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豆腐で再現したうなぎ、砂糖なしの白和え、薄衣のかき揚げ…シンプル調理で素材の旨みに感動!
誰でもできる精進料理レシピ

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修行僧の食事として生まれた精進料理は、殺生を連想させる動物性食材を使わないため、使用する食材の種類がとても少ない料理です。そのぶんそこには、限られた食材をおいしくいただくための工夫がたっぷり。そして、旬の食材を大切にいただくその姿勢は、サステナブルなライフスタイルとの親和性も高く、いま改めて注目されています。

今回は、岐阜県にあるお寺で精進料理を学び、そのおいしさに魅了された尾崎史江さんに、旬の食材を活かした満足感のある料理を提案していただきました。


精進料理=菜食?
ヴィーガンとの違い

そもそも精進料理とは、どういった料理なのでしょうか。動物性の食材を使わないと聞くと、ヴィーガンを連想する人も多いはず。いったい何が違うのでしょう。

「どちらも菜食であり、肉や魚、牛乳など動物性の食材を使わない点が共通していますが、精進料理は、五葷(ごくん:にんにく、玉ねぎ、ねぎ、ニラ、らっきょう)と呼ばれる刺激の強い野菜も使いません
また、ヴィーガンが動物愛護や環境保護、ヘルスケアなどを目的に取り入れられることが多いのに対し、精進料理の目的は、殺生と煩悩への刺激を避けること。なぜなら、『料理をすること』や『食べること』自体も修行と考える修行僧のためのものだからです。
精進料理と聞くと質素なイメージを持つ方が多いのですが、実際には旬の食材を活かし、そのおいしさを引き出す調理法でもあります」(料理家・尾崎史江さん、以下同)

食材に真摯に向き合い調理をすると
心に変化が生まれる

尾崎さんは、精進料理の根底には食材に真摯に向き合う思想があるといいます。

動物だけでなく植物にも命があり、その命に感謝し、一切を無駄にしないという考え方です。たとえば、せりの根。泥がついているため捨ててしまう方も多いかもしれませんが、精進料理では根をよく洗い、食材として利用します。じつは根は、香り高くて独特のシャキシャキ感も楽しめる、とてもおいしい部位なんです。もちろん、ほうれん草や小松菜といった葉もの野菜の根も同じ。
またお寺では、収穫時期に大量に野菜が採れた場合、『五法』、すなわち“生・煮る・蒸す・揚げる・焼く”という5つの調理法を駆使して最後までおいしくいただきます。たとえば夏になすが大量に採れたら、工夫を凝らしておひたしや揚げ物、“もどき料理”であるカキフライなどに調理します」

このように食材に真摯に向き合い丁寧に調理をすると、その過程で心が落ち着き、食材、ひいては自然への感謝の気持ちも湧いてくるそうです。

日々の暮らしに
精進料理を取り入れるコツ

食材に真摯に向き合う精進料理。私たちが日々の暮らしに取り入れるとしたら、具体的にどのような方法があるのでしょうか。

「難しく構えず、まずは旬の食材を意識的に取り入れることから始めてみてください。 旬の食材はおいしいだけでなく、お財布にやさしく栄養価も高いので、メリットしかありません。そもそも、旬の食材をおいしく無駄なく食べること自体が精進料理なんです。
また、乾物を取り入れるのもおすすめです。乾物は保存性が高く買い置きできるので、ストックしておけばその食材をベースに『何を作ろうかな』と考えられるようになります。特におすすめは高野豆腐。水で戻して崩せばそぼろ代わりに、揚げるとこってりとした満足感のある食材にもなります。大豆の風味がしっかり感じられるので、工夫次第でボリュームのあるおかずに変えられますよ」

何度も作りたくなる
精進料理レシピ3選

精進料理の心構えがわかったところで、精進料理の定番でもある代替食材を使った“もどき料理”と、旬の食材を活かしたレシピを3つご紹介いただきました。

・「豆腐で作る“うなぎ”もどき」
・「旬食材の白和え」
・「季節のかき揚げ」

もっちりとした弾力のある食べごたえ
「豆腐で作る“うなぎ”もどき」

「お寺で精進料理に携わっていたころ、お客様に大変喜ばれたのが“もどき料理”です。本物さながらの見た目とそのおいしさから、作り方をたずねられ、会話が弾んだことを覚えています。限られた食材を工夫して調理することでおいしさを追求する。まさに精進料理の知恵がつまった料理です。
今回はお豆腐を使って、うなぎの代替料理を作りましょう。お豆腐の新たなおいしさにハッとさせられるはずです」

【材料(2人分)】

・焼き海苔……1枚
・油……大さじ1と1/2

[うなぎのたね]
・木綿豆腐……1/2丁
・すりおろした大和芋……大さじ1/2
・片栗粉……大さじ1/2
・塩……1つまみ

[たれ]
・醤油……大さじ1
・みりん……大さじ2/3
・酒……大さじ2/3
・きび砂糖……2/3

【作り方】

1.木綿豆腐をキッチンペーパーで包み、上に平らなバッド等を乗せる。さらにその上に重石を乗せ、木綿豆腐の水分を2割切る。フードプロセッサーに木綿豆腐、すりおろした大和芋、片栗粉、塩を入れて均一になめらかになるまで攪拌する。

「お豆腐に大和芋を入れると、ふんわりと弾力のある食感に仕上がります」

2.焼き海苔を8等分に切る。その上に1を均等に乗せて広げ、フォークの背で筋を入れる。

「焼き海苔は厚めのものが適しています。精進料理で大切なのは、食材に感謝し余すことなく使いきること。フードプロセッサーにうなぎのたねが残らないよう、ゴムベラ等できれいにこそぎ取りましょう。フォークの背で筋を付けるのは、たれがよく絡むようにするためです」

3. フライパンを熱し油をひく。2を焼き海苔を下にして入れ、中火で焼く。カリッとしたら裏返し、反対側も焼き目がつくまで焼く。一度火を止めて、お皿に取り出す。

「焼き海苔は焼くことで香りが立ちます。この香りも料理の一部として活かしましょう」

4.たれの材料をフライパンに入れ、とろみがつくまで煮詰める。3をフライパンに戻し、再び弱めの中火にかけ煮絡めて完成。

「焼き海苔のパリッとした食感も残したいので、一度取り出してからたれを絡めます。たれも余すことなくいただくために、ごはんの上に乗せて“うなぎもどき丼”にするのもおすすめです。うなぎを食べるときのように、お好みで粉山椒をふって召し上がってください」

毎日でも食べたい!
「旬食材の白和え」

旬の食材は、生のまま食べられるものが多いのもうれしいポイント。たとえば今が旬の春菊は、葉がやわらかくてみずみずしく、香りがよいため、生でもおいしくいただけます。口いっぱいに広がる季節の香りから、新鮮な食材が持つおいしさに気付けるでしょう。
春菊やパクチーなどのクセや苦味のある野菜は、まろやかなお豆腐と相性抜群です。また、ザーサイやたくあんなどの塩気のある食材と組み合わせれば、おつまみとしても楽しめますよ 」

【材料(2人分)】

・柿……1/2個
・春菊……1/3束

[和え衣]
・豆腐(木綿、絹どちらも可)……50g
・ごま油……小さじ1
・すり白胡麻……大さじ1/2
・塩……適量

【作り方】

1.柿と春菊は食べやすい大きさに切る。

「春菊の茎は、薄く斜めに切ると口当たりがよくなります。和える食材は、口に入れやすく食べやすい3㎝を基本に切るとよいでしょう」

2.豆腐をザルに開けて軽く水気を切り、和え衣の残りの材料とともにボウルに入れる。泡だて器で豆腐を崩しながらよく混ぜる。

「冷蔵庫に使いかけのお豆腐が残っているなら、ほどよく水分が抜けているので、そのまま和え衣に使えて便利。白和えにはよく砂糖が使われますが、今回は代わりに柿を使います。フルーツを使うと素材の甘味が引き立ち、食材のおいしさをしっかりと味わえるんです。私自身、毎日でも食べたいと思うお気に入りの和え衣です」

3.2に1を加えて和える。

「食材全体に和え衣が行き渡ればOK。今回は春菊を使いましたが、和える野菜は冷蔵庫の残り物でも構いません。野菜の量がレシピから増減する場合は、最後に味見をしてごま油と塩で調節するとおいしく仕上がります」

サクサク・ホクホクでいくらでも食べられる!
「季節のかき揚げ」

「つなぎの衣の量を限りなく少なくして作ります。具材は、冷蔵庫にある残り野菜で十分。せりや三つ葉などの葉物はサクサクパリパリ、銀杏やさつまいも、ゆり根はホクホク、きのこはうまみがじゅわ〜っと広がります。
衣が少ないので、素揚げのように素材のおいしさそのものを味わえるのが魅力。料理教室の生徒さんからも、食感が軽くていくらでも食べられるとご好評をいただいています」

【材料(2〜3人分)】

・旬菜……ゆり根、銀杏、せり、冷蔵庫の残りのにんじんやごぼう、れんこんなどを合わせて150g
・小麦粉……約大さじ3
・水……約大さじ2
・揚げ油……適量
・塩……適量

【作り方】

1. 旬菜はそれぞれ火の通りやすい大きさに切る。

・冬が旬のゆり根と銀杏について
「ゆり根と銀杏は、下処理しておくといろんな料理に使える便利な食材。これまで使用したことのない方は、まずはかき揚げにするのがおすすめです。ゆり根のホクホク、銀杏のねっとりとした食感が混ざると、食感にメリハリが出て、食べていて楽しいかき揚げになります」

<ゆり根と銀杏の下処理の方法>
ゆり根は1枚ずつはがし1分ほど塩茹でする。銀杏は殻をむき5分ほど塩茹でして薄皮をむく。それぞれ冷蔵庫で3〜4日保存が可能。

2.1をボウルに入れ小麦粉をまぶし、水を加えて野菜同士がやっとくっつくぐらいの状態にする。

「素材の味が引き立つ軽いかき揚げに仕上げるために、衣は食材同士がやっとくっつくぐらいの量を目指しましょう。洗った食材は、しっかりと水気を切ってからボウルへ。食材に付いた水分を利用するために、まずは小麦粉だけを入れて和え、その後、様子を見ながら少しずつ水を加えます。菜箸で持ち上げたときに、具材がぽたりと落ちるぐらいが目安です」

3.フライパンに揚げ油を3㎝の深さまで入れ、170~180℃に熱する。2を6等分にし、平たく成型しながら落とし入れる。

「たねそのものが離れやすい状態のため、菜箸と手で支えながら油に入れます。温度が低いと衣が固まらず、油の中でバラバラになってしまうため、油を170~180℃まで温めてから入れましょう」

4.はじめはいじらず、底辺がカリッとしてから上下を返し同様に揚げる。塩をふっていただく。

「食材がバラバラになるのを防ぐため、油へ落としたらしばらく触りません。片側がしっかり揚がり固まるまで待ってから、返しましょう」

シンプルな調理で旬の素材の旨みを引き出すと、素材本来のおいしさや他の食材では味わえない個性に改めて気付くはず。それぞれの食材に秘められた旨みを引き出す調理法として、精進料理を実践してみてはいかがでしょう。

Profile

料理家 / 尾崎史江

故郷である岐阜県の寺で精進料理を学び、旬の野菜を主役にした料理に開眼。カフェのメニュー開発などを経験し、現在は「食堂いちじく」の名で、イベントやケータリングで精進料理を紹介している。油分や発酵食品を巧みに使った、満足感のある精進メニューが評判。大切にしているのは「季節の移ろいを料理に添える」こと。惜しみなく使える旬の食材だからこそ、飽きがこないよう味わいに変化をつけて楽しむことを心がけている。また、イベントや催事で作るミニどら焼き「小どら」も大人気。
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取材・文=加賀美明子(Neem Tree) 撮影=鈴木謙介