スーパーや百貨店で、さまざまな品種の柑橘(かんきつ)を見かけるようになりました。糖度が高いものやブランド化されたもの、贈答用の高級みかんなど、新品種の開発も各地で進んでいます。柑橘の生産がさかんな愛媛県では、2020年の冬に人気の品種「紅まどんな(ベニマドンナ)」と「甘平(カンペイ)」を掛け合わせた「紅プリンセス」という品種の栽培が本格的に始まりました。
今回は豊富な柑橘類のなかでもとくに注目の品種を紹介。解説してくれるのは、愛媛県・宇和島でニノファームを営み、2020年に「柑橘ソムリエ」という新しい資格を誕生させた二宮新治さんです。
「柑橘類」はいったい何種類ある?
日本国内には、柑橘がおよそ90種類も存在します。ただしこれは、「レモン」「温州みかん(うんしゅうみかん)」などと単純に種類を分けただけの数。「温州みかん」のなかにも、早生(わせ)品種や晩生(おくせ)品種があったり、「レモン」であれば、マイヤーやリスボンなどがあったりと、細分化すると数百種類はあるといいます。
「私でも見たことのないもの、食べたことのない種類の柑橘も存在するくらい、日本の柑橘の種類は豊富です。国内では、北海道や東北をのぞいてほとんどの場所で栽培されていますから、その土地それぞれに品種があります」(ニノファーム・二宮新治さん、以下同)
温州みかんだけでも80万トンの収穫量!
柑橘のなかで、やはりもっとも収穫量が多いのは温州みかん。温州みかんだけでも100種類以上が存在し、全国で毎年およそ80万トンもの収穫があります。
「皮が柔らかくて手でむきやすく、寒い季節の風物詩でもあるみかんは、甘みと酸味のバランスがちょうどよく、食べやすいのが特徴。比較的安価で、年齢を問わず愛されています。収穫期も長く、だいたい9月頃から極早生(ごくわせ)温州という種類が出回り、早生温州、中生温州、普通温州と続いて、2月頃まで旬を楽しめます」
場所を選ばない強い木だから、育てるのが簡単
これほどまでに柑橘の種類が豊富で全国区で栽培されている背景には、“育てやすさ”があるといいます。柑橘は病気や害虫にも強く、庭木や家庭菜園で育てるのも比較的手間のかからない果樹なのです。
「現在、柑橘の収穫量が多いのは和歌山県と愛媛県です。階段状の段々畑で栽培されている様子を見たことがあるでしょうか。柑橘は温暖な地域のほとんどで作ることができますが、このような特殊な環境では米や野菜を作るのが難しく、もっとも作りやすい柑橘に力を注いだ結果、和歌山や愛媛が名産地となった、という経緯があるんです。畑が斜面になっているので農作業は非常に大変ですが、水捌けがよいのも特徴です。水分量が少ない土で育てると、糖度の高いみかんができるので、おいしい柑橘を作るのに適していたんですね」
今求められている「おいしい柑橘」とは?
柑橘の新しい品種は、それぞれの土地で独自に開発されています。近年話題になっている「不知火」(しらぬい/デコポン)や「せとか」などの柑橘は、ほとんどが人工的に開発した品種です。2023年で記憶に新しい品種といえば、熊本県の「ゆうばれ」でしょう。これは2023年の1月に発表されたもので、熊本県ではなんと32年ぶりの商標登録品種となりました。皮が薄くて果肉がジューシーな品種なのだそう。
「最近の傾向としては、きれいなオレンジ色をしていてみかんよりも一回り大きく、タネがなく手で皮がむけるくらいに柔らかいもの、さらに酸味よりも甘みのあるもの、という条件が人気の秘訣なんですよ」
また、二宮さんが鹿児島県へ行った際に知ったというブランドみかん「大将季(だいまさき)」は、不知火から突然変異で生まれたそうで、不知火らしいヘタが盛り上がった形と、酸味が少ないのが特徴です。やや収穫時期が早いため、旬は2月頃までとのことですが、来年は探してみたいものですね。
愛媛県でも、2022年の冬に商標登録名が決まった「紅プリンセス」という新品種が誕生しています。
「これは、ぷるぷるの果肉で人気の『紅まどんな』と、糖度が高くて濃厚な甘さの『甘平』をかけあわせたもの。そのままでもスイーツを食べたような満足感のある甘みです。まだ市場に出回るのは先になりますが、こちらも楽しみにしていてください」
人気品種は「不知火」「せとか」
そんなさまざまな品種の中でもロングセラーとなっていて、人気が絶えないのが「不知火」です。
「不知火は、近年人気のある品種です。『清見オレンジ』と『ポンカン』をかけ合わせた品種で、熊本県が『デコポン』の名で商標登録をしたことで人気が高まりました。果肉がしっかりして大きく、手でむくことができ、タネがなくジューシーで甘みが強いとあって、多くの方に愛されています」
ちなみにもうひとつの人気品種が「せとか」。こちらは2001年に発売された品種ですが、スーパーでよく見かけるようになったのはここ10年ほどのこと。糖度が13〜14度と高めで甘く、肉厚でとろりとした食感が特徴です。
長く楽しみたい! 柑橘の正しい保存法は?
冬場には箱買いすることもある柑橘ですが、どのように保存したら最後までおいしくいただけるのでしょうか? ポイントは「袋から出さないこと」なのだそうです。
「柑橘が入っている袋は、実は一般的なビニール袋ではありません。柑橘が呼吸しやすく、鮮度が保たれるように作られた専用の袋なのです。スーパーなどで購入する柑橘は、だいたいこの袋に入っています。ですから袋から出して保存したり、違う袋に入れ替えたりせず、食べる分だけを出して残りは袋に入れたままにしておく、というのがいちばんうまく保存できるんですよ。段ボール箱で購入した場合も、段ボールが湿気を調整してくれますから、箱の上の蓋だけ開けて新聞紙をのせ、そのままにしておきます」
カビが生えたらどうすればいい?
たくさん買った柑橘にカビが生えているのを見つけると、ショックですよね。一箇所がカビてしまっていたら、そこだけ取り除くのではなく、その果実は諦めた方がいいと二宮さんが教えてくれました。
「カビは柑橘の表面についた傷から起こります。柑橘も生き物ですから、たとえば収穫前についてしまった傷は、そのまま治癒していきます。黒くなっていたり傷跡があったりするかもしれませんが、かさぶたのようになっていたら問題ありません。カビにつながりやすいのは、収穫後や出荷時についてしまったもので、すでに収穫していますから傷も治らないです。表面的な傷であれば大丈夫なことが多いのですが、果肉に到達して水っぽくなってしまったところは、カビが生えやすくなるので、早めに食べましょう。また。デコポンなどくぼみのあるものはヘタのところから腐っていくので、購入するときや食べる前に、ヘタを確認するのがよいでしょう」
これから春夏にかけて、はっさくや河内晩柑、甘夏など、さまざまな品種が楽しめるようになります。新しい品種にもぜひトライしてみてください。
Profile
柑橘ソムリエ愛媛 理事長 / 二宮新治
アパレル業界へ就職したのちに、愛媛県宇和島へUターン就農。柑橘農家ニノファームを立ち上げる。2015年には仲間たちとともにNPO団体「柑橘ソムリエ愛媛」を立ち上げ、理事長を務める。実際に柑橘ソムリエという資格も立ち上げ、ライセンスを取得できる仕組みに。公式テキスト『柑橘の教科書』は、柑橘の基礎から生産・流通・目利き・歴史文化までをすみずみまで網羅するとともに、柑橘図鑑のようにもなっていて人気がある。
ニノファーム HP
柑橘ソムリエ HP
『柑橘の教科書』
※「紅まどんな」「甘平」「紅プリンセス」は愛媛県、「デコポン」「ゆうばれ」は熊本県の登録商標です。
取材・文=吉川愛歩 編集協力=Neem Tree