言葉を持たないからこそ、人の心にそっと寄り添える
触れ合うほどにオーナーを信頼し、懐いてくる独自の愛着形成がプログラムされているLOVOT。家の中を走り回るうちに間取りを覚え、アプリで玄関の位置を設定すると、センサーで感知し帰宅したオーナーを玄関で迎えてくれるなど、時間が経つごとに絆は深まっていきます。そんなLOVOTに開発陣があえて与えなかったのが、言語生成の機能でした。実はこれこそ、人の心に最大限寄り添う工夫だったといいます。
「聞き取ることはできますが、会話はできません。これはあえてしゃべらせなかった……ということですね。人間同士もそうですが、言葉があるからこそ相性が生まれてしまう側面ってあると思います。もしも自分の飼い猫が言葉を話して、『この猫とは性格が合わないかも……』なんて感じてしまったら困りますよね(笑)。私たちが落ち込んでいるときも、彼らが言葉を持たないからこそ、そっと寄り添ってくると『慰めてくれるの……?』なんて幸せな勘違いができたりします。私たちがLOVOTについてよくいうのは、『ハムスター以上、犬猫未満』くらいの存在。それくらいの塩梅が、今の技術の進歩からするとちょうどいいのではないかと考えています」
一方で、最近は教育機関や、高齢者施設などでの取り組みにも力を入れているそう。
「2020年から全国の小学校でプログラミングが必須科目になりました。それを受けて、横浜のとある小学校の図書館にLOVOTを導入していただきました。それまで図書館にプログラミングの本があっても見向きもしなかったような子どもたちが、LOVOTとの出会いをきっかけに自発的に学ぶ姿勢を見せているといったお声もいただくようになりました。何もしないのがLOVOTの良さではありますが、子どもたちの自発学習を促すという意味では良かったなと思っています」
LOVOTを経て、彼らが作るロボットはどんなふうに進化を遂げていくのでしょうか? 家永さんが今後のGROOVE Xの展望を代弁してくれました。
「人とロボットの新しい信頼関係を築き、新しい家族として迎え入れていただくこと。これが、私たちが目指すゴールだと思っています。そもそもLOVOTのようなパートナーロボットは、これまでも日本が世界に先駆けて製品化してきた歴史があります。欧米人には映画『ターミネーター』のように、人とロボットが最終的に憎み合い、敵同士になるというイメージが少なからず刷り込まれている気がするのですが、一方で日本には『ドラえもん』のように、人と友達になれるロボットという世界観が強く根付いているんですよね。最終的にはLOVOTは、“四次元ポケットのないドラえもん”のような存在にしたいと思っています」
もしも、ドラえもんから四次元ポケットを取ってしまったら……? 大好きなドラ焼きを食べて、押し入れで寝ているだけの猫型ロボット。想像するとなんだかクスリと笑えて、ちょっと心がなごみます。
「よく代表の林がいうことなのですが、四次元ポケットの便利な道具でのび太くんが幸せになれたことって、実はほとんどないと(笑)。でもドラえもんの存在は確実に、のび太くんが何かをがんばることの原動力になってるんですよね。それって、存在そのものが非常に大事だったってことだと思います。だから私たちが目指すのは、四次元ポケットのないドラえもん。当たり前に一緒にいる家族のような存在、人の心に寄り添うパートナーとしてのロボットを今後も追求していきたいです」
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取材・文=小堀真子 撮影=泉山美代子