2023年4月から、道路交通法の一部改正により、すべての年齢に対して自転車乗用中のヘルメット着用が努力義務化されることになりました。普段、何気なく乗っている自転車ですが、この機会にもう一度自転車の安全ルールを見直してみましょう。併せてヘルメットの最新事情も紹介。自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんに解説いただきました。
自転車は軽車両。
クルマのルールに従うのが基本
「基本的に自転車はクルマと同じように考えましょう」と、遠藤さん。道路交通法上、自転車は軽車両と位置付けられているため、基本的な交通ルールについても、自動車と自転車はほぼ同じ視点で考えるといいのだそうです。
「車が左側通行であるのと同じように、自転車も車道左側を走るのが基本です。たまに進行方向右側の車道を逆走している自転車を見かけますが、大変危険です。また、信号や一時停止、一方通行などの標識も自動車用に従います。ただし、“自転車は除く“や”含む自転車“などと例外が書かれている場合があるので、注意して見て、従うようにしましょう」(遠藤まさ子さん、以下同)
これもNG!?
勘違いしやすい自転車ルール
具体的に自転車の基礎ルールをみていきましょう。
■ 自転車は基本的に歩道NG! 常に歩行者優先で
「歩道と車道の区別があるところでは自転車は車道を通行しなければいけません。自転車通行可という標識があったり、道路での走行が著しく危険だったり特別な理由を除いては、歩道を走ってはいけないことになっています(ただし、13歳未満と70歳以上、体の不自由な方を除く)。
やむをえず歩道を走るときは、歩行者優先で、歩道の車道側を徐行して走ってもよいとされていますが、自転車の徐行速度はおおむね時速7~8㎞が目安なので、実際かなりゆっくりのスピードです。自転車はゆっくり走るとバランスを崩しやすいため、下りて押しながら歩くのがいいでしょう。自転車を押し歩いていると歩行者扱いとなります」
■ 横断歩道はラインを踏んだり横切ったりしない。信号は車用に従って
「横断歩道は歩行者のためにあるものですから、自転車は歩行者を邪魔してはいけません。ラインを踏んだり横切ったりしないようにしましょう。基本的に自転車は車道の左側を走っている状態ですから、わざわざ横断歩道に近づくのではなく、そのまま交差点を直進して結構です。また一般的な交差点(スクランブル交差点以外)を右折しようとする場合は、原付と同じように二段階右折をしなければならないので注意してください」
■ 一時停止や一方通行など、自動車の標識に従う
「自転車は車の一種とされているため、自動車の標識にも従うのが基本です。『とまれ』の道路表示や標識、『一方通行』の標識などは、『自転車は除く』の記載がない限り従ってください。特にうっかりしがちなのは、踏切の一時停止です。踏切の手前で一度止まって、安全確認してから渡ります。信号のない交差点はすべて一時停止して安全確認をするのが基本ですから、どうしたらよいか迷ったらまず止まった方が安心ですね」
■ イヤホン、ヘッドホンは片耳でもNG
「ワイヤレスのイヤホンはいつもつけっぱなし、という人もいるかもしれませんが、これは明確に使用が禁止されていて、片耳でも違反です。罰金は県によって違いますが、2~5万くらいのところもあります。自動車のルールで、踏み切りの警報機やパトカーのサイレンなどがしっかり聞こえるように、車内で音楽を大音量で聴いてはいけないことになっているのと同じことです。スマートホンも同じで、手に持たず、自転車のハンドルに固定していても、注視したり乗りながら操作したりすることは認められません。少しでも運転以外のことに神経が集中してしまう状態がダメ、ということですね」
■ ハンドルに荷物をかけるのはNG
「自転車のハンドルに荷物をかけて走るのはやめましょう、とよく言いますが、それは『荷物をかけてはいけません』という法律・規則ではありません。やむを得ない理由があるときは歩道を走ってもいいとお話しましたが、歩道を通行できる自転車自体にもきまりがあり、最大幅が60cm以内と決められています。自転車はだいたいハンドルの幅で60cmぎりぎりなので、そこに大きな荷物をかけたら60cmをはみ出してしまいます。ハンドルに荷物をかけるとふらつきの原因になってしまうので、おすすめできません。
傘も同様です。手に持って片手運転じゃなければいいでしょ?と言う人もいますが、ほとんどの自治体で傘差し運転自体が禁じられています。さらに言えば、さっきの荷物の例と同じで、傘は広げるとだいたい90cm以上の幅になるため、60cmの規定をオーバーしてしまいます。そもそも、法律がどうこうだけでなく、傘をさして自転車に乗ると風をすごく受けて走りにくく、危ないですし、歩行者に傘がささる危険性も高いので絶対にやめた方がいいですね」
■ 自転車のライトやリフレクターは、前は白系、後ろは赤
「夜間や夕暮れどき、自転車のライトはたとえ照明が多く明るい道でもきちんとつけてください。これは道路交通法で決められています。もし、買った自転車にライトがついていなかったとしても、あと付けのものを購入して必ずつけなくてはいけません。
ライトは単に明るければいい、目立つようにカラフルにすればいい、というものではありません。前は白やクリーム色くらいのもの、後ろは赤、という指定があります。ライトは自分が道を照らすために必要だと思っている人が結構いますが、そうではなく、あくまでも“ドライバーから認識されやすいため”、“自分の姿を見せるため”なんです。だから自分は道が見えているから大丈夫、ではないのです。
車のライトも、前は白、うしろは赤になっています。これをもし前後を逆につけてしまったら、ドライバーとしては“逆走している?”とか、“バックしてきた?”と混乱してしまいます。ライトはLED式、点滅式、いずれもOKなのですが、色が重要です。ただし、後ろのライトに関してはレフレクター(反射板)でも構いません。車がライトを照らしたときに反射したり、反射同様の光を発したりする状態が大事というわけです。ちなみにペダルに取付けられているリフレクターは黄色いや琥珀色のことが多いですが、この色味については法律ではなく、BAAという自転車の安全基準で定められている内容になります」
自転車に乗るときは
命を守るためにヘルメットを
今回の道路交通法の改正に伴い、4月から大人も自転車に乗るときはヘルメットの着用が義務化されます。罰則のない努力義務となりますが、今回の法律改正にはどのような背景があるのでしょうか。
「自転車によるヘルメットをかぶっているとき、かぶっていないときとでは事故のときの致死率が約1.6倍~2.6倍変わると警察から発表されています。ヘルメットをかぶらないで走ったら、死亡する確率がほぼ2倍高くなると考えたらいいかもしれません。自転車ってそんなにスピードが出ないから大丈夫、と思うかもしれませんが、実は速度が問題ではないのです。
自転車の事故で亡くなった方をみると、6~7割近くの人が脳挫傷などの頭のけががもとで亡くなっています。ですから、死亡事故を防ぐならまず頭を守って、というのはバイクと同様です。最近何件かあった高齢者が自転車に乗っているときに起きてしまった事故も、決してスピードを出していたわけではありませんでした。むしろ止まったりゆっくり走ったりしていたのにバランスを崩して横倒しになってしまい、道路に頭を打ち付けて亡くなるというケースも多いのです。自転車に乗っているときは、ふだんより頭の位置が高くなりますし、バランスを崩しやすいため、もし転倒してしまったとき、大切な頭部を守るためにヘルメットが必要なのです」
ヘルメットを選ぶときに気を付けた方がいいことは?
それではヘルメットを選ぶときは何に気をつけたらいいのでしょうか?
「日本にはSG規格という安全基準があります。ただ、国内ブランド以外でこの規格の認証を受けていない商品も多いため、その際は第三者機関の安全認証や欧米の安全基準(CE)に則ったものが安心です。なお、海外製のヘルメット選びのときに注意してほしいのですが、頭囲だけでなく頭の形も重要です。欧米人は縦に長くて、アジア人は横に丸い形をしているので、頭囲だけで選んでしまうと、サイズは合っているのにきつくて入らない、ということもよくあります。ですから、できれば試着してから買うのが安心です。
サイズ感自体は、ダイヤル式の調整機能がついていたり中のパットが取り外しできるものもあるので、緩すぎないものを選ぶといいでしょう。あごひもは指一本分隙間を残してしっかり締めるようにしてください」
人気は帽子タイプや丸形のシンプルなもの
おすすめヘルメット5選
最近のヘルメットは、街でかぶる帽子のように洋服にも合うデザインのものが人気です。また、BMXやスケートボードの選手がかぶっているようなコロンとしたシンプルな形のものも人気があります。ただ、これは穴が少ないものもあるので、蒸れが気になる場合は通気口がたくさん開いているものがおすすめです。最近のトレンドも踏まえ、遠藤さんにおすすめのヘルメットを紹介していただきました。
・バックリボンがポイントのエレガントなシルエット
オージーケーカブト「シクレ」
9240円(税込)
広めのツバで日差しの気になるシーズンも安心。パターンにこだわった立体感のあるデザインとバックのリボンが上品です。夜間の走行にも安心のリフレクター素材も使われています。54〜57cm(350g)
・アウトドアにもぴったりなカジュアルなデザイン
オージーケーカブト「デイズ」
9240円(税込)
アウトドアタイプのデザインで、広めのツバが日差し対策にも効果的。フチに仕込んだワイヤーで型のニュアンスを好みに応じて造れます。後ろにリフレクター素材も使用しています。54〜57cm未満(325g)
・スポーツタイプのタウン用ヘルメット。マットな色合いが個性的
オージーケーカブト「キャンバス・アーバン」
7040円(税込)
通勤や街中での自転車移動に最適なバイザースタイルのアーバンヘルメットです。通気性がよく、フロントパッドの機能を兼ね備えたキャンバスバイザーを装着できます。後部と左右に大きなリフレクター付き。M/L(290g)
・人気のクラシックモデルを受け継ぐスタイリッシュなデザインが魅力
bern(YTS STORE)「BRENTWOOD 2.0」
1万5400円(税込)
後頭部までしっかりカバーするデザインで、耐衝撃性に優れ、さらに快適な使い心地を実現。インナーはゴムを用いた伸縮可能素材を採用し、フィット感も抜群です。バイザーは取り外しが可能。M~L(345~390g)
・ヘアスタイルを選ばない快適なヘルメット
クミカ工業「ドルフィン」
4950円(税込)
後頭部にヘア用の空間があり、束ねた髪のゴムのあたりの締め付けを軽減します。通気孔は前後のみに配置し雨の降込を最小限に。額部分は取り外して水洗いできて清潔です。あご紐はワンタッチでサイズ調整可能。S-M(約430g)M-L(約460g)
自転車に乗るときにヘルメットをかぶるのは、義務ではなく、自分の命を守るために必要だから。自転車ルールを守って、安全で快適に自転車を利用したいですね
Profile
自転車の安全利用促進委員会メンバー / 遠藤まさ子
自転車業界新聞の記者や自転車専門誌の編集などを経てフリーランスへ。自転車のルールや製品情報などに精通し、自転車の安全な利用方法や楽しみ方を各種メディアで紹介している。
自転車の安全利用促進委員会 HP
取材・文=仲保芳恵(Playce)