2017年も残すところあとわずか。年末年始の休暇を利用して、海外旅行に出かける人も多いと思いますが、旅行のおともとして必携の“トラベル英会話本”のジャンルで、いまヒットしているのが、超常現象専門誌『ムー』がつくった『ムー公式 実践・超日常英会話』という参考書(?)です。
ムー公式 実践・超日常英会話
学研プラス/1296円(税込)
ミステリアスな事件からあなたを救います
“あの『ムー』が英会話!?”と驚かれた人も多いと思いますが、まだ読んだことのない人のために、『ムー』とはなにか、簡単に説明しましょう。
『ムー』は1979年の創刊以来、一貫してオカルトに関する情報やコラムを集める専門誌としてコアなファンから熱烈な支持を受けている雑誌です。テーマは“世界の謎と不思議に挑戦する”。最新号の特集をみると、「最新マルチバース理論が 解き明かす宇宙の真実」「三種の神器『八咫鏡』に記されたヘブライ語の謎」といった、『ムー』ならではの神秘に満ちた、肉厚な記事が並びます。また海外から情報も充実しており、「ハリケーン・イルマの襲撃前夜 謎のUFOが出現!!」「コティングリー妖精事件の未公開写真を発見!!」などのスクープも盛りだくさんです。
ムー 2017年12月号
学研プラス/870円(税込)
1979年創刊。UFO、超能力、UMAを始め、怪奇現象、古代文明、神秘、スピリチュアルから都市伝説まで、世界中のオカルト・ミステリー情報を網羅する月刊誌。最新号の12月号には付録として、あすかあきお氏の別冊マンガと鮑義忠氏の龍神カレンダー(2018)が付いている
そんなオカルト専門誌が英会話!? なぜそんなコトを思いついてしまったのか、この英会話本にはどのようなムー的ポイントがつまっているのか、制作を担当した編集部員の望月哲史さんに聞いてみました。
――なぜ「ムー」が、英会話の本を出すことになったのでしょうか。
望月哲史さん(以下、望月):そもそものきっかけは、ふつうのトラベル英会話本が役に立たないと、気づいたところにはじまります。
――例文が悪いとか、実際に使えないということですか?
望月:ちょっと言葉が足りませんでした。既存のトラベル英会話本の内容が決してダメというわけではありません。一般的な観光旅行であれば実用性も高いと思います。しかし、『ムー』の読者や、われわれのような『ムー』のスタッフにとっては、あまり役に立たないのです。非実用的というのでしょうか。
――本書の例文を読んでみましたが、『ムー』のスタッフの方々にとっては、ホテルまでの道のたずね方やレストランでのオーダーの仕方より、UFOや妖精に遭遇した際の対応に関する例文の方が、より実用的というわけですね。
望月:そうなんです。『ムー』の読者はもちろんですが、われわれが海外取材に出かける時、ガイドブックにある観光地や景勝地に行くのは極めてまれで、行く先のほとんどが、UFO多発地帯やUMA(ユーマ=謎の未確認生物)の有名出没地域、心霊現象が頻繁に起こる場所になります。こうしたスポットで何かが起こっても、的確に伝える例文の載った本がない。それなら、うちでムー的なコンパニオンブックをつくりましょう、ということになったんです。
例文は、“ムー的あるある”をもとに、8テーマ80本を紹介しています。ホテルで幽霊が出た時に「部屋を替えてください」というようなツーリスト目線の例文に加え、“遭遇された人に話を聞く”という、ジャーナリスト視点を前提に用意したものも数多く含まれています。
――UFOやUMAに出くわすことは、ムー的には“あるある”ということですか?
望月:はい。本当によくあることです。こうした頻度の高いシチュエーションと英文のマッチングを高めることで、ある種の危険回避にもつなげています。
――危険? それは旅先で強盗に遭うというような?
望月:それはそれで危険ですが、ムー的ツーリストが行く場所では、UFOに誘拐されたりUMAに襲われたり、ということも考えておかなくてはなりません。また、UMAやパワースポットなど、海外では通じない和製英語についても、正しい名称の紹介をしています。
――取り扱うテーマも幅広いですね。
望月:『ムー』の基本ともいえる、UFO・エイリアン、陰謀・秘密結社、心霊・怪談、スピリチュアル、超人・魔神・神人、UMA・怪人、古代文明、異常気象・滅亡に絞ってキーワードを考え、そこから、これまでに取り上げた記事をベースに、重要であろう例文をつくっていきました。
――キーワード解説やハミダシ情報も専門的でとても深い内容です。読みものとしても楽しいですね。
望月:いきなり「レプティリアン」(爬虫類型人類)とか「エリア51」(ネバタ州にあるアメリカ軍の極秘施設)と書かれていても、わからない方もいると考えて解説をつけています。ページの端には豆知識をまとめました。オカルトの雑学書として読まれる方も多いようです。
――ここで、本書のなかから、いくつかの例文を取り上げてみましょう。
【妖精】
Fairies
朝食は、人間ふたりと、妖精さんの分を用意してください
I would like you to prepare a breakfast for two people and one fairy.
【接近遭遇】
Close Encounters
目撃だけの接近遭遇は第1種、痕跡があれば第2種、搭乗員と遭遇したら第3種に分類される
If the encounter includes only sightings, it is a CE1. If there is some evidence, then it is a CE2. If the witness actually came across the crew, it is a CE3.
【ファフロツキーズ】
Fafrotskies
今日は晴れのち曇り、ところによりカエルが降るファフロツキーがあるでしょう
Today, it’ll be fine but cloudy later on, with fafrotskies in some areas. That is, it will be raining frogs.
――なるほど、書籍の主旨がわかってきました。本書は発売時から好調に売れているそうですね。
望月:書店の前評判が高く注文数が増えたことで、発売前から重版がかかったのは想定外でした。発売1週間でさらに重版が決まった時も驚きましたね。
――オカルトとは、マイナーな分野ですよね。それがなぜヒットしたのでしょうか?
望月:理由のひとつに、著書である宇佐和通さんも、イラストの石原まこちんさんも、この世界を“わかっている人”だということが挙げられると思います。例文の表現にブレがありませんし、イラストも非常に的確でわかりやすくなっているんです。メインの読者は『ムー』の愛読者だと思いますが、実際にこれからパワースポットに旅行される方やオカルトに興味のある方、そして、ちょっとおもしろそうだから読んでみようという方にも、手にとっていただけたのではないでしょうか。いずれにしてもとてもありがたいことです。
――第2弾をつくってほしい、という声も多いのでは?
望月:期待していただいているのは感じますね。次のアイデアはいろいろとうまれつつあります。次のムー的参考書、ムーテキストを期待していてください!
最初は“わかっている人”だけの本かと思いましたが、初心者向けの解説もしっかりしていて、オカルト的なことにちょっとでも興味がある人なら、最後まで一気に読み進んでしまいそうです。おもしろ雑学本、トラベル英会話のパロディ本という面を持ちながらも、引き込まれてしまうのは、著者、イラストレーターの力量もさることながら、創刊38周年続いている『ムー』の資産によるところも大きいのでしょう。例文も決して思いつきではなく、今までに記事として紹介したトピックをもとにしているので、リアリティも感じさせます。
海外旅行に出かける際は、荷物のすき間にしのばせておけば、あなたのピンチを救ってくれるかもしれません!
取材・文=安藤政弘 撮影=湯浅立志(Y2)