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みんなお世話になった“学年誌”に新学年が誕生!?大人も子どもも学び遊べる
『小学8年生』のひみつ

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“学年誌”と呼ばれる学年ごとに分かれた学習雑誌は、少子化や雑誌不況など、時代の変化を背景に徐々に姿を消しています。そんな中、小学館から今年登場したのが『小学8年生』! 小学生どころか、その親までを喜ばせるその原動力とは? 編集長である齋藤 慎さんのもとを、@Livingでおなじみのブックセラピスト、元木忍さんが訪ねました。


小学8年生
各980円/小学館
休刊した小学2〜6年生の子どもたちの受け皿になるべく、2017年2月に刊行開始。学年を問わず、子どもたちの“好き”だと思う気持ちと興味を引き出すきっかけになる誌面づくりと、工夫ある付録に注目度が高い。

小学生の全学年に対応した『小学8年生』が誕生

元木 忍さん(以下、元木):『小学8年生』、話題ですね。私、同世代の女性たちと回し読みしたんですが、「オトナが読んでもオモシロイ!」と盛り上がりました。

齋藤 慎さん(以下、齋藤):ありがとうございます。だいぶハイブローなネタにしています。子どもたちに「こんなのできました、読んでください!」と媚びを売るのではなく、「あなたたちの年齢なら、そろそろこんなこと知っていてもいいんじゃない?」といったスタンスでつくっています。

元木:小学館の学年誌の歴史は、1922年(大正11)に創刊された『小學五年生』『小學六年生』にさかのぼりますね。1925年には『小学一年生』(創刊当時は『セウガク一年生』)が創刊されて、全学年の雑誌がそろいました。学年が上がるごとに、『一年生』『二年生』『三年生』……と、私自身はもちろんのこと、みんな、必ず購読し続けていましたよね。現在のラインナップは?

齋藤:長年、全学年そろっていましたが、少子化などさまざまな事情から休刊する学年が増え……2012年(平成24)には、『小学一年生』と『小学二年生』だけになりまして。その『二年生』もなくなるという2016年に、僕はその編集部にいたのですが、「一年生だけだとおかしい、つまらないよね」と編集部内で話し合いがはじまって。後継誌としてどんなタイトルにしようか、といろいろな案が出ました。

元木:それが……なんと『小学8年生』! 8年生なんて学年は、実際のところ存在しないわけで。この斬新なネーミングのヒントはどこにあったのでしょう?

齋藤:後継誌であることを伝えるには『小学○年生』という誌名にしたいなという思いがありました。そこで『∞(無限大)』を入れたらどうかという案が出まして。

元木:でも、“∞”という記号をなんと読ませるのかという問題が?

齋藤:そこで「関ジャニ∞」(カンジャニエイト)の出番です(笑)。関ジャニのおかげで、“∞”は“エイト”と世の中に認識されていますから、『小学∞年生』となり、∞を縦にして“8”にしたんです。しかもデジタルの数字にすれば、“0〜9”のどの数字にも変身できる、すべての学年に対応できると。そして今年(2017年)の2月15日に刊行を始めました。

元木:発想の展開がすごいですね! はじめて耳にしたときは「“小学8年生”って留年しているの? それとも中学二年生まで網羅しているの?」って思いましたもの。このネーミングへの反対意見はなかったのですか?

齋藤:反対意見はけっこうありました。今も腑に落ちないでいる方、いるかもしれませんね(笑)。

元木:でも、8万5000部を完売するなど実績を出されていらっしゃるんだから、全国的な知名度は確かなものですよね!

『小学8年生』の編集長、斎藤 慎さん。

特集も付録も媚びずに突っ走る

元木:“全学年対応誌”ということですが、読者ターゲットも全学年ですか?

齋藤:基本はそのつもりですが、読者層は2年生、3年生、4年生で70%ぐらい、男女比は半々ですね。中学年の子たちがメインです。とはいえ、5、6年生が読んでも、ましてや大人が読んでもおもしろいという誌面づくりを心がけています。潜在学習といいますか、今は理解できなくても、ある時期が来たら、「あのとき『8年生』で読んだ記事だ!」とハッと気がついてくれればいいと思っています。

元木:うんうん、たしかに。昔の学年誌は、計算ドリルや漢字ドリルといった学習要素がてんこ盛りで……知識詰め込み型というか。“勉強させられている感”が色濃くありましたけれど、『8年生』にはそうした学習系が見当たらないような(笑)

齋藤:いわゆる純学習的なものは、非常に少ないです。バリエーションたっぷりな特集と、それに関連する付録がメインです。
9月発売の第4号では、「大昔の日本大調査」と題して縄文時代を深く掘り下げ、“土偶VSはにわ5番勝負”というページをつくって。はたまた「今、将棋が熱い!!」として将棋の起源やルール、現在のトレンドを紹介しています。それに伴って、ご家庭のオーブンで焼くことができる“はにわ”と将棋入門セットを付録にしました。

元木:まさかの「手作り土器セット」とは! はにわを自作する発想はなかったです(笑)。で、この号はSNSで炎上したんですよね……?

齋藤:はい。「まんがで読む人物伝」という連載ですね。安倍晋三内閣総理大臣を取り上げまして。まあ……たくさんのご意見をいただきました。勉強になりました。

連載「まんがで読む人物伝」。これがインターネットで“炎上”した「安倍晋三内閣総理大臣」の回。トランプ大統領、ベートーベン、そしてタイムスリップしたペリー総督など、独自の視点による展開に目が離せない。漫画家・藤波俊彦氏の力強い画力にもそそられる。

元木:第1号でのトランプ大統領もそうですが、なかなかネタにしにくい部分を赤裸々に描いているというか、キレイにまとめていないというか……。個人的には「小学館、よくやった!」と思っています。

齋藤:ありがとうございます。「うちの子には絶対に読ませません」という親御さんもいらっしゃいましたが、「子どもがニュース番組を見るようになりました」という声も多数いただきました。
雑誌にしてもテレビにしても、今の時代、マスコミ自体が萎縮していますよね。われわれが急先鋒になるつもりはありませんが、伝えたいこと、伝えるべきことは発信したい。11月発売の最新号(第5号)では、「今、知っておきたい国」という特集をつくり、北朝鮮について言及しています。

元木:読みました! 不透明な部分が多いテーマなのにとてもわかりやすかった。これ、親にとっても役立つはずです。国際情勢や政治のことが訴えられているというか、こんなにエネルギーにある雑誌って、今ありませんからね。

齋藤:さまざまな分野に詳しい本はいくらでもあります。でも『小学8年生』は、とにかくいろんな話題を提供しようと。子どもたちに、いろいろな入り口に立って欲しいなと思っています。こんな分野があるんだ……という。

元木:それが “子どもに媚びない”ということなんですね。

齋藤:先ほど「子どもに読ませたくない」という声があったと言いましたが、実は子どものほうが、分別がついていると思うんです。本能的に「この漫画は気持ち悪い」だとか「ひどいな」と感じたら、読まないんですよ。親が「買わない、読ませない」とするのもひとつの方法だと思いますが、与えて、子ども自身が「やだな……」と感じる、もしくは「楽しい」と喜ぶほうが大切だな、と。分別をつけるトレーニングにもなるんです。不快な思いをしないで育つと、逆に“不快”を知らず、間違ったこともわからない、鈍感になってしまう。ですから、毎号の一冊のなかにバリエーションたっぷりに盛り込んでいるんです。

元木:表現に気を使いつつ提案していくのが『小学8年生』の役目なんでしょうね。「縄文時代とかどうでもいいや」と思う子もいるだろうし、好きなことを見つけるのは子ども自身ですもの。
第5号の第一特集は「美学(びがく)」と題して、美しい文字の書き方、水墨画、文字アート、さらには筆ができるまでの工程、ペンの歴史など網羅していて……、これ、まるで大人向けのモノ雑誌のようですね!

特集ページのひとつ。いわゆる習字の手本だけでなく、「アート」についても解説。難しいものではなく、楽しさを引き出す構成となっている。

齋藤:付録には「水筆ペンと水半紙」を。地味といえば地味なんですが(笑)、書写の授業が始まりますしね。文字をきれいに書くだけでなく、崩したり、絵を描いたり、水ではなく絵の具を使ってみたり……と「どう使ったらおもしろくなるか?」と興味を持ってもらえれば。

元木:昔は、習字の時間に絵を描いたら怒られましたよ(笑)。ホント、『小学8年生』、きてます! 本誌も付録もイカしてる。

第5号の大特集「文字の美学」と連動した付録が水筆ペンと水半紙だ。水で書くことができるという不思議さも相まって、子どもの自由な発想を刺激する。

齋藤:もうひとつの付録は「ミニミニガチャマシン」。特集では、実際のガチャのメンテナンスについても掲載しまして、“お仕事探検”に仕立てています。「チャレンジ付録」と名付けていまして。おもちゃみたいに買い与えたら終わりなのではなく、自分で作らないと完成しない、活用しないとつまらない……そういうものにしようというコンセプトです。

元木:連載も豪華ですねぇ。さかなクンに、次号からは芦田愛菜ちゃんがスタートするという……ますます見逃せません。

この号では、水筆ペンとミニミニガチャマシンが付録に。超ミニチュア版のガチャは付属のシールでデコることも!