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昭和の名作から令和の新作まで!猫の日に読みたい
猫マンガの歴史と傑作セレクション

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2月22日は猫の日。愛くるしさとツレなさをあわせ持ち、たくさんの人を虜にしてきた猫。その唯一無二の魅力はマンガの世界でも発揮されており、これまで猫を題材とした名作が数多生まれてきました。そんな猫マンガの歴史は、なんと90年を超えるとか!

今回は、にゃんにゃんにゃんの日にあわせ、京都国際マンガミュージアムの学芸員で、猫マンガに詳しい倉持佳代子さんにその変遷とおすすめ作品を教えていただきました。

「化け猫」から「かわいい」へ
社会と共に移り変わる猫のイメージ

“かわいい”、“モフモフで癒やされる……”など、いまや愛すべき存在の頂点に君臨していると言っても過言ではない猫ですが、実は昭和初期の貸本や1960年代の少女マンガでは、その真逆、“不吉な存在”として描かれてきた歴史があります。猫の描かれ方はどのように変わってきたのでしょうか。

「猫マンガの歴史を遡ると、1930年代に『ネコ七先生』(島田啓三・著)という作品が描かれましたが、当時は犬が主人公の『のらくろ』シリーズ(田河水泡・著)が大ヒット中。ペットとしても、猫よりも従順な性格である犬のほうが人気だったようです」(京都国際マンガミュージアム学芸員・倉持佳代子さん、以下同)

「さらに、化け猫に代表されるように、猫は江戸の浮世絵の頃から“不吉、不気味なもの”として描かれてきました。昔は、猫をネガティブな存在にとらえる人が今よりずっと多かったのです。この化け猫のイメージは戦後の貸本マンガに継承されます。
そして1960年代には、少女マンガ業界でホラーブームが起きたのですが、そこにも猫が描かれていました

しかし一方で、60年代にはギャグ漫画『もーれつア太郎』(赤塚不二夫・著)のニャロメなど、個性の立った猫キャラクターも登場し、猫にポジティブなスポットライトが当たるようにもなりはじめたそうです。

また、庶民の暮らしが豊かになるにつれ、愛玩動物として猫を飼う人も増加。73年には動物愛護法が制定されました。

「1970年代頃になると、団地やマンションに住む人が増え、住居の密閉性が整ったことで猫を室内で飼う人も増加。これにより、猫の魅力に気づく人が増えたのだと思います。
そうした状況とリンクしてか、71年には少女向けの雑誌で4コママンガの『にゃんころりん』(ところはつえ・著)など、愛らしい猫キャラの作品が人気を集めるように。同時に、女の子を中心に“猫=かわいい”というイメージも根付きはじめていきました
74年には「ハローキティ」など、猫をモデルとしたキャラクターのファンシーグッズも話題になりましたね」

©ところはつえ/マーガレットコミックス

『にゃんころりん』
ところはつえ 著/集英社(全4巻)/1974年発表

猫マンガの変遷を年代ごとに解説!

その後、猫マンガのトレンドはどのように移り変わっていったのでしょうか。年代別にお聞きしました。

1970年代:“猫耳”という表現が猫マンガに登場

かわいらしい猫が描かれるようになった70年代。もうひとつ見逃せないのが、“猫耳少女”の登場です。

「78年に連載がスタートした少女漫画『綿の国星』(大島弓子・著)では、少女に擬人化した子猫が描かれました。猫耳と尻尾を生やした女の子のキャラクターと心温まるストーリーで人気を集め、いわゆる“猫耳”をその後の世に浸透させたエポックメイキングな作品と言えます」

©大島弓子/白泉社

綿の国星
大島弓子 著/白泉社(全4巻)/1978年発売
1巻:611円 2〜4巻:各571円(すべて税込)

またこの時代は、『アタゴオル』(ますむらひろし・著)のような猫が登場するファンタジー作品も人気を集めていました。その後も、さまざまなマンガ家により猫が登場するファンタジー作品が多数描かれるようになります。

1980年代:猫マンガブームの“元祖”が誕生

80年代に入ると、猫本来の特徴を生かしながらも、人間のようにしゃべる猫を描いたマンガが登場します。

©小林まこと/講談社

新装版 What’s Michael?』(デジタル版)
小林まこと 著/講談社(全5巻)/1984年発表
各660円(税込)

「あるがままの猫の特性を描いたコメディ漫画『What’s Michael?』の登場は、センセーショナルでした。勝手気ままな猫の姿はそれ自体が面白く、愛すべきポイントであるというメッセージが描かれています。さらに“猫に振り回される人間”もコミカルに描かれ、それ自体が大きな題材になることを示したこの作品は、以後、現在まで続く猫マンガブームの元祖と言えるでしょう。
また、『ふくふくふにゃ〜ん』の作者・こなみかなた先生のような、主に猫を主役にしたマンガを描く作家が登場しはじめたのも80年代です。こなみ先生のマンガは、猫を飼っている人みんなが共感する“猫あるある”が満載で、こちらもパイオニアと言えるでしょう」(倉持さん)

©こなみかなた/講談社

ふくふくふにゃ~ん』(デジタル版)
こなみかなた 著/講談社(全12巻)/1988年発表
各550円(税込)

1990年代:いまも人気の猫エッセイマンガ時代に突入!

90年代に入ると、現在も尚人気の高い“猫エッセイマンガ”の時代へと突入します。

「80年代から連載が続いていた、擬人化された飼い猫との暮らしを描いた『サバ』シリーズ(大島弓子・著)をはじめ、猫との暮らしを描くエッセイマンガが人気でしたが、90年代以降、このジャンルはさらに活性化します。
特筆すべきは、飼い猫との暮らしを描いた『ゆず』シリーズ。このシリーズに「長い長いさんぽ」(2005年)という作品がありますが、そこには愛猫・ゆずとの “別れ”が丁寧に描かれています。ちなみに、『サバ』シリーズの著者の大島さんが、96年に連載を始めた『グーグーだって猫である』(大島弓子・著)は、サバの死で失意の底にいた作者が新しい猫・グーグーを迎え入れるところからスタートします。これらのエッセイマンガから見えてくるのは、飼い主にとって、猫は単なるペットではなく、かけがえのない“家族”のひとり、ということです」

©須藤真澄/秋田書店

『ゆず』(デジタル版)
須藤真澄 著/秋田書店/1993年発売
594円(税込)

2000年代:インターネットの普及で猫マンガブームへ

2000年代に入ると、猫マンガの発表の場は雑誌などの紙媒体だけでなく、WEBへと広がっていきます。現在も連載が続く『きょうの猫村さん』(ほしよりこ・著)や、『くるねこ』(くるねこ大和・著)など、WEBサイトや個人ブログから始まり、後に実写ドラマ化・アニメ化される人気作も登場し始めました。

これにより2000年代は、猫マンガの作品点数が増え、一大ムーブメントに。専門誌の創刊や猫マンガアンソロジーの刊行などが相次ぎました。

©ほしよりこ/マガジンハウス

きょうの猫村さん
ほしよりこ 著/マガジンハウス(既刊10巻)/2003年発表
1〜6巻:各1257円 7〜10巻:各1320円(すべて税込)

©くるねこ大和/KADOKAWA

くるねこ
くるねこ大和 著/KADOKAWAに(全20巻)/2008年発表
各1100円(税込)

2010年代:人が猫の世話をするのではなく猫が人の世話をする物語が急増

「猫マンガに限った話ではありせんが、インターネットの普及により、プロデビューしている作家だけでなく、アマチュア作家が書いた人気作が多く生まれたのも、この時代の大きな特徴です。
この流れは2010年代以降にはさらに広がり、『夜廻り猫』(深谷かほる・著)、『鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!』(鴻池剛・著)など、SNSで話題になりブレイクする猫マンガも増えてきました」

©深谷かほる/講談社

夜廻り猫
深谷かほる/講談社(既刊11巻)/2015年発表
1〜5、10巻:各1210円 6〜9巻:各1111円 11巻:1430円(すべて税込)

©鴻池剛/KADOKAWA

鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!
鴻池剛 著/KADOKAWA(既刊3巻)/2014年発表
1巻:1212円 2〜3巻:各1100円(すべて税込)

そして倉持さんは、2010年代以降の猫漫画には、もうひとつ面白い特徴があるといいます。

「拾った猫が家事をパーフェクトにこなして快適な生活をサポートしてくれる『できる猫は今日も憂鬱』(山田ヒツジ・著)や、猫が営むラーメン屋の日常を描いた『ラーメン赤猫』(アンギャマン・著)のように、猫が人の世話を焼く、人と同じような仕事に就いて癒やしを与えてくれる作品が人気を呼んでいるんです
本来は人が猫の世話を焼く立場なのですが、それが逆転することで癒やしが生まれているのでしょう。みんな、厳しい現実社会に疲れているのかもしれませんね」

©山田ヒツジ/講談社

デキる猫は今日も憂鬱
山田ヒツジ 著/講談社(既刊10巻)/2018年発表
1〜8巻:各990円、9〜10巻:各1045円(すべて税込)

©アンギャマン/集英社

ラーメン赤猫
アンギャマン 著/集英社(既刊10巻)/2022年発表
1巻:693円 2〜7巻:各748円 8巻、10巻:各836円 9巻:814円

2010年代に一旦落ち着いた様相を見せていた猫マンガブームは、2020年以降また盛り上がりを見せてきているそう。コロナ禍を経て、猫を飼う人が増えたことも影響しているのかもしれません。

不気味な存在から愛すべきペット、さらには家族の一員へと、時代と共に地位を向上させてきた猫。その変化は猫マンガにも大きく反映されてきたようです。

今や猫マンガはいちジャンルとして確立しているわけですが、それでも「マンガの題材としての可能性は尽きない」と倉持さんは語ります。

「猫マンガは、いまや育児マンガと同じような感覚で楽しまれているのだと思います。“猫と暮らす”という文化自体に今や新しさはありませんが、子育て同様、それぞれの個性はあるもののネタになりやすい共感ネタがたくさんあるからです。昔の作品であっても内容が古びることがなく、末永く愛され続けていくと思います」

マンガのプロが選ぶおすすめ猫マンガ6選

最後に、倉持さんにおすすめの猫マンガを6冊教えていただきました。

1冊目/明るいストーリーなのに大人も子どもも泣く

©高田エミ/集英社

『ねこ・ねこ・幻想曲(ファンタジア)』
高田エミ  著/集英社(全16巻)/1985年発表
各440円(税込)

[ストーリー]
樹村家で暮らす黒猫のシロは、年末にパパがみんなに贈りものをすることを知り、“自分もみんなに何かをプレゼントしたい”とお月様に相談する。すると、お月様から“銀のしずくの力”を授かり、ヒトに変身できるようになって……!?

[倉持さんのおすすめコメント]
「人生で初めて買ったマンガ雑誌が『りぼん』(集英社刊)なのですが、猫好きの私にとって、この作品もお目当てのひとつでした。明るくハッピーな作品なのに、泣ける話も多くて小学生の頃は号泣しながら読んでいました。大人になり再読しても泣けて泣けて……。特にシロの飼い主・里子のお父さんが猫嫌いになったきっかけなど、思い出しただけで涙が出ます。絵もかわいらしく、古さを感じません」

2冊目/愛猫と過ごす時間のかけがえのなさを実感できる

©須藤真澄/KADOKAWA

長い長いさんぽ』(デジタル版)
須藤真澄 著作/秋田書店(全1巻)/2006年発売
713円(税込)

[ストーリー]
作者と愛猫ゆずとの他愛のない日常と、猫のあるあるネタを描いたエッセイマンガ。今作では高齢になったゆずを作者夫婦が看取り、弔う様子が細かく描かれている。

[倉持さんのおすすめコメント]
「猫マンガの変遷にも登場した『ゆず』シリーズの作品。作者と愛猫・ゆずの日常を描いたシリーズのなかで、ゆずとの別れを描いた作品です。猫を飼っている方は絶対に逃れられない“愛猫との別れ”が丁寧に描かれています。
私もかつて長年飼っていた愛猫との別れを経験したのですが、この作品に出会い、辛さを分かち合えたような気持ちになり励まされました。猫と一緒に過ごせる一瞬一瞬がかけがえのないものだということを実感できると思います」

3冊目/猫派も犬派も読めば犬猫両方派に!?

©松本ひで吉/講談社

『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』
松本ひで吉 著/講談社(既刊8巻)/2017年発表
各935円(税込)

[ストーリー]
X(旧・Twitter)投稿から人気に火が付いた、エッセイコミック。天真爛漫な愛犬と、王のように凶悪ながら愛らしい愛猫の日常が、笑いあり・ほろりありでコミカルに描かれている。

[倉持さんのおすすめコメント]
「猫ならではのかわいらしさと、犬ならではのかわいらしさ、その両方が堪能できます。これまで私は完全な猫派だったのですが、最近になり犬の魅力にも気づいてしまい……。犬猫両方をお迎えしたときの参考にしています」

4冊目/猫ウイルス蔓延! パンデミックならぬニャンデミック

©ホークマン・メカルーツ/マッグガーデン

ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット
ホークマン 原作・メカルーツ 作画/マッグガーデン(既刊6巻)/2020年発表
1巻:671円 2巻:660円 3、5巻:各693円 4巻:715円 6巻748円(すべて税込)

[ストーリー]
猫に触れた人間を猫に変えてしまうウイルスにより、全世界でパンデミックが発生。人々は猫にモフられ、次々と猫へ……。果たして人類は、猫に触りたい誘惑に抗い、猫だらけの世界を生き抜くことができるのか!?

[倉持さんのおすすめコメント]
「猫が人間に戦争を仕掛けてきたら、絶対に勝てないな……と常日頃、思っていたのですが、この作品を読んでやっぱりどうやっても勝てないと思いました! 猫好きが考えている妄想を、ハイクオリテイな絵とお話で形にしてくれています。本作に登場する人間がみんな猫好きで、猫には絶対に危害を加えられない……という大前提が良いですよね」

5冊目/“猫に置き換える”が究極のストレスマネジメント!?

©やじま/KADOKAWA

『ねこに転生したおじさん』
やじま 著/KADOKAWA(既刊3巻)/2023年発表
各1375円(税込)

[ストーリー]
ごく普通のサラリーマンだったおじさんが、ある日突然ハチワレ猫に転生してしまった。道端で困っていると、おじさんが勤める会社の社長に遭遇。厳しい性格で知られる社長だが、猫(おじさん)の姿を目にした途端、顔が緩んで……。正体がバレないように猫らしく振る舞うおじさんと、猫を“プンちゃん”と名付けて溺愛する社長の、ハッピーでシュールな生活が始まる。

[倉持さんのおすすめコメント]
「うちの母が父の行動を見て、“姿がおじさんだから憎たらしいけど、猫だったらと思うと、すごくかわいい”と言っていたのに納得していたら、この作品に出会いました。イラッとする人に出会っても、猫に置き換えると意外とかわいいのでは? ストレスを和らげる妄想力が養えるかもしれません。猫の姿にリンクして、元のおじさんの姿が描かれているのも最高!」(倉持さん)

6冊目/猫似ではなく“顔が猫”のヒーローが当たり前を覆す!

©大詩りえ/集英社

『猫田のことが気になって仕方ない。』(デジタル版)
大詩りえ 著/集英社(全10巻)/2013年発表
1〜4巻:各418円 5〜10巻:各439円(すべて税込)

[ストーリー]
転校を繰り返してきた小学生・周未希子は、友だちを作ってもどうせすぐにお別になるからと、人と深く付き合ったり、友だちを作ったりすることをやめてしまった。そんなドライな学生生活を送ってきた未希子だが、新しい転校先で猫の顔をした男子・猫田に出会う。さすがの未希子も無関心ではいられなくなって……!?

[倉持さんのおすすめコメント]
「“じつは猫って、最強の恋人像・ヒーロー像なのでは!?”という新しい観点が面白いです。猫田くんは猫みたいな顔ではなくて、本当に猫の顔で描かれています。ヒロインにだけなぜか猫の顔に見えるという設定です。一見ギャグマンガに見える絵面ですが、読み進めると猫田くんがちゃんとかっこよく見えてくる、すごいマンガです」(倉持さん)

Profile

京都国際マンガミュージアム学芸員 / 倉持佳代子

主に少女マンガやエッセイマンガの研究を続けており、京都国際マンガミュージアムでの展示企画などを担当。新聞雑誌などを中心に執筆業も。マンガ原作を手がけた『マンガって何?マンガでわかる マンガの疑問』(青幻舎刊)も、登場キャラクターが猫。
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京都国際マンガミュージアム

国内外のマンガに関する資料が集結した、日本初のマンガミュージアム。博物館としての機能と図書館としての機能を併せ持つ。保存されているマンガ資料は、江戸期の戯画浮世絵から明治・大正・昭和初期の雑誌、戦後の貸本から現在の人気作品、海外のものまで、約30万点。
HP

取材・文=えんどうまい