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未来のための、“人生の棚卸し”。親といっしょに始めたい、
「エンディングノート」のメリットと書き方

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「エンディングノート」を知っていますか?

エンディングノートとは、自分の人生を振り返って記録したり、自分の望む葬儀などを書いたりできるノートのこと。昨今話題の“終活”の中でも、気軽に取り組めるものとして、書店や文具店でも陳列されています。

言葉だけ聞くとネガティブなイメージを受けるかもしれませんが、終活カウンセラー協会代表・武藤頼胡さんによると、実はとてもポジティブなものなのだそう。いったいそれはなぜ? またエンディングノートはどう選び、何を記すべき? 終活やエンディングノートを、明るく前向きに取り組めるメソッドを教えていただきました。

 

終活とは“死に支度”であると同時に、“生き支度”でもある

“終活”と聞くと、「自分が死んだ後のことを考えて、周囲の人が困らないように生前整理をすること」と考えている方が多いかもしれません。しかし、終活の本当の意味は、“終わりのための準備”“死に支度”だけではありません。今までの自分を振り返ることで進むべき人生を見つけ、未来の計画を立てる、“生き支度”という意味も含まれているのです。

「母の死を経験したとき、葬儀や供養はしっかりと行ったものの、母はこのやり方を望んでいたのか、永遠に正解が分からずに後悔が残りました。自分の意思が残せる最後の瞬間のため、私が自分自身や大切な人のために何ができるのだろうと考え、終活の大切さを日々実感しています」(終活カウンセラー協会代表・武藤頼胡さん、以下同)

終活カウンセラーの生みの親である、武藤頼胡さん。“終活”という考えの普及に尽力している。
終活カウンセラーの生みの親である、武藤頼胡さん。“終活”という考えの普及に尽力している。

誰もが、1年後に元気に生きているとは限りません。しかし、だからといって悲観して生きていく必要もないのです。旅立つときに「いい人生だった」と思えるような悔いのない人生を歩むために…… 。そんな終活の意義をより実感でき、なおかつ終活の第一歩におすすめをしたいのが「エンディングノート」です。

 

エンディングノートを書くと、これからの生き方が見えてくる

エンディングノートは、大切な人へのメッセージを書いたり、自分が亡くなった後の葬儀や相続のことを書いたりできるノートです。“終活”という言葉にも感じたように、それだけ聞くと、“死ぬための準備をするノート”と思ってしまいがちですが、ノートの中にはそのほかに、自分の過去を振り返ることができるようなページが用意されています。それを使い、今まで生きてきた人生を振り返ることで未来が見えてくるのだと、武藤さんは言います。

「例えば、『服の修復が得意なのは、小さいころ祖母にお裁縫を教えてもらったからだ』とか、『お寿司が特別に感じるのは、実家でお祝い事があったときに食べていたからだ』とか。過去の経験が積み重なって、今の自分がいるということに気付けるはずです。そこから、その時のこともう一度やりたいと思ったり、教えてくれた人に感謝を伝えたいと考えたり。自分がこれからしたいこと、するべきことが、“人生の棚卸し”を通して見えてきます」

「人生100年時代」と呼ばれる昨今、あなたやあなたの親が100歳まで生きる可能性は十分にあります。これからの人生をより楽しく生きるため、今のうちに後悔の種となりそうなことを明確にして物事をはっきり見えるようにしていきましょう。

 

自分が何を書きたいかを考えてエンディングノートを選ぶ

写真の、コクヨの「もしもの時に役立つノート」など、いくつものエンディングノートが市販されている。
写真の、コクヨの「もしもの時に役立つノート」など、いくつものエンディングノートが市販されている。

市販されているエンディングノートにはたくさんの種類があるので、ひと目で「これが自分に合っているものだ」と分かる人はほとんどいないと思います。では、どんなノートを選べばいいのでしょうか?

「まずは、自分が何に重きを置いて、書きたいかを考えることをおすすめします。『相続や不動産など、財産のことをしっかり書き残したい』『葬儀のことやお墓のことを重点的に書きたい』『家族へのメッセージをたくさん書きたい』など、ノートに求める内容と、選ぶ基準ができてくるはずです。自分の理想のノートを完成させるために必要な情報を意識してみましょう」

エンディングノートは、預貯金について、不動産についてなど、書き留めるべきテーマ、項目がまとまっており、ページごとのフォーマットにのっとって書いていけばいいので、難なく取り組める。
エンディングノートは、預貯金について、不動産についてなど、書き留めるべきテーマ、項目がまとまっており、ページごとのフォーマットにのっとって書いていけばいいので、難なく取り組める。

 

エンディングノートは更新していくのがおすすめ

エンディングノートは、一度書いたら終わりだと思っていませんか? しかし、人の気持ちはすぐに変わるものです。武藤さんは、数年に一度は見直す機会を設けるのがおすすめだそう。

「私は1年に1度、誕生日に新しいノートを書くようにしています。8年間継続しているのですが、8年前のノートを見ると、今の自分なら書かないような内容が書かれていて面白いんですよ。そして、長い人生の中のたった1年でも、世の中の状況や自分の体、お金のことは大きく変わっていることが多いんですよね。今の自分をしっかりと残す意味でも、『ノートを書き直す』という意識を持っていただけるといいと思います」

 

遺言書とエンディングノートは別物。セットで使うのが理想的

似たものだと考えられやすい「遺言書」と「エンディングノート」は、何が違うのでしょうか? 大きな違いは、法的効力があるかないかだと、武藤さんは説明します。

「エンディングノートには法的効力はありませんが、だからこそ気軽に何回も書き直すことができます。一方、遺言書を書くには、自分のお金や持ち物を正確に把握しておかなければなりません。エンディングノートは、その前準備にもなるのです。エンディングノートを書きながら自分の人生や周囲の人、モノをしっかりと整理することで、初めて遺言書が書けるはず。どちらかひとつではなく、遺言書とノートは対であるということをイメージしていただくといいでしょう」

 

人生最後のイベントが葬儀でありお墓である

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ノートには、葬儀やお墓のことを書くページも存在しています。「自分が死んだ後のことを考えるのだろう」とマイナスに捉えがちですが、「今日からどんな人生を歩みたいか」を思い描くと、自分の人生の締めくくりにあたる葬儀やお墓についても、考えてみたくなってきませんか? 誰を呼びたいか、宗教は何か、遺影は、喪主は……と、実は考えておきたい項目がいくつもあります。お墓についても、自分が入る予定のお墓をきちんと決めておくと、残された人たちがあなたの意思を尊重して、迷いなく葬祭の準備を進められるのです。

「お葬式やお墓について、分からないことは今のうちに明確にしてノートに記しておきましょう。特にお盆やお彼岸の時期は、『そういえばお墓のことだけど……』と話題に出すことも自然なので、気軽な話題として家族とコミュニケーションをとりながら考えてもいいかもしれませんね」

エンディングノートには、葬儀や墓に関する希望も記しておける。
エンディングノートには、葬儀や墓に関する希望も記しておける。

 

親に勧める前に、まずは自分で取り組んでみる

エンディングノートについて深く知ると、「親にノートを書いてほしい」と考える人も少なくないはず。ですが、自分でエンディングノートを書いた経験がないまま、何が良いのか悪いのかも分からず親に勧めようとしてはだめ。まずは、「自分が取り組んでみること」が大切だと、武藤さんは話します。

「いきなりノートを差し出して書いてもらおうとするのではなく、まずはあなたが実際に書いたノートを見せて、『こんなことを書くノートなんだよ』と紹介してみてください。実際に書くことで気づいたこと、楽しかったこと、書きにくかったことも伝えましょう。自分事として伝えることで、親が興味を持ってくれる可能性があります。書いてみようという気持ちになってくれたら新しいノートを渡して、一度書いてもらうのがいいでしょう。その際も、ただ渡して終わりではなく、親のこれまでの人生について話を聞きながら一緒に書いてみるといいですよ」

 

さらに最近では「動画で遺書を残す」という、新しいエンディングツールも誕生しています。

 

「動画で残す」という、新しいエンディングの仕組み

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その先駆けとして2020年にリリースされたのが、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんがプロデュースする、「ITAKOTO」というサービスです。

「ITAKOTO」は、今まで言えなかったことや言いづらかったことなどを、遺書動画として残すことができるスマートフォン専用アプリ。発行されるURLを家族や友人など自分の大切な人に送信すれば、内容を共有し、いつでも見ることができます。

遺書撮影はスマートフォンやタブレットのカメラを使うので誰でも簡単に撮影可能。
遺書撮影はスマートフォンやタブレットのカメラを使うので誰でも簡単に撮影可能。

20200918_atliving_endingnote_app
iOS

ITAKOTO
無料(App内課金あり)

法的拘束力はありませんが、アプリのガイドに従って簡単に遺言を残すことができるので、気軽にはじめることができる“エンディング”の新しい形として、今後さらに注目を集めそうです。

 

「まだ早い」 そう思ったときに始めてみよう

エンディングノートや「ITAKOTO」といったツールは、自分の後悔と周囲の人の後悔を減らすための、ひとつの手段であると言えます。自分や家族が元気なうちから終活に取り組み、自分がこれからどのように生きていきたいか? どういった形で人生を終えたいか?「いい人生だった」と思えるその時のために、今から“エンディング”を初めてみませんか。

Profile

一般社団法人終活カウンセラー協会 代表理事 / 武藤頼胡(むとうよりこ)

1971年生まれ。終活カウンセラーの生みの親。2011年に終活カウンセラー協会を設立。「終活」という考えを普及するべく、全国の公民館や包括センター(行政)での講演を年間200回以上行うなど、日本の高齢者を元気にするための活動を続けている。

 

取材・文=菊池真帆(Playce) 撮影=中田 悟