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“天気リテラシー” が安全を左右する!?気象予報士が解説。
「世界気象デー」に学ぶ世界の気候変動と、日本の天気

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酷暑にゲリラ豪雨、相次ぐ超大型台風による被害……。日本における近年の不安定な天気は、地球規模の気候変動と切っても切れない関係があるようです。そこで@Livingが注目したのは、毎年3月にある「世界気象デー」という記念日。これをヒントに、日本気象協会の気象予報士・齊藤愛子さんが、気候変動と日本の天気の現状を教えてくれました。

『世界気象デー』のテーマが
気候変動を知るヒントに

『世界気象デー』とは、いったいどんな日なのでしょうか?

「以前は、世界各国の気象業務はいまと違って国ごとの連携がなく閉鎖的なものでした。これを世界で標準化し、各国間の気象情報を効果的にシェアするために発足したのが、世界気象機関(WMO)という国連の専門機関です。『世界気象デー』とは、そのWMOが1950年の3月23日に世界気象機関条約が発効したことを記念して、1960年に制定されました。。WMOは気象業務や地球における気候変動について、人々の理解促進を目的としたキャンペーンを行っています」(気象予報士・齊藤愛子さん、以下同)

世界気象デーには毎年、異なるテーマを設けてキャンペーンを展開。2023年のテーマは『世代を超えた気象、気候、水の未来』となりました。そもそもこのテーマは、どのように決めているのでしょうか?

「気象庁の方にお聞きしたところ、毎年6月頃に会議によって翌年度のテーマが決まるそうです。今年はWMOの前身である国際気象機関(IMO)の創立から150周年のアニバーサリーイヤーで、これまでの気象業務の歴史と将来の発展を見据えたテーマになっているようですね。
なかでも重要とされる気候変動のひとつが、みなさんもご存知の地球温暖化。地球全体で海水温が上昇することで水蒸気の量が増え、長期にわたる雨や豪雨が世界的にも増えていることから、『水の未来』というキーワードもテーマに掲げられています」

WMOの公式サイトより。

つまり、毎年変わる『世界気象デー』のテーマには、地球の気候変動にまつわる最新のトピックスが盛り込まれている、ということになります。

「たとえば2022年のテーマは『早めの警戒、早めの行動』でしたが、その背景として国連は2022年3月に早期警戒イニシアチブを発表しています。日本では、災害につながるおそれのある大雨などが見込まれるとき、早期に警戒アラートが出て情報が発信されますよね。でも世界の全人口のうち約3分の1の人々は、そういったシステムがまだ十分に普及していない地域で暮らしているのです」

アラートの有無は、人の命に関わること。近年の地球温暖化に起因する気候変動の大きさは、やはりそれだけ警戒を強めなければならないレベルにあるようです。

「日本に暮らす私たちも、ゲリラ豪雨の発生や連日の熱帯夜など、天気を通じて何か異変が起きている、と痛感することが、年々増えているのではないでしょうか? ここで、地球温暖化が確実に進行していることを示すある報告書をご紹介しましょう」

地球の気温は、過去2000年間で
前例のない速度で上昇している!

「次のグラフをご覧ください。これは2021年の8月に、『IPCC』という国連気候変動に関する政府間パネルが公開した『第6次評価報告書(AR6)』に掲載されたグラフの日本語訳です」

世界気温変化と直近の温暖化要因(IPCC AR6 WG!Figure SPMI Panel b) 出典=IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁)

「このグラフは、世界の平均気温上昇の変化を、太陽活動の変化や火山の噴火といった『自然起源』のみの場合と、温室効果ガスの増加や森林伐採、土地利用の変化といった『人間活動による影響=人為起源』を加えた場合とで、わかりやすく比較しています。

2011年〜2020年までの直近10年で、世界各地での地表面温度は、産業革命前(1850〜1900年)に比べて1.09度上昇しているんです。その主たる原因が、人間活動にあるということが明確になってきたわけですね」

ここ10年の気温上昇は、人間活動による影響が大きいことが一目瞭然です。

「この報告書でもっとも注目すべきは、『地球温暖化の原因は人間の活動によるものだ』と断定したことでした。そして昨今の地球の気温は、少なくとも過去2000年間で前例のない速度で上昇していると報告されています。実際に産業革命前と比べて大雨は1.3倍、干ばつは1.7倍増えているというデータもあります。気温上昇も1.09度……というとあまり大きな数字には思えないかもしれませんが、仮にこれが1.5度まで上昇すると、50年に1度あるような暑い日が、いまの約2倍も発生すると予想できます。そうなると海水温はさらに上昇し、世界的にもっと雨が増えることになるでしょう」

世界人口が未だ増え続けている背景をふまえると、気温は今後も上昇していきそうです。一方、日本に限定すると、気候変動の現状はどうなっているのでしょうか?

「日本の気候変動は、気象庁が公表している『日本の気候変動2020−大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書−』に詳しく掲載されています。大気中の温室効果ガスは年々増加傾向にありますし(図2)、21世紀末には年平均気温が約1.4〜約4.5度まで上昇、激しい雨や台風もますます増えていくことが予想されています」

日本国内における待機中の二酸化炭素濃度『日本の気候変動2020ー大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書ー』 出典=文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2020」

もはや、冷夏なんて過去のものになってしまうのでしょうか?

「実は、そうともいえないのが気候の難しいところです。というのも、日本の夏が猛暑の年には、地球のどこかが冷夏に見舞われるといったように、天気は地球全体でバランスをとっているのです。これは温暖化や気候変動においても同じことがいえます。たとえば日本でいくら人口が減って環境負荷が抑えられたとしても、世界規模で人口が増え続けて温暖化が進行すれば、その影響はゲリラ豪雨のような異常気象となって世界各地に及びます。とはいえもちろん、環境に配慮した取り組みは、これからも我々が推進していかなければならないことです」

日本の夏は今年も暑い!?
“平年並み” はもはや安心できない

ちなみに、今年の夏もやっぱり “暑い” のでしょうか?

「今年の夏も暑くなりそうです。日本気象協会の「梅雨入り予想」では、梅雨前線の北上は平年と同様か早い傾向で、今年の梅雨入りは、沖縄や九州から東北にかけて平年並みか平年より早い見込みです。そして、6月から7月の太平洋高気圧の北への張り出しは順調で、今年の梅雨明けは平年並みか平年より早い傾向と見込まれます。平均気温は6月と7月は平年並みか高く、蒸し暑い日が多くなる予想です。
また、夏に発生が予想されるエルニーニョ現象の影響で、盛夏に「梅雨の戻り」のような天気となる可能性が考えられます。梅雨明け後も、局地的な大雨や日照不足などに注意が必要となりそうです」

この気象予報における “平年” とはどういう意味なのでしょう? たとえば「平年並みの気温」なら、それほど暑くならないと捉えていいのか、というとーーー

「平年値とは過去30年間の平均なのですが、実は10年ごとに更新されるのです。期間は西暦年の1の位が1の年から10年後まで。ですから2023年現在の予報でいう『平年値』は2021年に更新されています。つまり1991〜2020年の平均ということ。そこには近年の酷暑、ゲリラ豪雨が多い夏の気候などもカウントされているので、雨量が『平年並み』だからといって大雨が降らないわけではないし、気温が『平年並み』でも、危険な暑さになる可能性はあるということになります」

いわゆる “酷暑日” も、珍しくなくなっていきそうです。

「そうかもしれません。そもそも『酷暑日』は、われわれ日本気象協会が2022年の夏に提唱した用語なんです。気象庁では最高気温35℃以上のことを『猛暑日』と呼称していますが、2022年の夏は全国で観測史上初めて6月に40℃を観測しました。また、近年は夜間の最低気温が30℃以上となる日もあります。もはや『猛暑日』や『熱帯夜』という用語では足らないのではないかということで、日本気象協会の気象予報士が検討して独自に使い始めたのが、最高気温40℃以上の『酷暑日』と、最低気温30℃以上の『超熱帯夜』という用語なんです」

今までよりも、ひとつ上の暑さのランクが必要になってきているのだそう。

「日本の気象観測において40度の気温は何回か記録がありますが、そのうちの9割を直近の20年間が占めているんですよ」

※「酷暑日」「超熱帯夜」は日本気象協会が独自でつけた名称であり、気象庁が定義しているものではありません。

進化する天気予報を使って
危険やリスクから身を守る

つまり、気候変動に合わせて、天気予報も進化していくというわけです。

「最近だと天気予報で『観測史上初』といった言葉を聞く機会が増えつつあると思うのですが、われわれはこういった事情も情報に反映しています。最近よくある大雨の予報においては、日本気象協会独自の情報である『既往最大比(過去最大値との比)』というデータを活用するようになりました」

「既往最大比」とは……

たとえば雨量でいうなら、いま降っている雨がこれまでの観測史上で最大かどうかを、ひとめでわかるようにしたデータのこと。
「大雨がよく降る地域と、雨自体があまり降らない地域においては、同じ雨量でも災害につながるリスクも変わってきます。それを知っているかどうかで、いざというときの行動にも変化が生まれます。実際に過去最大雨量の150%を超えた場合、犠牲者の発生数が急増する可能性があり、災害発生危険度が極めて高くなることが研究で分かっているんですよ」

※既往最大比とは、解析雨量が1kmメッシュ化された2006年5月以降に観測された雨量の最大値との比のこと
※研究とは、日本気象協会と静岡大学牛山素行教授との共同研究の結果。(本間基寛,牛山素行:豪雨災害における犠牲者数の推定方法に関する研究,自然災害科学,Vol. 40,特別号,pp. 157-174,2021.

気象予報の精度自体も、年々進化しているそうです。

「われわれ気象会社は、気象庁が発信する情報を受けて、各社が用いる独自の予測モデルを駆使して天気予報を発表しています。とくに日本気象協会では、最近になって統合予測モデルというものに切り替えたのですが、これは国内外のさまざまな予測モデルの情報を統合し、精度の向上を目指したモデルです。というのも、予測モデルには「予測の癖」があるんですよ。「予測の癖」は、季節や地域によって日々変化するので、この変化に対応し精度の良い予測になるよう補正しているんですよ。様々な予測モデルの「予測の癖」を補正しつつ、いいとこ取りをしたのが、日本気象協会の『JWA統合気象予測』になります」

「JWA統合気象予測」の成り立ち

気象庁、あるいは民間の会社によって予報の内容に差があるのは、予測モデルの差でもあるわけです。となると、ユーザーとしてはどれを信頼すればいいか迷うところ。

「各社の予報をインプットしておいて、総合的に考えるというのが正解に近いのかなと思います。天気予報にも “セカンドオピニオン” があると安心というか、どの予報もしょせんは予報であって絶対ではありません。1社だけが雨の予報を出しているなら、雨の可能性もあるなとインプットしておけば、行動の対策も立てられるということですね」

天気リテラシーの向上は
“環境にいいこと”につながる

日本気象協会のtenki.jpでは、ユニークな指数情報も豊富。

「ユニクロさんとのコラボで実現している『エアリズム予報』や、『ヒートテック指数』は、SNSなどでも話題となり、ご好評をいただいているようです。これらは気温に適した機能性インナーを活用するうえで、参考にしていただける独自の指数なのですが、こういった情報も冷暖房器具の省エネなど、回り回って環境に配慮した行動につながっていくのではと期待しています」

日本気象協会がユニクロに働きかけて実現した「エアリズム予報」。

そしてこちらはと「ヒートテック指数」。より暮らしに密着した実感をともなう予報といえます。

天気予報から正しい情報を収集することは、災害から身を守るだけではなく、地球環境の保護という側面から考えても、今後ますます重要な行動になっていきそうです。

「私もプライベートでは3歳と5歳の子どもを育てていますが、仕事柄、彼らが大人になるころ日本の気候は、そして世界は果たしてどうなっているのか、考えてしまうことがよくあります。そこで、子どものうちからお天気リテラシーを高めるような、日々の会話を大事にしていますね。たとえば空を見たときに飛行機雲がなかなか消えなかったら、湿度が高いから天気が降り坂になることが多い。『飛行機雲が残っているから、雨がくるかもしれないね』って、一緒に空を見ながら、そんな会話をするだけでもいいと思いますよ」

Profile

日本気象協会 気象予報士 / 齊藤愛子

一般財団法人 日本気象協会で、放送局やデジタルサイネージ等の企画・開発に従事。tenki.jpのプロモーションをはじめ、フジテレビ『AI天気』、日本テレビ『じぶんごと天気』などのコンテンツ企画なども手がける。出身は特別豪雪地帯である長野県信濃町。 
日本気象協会 HP

取材・文=小堀真子 写真提供=日本気象協会、気象庁、NASA