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自分のままで幸せになるには。幸福学研究者が教える“幸せになる思考習慣”
第5回「どうせ私なんて…」の意識を変える

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いま誰もが、忙しい日々に追われ周囲の視線を気にして、自分を見失っているのではないでしょうか? 毎日がもっと楽しくて、幸せに感じられるものならいいのに——。落ち込む時代の空気に反比例するように“ウェルビーイング”が重視されるなか、幸せを科学的に研究・実証する「幸福学」が注目されています。

幸福学とは、心理学を基礎として、統計的にどういう人が幸せなのかを明らかにしていく学問のこと。この連載では、幸福学を研究する前野マドカさんに、さまざまな視点から幸せを感じる習慣や思考法など、「幸せになる方法」を教えていただきます。第5回は、自分の意識を変える“マインドセット”の方法について。

無意識のシャットアウトに気づくこと

———これまでの連載で、幸せが伝播することや幸せになる方法を教えていただきました。今回のテーマは、自分の意識を変える、です。幸せになる方法は理解できても、「どうせ私は幸せになれない」と思ってしまう人も多いのではないでしょうか?

「人間には、思考のクセがあるんです。思い込みは自分では気づきにくいものなので、幸せになる方法をわかっていても、いざ幸せを手にしようとした時『どうせ私なんて……』とシャットアウトしてしまうことも。これは無意識にやっていることなので、意識的に幸せになろうとすることが大切です」

幸福学の第一人者で、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授との夫妻で研究、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事なども務める、前野マドカさん。

———どうしたらその無意識に気づけるでしょうか?

「仲良しのお友だちや家族に『私ってどんな口癖がある?』『私はいつもどんな顔している?』など、聞いてみましょう。自分では気づけない部分を教えてくれることがあります。他にも『私はどんな性格だと思う?』なんて素直に聞いてみると、思ってもいなかったようなことを教えてくれる人が出てくるかもしれません。新たな自分を発見できると、無意識の部分が見つかりやすくなりますよ。

———たしかに、周囲の人のほうがよくわかってくれている、ということはありますよね。

「そうですよね。また第1回でお伝えしましたが、自分の価値観に合う幸せをピックアップすることが大切です。幸せにテンプレートはありませんし、幸せは誰かの物差しで決めるものではありません。下にある幸せの4つの因子と照らし合わせながら、自分はどんな時に幸せを感じるのか、考えてみましょう」

幸せの4つの因子

■「やってみよう!」因子
・主体的にやりたいことに取り組んでいる人
・得意なことがあり、それを伸ばそうと努力をして強みをさらに高める人
・好きなことがあり、それを突き詰めようと打ち込んでいる人

■「ありがとう!」因子
・人の喜ぶ顔を見たいと思う人
・困っている人を支援したいと思う人
・他者とのあたたかい付き合いに感謝している人

■「なんとかなる!」因子
・考えすぎず物事を決断できる人
・失敗しても気持ちを切り替え立ち直るのが早い人
・自己受容できている人

■「ありのままに!」因子
・地位財形型の競争を好まない人
・自己像が明確な人
・他者への許容度が広い人

———一方で、「幸せになれないのは、〇〇のせい」と自分以外に原因を探ろうとしてしまう場合もありますよね?

「幸せな人は、そもそも他人と比べることが少ないんですよ。幸福度には主体性と大きく相関があることが幸福学の研究でわかっています。つまり、幸せになりたいならまずは自分を幸せな状態にする。誰かに幸せにしてもらうものではないんですよね」

———ドラマや漫画でよくみる「幸せにしてあげるね」っていうセリフは、ちょっと違うとも言えますね。

「とっても素敵な言葉ですが、一緒に幸せになろうね、がいいかもしれませんね。もし家族や友人など関わる人たちの幸せを願うなら、『〇〇さんは幸せになれる』ってマインドセットをするのがおすすめですよ」

———マインドセットですか?

「例えば、なかなか心を開いてくれない友人がいるとします。『どう接したらいいかわからない』と思いながらコミュニケーションしていくと、不思議なことにその思いが言葉や体に表れてしまうんです。これは相手にも無意識に伝わってしまうものなので、友人は『この人は私のことを苦手だと思っている』と、さらに高い壁を築いてしまいます。

ただ『この人は変われる、幸せになれる』と自分のマインドを変えて話しかけてみると、声のトーンや表情が明るくなりコミュニケーションが変化するんです。相手もそれを感じとり、話しやすい雰囲気が生まれていきます。本当にちょっとしたことなのですが、『仲良くなりたい』とか『幸せになれる』とマインドセットして接するだけで相手の心は開かれるようになりますよ」

———無意識に相手の感情が伝わってくる感覚、わかります。このマインドセットは、いろいろな場面で活用できそうですね!

「相手を変えようと思う前に、自分のマインドを変えてみる。そうすると、人間関係はよりよい方向へ向かっていくでしょう。とはいえ、すぐに変わるものではありません。『〇〇はできない』『〇〇なんて無理』と無意識に決めつけてしまう人は、大きな氷の塊を少しずつ砕いていくイメージでコツコツと続けてみましょう」

幸せになる思考習慣……「『幸せになれる』とマインドセットする」

・幸せになれないと感じているのは、思考の“クセ”にすぎない
・無意識のクセや思考を意識してみよう
・より良い人間関係を築くためのマインドセットをしてみよう

「どうせ私なんて……」と思うことは無意識のクセにすぎません。自分では気づけない部分に気づけると、誰もが幸せへの一歩を踏み出せるようになるはず。次回は「大人が自己肯定感を育むためにできること」を紹介します。

Profile

慶應義塾大学大学院研究員 / 前野マドカ

EVOL株式会社代表取締役CEO、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事、国際ポジティブ心理学協会会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』(ヴォイス)、『家族の幸福度を上げる7つのピース』(青春出版社)などがある。

取材・文=つるたちかこ 撮影=鈴木謙介