コンビニやスーパーなど、身近な店で手軽に購入できる「フェアトレード」商品が増えてきています。とはいえ、その仕組みや基準まで理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
2月14日のバレンタイン・デーでも、フェアトレードによって商品化されたチョコレートが多数店頭に並ぶはず。そこで、国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業などを日本国内で行う「フェアトレード・ラベル・ジャパン」の北戸香那さんに、フェアトレードの基本や現状、私たちはどのように関わればいいのかなどをうかがいました。
「フェアトレード」の意味、
認証の基準とは?
まず「フェアトレード」の仕組みや基準から、解説していただきました。
「『フェアトレード』とは、直訳すると『公平・公正な取引』という意味です。途上国で生産される原料や製品を輸入者が適正な価格で継続的に買い取ることで、途上国の生産者の生活改善と自立を目指す貿易の仕組みのことを言います」
消費者側も公正に取引された商品を認識できるよう、認証ラベルも存在します。
「フェアトレードには、途上国の原料や製品が公平な条件で取引されていることを認証する制度『国際フェアトレード認証』があり、認証製品には『国際フェアトレード認証ラベル』がつけられます」(フェアトレード・ラベル・ジャパン 北戸香那さん、以下同)
認証を受けるには、国際的に定められた『国際フェアトレード基準』を満たす必要があります。これには3つの側面があるといいます。
1.『環境的基準』
「具体的には、農薬の使用削減と適正使用、土壌・水源・生物多様性の保全などがあります」
2.『社会的基準』
「児童労働や強制労働の禁止、差別の禁止、安全な労働環境が守られているか、などが基準として設けられています」
3.『経済的基準』
「フェアトレードのユニークな点といえるでしょう。これには以下のような基準が設けられています」
・最低価格の保証
「買う側が強い立場にあるので、途上国の生産者には輸入業者などの買い取りを行っている業者に対して価格を交渉する力がなく、安く売らざるを得ない状況があります。
そうすると、生産者は低賃金で働かざるを得なくなり、生活水準が低下したり、コストを削減するためにやむを得ず子どもを学校に行かせず児童労働をさせてしまったり、過剰な農薬の使用による環境破壊や、生産者の健康被害が発生してしまうことがあります。このようなことをなくすために、最低価格の保証をし、一定の価格以上で買い取ることを基準に設けています」
また、市場価格の変動にも対応しています。
「製品の市場価格は常に変動するため、市場価格が暴落すると、その分生産者が安く売らざるを得ない状況になってしまいます。そこで製品ごとに最低価格を定めることで、生産者の生活が担保できるようにしています。最低価格は、私たちフェアトレード・ラベル・ジャパンの母体団体であるフェアトレード・インターナショナルで、常に状況を見ながら設定しています」
・フェアトレード・プレミアム
「これは品物の代金とは別に輸入業者から支払われる資金のことで、日本語では『奨励金』といいます。フェアトレード認証に参加する生産者は協同組合をつくっており、プレミアムはその組合に支払われます。支払われたお金の使い道は、組合の中で民主的に決められ、例えば原料や製品の質を向上させるための設備や機器の購入、地域の開発などに使われています」
フェアトレードの認証・ライセンス事業を行うフェアトレード・ラベル・ジャパンでは、こうした『国際フェアトレード基準』にしたがい、国内での認証を行っているそう。
チョコレートのほかにワインや花も!
フェアトレードの対象品とは?
フェアトレードでは、認証の対象となる産品や、対象国・地域も定められています。チョコレートやコーヒーのイメージが強いフェアトレードですが、ほかにどのような産品があるのでしょうか?
「国際フェアトレード認証の対象となっている産品には、下記のようなものがあります。大きな割合を占めるのはコーヒーですが、カカオやコットン製品も増えており、産品の種類は多岐にわたります」
【食品】
・コーヒー
・紅茶
・カカオ
・スパイス・ハーブ
・生鮮果物(バナナ、りんご、アボカド、ココナッツ、レモンなど)
・加工果物(ドライフルーツ、フルーツジュースなど)
・ワイン
・オイルシード・油脂果物
など
【食品以外】
・コットン
・花(バラ、カーネーションなど)
・サッカーボール
など
「またフェアトレード認証の対象となる国や地域は、国民一人当たりの収入レベルや経済格差などを考慮した上で定められています。主な地域はラテンアメリカ・カリブ海地域、アフリカ・中近東地域、アジア・太平洋地域。フェアトレードに参加する生産者は2021年時点で200万人以上となっており、年々増加しています」
途上国の生産者は
なぜ弱い立場に置かれてきたのか?
国際的な基準にもとづいて認証されるフェアトレードですが、そもそもなぜこのような仕組みが必要なのでしょうか? その背景についてもうかがいました。
「お伝えしたように、フェアトレードは世界の貿易構造の中で弱い立場にある生産者が、公平な取引をできるようにするためにあるものです。その背景には、途上国の生産者は、価格交渉の場面で立場が弱く、安い価格で売らざるを得なかったり、正当な対価が支払われなかったりすることがあります。
そして元をたどれば、私たち消費者が安いものを求めすぎていることも要因の一つです。皆さんもスーパーに行った時に高いよりは安い方が良いと思って商品を選ぶことがあると思いますが、実はその行動が、回り回って途上国の生産者を苦しめている可能性があるのです」
何が変わる?
フェアトレードのメリットと可能性
「認証の基準には、先述のとおり環境・社会・経済の3つの側面があります。そのためフェアトレードは、開発途上国の社会課題や環境課題といったサプライチェーン上のさまざまな課題の解決にもつながります。例えば、課題の一つとして挙げられるのが児童労働です。原料や製品を安く売らざるを得ない生産者は、人を雇うことができず、子どもを働かせるしかありません。今現在も、世界の子どもの10人に1人は学校に通えず、働かざるを得ない状況にあると言われています。
また生産性を上げたり安く作ったりするために農薬を使用することは、環境破壊にもつながってしまいます。さらに近年は気候変動の影響も深刻で、例えばアラビカ種のコーヒー豆の栽培地の面積は2050年には50%減少するとも言われています」
逆に、フェアトレードがなければ今後、どんなデメリットが?
「私たちが今当たり前に手に取っている商品が将来なくなってしまう可能性もゼロではありません。フェアトレードは、生産者が搾取されない仕組みであることに加え、サプライチェーン上の課題に取り組むための手段の一つとなっています」
市場規模が過去最大の伸び率!
日本の現状と問題点は?
続いて、日本国内におけるフェアトレードの現状に目を向けてみましょう。現在、国内のフェアトレード市場は大きく伸びていますが、その理由や今後の課題について教えていただきました。
「2022年のフェアトレード認証製品の推計市場規模は、およそ196億円です。これは前年の2021年と比べると24%も増加していて、過去10年で最大の伸び率となっています。私たちフェアトレード・ラベル・ジャパンが設立された1993年当初の市場規模は1億円未満だったことを考えると、この30年間で大きく拡大したと言えます」
「その理由はさまざまですが、ここ最近で急拡大した要因は、『SDGs』の考えが広まったことや人権に関する注目度が上がっていることが大きいと思います。今や企業がSDGsに取り組むことは当たり前になり、フェアトレード商品を生産したり取引したりする企業も増えました。その結果、消費者がフェアトレード商品を手に取る機会も以前と比べて増えています。
またフェアトレードは、学校で学ぶ機会が多くあることから世代別では、10代における知名度がもっとも高いことも特徴です。最近は、経済、歴史、地理、英語といったさまざまな教科でフェアトレードが取り上げられています。フェアトレードを知る若い世代が商品を買ってくれていることも、市場拡大の理由の一つになっていると考えられます」
国内の市場は拡大し、認知度も上がっているフェアトレード。しかし海外と比べるとまだまだ差があるのが現状だと北戸さんは言います。
「例えば、ドイツのフェアトレードの推計市場規模は日本の17倍も大きいというデータや、フェアトレード商品の一人当たり年間購入額が、スイスは12,765円であるのに対し日本は126円と、100倍以上の差があるというデータもあります。どちらも2021年のデータではありますが、とくに欧州とは大きな差があると言えます。
フェアトレードに限りませんが、日本と欧州ではやはり、社会問題や環境問題への意識に差があると感じます」
また、意識の差以前に、欧州と比べてフェアトレードを知るきっかけがまだ少ないことも、課題の一つだといいます。
「実は日本は、G20諸国の中で2番目に奴隷労働品(児童労働や強制労働によってつくられた商品)を輸入しているというデータもあります。しかし私たちの中に、『奴隷労働品を買いたい』と思って買っている人はおそらくいないはず。自分たちが普段手に取っている商品が生産される背景を想像したり、知ったりする機会を増やすことで、こうした状況も改善されると考えています」
欧州では、市場に出回っているフェアトレード商品の数がそもそも多く、フェアトレード商品を集めた棚を設けているスーパーも多くあります。フェアトレードを知るきっかけをつくるには、このように商品の数自体を増やしていくこと、手に取りやすい仕組みを作っていくことも必要でしょう。
「現在、国内の企業でもフェアトレード商品を作るところが増えていますが、その一方で『フェアトレード商品は価格が高いので、消費者になかなか買ってもらえない』いう声もよく聞きます。これはとても難しい問題ではあるのですが、フェアトレード商品が増えるほど市場の価格も下がっていくため、企業も消費者もともに意識を変え、行動を起こしていくことが求められると思います」
そういった現状に対し、フェアトレード・ラベル・ジャパンではどのように取り組んでいるのでしょうか?
「今後もさまざまなイベントやキャンペーンを通してフェアトレードを知ってもらうための活動を行っていくつもりです。また、フェアトレードの成果も積極的に伝えていきたいと考えています。例えば過去に、コートジボワールの農家がフェアトレードに参加したことで、収入が4年で85%増加したというデータがあります。この仕組みによって生活が豊かになった人々がいるということを具体的に伝えていくことで、よりフェアトレードに興味を持ってもらえたり参加してもらえたりする人を増やしていきたいです」
フェアトレードに関する取り組みで、
私たちにできること
フェアトレードに関する取り組みで、私たち消費者にできることは何でしょうか? 最後に、北戸さんにアドバイスをいただきました。
「生産者にもっとも還元できるアクションは、やはりフェアトレードの認証ラベルがついた商品を買うこと。毎回購入するのが難しい場合は、例えば10回に1回でも良いので選んでいただけたらと思います。なかでも、チョコレートやコーヒーは商品の種類も多く、最初に手に取る商品としておすすめです。
また、買いたくても近くのスーパーに置いていないという時には、『フェアトレードの商品を置いてほしい』と、お店にある意見箱などを通じて声をあげていただきたいです。商品を購入せずともこのアクションはお店にとって大きなインパクトになります。
フェアトレードに関するアクションは『生産者のために』という正義感だけで続けられるものではありません。もちろん、その気持ちが一つのきっかけになることはとても大切です。しかし、手に取ったフェアトレードの商品がおいしかったり、ハッピーな気持ちになれたりと、消費者にとってのメリットも必要だと感じています。今、国内でもフェアトレードの商品は増えていて、素敵な商品がたくさんあります。バレンタインデーを機に、ぜひフェアトレード商品を手に取ってもらえたらと思います」
Profile
特定非営利活動法人 フェアトレード・ラベル・ジャパン
国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)の構成メンバーとして、日本国内で、国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業と製品認証事業、国際フェアトレード認証ラベルの普及推進活動、フェアトレードの教育啓発活動、国際フェアトレードラベル機構事業への参加などを行う。
取材・文=土居りさ子(Playce)