ここ数年、InstagramなどのSNSで、クッキーを色鮮やかにデコレーションした「アイシングクッキー」が人気です。なかには、まるでアートのように繊細でクオリティの高いものも!
そういった“作品”を見るといかにも難しそうですが、アイシングクッキーの材料は砂糖、卵白、水、食用色素と、実はいたってシンプル。比較的身近な材料で作れるため、おうち時間に挑戦するにはちょうどいいかもしれません。とはいえ、最初からいきなり挑戦するのも……。アイシングクッキー作りの基本的なポイントを押さえつつ、楽しみの奥深さを知りましょう。
今回は、さまざまな企業から贈答向けなどのオーダーが絶えない、料理研究家である武 陽子さんに、アイシングクッキーの魅力と基本的な作り方を聞きました。
魅力は好きなモチーフをスイーツで再現できること
フランス料理と時短料理の研究家として、テレビや雑誌、ウェブなどで活躍していた武さんが、アイシングクッキーを作るようになったのは約6年前。ウェディングなどパーティ用スイーツのオーダーを受ける機会が増えたことがきっかけだそう。
「アイシングクッキーの魅力は、表現できることの幅が広いことです。例えば結婚式用では、新婦さんが実際に着用するウェディングドレスを描くなど、オーダーメイドの作品を作りやすいんです。描くモチーフが自在なことはもちろん、混ぜ合わせることでさまざまな色を作り出せ、使える色の幅が広いのもポイントですね。私は日本の四季が好きなので、うまく色を混ぜれば、そういった自然界にあるモチーフを表現するための微妙な色も作れます。
また、子どもから大人まで、幅広い年代の方が挑戦しやすいというのも魅力でしょう。とくにお子さんはみんな、お絵描きをするように、夢中になって作っていますね」(料理研究家・武 陽子さん、以下同)
ヴィクトリア女王にも愛されていた!“アイシング”の歴史
アイシングとは 卵白と砂糖、水、食用色素を混ぜて作ったもの。アイシングクリームがキラキラと輝いて氷(ice)のように見えることが、その名の由来となっています。意外にもその歴史は長く、なんとヴィクトリア王朝時代のイギリスで誕生したそう。
「1840年に、ヴィクトリア女王がアイシングを使ったウエディングケーキを賞賛したという記録が残っていて、イギリスでは『ロイヤルアイシング』と呼ばれています。当時、砂糖はとても高価な食材だったので、王侯貴族を中心に愛されていたようです。その後、アメリカやヨーロッパに広がっていきました。
日本で盛んになってきたのは、15-6年ほど前ぐらいでしょうか。それまでは、鮮やかでカラフルな色合いのものがほとんどで、いかにも“海外のお菓子”という見た目でした。正直、食べるものというよりは、あくまで“見て楽しむもの”でしたね。それが、日本に入ってきたときに日本風にアレンジされ、淡い色合いと繊細なデザインのものが作られるように。ただ、入ってきた当時は相変わらず、あまりおいしいお菓子ではありませんでした。
でも私は、“食べられないお菓子はお菓子じゃない”がモットーなので、アイシングクッキーでも可能な限り、おいしいものを作ろうと思って作っています。使う食材は安心・安全なものにこだわっていますし、保存料は不使用。運営しているオーダー製菓工房『アトリエ桜坂AZUL』では、クッキーにもこだわっていて、アイシングに合うだけでなく、クッキー単体で食べてもおいしいように作っています。上に砂糖のコーティングがのることを考えて、甘さを控えめに作るのは、おいしいアイシングクッキーを作るためのコツですね」
絵心がなくてもOK! 最初は「星」と「ハート」の練習から
でも、武さんが手がけてきた美しい作品たちを見ていると、素人が挑戦するのは難しそうに見えます。
「絵心が必要と思われがちですが、あまり関係がない気がします。実際私も、あまり絵は得意ではありませんから(笑)。ただ、手先の器用な方は上達が早いことはたしかですね。
最初は、クリアファイルの上にアイシングシュガーで線を書く練習をするといいですよ。間違えたら拭き取れますし、乾いて固まったらペリペリと剥がせます。
クリアファイルの中に、星やハートを書いた紙を挟んで、それをなぞる練習をしましょう。形をフチ取ってから中を塗り潰していきます。線と曲線が入っているので、これができれば他の絵もきれいに描けるようになるはずです」
“おいしく”仕上げるコツは盛りすぎないこと
武さんの作品は、造形はもちろん、色使いも素敵です。
「ピンクひとつとっても、モーブ系なのか、青味系なのかで与える印象は全く変わります。いろいろな色を組み合わせて試しながら、色彩感覚をつかむ必要はありますね。
また、ひとつのクッキーにたくさんの色を使うというよりは、いくつかのクッキーが並んだときに、カラフルになるようにするのがコツ。というのも、アイシングシュガーを盛れば盛るほど甘くなり、おいしくなくなってしまうからです。私のお店では瓶にクッキーを入れているので、1個ではなく、複数個が揃ったときにバランスが良く見えるようにしています。
また、桜の花びらなど、形だけでも十分に何を描いているかわかるようなものは、書き込みすぎないようにしています。これも、感覚をつかむには数をこなすしかないのですが、足し算をしたほうが良いものと、引き算をしたほうが良いものを見極められるようになると、クオリティが上がります。手を動かす前に、何色を使うのかバランスを見て考えましょう。
ちなみに、クッキーに一度描いていてしまった線は消せないので、迷ったら描き足すのをやめる、ぐらいがちょうど良いと思いますね」
最近のトレンドは和菓子のような洋菓子?
色選びのコツがわかったところで、最近のトレンドのモチーフも教えていただきました。
「以前は、ハロウィンやクリスマスなど、イベントに関するものが多かったのですが、最近は日本らしいモチーフやご当地ものをモチーフにする人が増えている気がしますね。“和菓子のような洋菓子”といったギャップが面白いのかもしれません。
また、クッキーなら和菓子よりも日持ちがします。一般的な和菓子やケーキなどの生菓子よりは長く楽しめるので、ギフトなどにも人気です」
アイシングクッキーを自宅で作るには?
では、これからアイシングクッキーに挑戦したい人は、どのように始めればいいのでしょうか?
「材料は、卵白、砂糖、水、食用色素。それに道具として、コルネ(絞り袋)用のOPPシートがあれば作れてしまいます。ちなみに卵白は、製菓店で『乾燥卵白』(卵白を乾かして粉末状にしたもの)が購入できますが、衛生的で管理も簡単なのでおすすめですよ。
食用色素には油性のものと水性のものがありますが、アイシングクッキーの場合は、水で溶いて使うので水溶性を。最近では、必要な材料がセットになったアイシングキットが出ているので、はじめはそれらを使えば簡単に始められるでしょう」
※桜坂AZULではキットは使用していません。
アイシングの材料
・卵白
・砂糖
・水
・食用色素
・コルネ(OPPシート)
アイシングクッキーの基本的な作り方
用意したキットを使用し、編集部で実際にアイシングクッキーを作ってみました。
1. ベースのクリームを作る
まずは、アイシングシュガーのベースを作ります。アイシングシュガーパウダー(材料を個別に用意する場合は、粉糖と乾燥卵白をミキサーで撹拌)に水を少しずつ加えながら、ツヤが出るまで混ぜ合わせます。
2. 食用色素を入れて色を付ける
ベースのクリームを作りたい色の数だけ、小皿などに取り分けて、そこに食用色素を入れます。入れるときは爪楊枝を使うのがおすすめ。少量でもしっかり色がつくので、先端にほんの少し付けるだけで十分です。ヘラを使って均一に混ぜてみて、色が薄ければ食用色素を足していきましょう。
3. アイシングシュガーをコルネに詰める
コルネを巻いて円錐形にしてから、色を付けたアイシングクリームを入れていきます。きれいな形を作るのが意外と難しく、編集部は巻くのに苦戦……最初から袋状のものを購入すればよかったと痛感しました。編集部では、失敗しても剥がしやすいよう、封にはマスキングテープを使用。
4. クッキーに絵を描いて乾かす
好きな色を使い、クッキーに絵を描いていきます。最初は想像していた以上に線がガタガタに。きれいに書くには練習あるのみです。絵が描けたら時間をおいて、アイシングシュガーが乾けば、完成!
「クッキー生地から作ると1日がかりの大仕事になりますが、気軽に楽しみたいときは、市販のクッキーを使えば2〜3時間で取り組めます。また、乾くのが待てないときは、予熱したオーブンなどに入れるという裏技も。
また、最初にお伝えしたクリアファイルに描く方法を使えば、アイシングシュガーのパーツを作れるので、作品に立体感を出すことができます。例えば、クリアファイルの上で、てんとう虫のイラストを描いてパーツを作り、グリーンに塗った四つ葉のクローバー型のクッキーにのせると、てんとう虫の部分が立体になってかわいいんです。クッキーで動物を作って、リボンなどはパーツにして装飾するのもいいですね」
「アイデア次第でさまざまな表現ができるので、ぜひ研究してみてください。私は普段から、思いついたアイデアをノートに書き溜めています。
また、いただきものラッピングなどをしっかり見ておくことも、自分がアイシングクッキーをプレゼントするときの参考になりますよ。そういったものを日頃から自分のなかにストックしておくと、より楽しめるのではないでしょうか」
Profile
フランス料理・時短料理研究家 / 武 陽子
オーダー製菓工房「アトリエ桜坂AZUL」、製菓料理教室[桜坂AZUL]主宰。ホームメード協会やル・コルドンブリーなどでフランス菓子を学び、製菓料理教室およびオーダー菓子工房をオープン。ギフトやウエディング、企業の販促ツールなども手がける。テレビや雑誌、ウェブなどのメディアやイベントにも出演し、ママ層から圧倒的な支持を集めている。
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Instagram https://www.instagram.com/sakurazaka.azul/
取材・文=鈴木翔子 撮影=我妻慶一