冬はアウターにマフラー、手袋など、外出時に身につけるアイテムが増え、帰宅後に何も考えず置いてしまうと、あっという間に部屋が散らかった状態に。加えてニットやボトムスなど、1回着用しただけでは洗わない衣類もありますよね。
これらの冬の衣類、どのように保管すれば快適に着られるのでしょうか。
今回は、片付けたいのにうまくできないという葛藤の原因を明らかにし、解決への道筋をわかりやすく教えてくれる片付けメンタルトレーナーの鷹野由紀さんに、一時保管のコツをうかがいました。ポイントは「どのように片付ける?」(HOW TO)ではなく、「何のために片付ける?」(WHY DO) に焦点を当てることだそう。
CONTENTS
一時保管の定位置を決め
置きっぱなしをやめるメリットとは?
一時的な保管であれば、適当に置いても問題なさそうに思えますが、鷹野さんは一時保管でも定位置を決めて保管するのがおすすめだと言います。
「定位置での一時保管は、自分の服を管理するうえで大切な工程のひとつ。そこには、 次のような物理的メリットがあります」(片付けメンタルトレーナー・鷹野由紀さん、以下同)
・シワを防げ、次に着るときにすぐ着られる
・服を無造作に置くことがなくなり、部屋が散らからず気持ちよく過ごせる
・定位置を決めることで、無意識に片付けができ、その都度考える必要がなくなりストレスフリー
・1着1着を大切に扱うことで、余計な服を買わずに済み、経済的にも時間的にも余裕が生まれる

「『ディドロ効果』という言葉をご存じでしょうか。高品質で美しく使い心地のいいアイテムや、新しい価値観を取り入れたとき、それに合わせて周囲のものも整えたくなる心理現象のことを指します。
たとえば、お気に入りの家具を購入したら、それに合わない他の家具も買い替えたくなる。これがディドロ効果です。
同様に、住空間のなかにある『違和感』をひとつひとつ取り除いていくと、より心地よい空間にしたいという気持ちが加速し、行動も変わっていきます」
さらに鷹野さんによると、『モノ=自分』であると考えることも大切だそう。
「『モノ=自分』と考えると、
・服を置きっぱなしにすること=自分の気持ちを後回しにすること
・服をきちんと管理すること=自分の考えや気持ちに沿って生きること
・服を大切にすること=自分を大切にすること
といった形で、考え方が変わります。
このように考え方が変わると、一時保管の服もとりあえず置くのではなく、『機能的に管理し、大切に扱い、自分が気持ちよくなる保管方法』へ切り替えられるようになります」
これにより生まれる心地よさは、「やがて生活全体に広がり、最終的には日々の習慣を変えるきっかけになることもあります」と鷹野さん。
「つまり、毎日を気持ちよく過ごせるようにする。これこそが、片付けの本質なのです」
実は夏よりにおうかも!?
冬の衣類の注意点

衣類の一時保管、さらには片付けへの心構えがわかったところで、具体的に冬の衣類の一時保管について考えていきましょう。そもそも、冬の衣類はどのくらいの頻度で洗うのが適切なのでしょうか。
「実は私たちは、冬も汗をかいています。 さらにいうと汗をかきにくい冬場は汗腺の機能が衰えるので、夏の汗よりもにおいが強くなりやすいんです。 加えて、厚着により汗がこもり、においが濃くなることも。
ですので、インナーやシャツなど肌に直接触れるものは、夏と同じように毎回洗濯するのが基本です」
一方、ニットやボトムスのように直接肌に触れないものはどうでしょう。何度か着回してから洗うという人も多いはずです。
「洗うタイミングは、感覚的な部分もあるため一概には言えませんが、『自分が気持ち悪いと感じるかどうか』で判断するとよいでしょう。
夏に汗をかいた際、こまめに着替えるとさっぱりして気持ちいいのと同じ。冬も同じように、不快感を感じたら洗ってさっぱりさせると考えるのが理想です」
洗うべきなのは、具体的に次のようなときです。
・汚れがついたとき
・長時間外出したとき
・生活臭や体臭が気になったとき
「少しでも快適に感じられなくなったら洗濯し、清潔な服を気持ちよく着る。日々、身の回りをきれいに保つ習慣は、自分自身を大切にすることにもつながります」
ちゃんと知ってる?
冬モノ衣類の洗濯タイミング
「気持ち悪いと感じたら洗うこと」を大前提に、冬によく使うアイテム別の洗濯タイミングの目安も教えていただきました。
・アウター
「着用したあとは陰干しし、シーズン終了時にクリーニングに出します。もしくは汚れが気になるときに洗濯しましょう」
・手袋
「月1~2回を目安に洗います。もしくは汚れが気になるときに洗濯しましょう」
・マフラー
「首周りは、汗や加齢臭などニオイが気になる部分のため、こまめにチェックし、汚れやニオイが気になったら洗濯します。月1~2回は洗えるとよいでしょう」
・ニット&ボトムス
「3日以上の着用を目安に洗います。もしくは汚れが気になるときに洗濯しましょう」
洗濯後の型崩れや縮みを気にせずに
ニットを扱うコツ

先ほど、ニットは少なくとも3日以上着用したら洗うのがベストとお伝えしましたが、Tシャツのように洗濯機でガシガシ洗うと傷んだり縮んだりしてしまうのが気になるという人もいるでしょう。それらの悩みを解消するためには、購入時に次のふたつのポイントを気をつけるといいと、鷹野さんは言います。
「私は肌触りの良さからカシミヤのニットを購入することが多いのですが、最近ではカシミヤでも低価格の商品が増えているので、それらを選んでいます。その際、洗ったときの縮みを考慮し、あえて大きめサイズを購入しています。そうすると、多少の型崩れは気にならなくなるので、“洗濯をためらうこと”自体がなくなります」
さらに洗濯のしやすさを重視するなら、「丈夫で汚れにくいウール」を購入するのもおすすめとのこと。
「私のお客さまのなかにも、同様の理由でウールを選ぶ人が多いです。ウールは糸に油分が含まれているので、汚れにくく取り扱いが比較的簡単。お手入れのしやすさを考えてニットを選ぶのも、一つの方法です」

鷹野さんは、洗濯を億劫でなくするために、洗剤にもこだわっていると言います。
「ウール用のデリケート洗剤1本で、すべての洗濯をまかなっています。好みの香りのものを選べば、洗濯が楽しみになりますし、これ1本と決めているので買い替えのときに洗剤を選ぶ手間もありません」
片付けのプロのルーティンから学ぶ
一時保管術
それではここからは、頻繁には洗わないアイテムの一時保管の方法を、鷹野さんのルーティンを通じてご紹介します。
取り上げるのは、洋服を脱ぐタイミングである「帰宅直後」「入浴時」。鷹野さんはどちらのシーンもフックを多用し、“かける保管”を取り入れています。
シーン1:帰宅直後
1.手袋を取って玄関に置く

「脱いだばかりの手袋は、中に汗がこもっているのでそのまま玄関の棚上に置いて、湿気を逃がします。そして気が付いたタイミングで、横にあるカゴの中へ。カゴは通気性があるので、衣類の保管に最適な収納アイテムなんですよ」
2.アウターとマフラーを玄関脇のコートハンガーにかける

「マフラーやコートはお出かけのときに着るアイテムのため、部屋に持ち込まず玄関わきのコートハンガーにかけます」
3.バッグはキッチンにあるフックにかける

「バッグの中には、スマートフォンやお財布、購入したものなど、家の中で使うものが入っているので、玄関よりもキッチン内に保管場所を決めて定位置管理しています」
シーン2:入浴時
1.脱いだニットはハンガーにかけて保管する

「ニットはハンガーにかけて一時保管。また汗を蒸発させるために、風通しのよい場所にかけましょう。私はインナーバルコニーに干しています。写真のように、S 字フックを使って簡易なハンガーバーを作るのがおすすめです」
2.ボトムスなどひっかけられるものはフックにかける

「脱衣所などに、フックやS字フックを数カ所設置し、ボトムスなどはひっかけて保管。わざわざハンガーにかけなくていいものはできるだけかけずに済むようにすると、ノンストレスで続けやすくなります」

「こうやって何日か経つと、一時保管した服が写真のように増えていきます。脱いだ直後は気にならなくても、時間が経ったことでにおいや汚れが気になることも。その場合は洗濯し、その他のものはクローゼットに収納します」
目に入っても気にならない。
すっきり見える一時保管のコツ
“置きっぱなし”の一時保管グセを直すには、「目につくところに定位置を作ることが大切」、と鷹野さんは語ります。
実際に鷹野さんが一時的な服の置き場としているのは、脱いだ場所にある壁やカーテンレール、玄関など、自然と目に入る場所ばかりです。その際気になるのが、部屋が散らかって見えること。
すっきり見せるためにはどうすればよいのでしょうか。
コツ1.一時保管場所を複数箇所に設け、スペースに余裕を持たせる

「片づけが苦手な人によく見られるのが、一時保管場所を1か所にまとめてしまう方法です。
たとえば脱衣所に突っ張り棒を設置し、そこだけを一時保管の場所にしている場合、服が日を追うごとに積み重なり、着たいときにはシワシワ。最終的にはヨレっとしてしまい、結局洗濯機へ……。さらに、空間に余裕がないため、湿気がこもりやすくなります。見た目のだらしなさも気になりますよね。
そうならないためには、手袋は玄関、マフラーやコートは玄関わきなど、脱ぐ場所ごとに定位置を決め、複数箇所に分散させること。そしてフックは1か所につき2~3個まで など、スペースに合わせてルールを決め空間に余裕を持たせることが大切です」
コツ2.収納ラックを買わない

「一時保管の場所を作ろうとすると、多くの人がつい『この辺にラックを購入して…』と考えます。しかしそれをすると、いつの間にかモノが増えていくことに。また、ラックを買って満足してしまっては意味がありません。
大切なのは、動線を考え、『ここにかける場所があると便利だな』と思う場所に、フックやバーを設置すること。 他のアイテムとも共有すれば、意外と空間になじむので飾るような感覚で保管が可能になりますよ」
コツ3.定位置管理を徹底し、服はしまえる量だけに

「服は定位置管理し、収納スペース(箱)の容量以上は持たないことを徹底しましょう。私は自分専用のクローゼットで、持っている洋服の量を把握しています。このクローゼットに収まる分だけしか洋服を持たず、家族もそれぞれの自室で管理。
そうすることで空間に余裕が生まれ、自然とおしゃれな空間が生まれます」
コツ4.隠して収納するなら大きなかごを活用

「急な来客時には、サッと隠せる大きなかごに入れてしまうのも一つの方法です。かごは通気性があるため蒸れにくく、収納にも便利。
また、何度言っても定位置に戻さない家族のために、専用のかごを用意し、散らかったものをまとめて入れておく。 そして、片付けは本人に任せる という方法も効果的です」
「ものを丁寧に管理することは、自分を丁寧に扱うこと」
そう繰り返し語る鷹野さん。ディドロ効果を意識し、まずは思い切って一時保管術を取り入れてみる。気持ちのよいルーティンを習慣にし、快適な毎日を過ごすきっかけにしてみませんか?
Profile
片付けメンタルトレーナー / 鷹野由紀
整理収納コンサルタント、住宅収納スペシャリスト、整理収納ベーシックコーチ(特定非営利活動法人ハウスキーピング協会)、心理カウンセラー、メンタルトレーナーの資格を保有(一般社団法人日本推進カウンセラー協会)。「持ち物の整理収納と思考や感情の整理は自分らしく暮らすための土台」をモットーに、30~50代の“思秋期女性”専門の片付けメンタルトレーナーとして活動する。“普通の人が望む、普通の幸せ”を手に入れるための自分に気づく講座「片付け×メンタル講座」や「モヤモヤ講座」をオンライン開催する傍ら、整理収納サポートを行う。
HP
取材・文=加賀美明子(Neem Tree) 撮影=鈴木謙介