フランス料理店で料理人として働いたのち、家政婦に転身したタサン志麻さん。スーパーで買える身近な食材でフランス料理が作れるという魅力的なレシピは、すでに多くのひとがご存知でしょう。
その志麻さんに、家政婦として1500軒以上もの家庭や台所を見てきた経験から、家事との上手な付き合い方を教えていただきました。料理を効率よく行うコツや調理道具のこと、買い物や掃除のし方、そして食事への思いなどを通して、志麻さんの魅力をたっぷりお届けします。
作るときも食べるときも、楽しくすることが何より大切
志麻さんが、パートナーのロマンさんと2人のお子さん、2匹の猫たちと一緒に暮らしているのは、静かな町にある古民家。テレビ番組や雑誌などでの活躍も多くなりましたが、本業である家政婦の仕事を、変わらず大切にしています。そんな忙しい中でも、お子さんたちとの時間や家族の団らんを大切にしている志麻さんは、いったいどのように家事をこなしているのでしょうか?
「とにかくすべての根底にあるのは、“楽しく楽にする”こと。料理にネガティブな気持ちを持っている方や、大変だと感じながら頑張っている方も多いのですが、食べることって毎日絶対にやらなくてはならないことですから、本当は楽しく作れたらいいですよね。
大切にしてほしいのは、何よりもまず自分が心地よく生きられること。どうやったら家事が楽しくなるかな、って考えてみるといいかもしれません。我が家では一汁三菜ではなく、フランス流に大皿で出したものをみんなで食べるスタイルにしているので、作るのも食べるのも片づけるのも、とても楽なんですよ」(志麻さん)
1. スーパーはお肉と魚のコーナーに直行する!
実際に、志麻さんがどのような夕食づくりをしているかを伺ってみると、買い物の仕方から特徴的でした。
「自分が今日、何を食べたいかなって考えながらその日の買い物をするのが好きなので、できる限り毎日スーパーに行って、その日の分をその日に買います。おすすめの買い物の仕方は、入り口にある野菜コーナーを素通りして、お肉と魚のコーナーから見ること。今日はお肉の気分なのか魚なのか、お肉なら何がおいしそうで安いか……、そこが決まってから戻って野菜を見て、どんなものを合わせるか考えます。
もちろん買い物の仕方はそれぞれでいいと思いますが、食べたいメイン食材がはっきり決まってから他のものを見ると、そこに向かって買い物していけばいいので、迷いが少なくて効率がいいんですよ」(志麻さん)
2. メニュー名で考えず「食べたい食材+味」で決める!
メインに使う食材が決まったら、次はそれを“何味で食べたいか”を考えるそうです。
“○○風の○○煮込み”のようにメニュー名で献立を考えてしまったり、買い物の前にあらかじめ献立を決めてしまったりすると、使いたい食材が手に入らなかったときに切り替えしづらくなったり、慣れていないレシピだと、作っているうちに工程がわからなくなって調べなくてはならなかったりしますよね。とはいえ、知っているメニューしか作れなくなると、だんだんマンネリ化もしてきます。
「“何味がいいか”と考える方が、トマト、コンソメ、味噌、クリーム味と、楽にアイデアを広げることができますし、食材が変われば出てくる旨味も違うので、味も見た目もまったく違う料理にすることができます。
たとえば、肉じゃがの作り方を知っているとしたら、材料を鶏肉に変えてコンソメとトマトで煮込めば、まったく違う料理になりますよね。お肉を魚に変えてもいいし、じゃがいもと玉ねぎ以外の野菜を加えてもいい。素材と味付けの分だけバリエーションができるので、レパートリーは無限に広がっていきます。しかも、食材が変わっただけで作り方は肉じゃがと同じですから、楽に作ることができるんです」(志麻さん)
3. レシピ通りに作らないから料理が楽しくなる
手がけたレシピ本がすでに10冊以上にもなる志麻さんですが、実は「あまりレシピに縛られないでほしい」という思いを持っているそう。
「レシピはあくまでも、アイデアの提案にすぎません。人によって味覚は違いますし、今日はちょっと疲れているからしょっぱいものが食べたいな、というときは塩を強くする、というように、そのときの気分や体調に合わせて味付けを考えてほしいなと思っています。
実はそこを意識することこそが、料理を楽しくするポイントでもあるんですよ。レシピを見てその通りに計って作るより、自分でどんなふうにしようかなって、クリエイティブな頭を働かせて作る方がきっと楽しいし、思い通りにできあがったときにすごくうれしいんですよね。
また、和食は味噌にみりんに醤油にと、味を重ねていく“足し算の調理”なので、細かくて複雑な味が表現できますが、バランスをとるのがとても難しいお料理でもあるんです。一方、フランス料理は“引き算の調理”と言われていて、味付けにはほぼ塩しか使わないので、味の匙加減を整えやすいのがいいところ。きっとどなたにもおいしく作れると思いますよ」(志麻さん)
4. 塩で味付けなし! 志麻さん流「つけあわせ茹で野菜」の作り方
メインディッシュに添える茹で野菜は、塩を入れず、水だけで茹でるのが志麻さん流。メインで塩分を取るので、塩分過多にならないようにすることと、どの料理にも塩気があると、全体のバランスが重くなってしまうからだそう。塩気のあるメイン料理と、塩の入っていない茹で野菜を食べ合わせることで、全体の味のバランスがとれ、おいしく食べることができます。
ちなみに志麻さんが作るグラタンのホワイトソースも同じで、入れる具材は塩茹でしたり塩胡椒したりして味付けしますが、ホワイトソース自体には塩を入れないのが特徴です。上に乗せるチーズと具材の塩気の中に感じる塩分のないホワイトソースが、軽さとやさしさのある料理に仕上げてくれます。
5. 魚料理は金曜日! 志麻さん流 魚料理のアレンジの仕方
日々のメニューに、魚の新しい食べ方を取り入れたいときはどうしたらいいか、相談してみました。
「南仏では魚介が豊富ですが、フランスの他の地域では金曜日は魚の日にしようって言われるくらい、あんまり魚を食べないんです」(志麻さん)
魚は、馴染みのない種類のものを扱うのが難しいので、レパートリーが増えていきづらいものですが、よく知っている魚の味付けを変えて食べてみるのが近道なのだそう。たとえば、焼いて大根おろしを添える食べ方が一般的なサンマも、オリーブオイルとニンニクとハーブで味付けをして焼いたり、バターで焼いてレモンとニンニクとクリームでソースを作ってみたり、味付けを変えるだけで新しい料理になりますよ。
続いて、6番目の“秘訣”は? ———フランスの家庭では、鍋やフライパンごと出した大皿料理をみんなで取り分けていただくのが主流。ここには子どもたちへの食育、さらに食とコミュニケーションの関わりに対する考え方も反映されているようです。