LIVING 住まい・インテリア・暮らし

シェア

ニオイと爪研ぎ痕、どう回避する?賃貸マンションで
猫と暮らせる部屋づくり

TAG

コロナ禍によって在宅勤務の人が増えたことにより、ペットブームが加速したといわれています。ペット関連の市場も右肩上がりを続けているなか、とくに伸長しているのが猫。2017年にはついに飼育頭数で犬を抜き去りました。

アットリビングでは過去に、ペットと快適に住むための家作りを紹介しましたが、犬と猫では、必要な配慮も想定されるトラブルも異なります。 そこで、賃貸マンションでとくに「猫」を飼育する際の対策と、猫が快適に暮らすための部屋づくりのコツを、ペットライフコンサルタントの薬師寺康子さんに教えていただきました。

賃貸マンションでも猫は飼える?
知っておきたい情報と物件の選び方

実はペットの中でも比較的、賃貸マンションで飼いやすいのが猫なのだそうです。

「猫は散歩の必要がなく、室内飼いが基本です。犬に比べて鳴き声も小さく、上下運動ができれば、1ルームの広さで十分です。日中のほとんどを寝て過ごすため、食事やトイレなど環境さえ整っていれば留守番も得意ですし、仕事が忙しい方、ひとり暮らしや共働き世帯でも飼いやすいペットといえます」(ペット共生型住宅のコンサルタント・薬師寺康子さん、以下同)

一方で、こんな課題も。

「賃貸物件ではペットが飼えないのが一般的です。飼育できるのは、一部の『ペット可』『ペット相談可』物件のみ。もちろん内緒で飼うことはできません。注意しなければならないのは、『ペット可』物件でも必ず猫が飼えるわけではないこと。猫の爪研ぎで床や壁に傷がつくリスクと、おしっこの強い匂いがオーナーに敬遠され、“小型犬はOKでも猫はNG”という物件も少なくありません」

そのため、物件探しでは、あらかじめ入居条件の確認が必要です。

「最低でも、飼育できるペットの種類、サイズ、頭数、ワクチン接種や去勢・避妊手術など条件の有無を確認しましょう。また、物件によって猫飼育可の場合は家賃が相場より高めであることも。敷金も一般的な賃貸に比べて+1ヶ月〜2ヶ月分かかります。退去時の敷金償却の有無やクリーニング代など、費用面の確認もしておくと、後で慌てずにすみます」

猫と一緒に暮らすための
上手な物件選びとは?

続いて、物件選びのコツを教えていただきました。

・日当たりが良いこと

「猫にとって日光浴は体内時計の調整や、心身の安定を保つ上で必要な行為です。一日を通して日の入る時間帯がある物件を選びましょう。できれば日差しがよく入る南向きや東南向きが理想です」

・床や壁が傷つきにくいこと

「退去時は室内の原状回復が必要です。猫は犬に比べて床や壁に傷をつけやすいため、事前の対策が必須です。はじめから傷がつきにくい素材の床や壁、防音対策がされた物件だと安心です」

・転落や脱走がしにくい部屋であること

「ベランダからの転落リスクを考えると、できれば高層階は避けたいです。基本は室内飼いですが、飼い主がベランダに出る際、足元から飛び出してしまうことも。たとえ低層階であっても、ベランダへの脱走には十分注意しましょう。玄関から脱走しにくいのは、リビングにドアがついている物件です。また、内廊下がある物件は、突発的に玄関から逃げ出してしまってもすぐに外に飛び出すことがないため、道路に出るリスクを抑えられます」

・徒歩圏内に動物病院があること

「猫は急に体調を崩したり、誤飲したりすることがあります。徒歩圏内に動物病院があると安心です。最近は、猫専用の病院や、犬と猫で待合室が分かれた病院もあります」

・ペット共生型住宅という選択も

「ペットと暮らせる賃貸マンションの中には、一緒に暮らすこと目的に設計されたペット共生型マンションがあります。数が少なく、家賃は高めですが、オーナーの理解があったり、住民同士のコミュニティが生まれやすく、設備や仕様もペットに寄り添ったものになっています。猫と暮らしやすい環境を重視するなら、多少希望条件を緩めても、このような物件を選ぶといいでしょう」

賃貸で猫を飼うときに
注意したいポイント

物件が見つかり、いよいよ猫との暮らしがスタート。いくらペット可物件でも、オーナーや近隣住民に対し、最低限守るべきマナーがあります。

1.近隣住民へ配慮する

「ペット可物件だからといって、住民が皆ペットを飼っているとはかぎりません。中には動物が苦手だったり、猫アレルギーの方も。入居後は上下左右の入居者に挨拶し、猫を飼っていることを伝えましょう。
共用部で猫を抱いて歩くのはマナー違反です。普段室内で過ごす猫にとって外は刺激的な場所。人の声や車の音にパニックになり、逃げだしてしまうことも。猫の安全のために、たとえ近場でも外出時は必ずキャリーケースに入れましょう。エレベーターで住民と同乗する際は一言伝える、先に譲るなどの配慮も忘れずに」

2.脱走対策を講じる

「大きな音に驚いたり、好奇心旺盛な性格から、猫はたびたび脱走をはかります。安全を守るためにも、必ず脱走対策を行いましょう。猫が脱走を起こす場所は、玄関、窓、ベランダのいずれか。そのため普段から、玄関やベランダに出入りする際は、猫の居場所を確認する習慣をつけておきましょう。
玄関には脱走防止用の柵を設置するのがおすすめです。突っ張り式で天井高のものだと安心ですね。高いものがつけられない場合、腰高でもかまいません。猫の脱走の場合、足元をすり抜けて逃げ出す場合がほとんどなので、十分対策になるでしょう」

PEPPY「拡張できるスチールゲート」
8778円(税込)
玄関からの脱走防止におすすめのスチールゲート。片手で簡単にロックを解除し、扉を開けられます。90度で止まるストップ機能付き。取付け幅75~85cm、高さ110cm、扉幅55cm。

3.爪研ぎを設置する

「猫にとって爪研ぎは本能です。やめさせることは難しいので、爪研ぎしてもいい環境を作ってあげましょう。傷つけてほしくない箇所にはあらかじめ保護シートを貼ります。その上で爪研ぎアイテムを複数設置してください。猫により好みが分かれますが、麻の紐をぐるぐる巻いたものやダンボールが好きな猫が多いです。爪をまめに切るのも効果的です」

PEPPY「壁ひっかき防止シート
46×100cm 1188円(税込)
92×100cm 2178円(税込)

貼りたい場所に合わせてカットできる、壁を守る半透明の保護シート。壁紙の汚れを拭き取り、はく離紙をはがして貼るだけ!角ばった柱にも貼れます。

PEPPY「吸着壁に貼れる猫の爪とぎ」
ダンボール(1枚)約W220×H450×D25 1848円(税込)
ダンボール(コーナー用2枚)約W100×H450×D15 1408円(税込)
麻(1枚)約W220×H450×D15 1980円(税込)

裏面に吸着加工がされているから、穴を開けずピタっと貼るだけ、貼り直しもOKの爪とぎです。愛猫の好きな場所や好きな高さに設置できます。誤って食べても大丈夫な段ボール製と、丈夫で長持ちしやすい麻製があります。

4.日頃から清潔な環境を整える

「猫はもともと体臭があまりなく、臭いが気になるのはトイレぐらいです。特に去勢前の雄猫のおしっこの臭いは強烈です。去勢手術をすると匂いはずいぶん軽減されます。
また、キレイ好きな猫は汚れたトイレが苦手です。日中仕事で家を空ける方は、掃除回数が少なくて済むシステムトイレがおすすめ。帰宅後すぐに掃除し、清潔な環境を保つようにしてください。臭いを吸着する猫砂、必要に応じて消臭スプレーも使用しましょう。特に1Rに暮らしている方は部屋に匂いがこもりやすいので、換気扇を24時間つけっぱなしにしておくといいでしょう」

花王「ニャンとも清潔トイレ 脱臭・抗菌チップ 大きめの粒(システムトイレ用)」
オープン価格(実勢価格1300円前後・税込)

天然素材の針葉樹のチカラでウンチとオシッコのニオイを強力脱臭。はっ水するチップなのでオシッコで固まらず、表面はさらさらの状態が続き、猫ちゃんの足もとはいつも清潔です。肉球に挟まらない大きめの粒でお部屋に飛び散りません。廃棄時は燃えるごみとして処理可能。システムトイレ各社共通で使用できます。4.4L(約3ヶ月分)

環境大善「きえ〜る ペット用(300ml)」
1210円(税込)

環境微生物群(乳酸菌等)を発酵・培養した「善玉活性水」から生まれたバイオ消臭液。ふん尿臭・ケージまわりなどの臭いをスッキリ消臭。無色透明なので布ものにも色がつかず、素材を傷めません。天然成分100%で、ペットが舐めても安心・無害。部屋中どこでもご使用いただけます。また、ペットの飲水や餌に本品を与えることで便の臭いを減らすことも可能です。

5.防音対策を講じる

「猫の足音は静かなイメージがありますが、成猫になれば体重は3kgを超え、猫種によってはそれ以上にも。室内を走り回る音、高所やキャットタワーから飛び降りた時の着地音や振動はかなりのものです。とくに猫は夜中〜早朝にかけて活動的なので、階下の人にストレスを与えるリスクも。防音マットを敷いたり、窓ガラスに防音シートを貼りましょう。マットの素材によっては猫がかじって飲み込むリスクもあるので、素材選びは慎重に。また、発情期の猫の鳴き声にも注意が必要です。生後半年ごろを目安に、去勢・避妊手術をしましょう」

東リ「ウィズペットフロア」
オープン価格(実勢価格 8000円前後・10枚入り・税込)
ペットの足腰にやさしい、手洗い可能な40cm角のタイルカーペット。カットパイルで爪が引っかからず、裏面の特殊加工により、愛猫がお部屋の中でかけっこしてもズレません。飛び跳ねや床を歩く際の爪の音も軽減。「エアファイン」加工により、気になるニオイを分解します。40cm×40cm 、厚み9mm。

6.日頃のブラッシングで抜け毛対策をする

「猫は抜け毛が多い動物なので、まめにブラッシングしましょう。長毛種は毎日、短毛種は週に1回以上、春と秋の換毛期にはどちらも毎日行います。近隣に抜け毛が飛び散る可能性があるので、ベランダでは絶対にブラッシングしてはいけません。盲点なのが布団や洋服についた抜け毛です。外干しの際、飛び散った毛がお隣の洗濯物を汚す場合も。布団や衣類についた抜け毛はよく落としてから干したり、洗濯したりし、毛の飛び散りに十分気をつけましょう」

賃貸マンションでも快適に過ごせる!
猫がよろこぶ部屋とは?

猫が心地よく過ごす上で知っておきたいことや、部屋づくりのポイントを紹介します。

1.日当たりの良い場所を特等席に

「猫はひなたぼっこが大好きです。日当たりの良い場所にベッドや爪研ぎを置いてあげましょう。西向きや南向きの住戸に住んでいる場合、夏の日差し対策として、ブラインドや厚手の遮光カーテンが必要な場合もあります。室温に関しては人間が心地よいと感じる温度をキープしてください。夏場の気温が高い時期に外出する場合、締め切った部屋の温度はとても高くなります。冷房(28℃程度)をつけておくようにしましょう」

2.上下運動できる環境を用意する

「猫が高いところに登りたがるのは、外敵から身を守り、危険をいち早く察知するための習性です。運動不足による肥満や生活習慣病を防ぐためにも、上下運動できる環境を作りましょう。賃貸だと壁に穴をあけることができないため、据え置きタイプの猫タワーやキャットウォークがおすすめです。窓際に置けば外の景色を見て気分転換にも。スペース的に設置が難しい場合、既存の家具で代用できる場合もあります。様子を見て用意してください」

3.落ち着ける場所をつくる

「猫は基本的にオープンな環境で暮らしますが、隠れられる狭いところ、暗いところも大好きです。人の出入りが少ないところに、猫ちぐらやテント、ダンボールを置くとよろこびます。ご飯台はキッチンの隅に置くと食器を片付けるのも楽です。写真のように、人の通りが少ない位置だとなお良いですね。トイレの場所には注意が必要です。部屋の隅でもなるべく視界に入る場所に置きましょう。猫はおしっこにまつわる病気が多く、早期発見につながりやすくするためです」

4.危険なものをとりのぞく

「留守中に心配なのが誤飲誤食です。猫は好奇心から、何でも口に入れたがることがあります。特にビニール紐、髪ゴム、糸は要注意。他にも人の薬や食べ物など、猫にとって危険なものは必ずしまっておきましょう。観葉植物や切り花も口にすると中毒症状を起こすものがあるため、猫のいる部屋には置かないことが得策です。動物や鳥の羽根がついたおもちゃも噛みちぎり、飲み込んでしまう場合が。留守番をさせる時はおもちゃを片付けておきましょう。冷蔵庫や戸棚など、開けてほしくない扉はストッパーで対策するとより安心です。他にも洗濯機の蓋や浴室の扉も閉めてください。ケーブルには保護カバーをつけると良いでしょう」

5.変化をなるべく与えない

「猫は変化に弱い動物です。すでに猫を飼っている方が引っ越す場合、使い慣れた食器やトイレ、おもちゃなどを引き続き使うようにして下さい。おしっこの匂いがついた猫砂をトイレに置くと、場所を早く覚えてくれます。また、猫は環境と習慣の生き物と言われています。留守番が得意とは言え、一泊以上外泊する場合には、ペットホテルやペットシッターを利用しましょう」

最後に薬師寺さんはこんなことを教えてくださいました。

「猫には“しつけ”はできないと思っていたほうがいいでしょう。もし、爪研ぎしてほしくない場所でされたり、粗相をしてしまっても、けっして怒らないであげてください。猫にとって居心地の良い環境は仕組みで解決するのが一番。ひたすら環境を整えてあげることが、飼い主との信頼関係を築き、結果的にトラブル防止につながります」

育てる責任の重さ以上に、私たちによろこびや癒しを与えてくれる猫の存在はかけがえのないものです。猫との暮らしが互いにストレスなく、心地よいものになるよう、ひとつひとつ環境を整えていきましょう。

Profile

ペットライフコンサルタント / 薬師寺康子

株式会社クララ代表取締役。住宅業界とペット業界の双方に携わった経験と知識を生かし、ペット共生住宅のコンサルタントとして活動の場を広げる中、企画設計コンサルティングをおこなった猫専用賃貸マンション1階に、猫専用ホテルのさきがけとなる「ねこままホテル」を開店。その他、動物専門学校講師、セミナー講演、雑誌、新聞、ウェブでの執筆などでも活躍。

取材・文=井上あいみ 撮影=矢部ひとみ 編集協力=Neem Tree