冬といえば鍋料理。そして、その筆頭はおでんでしょう。コンビニでも定番商品となっており、レジ前におでんコーナーができると冬の訪れを実感する人も多いのでは? 近年は、日本食を超えてフレンチや中国・四川、韓国おでんなど海外の食文化とも組み合わさって、専門店も増えています。
京の日本料理教室を主宰する料理・調理道具研究家の北山みどりさんに、おでんの魅力や最新トレンドから、基本のおでんとアレンジレシピにいたるまで教えていただきました。
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鍋ランキング第1位! 国民食おでんの魅力とは?
紀文アカデミーが行う「鍋ランキング」では、おでんが25年連続で第1位だそう。なぜそこまでおでんが愛される?
「大きく分けて3つの魅力があります。まずは、出汁(だし)が基本となっていること。だしは、日本食のベースです。そこに、甘味や油分を含む食材でコクが付けられれば、繰り返し食べたくなるおいしさになります。
2つ目は、日本人の好みに合う煮物と鍋料理のいいとこ取りであること。日本人の好きな煮物を、鍋のように大勢で囲めることがおでんの良さです。じゅわっと味の染みた大根、もっちりした巾着、ふんわりしたはんぺんなど、一つの鍋の中でいろいろな香りや食感を味わいながら、みんなで食卓を囲めば会話も弾むことでしょう。
そして、3つ目は手軽に作れることです。だしは、幅広い食材を受け入れてくれるので、失敗する方がむずかしいほど。また、具材を切って煮込むだけなので簡単です。全国にある『金沢おでん』『静岡おでん』『名古屋みそおでん』など、その土地の食材や食文化を活かしたご当地おでんがあるのも、その手軽さが一因だと思います」(料理・調理道具研究家の北山みどりさん、以下同)
伝統のおでん種から変わりダネまで!
北山みどりさんが偏愛するおでん種
さまざまな土地で郷土食でもあるおでんを食してきた北山さん。お気に入りのおでん種ベスト10を教えていただきました。
北山みどりさんのお気に入りおでん種 ベスト10
第1位「はんぺん」/ 日本橋 神茂
「いつも食べているはんぺんと同じものとは思えないほど、ふっくらとして柔らかく、口どけの良いはんぺんです。はんぺんの材料として最上級といわれる鮫肉を使っています。気泡をたっぷりと抱きこみながら、手作業で山型にする。その工程に職人技が光っています」
第2位「カニ面」/ 金沢 赤玉
「金沢おでんは、日本一高級です。カニ面とは、ズワイガニのメスの甲羅に、カニ味噌、内子と言われる卵巣、外子と言われる卵を詰め、カニの身でふたをした贅沢なおでん種のことです。さっとだしに通すことで、うまみたっぷりの上品なカニを楽しめます」
第3位「生麩(粟麩)」/ 京都 麩嘉(ふうか)
「麩嘉は、昔から京都御所にも麩を献上してきた京都を代表する生麩専門店です。粟生麩は、粟を混ぜ
んだ生麩。粟のプチプチとした食感と生麩のとろけるような食感がくせになります。だしを吸った淡白な麩をほおばれば、うまみがじゅわっと口に広がります」
第4位「つけあげ」/ 鹿児島 玉撰(ぎょくせん)
第5位「生ゆば」/ 京都 湯波半(ゆばはん)
第6位 車麩(くるまふ)
第7位「深川揚げ」/ 東京 美好
第8位「さつま揚げ」/ 吉祥寺 塚田水産
第9位 竹の子の水煮
第10位 レタス
「さつま揚げの由来には諸説ありますが、その一つは琉球時代の揚げ物『チキアーギー』が鹿児島に伝わり、名前が変化したことで鹿児島では『つけあげ』と呼ばれるようになったというものです。“摩の国”の揚げ物ということで『さつま揚げ』と呼ばれています。鹿児島の玉撰のつけあげ(さつま揚げ)は、すり身に高価なハモを加えることで、弾力が増しプリプリッとした歯ごたえをしています。
その他では、あさりが入った東京・美好の『深川揚げ』や、京都・湯波半の『生ゆば』も美味です。『車麩』は、だしが染みてじゅわっとおいしいですし、味の薄い『竹の子』がだしによって味わいが深くなり、しっかりとした歯ごたえが楽しめるのもいい。日本人は歯ごたえを大切にしますね。歯ごたえと言えば、おでん鍋にさっとくぐらせて食べる『レタス』も、シャキッとして、とてもおいしいですよ」
四川、麻辣、フレンチおでん…!?
おでんの最新トレンド
海外のおでんも流行っていますが、昨今のトレンドについて教えてください。
「話題になっているおでんは、『静岡おでん』『韓国串おでん“オムク”』『中国麻辣(まーらー)おでん』『フレンチおでん』でしょうか」
・静岡おでん
「鰹と昆布だしに、牛すじのだしが加わった黒いスープが特徴。牛すじ、黒はんぺん、練り物、大根などの具材を串に刺し、青のりや魚のだし粉をかけて食べる郷土料理です」
・韓国串おでん
「オムクと呼ばれ、細長い魚の練り物が串に刺さったおでんを指します。屋台料理が盛んな韓国では定番メニューです」
・中国麻辣おでん
「火鍋のスープが元。唐辛子と花椒が効いた、辛味のあるスープは、中国ではコンビニでも販売されているほど馴染みのある味です」
・フレンチおでん
「コンソメや魚介など洋風のだしで煮込んだ具材を、ポルチーニソースや、ホワイトソースなど、フレンチのソースでいただきます」
「異なるおいしさを求め、さまざまなおでんが盛りあがってきたことは、ごく自然なことだと感じています。おでんはだしがベースになっているので、さまざまなアレンジを受け入れるだけの懐の広さがあります。また、ソースやタレ、薬味も使ってアレンジもできるのも楽しいですね」
続いて北山さんに、基本のおでんと作り方と、家庭で楽しめるアレンジレシピを教えていただきます。下準備と作り方とで、分けて見てみましょう。
薬味も楽しみたい「基本のおでん」レシピ
「焼いた鶏肉が入ることで、うまみがアップした基本のおでんです。ベースのだしは、鰹節と昆布。だしを取った昆布で結び昆布を作れば、食材を無駄なく利用できます。もちろん、だしパックでだしをとってもかまいません。今回は、前日に仕込まなくても1時間程度手軽におでんが作れるように、手間のかかる大根を電子レンジで柔らかくしています」
【材料(2人分)】
〈下準備が必要な食材〉
・鶏もも肉……1/2枚
・こんにゃく(あく抜き済のもの)……50g
・大根……100〜150g
・だしを取った昆布……適宜
・絹さや……20g ※なくてもOK
・ゆず……半個分の皮 ※なくてもOK
・おでん種セット……200〜300g
・ゆで卵……2個
・だし汁……1000ml
〈A〉
・みりん……25ml
・淡口醤油……25ml
・酒……25ml
・からし、ゆずこしょう……お好みで
【下準備】
・鶏肉
フライパンでこんがり焼き、粗熱が取れたら半分に切る。余分な油をキッチンペーパーで押さえておく。「鶏肉をフライパンでこんがり焼くことで、だしに香ばしいうまみが加わります。後ほど煮るので、この時点では7〜8割り火が通っていれば問題ありません。おかず感を出したいので、半分と大きめに切ります」
・大根
大根は厚めに皮をむき1.5cmほどの厚さにし、バツ印の隠し包丁を入れる。耐熱容器に、大根がひたひたになるくらいの水を加え、レンジ(600W)で7分加熱する。「大根の皮周辺は、繊維が多く筋ばっているため、皮は厚くむきましょう。レンジ加熱した大根は、煮崩れしにくいのがメリットです」
・こんにゃく
厚みを半分にして、全体に斜めの切り込みを入れ、 三角に切る。「短時間で味が染みこむように切り込みを入れます。リズムよく包丁を動かすことで表面に切り込むことができます」
・ちくわ
斜めに切る。
・ちくわぶ
ちくわと同じく斜めに切る。
・はんぺん
1/4の三角に切る。
・昆布
だし昆布を細長く切り、ぎゅっと結ぶ。「煮ることで段々とほどけてしまうため、ぎゅっと縛りましょう」
・絹さや
筋を取り、耐熱皿に入れふたをしレンジ(600W)で1分加熱する。「筋を取った後、反対側のひげは残したままでOK。日本料亭では、若い芽を摘むといって、あえて残しているお店も多くあります」
・ゆず
皮を幅広くむき、千切りにする。「ゆずは、皮も実も冷凍ができます。千切りにすると、煮物や酢の物など、冷凍のまま添えることができるので、千切りにして冷凍しておくと良いでしょう」
【作り方】
1.だし汁を温めてAの調味料を入れる。下準備した大根・こんにゃく・昆布・鶏もも肉・ゆで卵を中火で20〜30分煮る。
「練り物は歯ごたえをあるていど残したいので、大根が煮えたあと、最後の仕上げで入れます。ちくわぶの入れるタイミングを迷われる方もいらっしゃると思います。大根を入れるタイミングで一緒に煮ると味が染みこみます。歯ごたえを残したい方は練り物を入れるタイミングで入れましょう」
2.大根が柔らかくなったら、残りのおでん種を加えてひと煮立ちさせる。
「練り物を入れながら、綺麗に盛り付けていきましょう。いろいろな色が表面に来るように、赤や白の食材を全体にバラつかせながら置きます。具材が見えるように斜めに差し込むといいですね」
3.茹でた絹さやと、ゆずの皮をちらす。好みでからし・ゆずこしょうを付けて食べる。
「あおさ粉やだし粉をつけて食べるのもいいでしょう。おでんのルーツは、味噌田楽と言われています。愛知県では味噌ダレをつけて食べる、味噌おでんが一般的です。好きな薬味をいろいろためして、お気に入りを探してみるのもいいですね」
スパイシーでコクまろ! 〆のうどんもおいしい「カレーチーズおでん」
「カレーのスパイシーさと、牛乳とチーズのまろやかなコクがおいしいおでんです。しめのうどんも楽しみになる味わいです。牛乳の代わりに生クリームを入れるとさらにリッチな味に。おでんは家庭によって、作る分量が変わります。具材を入れる前に味見をし、スープよりも少し薄いぐらいの味を基準にするといいでしょう」
【材料(2人分)】
〈下準備が必要な食材〉
・豚バラ薄切り肉……4枚
・キャベツ小……1/4個
・ブロッコリー……4房
・厚揚げ……1/2枚
・じゃがいも……2個
・大根……200g
・にんにく……1片
・ゆで卵……2個
・ソーセージ……4本
・オリーブオイル……大さじ1
・牛乳……100ml
・カレールー……60g
・ピザ用チーズ……50〜100g
〈A〉
・水……1000ml
・コンソメ……1個
・オイスターソース……大さじ1/2
・塩……2つまみ
【下準備】
・キャベツと豚バラ肉
芯を残して櫛形に切り、豚肉で巻き、上から爪楊枝でとめる。「キャベツを豚肉で巻くことでボリューム感がアップ! 煮込んでいる間に崩れないよう爪楊枝でしっかりとめましょう」
・ブロッコリー
房を分け、耐熱容器に入れふたをしレンジ強(600W)で1分加熱する。
・厚揚げ
1枚を1/6の大きさに切る。
・大根
厚さ1cmの半月に切る。
・じゃがいも
皮をむく。
・にんにく
皮をむいてスライスする。包丁の腹で潰す、みじん切りでもOK。
【作り方】
1. 鍋にオリーブオイル・にんにくを入れて炒め、香りが出てきたらじゃがいも・大根を入れて炒める。
「丸のままのじゃがいもでも、20〜30分煮ることで火が通ります。煮崩れ防止のために、根菜類を油でコーティングしましょう」
2. 鍋にAとキャベツ豚バラ巻き・厚揚げ・ゆで卵を加え、じゃがいもが軟らかくなるまで20〜30分ほど、中火で煮込む。
「スープにオイスターソースをいれることで、コクが生まれます。ソーセージは食感を残したいので、ソーセージ以外の食材を入れましょう」
3.じゃがいもが煮えたら、ソーセージを入れて一煮立ちさせる。火を止め、牛乳、カレーのルーを加えて溶かす。
「火をいったん止めてルーを入れることで、煮崩れさせることなくル—を溶かすことができます」
4.食べる直前に鍋を温め、ブロッコリーを入れてピザ用チーズを散らす。
「最後にブロッコリーを入れることで、彩り良く仕上げます。厚揚げとカレーの組み合わせが意外だと思われるかもしれませんが、厚揚げとカレーは良く合います。スープはやさしく、とろっとまろやかで後引くおいしさです」
ほんわり辛い、楽しい串タイプの「串おでん にんにく風味」
「昆布と鰹のだしに、にんにくの風味と鶏手羽のだしが加わった、うまみがしっかりしながらもあっさりとしたスープのおでんです。焼肉のタレと、コチュジャンを付けて食べます。手羽先は臭みがあるのしっかりと下茹でするのがポイントです。串に刺すことで、楽しい食卓を演出できます」
【材料(2人分)】
〈下準備が必要な食材〉
※串を刺す食材
・トッポギ餅……6本
・ちくわ……2本
・さつま揚げ……2枚
・こんにゃく……1/2枚
・うずら卵の水煮……1パック
・竹串……適宜
・手羽先……4本
・ねぎ……1/2本
・大根……200g
・にんにく……2片
・鷹の爪……1本
・ごま油……小さじ1
・水……1000ml
・だしパック……2パック
〈A〉
・薄口醤油……大さじ2
・みりん……大さじ2
・塩……小さじ1
・焼肉のたれ……大さじ2
・豆板醤……適宜
【下準備】
それぞれの具材に串を刺す。
・トッポギ
5分ほどお湯につけ、波打つように串を2本刺す。「煮込むと膨張するため、細い竹串の時は、2本刺すといいでしょう。波打って刺すことでとで具材が外れにくくなります」
・ちくわ
縦半分に切り、同様に波打つように串を刺す。
・さつま揚げ
半分に切り、同様に波打つように串を刺す。
・こんにゃく
同様に波打つように串を刺す。
・うずらの卵
3個を刺す。
・手羽先
耐熱容器に入れ、1/2カップの水を加えフタをし、レンジ(600W)で8分加熱後、水でさっと洗う。
「鶏手羽には骨と血があるため、臭みがあります。しっかり下茹でし、最後は水で洗うことで臭みをとりましょう」
・ねぎ
斜めにスライスする。
・大根
太めの拍子切りにする。
・にんにく
皮をむいてスライスする。包丁の腹で潰す、みじん切りでもOK。
・鷹の爪
縦半分に切り、種を取りだしておく。
【作り方】
1.厚めの鍋にごま油・にんにく・ねぎを入れ、火をつけて香りが出るまで炒める。
「炒めたねぎの香味油は欠かせません。うまみと風味をアップさせてくれます」
2.香りが出てきたら、A・鷹の爪・手羽先・大根・こんにゃくを加えて、大根が軟らかくなるまで煮る。
「鷹の爪の種は辛いので、辛いものが苦手な方は種を取り除きましょう。大根は、他の串に合わせて、厚めの拍子木切りにします。大根があるとおでんらしくなりますが、おでんに合わせて切り方を変えるだけで、雰囲気が変わりいつもと違ったおでんを楽しめます」
3.2に残りの具材を加え、さらに10分ほど煮込む。 焼肉のたれと、豆板醤を混ぜたものに付けて食べる。
「韓国おでんは、日本の辛子(からし)のように、“ヤンニョムダレ”といわれるコチュジャン中心の辛味のある甘辛いタレにつけて食べます。今回のおでんも同じように、甘辛いタレとコチュジャンで味わいましょう」
基本のおでんに始まり、カレーや中華、フレンチと幅広い味を楽しめる懐の広いおでん。おでんに合わせて、あおさ粉やみそ、柚子胡椒など、タレや薬味で、さまざまなアレンジを楽しめるのもおでんの魅力です。今年の冬は、いつもとは違うおでんに挑戦し、みんなで感想を言い合いながら、楽しい食卓を囲ってみてください。
Profile
料理家 / 北山みどり
京都調理師学校で京料理を学ぶ。食育活動や、料理教室、企業のコンサルティングなど幅広い活動を行いながら、「幸せは食から」をテーマに食のおいしさや楽しさを伝えている。古今東西の食べもの知識や、食にまつわる伝統文化、歴史にも造詣が深く、故事来歴の伝承も行う。家庭にある調理道具を活かしながら、日本料理のプロの技を伝える料理教室は、おいしく、楽しいと評判。
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取材・文=加賀美明子(Neem Tree) 撮影=真名子