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ご近所トラブルを回避!防音のプロが解説する、
引っ越しや模様替えで実行すべき騒音対策

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車の走る音、上階に住む人の足音、隣の部屋から聞こえる話し声……集合住宅や、戸建でもお隣が近い物件に住んでいる人は、誰もが一度は「騒音」に悩んだことがあるのではないでしょうか? ストレスを抱えながら、我慢して過ごしている人も多いかもしれません。

ご近所トラブルを回避するために、騒音の仕組みを知るとともに、騒音ストレスを抱えないための対策を知りましょう。防音室をはじめとした音響空間デザインを手掛ける、株式会社Budsceneの代表取締役・並木勇一さんに解説していただきました。

 

防音対策の第一歩、
“音”はどのように私たちの耳に伝わるの?

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集合住宅に住んでいる人にとって、トラブルの種である騒音。音を出さないように気を付けていても、知らぬ間に自分が騒音を発していることもあるかもしれません。そもそも“音”はどのようにして発生していて、どのように防ぐことができるのでしょう? 防音対策のキーワードは“重さ”と“防振”であると並木さんは言います。

「音は通常dB(デシベル)という単位で示され、大きく分けて2種類存在します」(防音アドバイザー・並木勇一さん、以下同)

空気伝播音=空気が振動することで伝わる音。話し声、テレビの音、ペットの鳴き声など
固体伝播音=固体が振動することで伝わる音。足音、ドアを閉める音など
※大きな音は空気伝搬音として壁や天井や床にぶつかり、個体伝搬音に変化します。

「暮らしの中でトラブルとなる騒音も、この2種類のどちらかに分類されます。防音をしたい場合は、まずは防ぎたい音の種類を見極めてください。

空気伝播音の場合は重さ(質量)”が必要です。たとえばコンクリートでできているマンションであれば、隣の部屋と自分の部屋の間に分厚くて重いコンクリートが囲われていることになるので、隣の部屋の声やテレビの音に対して比較的防音性能が高い住まいだと言えます。

生活の騒音に関してさまざまなご相談をいただきますが、相談内容として圧倒的に多いのは『隣の部屋の声・テレビの音が気になる』というものです。おそらく足音などの騒音に悩んでいる人も多くいるのですが、一瞬の音なのでそこまでストレスに感じないのだと思います。対して話し声などは、生活リズムによっては連続的に聴こえてくることもあるので、不快に感じる人が多いのではないでしょうか。

また、話し声などの騒音に悩んでいる方の多くは木造の賃貸住宅に住んでいます。重い素材の建物であればあるほど空気伝播音に対する防音性が優れているといえますが、木造はコンクリートよりも圧倒的に軽い素材なので、必然的に空気伝播音が伝わりやすくなってしまうのです」

 

ちょっと待って! その方法で本当に防音対策できている?

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では実際に防音対策をするとなったときに、みなさんはどのような方法を考えますか? 悩みを解決するために「防音」と書いてあるグッズを買ってみよう、と考える人も多いのではないでしょうか。

「音は目に見えないものです。どのように、どれほどの音が伝わってきているのか、簡単に可視化することができないため、簡単に防ぐこともまた難しいのです。それでも簡単に解決したいと考え、悩みを解決できるほどの力がない商材を購入してしまい、結局あまり効果を得られずに防音対策を諦めてしまうという方もたくさんいます」

また防音と吸音の違いを知らずに、防音対策のために吸音材を購入してしまう方も多くいるのだそう。その違いについても説明していただきました。

【防音・遮音】

「音を何dB減衰させる状態を創るか」を防音といいます。たとえば、自分の部屋で発生する60dBの音を近隣住居でまったく聴こえないようにしたい場合、60dBを減衰できる防音処置が必要に。※実際には、静かに感じる部屋でも自然音(環境音)が発生しているため、60dBの音を45dB減衰できれば、残りの15dBは近隣住居内の自然音に紛れてほぼ聴こえない音になります。

【吸音】

部屋で2人が会話している場合、聴こえている声(音)の60%は直接耳に伝わり、残りの40%は壁・天井・床などに当たって跳ね返ってくる音。この40%の音を制御することで、音の響き方を調整することを吸音といいます。防音対策をした際に発生する自分に跳ね返ってくる音の調整なども吸音で行います。

「一般的に販売されている商材は“吸音材”である場合も多く、用語の意味を理解しないまま購入すると無駄な出費になってしまいます。防音商材を購入するよりも、自分の悩みを解決する方法を知り、効果的な対策を講じてください」

 

家にあるもので実践可能な“減音”対策3選

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集合住宅に住んでいれば、近隣住民との騒音トラブルが起きてしまう可能性は少なからずあります。しかし、「上階から聞こえる足音や椅子を引く音が気になる」などの相談に対して、並木さんはまずは「諦めてください」と言うそうです。

「音を発している側は、例えば椅子を引くときに床に振動が伝わりにくくなるよう椅子の脚にカバーをすることもできますし、足音を軽減させるために厚手のスリッパを履くこともできます。ドアにパッキンを貼って閉まるときの音を小さくすることもできるでしょう。しかし、聞こえている側が音を防ぐのは、すでに床や壁や天井に伝わってきている音を防がないといけないため、至難の業です。住民全員が少しずつ意識をしていくことが大切だと思います」

とはいえ、騒音がストレスになっている場合、少しでも音を軽減させたいですよね。完全な防音は不可能でも“減音”ができる簡単な方法をいくつか教えていただきました。

 

1.本棚やクローゼットなどを移動させ“壁”を作る

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「隣の部屋の声やテレビの音が気になる場合は、本棚やクローゼットなどの重い家具を、音が聞こえてくる壁の端から端まで並べてみてください。その際、上下左右に隙間ができると思うので、紙や洋服が入った重い段ボール・本などを並べ、隙間なく壁を塞ぐようにしましょう。

注意してほしいのは、家具の背中側を壁に接地させないこと。1-2cmでも隙間を開けることで、壁の振動が家具に伝わることを防ぎ、より音を軽減させることができます。家具や段ボールなど、家にある物を上手に活用すれば、家具自体を防音壁にすることができるのです」

 

2.ベッドを浮かせて振動を抑える

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「寝ているときに足音や、車の音が聞こえて気になる場合には、寝床を浮かせてみてください。布団を敷いて寝ていると、床の振動音が耳元で鳴っていることになります。しかしベッドを置いて、さらにベッドの脚の下にゴムやフェルトなどをかませれば、ベッド本体に振動が伝わりにくくなり、音が遠くに聞こえるようになるでしょう。

ここでも大切なのが、ベッドのヘッドボードが壁に接しないようにすること。壁や床の振動音が遠くなるだけで、騒音がかなり軽減されたように感じられると思います」

 

3.気になる音に対して、自分で音を流す

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「音そのものを減らすのではなく、音の差を減らすという方法もあります。たとえば外の音に対して、自分の発する音が少ない場合は外の音をうるさく感じやすくなります。昼間には気にならなかった音が、就寝時に気になる……なんてことも多いのではないでしょうか。

外の音を10とした場合、こちらの音が3であれば、7の差が音としてこちらに聞こえてくることになります。しかし、こちら側が5の音を出せば聴こえてくる音は5に感じる事ができます。とても手軽な方法なので、自然音であったり、好きな音楽であったり、自分が心地よいと感じる音を適度な音量で流してみてください」

 

「防音対策を真剣にしたいと考えている人は、まず、正しい情報を探してください。“簡易防音”や“完全防音”などという言葉をよく耳にしますが、私に言わせれば完全な防音もなければ、簡易な防音もないのです。プロの私でも、音を防ぐということはとても難しいこと。今回ご紹介したように、家にある物で実践できる簡単な対策からスタートして、いろいろと調べる中で自分の悩みに合った解決方法を見つけてほしいと思います」

Profile

防音アドバイザー・Budscene 代表取締役 / 並木勇一

防音室・ホームシアターの専門家。31歳で、防音室の設計デザインから音響空間のデザインまで手掛ける株式会社Budsceneを設立し、CEOに就任。SNSを活用し、「防音アドバイザー」として積極的に発信を続けている。
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取材・文=三好日生(Playce)