくだけ、はたまた常温で安置しておくなんて、もってのほかというわけです。最近は、ワインを飲む・買うだけでなく、こうした“保管する”ことにも目を向ける人が増えています。家庭用ワインセラーのラインナップが充実してきているほか、建設途中で使われなくなった鉄道のトンネルを改造したセラーが話題になるなど、選択肢も多様。なかでも、もっとも安心で確実な選択肢が、保管のプロに“預ける”という方法ではないでしょうか。

東京・品川区の天王洲で倉庫業を母体としながら、その枠を超えたビジネスを幅広く展開する寺田倉庫でも、ワインに特化した保管・管理を行っています。大事なワインを箱単位で預かるサービスはほかにも存在しますが、寺田倉庫のワイン保管サービスは、プライベートラウンジを併設していたり、箱から出して1本1本撮影し、最適な環境で預かってくれたりと、目的によって多様な利用方法があることが特徴。

今回、ふだんはサービスの利用者とスタッフ以外は立ち入ることができないセラールームへ、特別に足を踏み入れました。寺田倉庫が提供する、一歩先行くワイン保管サービスとは?

今回取材した寺田倉庫の、創業当初(1950年代)の様子。今年創業から70周年を迎えます。
今回取材した寺田倉庫の、創業当初(1950年代)の様子。今年創業から70周年を迎えます。

ベストな環境で熟成させるワイン管理のプロ

2020年で創業70周年を迎える寺田倉庫。企業理念に「余白創造」を掲げ、1975年からは美術品をはじめとする文化的資産の保管業を開始するなど、独自の発展を遂げてきました。そのひとつが、1994年にスタートしたワインセラー事業です。

同社の“ワインセラー”について、同社プレミアムストレージグループ、運営チームのソムリエである、安田海(かい)さんが教えてくれました。

安田さんは麻布十番のフレンチ「Craft WINE N」でソムリエ兼フロアマネージャーとして勤務したのち、2018年に寺田倉庫へ。現在はセラーのクライアント業務、ワインのデータ管理のアドバイザーなどワイン業務をメインに活躍しています。
安田さんは麻布十番のフレンチ「Craft WINE N」でソムリエ兼フロアマネージャーとして勤務したのち、2018年に寺田倉庫へ。現在はセラーのクライアント業務、ワインのデータ管理のアドバイザーなどワイン業務をメインに活躍しています。

「東京に3拠点、神奈川に1拠点の合計4カ所でレンタルワインセラーを運営しており、ロッカー、キャビネット、ウォークインの3タイプを用意しています。全室をワインの管理に最適な温度、湿度、照度に設定しており、特にプレミアムウォークインタイプでは500本以上を収納できる上、お客様の好みに温度を設定できるという特徴をもっているんですよ」(安田さん)

ワインセラーは、保管したい本数や保管方法に合わせて3種類から選べます。写真は、上からウォークインタイプ、キャビネットタイプ。ロッカータイプでも、木箱やマグナムサイズを収容可能です。
ワインセラーは、保管したい本数や保管方法に合わせて3種類から選べます。写真は、上からウォークインタイプ、キャビネットタイプ。ロッカータイプでも、木箱やマグナムサイズを収容可能です。
庫内にずらりと並ぶワイン。内部は、ワインを育てる温湿度、14±1℃・70±10%に保たれています。写真はウォークインタイプ。
庫内にずらりと並ぶワイン。内部は、ワインを育てる温湿度、14±1℃・70±10%に保たれています。写真はウォークインタイプ。

利便性は高く、ワインの購入先から直接寺田倉庫のセラーに送り、同社のスタッフに受け取っておいてもらうという使い方も。もちろん耐震設備や管理体制は徹底されており、天王洲のセラーはスタッフによる対面サービス付き。他の3拠点も万全のセキュリティで大切なワインが厳重に守られており、こちらでは24時間365日の入退出が可能となっています。

天王洲のセラーでは「TERRADA WINE STORAGE PREMIUM」という最上級のサービスを提供。なんと、セラー内部にバーカウンターやソファなどを配したラウンジスペースを併設しており、自身が預けた大事なワインを取り出してすぐに楽しめるのです。(事前予約制)
天王洲のセラーでは「TERRADA WINE STORAGE PREMIUM」という最上級のサービスを提供。なんと、セラー内部にバーカウンターやソファなどを配したラウンジスペースを併設しており、自身が預けた大事なワインを取り出してすぐに楽しめるのです。(事前予約制)
利用者が、ワイン仲間とともに自分のコレクションを楽しむための設備として重宝されているといいます。
利用者が、ワイン仲間とともに自分のコレクションを楽しむための設備として重宝されているといいます。

あえてタブーに踏み込んで生まれたサービス

寺田倉庫は2012年に、小物用の宅配型トランクルームという画期的なサービス「minikura」をスタートさせました。こちらは、利用者から預かった箱の中身を一品ずつ撮影し、利用者はウェブ上で管理できる、というのが最大の特徴。この手法をワインに応用したのが、「TERRADA WINE STORAGE ONLINE」です。

こちらは同社プレミアムストレージグループ、企画チームのサブリーダーを務める林愁人(しゅうと)さんが教えてくれました。

林さんは2010年に入社し、2017年から現部署へ。ソムリエの資格ももち、現在は「TERRADA WINE MARKET」(後述)がメイン業務。
林さんは2010年に入社し、2017年から現部署へ。ソムリエの資格ももち、現在は「TERRADA WINE MARKET」(後述)がメイン業務。

「2013年にオンラインのワインストレージ事業が立ち上がり、2017年に名称が『TERRADA WINE STORAGE』に。現在は、撮影はもちろんのこと、銘柄、ヴィンテージ、生産者といった情報も入力されますので、ワインを倉庫にお送りいただければ自動的にワインリストができ上がるシステムとなっています」(林さん)

管理画面のサンプル。こちらも、ワインの熟成に適した14℃(±1℃)と湿度70%(±10%)で徹底管理されます。
管理画面のサンプル。こちらも、ワインの熟成に適した14℃(±1℃)と湿度70%(±10%)で徹底管理されます。
スマートフォンからも管理が可能。いつでもどこでも確認と取出し・預け入れが行えます。
スマートフォンからも管理が可能。いつでもどこでも確認と取出し・預け入れが行えます。

他社でもワインを預かるサービスはあるものの、それは1本1本ではなく箱単位での管理。なぜなら、センシティブな情報である箱の中身に触れることは、業界的にタブーとされているからです。その領域に、あえて踏み込んだのは、美術品や貴重品の保管業に従事し、展覧会まで行う寺田倉庫のイノベーティブな精神ゆえかもしれません。月額保管料90円(税別)で、1本から預けられるサービスとして重宝されています。

「たとえば、ご自宅にセラーをもつほどではないものの、記念日やお子様の誕生年などに、1本だけ特別なワインをご購入した方。一方で、1000本以上のワインを所持している方などには、ご自身のコレクションをウェブ上でいつでも閲覧、管理できるサービスとして、メリットを感じていただいています」(林さん)

 

大事に保管したくなるワインを手に入れるには?

こうしてワインの保管やオンラインでの管理業務を経た寺田倉庫が、2019年から新たに始めたのが「TERRADA WINE MARKET」。ワインに特化したECサイトです。

「TERRADA WINE MARKET」のTOP画面。サイト内では「酸味」「甘味」「ボディ」といった好みの味や、生産地などで検索ができます。
「TERRADA WINE MARKET」のTOP画面。サイト内では「酸味」「甘味」「ボディ」といった好みの味や、生産地などで検索ができます。

「厳選されたインポーターと酒販店のワインが販売されており、1本3000円程のワインからコレクター垂涎のオールドヴィンテージまで、幅広い価格帯で取り揃えています。そしてこれらの商品を、クリックひとつで『TERRADA WINE STORAGE ONLINE』にそのまま預けることも可能です」(林さん)

購入から保管、管理までをワンストップで行えるのが強み。とくに、最適な環境で熟成させたワインを飲みごろのときに楽しめるというのが、同社ならではの魅力です。

そのシステムを最大限に楽しめるのが、ボルドープリムールの特別販売とのこと。プリムールとは?

「プリムールとは、樽熟成途中のワインを予約購入できる、フランス・ボルドー地方特有の販売方法です。ワインは通常、生産者からインポーター、卸業者、小売店など複数の流通経路をたどりますが、プリムールは生産者から消費者までを最短ルートで届けることができるのです」(林さん)

熟成によって味わい深くなり、年月によって希少価値すら高まるのがワインというお酒。それもあって、プリムールは投資目的で売買されることも多いカテゴリーです。とはいえそもそも流通経路が短いため、最高のコンディションを保持した状態のワインを入手できる販売方法として知られています。

ボルドープリムールの特集ページ。とくに2018年の収穫量は少ないものの、極めて高品質なぶどうが実り、グレート・ヴィンテージとされるそう。
ボルドープリムールの特集ページ。とくに2018年の収穫量は少ないものの、極めて高品質なぶどうが実り、グレート・ヴィンテージとされるそう。

「特にボルドーは長期熟成向けのワインが多く、5年10年とセラーで寝かせることで、熟成の醍醐味を楽しめるのが魅力です。今回、フランスの老舗ワイン商であるルグラン社と、日本におけるワインインポーターのパイオニアである徳岡社の協力によって希少なボルドープリムールの企画が実現しました。実際のワインが届くのは2~3年後ですが、時の経過を含めて楽しんでいただけたらと思います」(林さん)

 

セラーがない場合は冷蔵庫の野菜室へ

最後は、よりベーシックな質問を投げてみました。冒頭でもふれましたが、ワインをおいしく熟成させることにとって大切なのが、温度、湿度、照度。自宅ではワインセラーを活用することが最適解ですが、所有していない場合はどう保管するのがベターなのでしょうか? 安田さんが教えてくれました。

「劣化を防ぐために常温は避けるべきです。また、光にも弱いので明るい場所も避けましょう。とくに直射日光は絶対NGです。もしご自宅のセラー以外で保管する場合は、冷蔵庫のなかでも温度が低すぎない野菜室がいいでしょうね。また、コルク栓タイプの場合は乾燥しないよう、ボトルを寝かせて保管することを推奨します。ただ、スクリューキャップの場合は立てていても問題ありません」(安田さん)

よりおいしく飲むためには、グラスも重要。リーデルなどのブランドでは、ワインの品種や味わいに合わせたグラスが多彩にラインナップされています。
よりおいしく飲むためには、グラスも重要。リーデルなどのブランドでは、ワインの品種や味わいに合わせたグラスが多彩にラインナップされています。

温度が低すぎると、熟成が進まないというデメリットがあると安田さん。そのため野菜室なのだとか。ただ冷蔵庫は食材の出し入れがあるため、そのたびに微妙な温度変化が起きてしまうという懸念点も。また、開け閉めによる振動もあるため、やはりなるべくワインセラーを用意したほうがいいとのことです。

 

同社の宅配収納サービス「minikura」から展開が広がった、「TERRADA WINE STORAGE ONLINE」や「TERRADA WINE MARKET」。今後の進化にも意欲的で、たとえばレビュー機能を設けたりラッピングサービスを追加したりと、アップデートを模索しているとか。まずは記念ワイン1本の管理から、始めてみてもいいかもしれません。

 

取材・文=中山秀明、@Living編集部 撮影=我妻慶一