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自転車に変わる新たな移動手段!免許・ヘルメットなしでも走れる
「小型電動モビリティ」の今とこれから

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新たな移動手段として、「電動モビリティ」が注目を集めています。なかでも最近、都市部では、キックボードタイプの小型電動モビリティをよく目にするようになりました。とはいえまだ使ったことがない、そもそもどういう仕組みか知らない、という人がほとんどではないでしょうか?

小型電動モビリティを安全かつ違反なく利用するために、現状のルールや法改正によって変化した点などについて、一般社団法人日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)代表理事の鳴海禎造さんに解説していただきました。

知っておきたい、
「電動モビリティ」とは?

電動モビリティとは人力やガソリンを一切使わず、電気の力だけで動く乗り物のこと。とくに1~2人用の小型タイプの人気は高く、街で電動キックボードなどの小型電動モビリティを見かけることが増えてきました。2022年4月に道路交通法の改正案が可決されたことで、「免許やヘルメットがなくても電動キックボードに乗れる」との情報も広まり、注目度はますます上がっています。

しかし、今回の法改正には思わぬ落とし穴も。実は、免許・ヘルメットなしでOKは、すべての電動キックボードに適用するルールではないのです。改正された法律の内容をきちんと確認・理解しないと、知らず知らずのうちに交通ルールに違反した運転をしてしまうかもしれません。法改正によって変化した点などについて、次で鳴海さんに解説していただきましょう。

電動モビリティ人気のきっかけは“エコ”への関心

電動モビリティが注目され始めたのは2015年頃。ちょうど「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された頃で、世の中が脱炭素社会へと動き始めていました。とくに自動車の排気ガスが問題視される中、代わりとして台頭したのが電気自動車でした。

「電気自動車自体は2015年以前からあったのですが、蓄電技術が乏しく、ガソリン車を選ぶ人がほとんどでした。技術力の向上と脱炭素の動きが相まって、注目され始めたのだと思います。また、“エコな乗り物”というのがポイントなので、電動モビリティの中でも、コンパクトが故に無駄なエネルギーを消費しない“小型電動モビリティ”(電動自転車や電動キックボードなど)には、とくに注目が集まりました」(鳴海禎造さん、以下同)

小型電動モビリティなら楽々移動できる

もちろん小型電動モビリティの魅力はエコだけではありません。鳴海さんによると、自転車などの小型のモビリティと比べると、段違いに移動しやすいのだとか。

「電動モビリティはアクセルを入れるだけで進むため、性別・年齢を問わず、楽々と移動することができます。自転車だと、早いスピードを保って走行できるのは片道5km程度ですが、電動モビリティを使えば、体力を消耗することなく一定のスピードで片道10キロ程度走ることができます。また、漕ぐ動作が必要ないため、スカートの裾などがチェーンに巻き込まれる心配もありません。こうした利便性を活かし、現在は通勤や観光、工場内の移動など、さまざまなシーンで活用されています」

法改正で、もっと気軽に
小型電動モビリティを利用できるように

2022年4月に道路交通法の改正案が可決されました。電動キックボードをはじめとする小型電動モビリティに大きく関係する今回の法改正。一体、どんな内容なのでしょうか?

「簡単に言うと“小型電動モビリティをさらに細かくカテゴリー分けした”というイメージです。これまで電動キックボードなどの小型電動モビリティは、すべて『原動機付自転車』のくくりに含まれていました。しかし、なかにはサイズや速度が『軽車両(自転車など)』と変わらない程度のものもあったため、軽車両と似たスペックを持つ一部の小型電動モビリティを『特定小型原動機付自転車』として扱うことにしたのです」

道路交通法における車両区分

・歩行者…歩行者、車いす、手押し車など
・軽車両…自転車、電動アシスト自転車、人力車など
・特定小型原動機付自転車(新設)…電動バイク、電動キックボードなど
・原動機付自転車…50ccスクーターなど
・自動車…普通自動車、自動二輪車など

特定小型原動機付自転車の車両の定義

・電動車
・最高速度20km/h以下
・長さ190cm×幅60cm以内
・特定小型原付に必要な保安部品が装着されている

なお、2022年9月時点では、まだ改正案が可決された状態であり、施行はされていません。2024年春までに特定小型原動機付自転車というカテゴリーが新設される予定です。最新の情報は、警視庁のホームページなどを確認してください。

「原動機付自転車」と「特定小型原動機付自転車」の交通ルール

道路交通法の改正に伴い、私たちが守るべき交通ルールも変更となります。知らず知らずのうちにマナー違反をしてしまった、なんてことを防ぐために、しっかりと内容を確認していきましょう。

原動機付自転車に属する小型電動モビリティの交通ルール

「サイズが大きく、時速21km以上の小型電動モビリティは、改正法が施行された後も原付バイクと同じルールのもと走行する必要があります。免許やヘルメットは今後も変わらず必要で、車道以外を走ることもできません。なお、たとえ時速20kmしか出さないとしても、モビリティ自体が時速21km以上出る場合は原動機付自転車とみなされるのでご注意ください」

特定小型原動機付自転車に属する小型電動モビリティの交通ルール

「サイズが小さく、時速20km以下の小型電動モビリティは、基本的に自転車と同じルールと考えてよいと思います。20kmは自転車の平均速度と同じスピード感ですし、免許が不要、ヘルメットは任意という点はまったく同じですよね。ただし、乗車できる年齢と走行場所は、自転車とは大きく異なるため要注意です」

・自転車の交通ルールと異なる点 (1)年齢
自転車は誰でも利用できますが、特定小型原動機付自転車は16歳以上という制限があります。アクセルを入れるだけで勝手に進むため、小さな子供には危険と判断されています。

・自転車の交通ルールと異なる点 (2)走行場所
自転車は基本的に車道の左端や自転車専用通行帯を走行しますが、路肩に車が駐車しているなど、やむを得ない場合には徐行運転で歩道を走行することができます。しかし特定小型原動機付自転車の場合、やむを得ない場合でもそのまま歩道に入ることはできません。歩道通行モード(上限速度が6kmになる)に切り替えるか、歩道通行モードが付いていない場合は押して歩く必要があります。そのため購入する際には、必ず歩道通行モードが付いているかを確認しましょう。

2022年9月時点では、道路交通法の改正案(安全に走行するための交通ルール)が可決しただけで、保安基準(ブレーキの強さやライトの明るさなど、車体のルール)は未だ検討中です。つまり、現時点で「免許・ヘルメットなしで公道を走れる電動キックボードはこれ!」と断言することはできません。最新の情報は、国土交通省のホームページなどを確認してください。

小型電動モビリティを選ぶ際のポイント

原動機付自転車と特定小型原動機付自転車で、モビリティの仕様や交通ルールはまったく異なります。また、バイクやキックボードなど形状もさまざま。では今後、私たちが小型電動モビリティを利用しようと考えたとき、どのようなポイントでモビリティを選べばいいのでしょうか?

選択のポイント (1)利用用途に適した速度

「一個人の意見としては、5km程度の距離をスピーディーに移動したい場合には時速30kmまで出るものを、1~2kmなど短距離の移動に利用する場合には時速20km以下のものがいいと思います。ペーパードライバーの方をはじめ、普段車やバイクに乗っていない方は、時速30kmと20kmでどのくらい速度が違うのか、あまりピンとこないはずです。シェアリングサービスであれば一度きりなので問題ないのですが、購入の場合は利用用途にそぐわないものを選んでしまう場合も……。利用用途に適したモビリティを選べるように、必ず速度感を掴んでから判断してください」

選択のポイント (2)自分に合う車体の形

「小型電動モビリティの中にはバイクやキックボードなど、さまざまな形があります。バイクは性別・年齢を問わず、ほとんどの方がすぐに乗ることができますが、キックボードは向き・不向きがあるように感じます。バランスをとるのが難しい方だと、ふらふらとした走行になってしまい、車道を走るのはとても危険です。シェアリングサービスでも購入する場合でも、必ず一度安全な場所で試し乗りをしてみて、問題なく乗れるかを確認してみてください。ちなみに、タイヤが大きければ大きいほど、凸凹した道でも安定して走行できます。モビリティを選ぶ際の一つのポイントとして、ぜひ覚えておいてください」

今後はより幅広いシーンでの活用が期待できる

「今回の法改正で大きく変わった点は、もう一つあります。それは、特定小型原動機付自転車は『電動』『長さ190cm×幅60cm』『最高速度20km/h以下』であれば、車体の形は自由ということです(※)。つまり、これまでは電動バイクや電動キックボードしかなかったものの、さまざまな形状の小型電動モビリティが生まれる可能性があるということです。その結果、私たちの移動手段の選択肢が増えるほか、車椅子やシニアカーを利用している方が他の手段でも移動できるようになるかもしれません。

また、個人的な意見としては、免許が不要になるからこそ、通学の手段に活用していけないかと考えています。地方の場合は最寄り駅まで数十分かかることも多く、その都度ご両親が車で送り迎えをしたり、長い距離を自転車で移動したりする必要があります。小型電動モビリティが移動手段の選択肢の一つになれば、より快適に通学できるようになるはずです」

※今後設定される保安基準も守る必要があります。

徐々にユーザー数が増えているとはいえ、電動モビリティはまだまだ発展途上。より便利なモビリティにするために、私たち自身が行動する必要があります。まずは一度試してみて、新たな移動手段として活用するにはどうすべきかを考えてみてはいかがでしょうか。

そして何より、電動モビリティが便利で安全なモビリティであり続けるためには、全員が交通ルールやマナーを守ることが重要です。正しい情報をキャッチし、正しく利用していきましょう。

Profile

一般社団法人日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)代表理事 / 鳴海禎造

和歌山出身。15歳で商売することに目覚め、以来約25年間で国内外に5つの会社を設立。主にモビリティ関連ビジネスに従事。2017年に「日本を代表する次世代乗り物メーカー」を目指して設立した「glafit株式会社」では、自転車型の電動バイクやキックボード型の電動スクーターを開発して販売。規制のサンドボックス制度を使い、2021年6月「国内初の自転車と電動バイクの車両区分の切り替え」を認められる成果を創出するなど、モビリティ開発だけでは無く、法整備への取組みや、業界団体(一社)日本電動モビリティ推進協会/JEMPA)を立ち上げ、ルール作りや啓蒙活動、政策提言などを行っている。
一般社団法人日本電動モビリティ推進協会 HP=https://jempa.org/
glafit株式会社 HP=https://glafit.com/

取材・文=横塚瑞貴(Playce)