「ノンアルコール」や、アルコール度数の低い「ローアルコール(低アルコール)」のお酒が昨今、注目を集めています。もともと健康志向の高まりや多様化の流れのなかで、ビールを中心にワインや日本酒などでもノンアルコールの商品はありましたが、2021年はより勢いづいている様子。
たとえば、アサヒビールが“スマートドリンキング”の提唱とともに今春発売した、アルコール度数がたった0.5%の「アサヒ ビアリー」が話題に。また、ノンアルコール仕様のスピリッツ(蒸溜酒)をはじめ、国内外からさまざまなブランドが、日本の市場に進出しています。
このトレンドの背景とは? 商品のバリエーションはどこまで広がっている? さらに、“ノンアル”“ローアル”をどのように楽しんだらいい? 専門家へのインタビューとともに解説していきましょう。
“まるでお酒な飲み応え”に進化! ノンアル市場はますます拡大
ノンアルコールドリンクの新商品でヒットしている代表格といえば、サントリーの「のんある晩酌 レモンサワー ノンアルコール」。2021年3月の発売から約2か月で、1000万本の出荷数を突破(250ml換算)しており、ノンアルコール飲料としては異例の売れ行きとなっています。
また前述の「アサヒ ビアリー」も好調で、6月29日からは首都圏・関信越の1都9県で第2弾となる「アサヒ ビアリー 香るクラフト」を新発売。第1弾と同じくアルコール度数は0.5%で、フルーティな香りとコクを感じられる味が特徴です。なお、日本の酒税法では「アルコール度数1%以上」がお酒の定義となるため、0.5%の場合はソフトドリンク扱いに。缶のラベル表記も「炭酸飲料」となります。
このようなコンビニやスーパー向けの小売り商品がヒットする一方、バーでは「モクテル」と呼ばれるノンアルコールカテゴリーが数年前から注目の的に。これは“擬似”を意味する「モック」と「カクテル」を組み合わせた造語で、お酒が苦手な人を中心に親しまれてきました。ただ最近は、お酒が苦手でなくても、あえてモクテルを好んで飲む人も珍しくなくなってきているのです。
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日本で“ノンアル”が支持されはじめている理由
では、なぜ最近になって、ノンアルコールやローアルコールのお酒が注目されはじめたのでしょうか? 歴史やトレンドに詳しい、日本初のモクテル専門店「Low-Non-Bar」(ローノンバー)の店長、高橋弘晃さんに教えていただきました。
日本におけるロー/ノンアルコール人気の先には、欧米で生まれたカルチャーが関係していると、高橋さんは言います。それは、「ソバーキュリアス」というスタイル。これは直訳するとソバーが「シラフ」、キュリアスが「〜したがる」というニュアンスをもっており、「積極的にシラフになりたい」といった意味を表します。
「欧米人は日本人よりアルコールに強い体質ですが、体に残る人はいて、依存症やアルコールの過剰摂取がひとつの社会問題になっています。そこで生まれたのが、自らの意思で適量を調整し生活を豊かにしようという『ソバーキュリアス』の考え方。モクテルは1920年代のアメリカの禁酒法時代に誕生したといわれています。当時はクラシカルだったレシピも、近年はより洗練され、ハイクオリティな味わいになっています」(「Low-Non-Bar」バーテンダー兼店長・高橋弘晃さん、以下同)
海外のさまざまなフードが日本で広まるのと同じように、またグローバル化や多様化の流れの中で、少しずつ日本でも「ソバーキュリアス」が浸透。さらに日本の場合は、働き方改革が大きく影響していると高橋さんは言います。
「アルコールの好き嫌いにかかわらず、身体的に合わない人が日本には多く、半数近いとも言われています。しかしながら日本には昔ながらの『飲みニケーション』があり、仕事などの付き合い上でお酒を飲まなければならない場面が少なからずありました。ただ、こうした文化が徐々に“パワハラ”もしくは“アルハラ”とも表現されるような文脈でとらえられるようになり、働き方改革とともに薄まりつつあります」
たとえば今、アサヒビールが掲げる“スマートドリンキング”は、「お酒を飲む人・飲まない人、飲める人・飲めない人、飲みたい時・飲めない時、あえて飲まない時など、さまざまな人々の状況や場面における“飲み方”の選択肢を拡大し、多様性を受容できる社会を実現するために、商品やサービスの開発、環境づくりを推進していく」というもの。まさにこの考えが今、日本に広がりつつあるといえるでしょう。
では、お酒好きがあえてノンアルコールを選ぶ理由には、いったいどういう心理があるのでしょう。欧米と同様に、生活を豊かにしようという考え方によるものでしょうか?
「やはり健康志向は関係していますね。たとえば高齢の方のなかには『酒はもう一生分飲んだ』ということで、ノンアルコールを楽しむ方もいらっしゃいます。あとは、お酒は好きだけど酔いたくない、酔っている時間をクリエイティブなことに使いたい、酔いが回って眠くなることを避けたい、といった心理です」
その一方、お酒が飲めない人はなぜ一般的なソフトドリンクではなく、あえてお酒をモチーフにしたノンアルコールドリンクを選ぶのでしょうか?
「アルコールが苦手でも、バーの雰囲気が好きという方はいらっしゃいます。おいしいカクテルを作るバーテンダーでも、お酒が飲めない、弱いという方は少なくありませんし、実は私自身もお酒に強いわけではありません。また、レストランにおける食前や食後に、コーヒーやお茶のほかに楽しめるドリンクがあるなら飲みたいということで、モクテルを希望される方もいらっしゃいます」
「ノンアルコールドリンク」と「ソフトドリンク」はなにが違うの?
「Low-Non-Bar」で提供されているモクテルには、どんなメニューがあり、どんな味わいなのでしょうか? 高橋さんに作っていただきました。
1杯目は、店名を冠した「Low-Non-Bar」。4種のベリー、赤パプリカ、グレープフルーツ、シュラブ オレンジ&ジンジャーで構成し、炙ったローズマリーが上品な香りのアクセントになっています。
「バーに馴染みのない方でも飲みやすく、モクテルの魅力が伝わりやすい一杯として考案した、シグネチャーカクテルです。ベリーのフルーティな甘酸っぱさが主体ですが、シュラブの酸味やパプリカの野性味を感じる、大人な味わいが特徴ですね。なおシュラブというは、ヨーロッパで飲まれていたビネガーベースのドリンクで、柑橘類はクエン酸の爽やかな酸味ですが、シュラブは酢酸なのでのどにひっかかる酸味があります」
もう一杯は「フレンチ’20」というモクテル。ジンとシャンパンで作るクラシックカクテル「フレンチ75」を、ノンアルコールスタイルで再構築しています。
「『フレンチ75』は、フランスの大砲がモチーフになっていて、アルコール度数の高いカクテルです。この「’20」は度数が低いという意味と、開業の2020年をかけました。ベースのノンアルコールジン『ネマ』は、バラがキーボタニカルのひとつになっているので、フローラルな香りを印象的に感じていただけると思います」
どちらのモクテルにも、一般的なジュースやソフトドリンクにはない奥行きや複層性、各素材の相乗効果によって重なり響き合うふくよかな味の厚みを感じました。高橋さんはこの違いを、嗜好性でとらえていると言います。
「明確な定義はないのですが、極端に例えるとすれば、のどが乾いてゴクゴク飲むお茶はソフトドリンク。一方で、京都の茶屋でたしなむ抹茶には、のどの渇きとは別の癒しの側面があると思います。前者が生理的欲求を満たすためのものであれば、後者は嗜好性や知的好奇心を楽しむものといえるでしょう。
お酒にも、発酵や蒸溜などを経たアルコールの複層的な味わいや酔いという嗜好性があると思います。例えば一般的なジンジャーエールにウォッカを加えるだけで、モスコミュールという嗜好品になるように。ただ、ノンアルコールの場合は、お酒による嗜好性を加味できないので、味や香りを独自に調合し組み立てることで嗜好性を高めているのです」
では、嗜好性のあるノンアルコールドリンクは、どこで手に入るのでしょうか? 調べてみると、「nolky/ノルキー」というオンラインショップにプロ御用達の商品群がずらり。トレンドの「クラフトコーラ」や「コンブチャ」なども、多彩にそろっています。
身近な果物とシロップで“ノンアルカクテル”が作れる!
高橋さんが作るようなプロの味とまではいかないまでも、モクテルは身近な店で手に入る果物を使って、自宅で気軽に作ることができます。ベースは、カシスリキュールの元祖として有名なフランスの「ルジェ」から今春新発売された商品が、比較的手に入れやすいでしょう。
「ラグート カシス」と「ラグート ピーチ」は果実由来のフルーティな香り、フレッシュさと心地よい甘さが楽しめる味わい、飲み終わりに広がる長い余韻が特徴。どちらも、原液1に対して炭酸水を5の割合で入れ、1/8にカットしたオレンジを4個加えれば完成。生カシスオレンジテイスト、生ファジーネーブルテイストのモクテルが完成します。
ノンアルコールドリンクは、おなじみのビールテイスト飲料やレモンサワー風ドリンク以外にも、バリエーションはさまざま。次のページでは、ほかにも「アルコールは飲めないけれど、“お酒”は飲みたい!」に応える、代表的な商品を紹介します。