LIVING 住まい・インテリア・暮らし

シェア

インテリアのプロが実例で解説。【前編】“暮らしにくい間取り”の
見分け方と解決方法

TAG

一見よさそうと思って借りた部屋でも、いざ引っ越してみると手持ちの家具家電が入らなかったり、生活動線が確保しにくかったり。引っ越し後に困らないためにも、部屋を契約する前にきちんと間取りの確認をしておくことが大切です。

この、よくある間取りの意外な落とし穴を、インテリアコーディネーターの広島知範さんに実例を挙げながら解説いただきました。この前編では、間取りを選ぶ時の注意点と、使いやすくする解決方法について紹介します。また、後編では、間取りに問題はなくとも、暮らすうえでよくある部屋の悩みと解決策を教えていただきます

実例1.
ダイニングキッチンが通路化…
廊下がなく長細い1LDKの間取り

賃貸マンションにありがちな細長い間取りですが、よく見ると動線の確保が難しい配置になっています。

まず1つ目は、廊下が設けられていない長細い1LDKの間取りです。

「リビングと洋室の間に小さめのダイニングキッチンが挟まっている間取りです。賃貸マンションによくありがちな間取りだと思います。なぜ生活しにくいかというと、ダイニング部分がほぼ通路になってしまうからです。洋室の扉が部屋の真ん中あたりにあるので、洋室に行くためにはダイニングを横切らなければなりません」(インテリアコーディネーター・広島さん、以下同)

上図の場合だと、キッチンの近くに洋室に行くための扉が設けられているため、キッチン近くに作業台やダイニングテーブルを置いてしまうと、通りにくくなってしまいます。

【間取り選びの注意点】

「廊下がなくても、通路になる動線が確保されているだけで生活しやすくなります。先ほどの間取り図の例でいうと、洋室の扉が中央ではなく壁側に付いているだけで変わります。玄関とバスルーム周りの位置が逆なら、より動線が確保しやすいですね」

【使いやすくする解決方法】

では、間取りを変えずに解決する方法はあるのでしょうか?

「大切なのは、家具を動線上に置かないことです。比較的狭いダイニングの場合、ボリュームの少ないダイニングテーブルやイスを選ぶといいと思います。特にイスはコンパクトなものを選ぶだけで変わるはずです。都度イスを引く手間を省くために、回転式のものを選ぶのもいいでしょう」

ダイニングスペースが狭い場合、コンパクトなテーブルやイスを使用して、動線を確保するようにしましょう。

「テレビボードをスタンドタイプにしたり、プロジェクターに変えたりするなど、省スペースの家具を置くことでも部屋にゆとりが生まれます。ほかにはドレッサーやパソコン用デスクなど、何かと兼用できるダイニングテーブルを選ぶことも、狭いスペースを有効活用する方法の1つです」

実例2.
明るい部屋にはデメリットも!
大きな窓が複数ある間取り

「掃き出し窓といって、ベランダへ出入りできるような大きな窓が複数あることで家具を置く場所が少なくなります。なぜなら、本棚や机、ベッドなどの家具は壁がある方が置きやすいからです。窓を潰して家具を置くのは気が引けますので、家具の配置に困ってしまいます」

また、気温が高い地域であれば、夏は窓から日差しがたくさん入ってきて部屋に熱がこもります。窓が多い部屋は明るくてポジティブなイメージがありますが、窓が多いことでのデメリットもあるので注意が必要です。

【間取り選びの注意点】

「窓が多くても、腰窓であれば問題ありません。腰窓というのは、人の腰くらいの位置から上にある窓のこと。腰窓なら背の低い家具を置くようにすれば窓を潰すこともないので、明るさや風通しのよさを維持できます」

【使いやすくする解決方法】

では、掃き出し窓が多い場合の解決方法は?

「ベランダに出られない窓をつくることが解決策になります。腰窓の時と同様に背の低い家具を置くことで、出入りはできなくなりますが、採光と風を通すという窓の役割は維持できます」

掃き出し窓の前にテレビを置く時の例。完全に窓を防いでいないので、明るさや風通しなど窓の機能は保つことができています。

「1人暮らしの部屋で掃き出し窓が1つしかない場合でも、家具を置くスペースが少なければ窓の片側に家具を置いてしまう方法もあります。家具を置いていない側から出入りできるので不便はないはずです。ベランダを使わないのであれば、窓を塞ぐようにして家具を置く方法も。この時も、明かりや風通しを保つために背の低い家具を置くようにしましょう」

実例3.
光が部屋全体に届かない!
窓が1つにしかない間取り

洋室の奥(図の下側)は窓になっていますが、それ以外は壁で囲まれた間取りです。

3つ目は窓が部屋に1つしかない間取りです。こちらもマンションによくある間取りですが、どのように使いづらいのでしょうか?

「長細い間取りの場合、部屋の奥にベランダ付きの大きな窓が付いていることがよくあると思います。その場合、窓側の部屋には光が当たりますが、窓から離れれば離れるほど光が届かなくなります。たいていの場合はリビングに窓があり、その奥にあるダイニングが薄暗くなってしまうことが多いようです」

【間取り選びの注意点】

「角部屋が空いていたらベストですよね。角部屋であれば2面に窓が付いていることが多いので、部屋が明るくなるはずです」

ただ、部屋を選ぶ際は家賃や立地などほかに重点を置きたい点が多く、角部屋を必須条件にはなかなかできないはず。「角部屋を探すのは難しいですが、次にお伝えする照明を使った解決方法ならどんな部屋でも試せると思います」と広島さん。

【使いやすくする解決方法】

「窓からの光が入らない暗い場所に間接照明を置いてみてください。日本では間接照明を置く習慣が少ないのですが、照明の使い方によって明るい空間がつくれます。何個置いても問題ないですし、今はおしゃれな間接照明もたくさんありますよ」

間接照明をいくつか置くことで、部屋は明るくなり、見た目もおしゃれに。

照明を使い分けた部屋づくりのコツ

ここで、照明コンサルタントでもある広島さんに、明るくおしゃれな部屋づくりのための照明の使い方を教わりました。

・1カ所を照らすタイプのライトは複数取り付ける

スポットライトは1カ所に集中して明かりが当たるので、1つだけだと案外暗くなります。改善策として、複数取り付けることで光量が増します。ダイニングテーブルの上に取り付けるペンダントライトも同様で、1つだけよりも複数取り付けることで明るくなります」

ペンダントライトを3つ付けることで、大きなダイニングテーブル全体を照らすことができます。

広範囲で明るく照らしたい場合は、ボール型のランプのように360度明かりが広がる照明を使うのも手です。「ただし、スポットライトやペンダントライトよりもふんわりと明るくなります。テーブルやデスクなどより光量が必要な場合はペンダントライトなどを複数使う方がいいでしょう」

・天井や足元を照らすことで部屋全体が明るくなる

「電球の側面に傘が付いたシェードランプは、シェードの上も下も空いていることで、上下に光が漏れて明るさが増します。また、アッパーライトと呼ばれる上だけを照らす照明は、壁や天井にわざと明かりをぶつけることで光が拡散します。特に白い壁の場合は、光が反射して壁自体が光源のようになり、部屋全体が明るくなるんです」

テレビ横にシェードランプ、その左横にボールランプ、右側のソファー横にアッパーライトを設置。夜も明るい雰囲気に。

部屋をもっと明るくしたいなら、ぜひ間接照明を使ったインテリアコーディネートにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

実例4.
意外と多い!
冷蔵庫置き場がない間取り

1ルームの場合、キッチンの近くに冷蔵庫置き場が明確にされていないことも。

4つ目はキッチンに冷蔵庫置き場が示されていない間取りです。

「冷蔵庫置き場が明確に決められていない場合もレイアウトが難しいですね。間取り図に冷蔵庫置き場が示されてるか、コンセントが上に付いているスペースがある場合はわかりやすいと思います。ですが冷蔵庫置き場が示されておらず、スペースがない場合はどこに置けばいいか困ってしまいます」

【間取り選びの注意点】

「冷蔵庫置き場が確保できるかは、内見の際に確認しておきましょう。築年数が古い賃貸の場合だと、キッチンのスペースがある程度確保されている部屋が多いようです。ですが、コンセントがいい位置になくて冷蔵庫を置きにくいこともあるので、あらかじめ冷蔵庫置き場をイメージしておくことが大切ですね」

【使いやすくする解決方法】

「冷蔵庫置き場が確保できたとしても、冷蔵庫のドアが右開きか左開きかで使い勝手がかなり変わってきます。キッチンに立った位置から冷蔵庫が開けられないと非常に使いづらいので買い替えをおすすめします。両開きの冷蔵庫であれば問題ないですね」

引っ越しを機に冷蔵庫を購入する場合は、冷蔵庫をどこに置くか想定してから選ぶのがベストでしょう。

「今は、容量を変えずにサイズがコンパクトになった冷蔵庫も増えていますので、スペースが狭い場合はコンパクトサイズの物を選ぶといいと思います。また、コンロ側に冷蔵庫を置くスペースが設けられていない場合は、コンロの近くよりもシンク側に置く方がいいですね。火を使っている時に冷蔵庫を開けたら髪の毛が燃えてしまった、という事故も防げます」

実例5.
収納力の高さが仇に!
クローゼットが大きくて家具が置けない

5つ目は大きなクローゼットがある間取りです。一見収納力があって便利に感じますが、かえってデメリットになることもあるといいます。

「幅が大きくて高さも天井近くまであるクローゼットが付いている場合、掃き出し窓と同様に、家具を置くスペースが少なくなるというデメリットが生まれます。収納はたっぷりできたとしても、自分が置きたい家具が置けるかどうかは事前に確認が必要ですね」

【間取り選びの注意点】

「クローゼットの前は、ドアの開閉や物の出し入れをするスペースが必要になります。このスペースが、人が通る動線と重なるのであれば問題ありません。動線上には家具を置けませんので、かえってクローゼットがあることでスペースを有効活用することができます。逆に動線にはならない部屋の奥などにクローゼットがある場合は、家具を置くことができずデメリットになってしまいます」

右側に大きなクローゼットがありますが、扉の前が動線上になっているのでストレスなく使えます。

【使いやすくする解決方法】

「クローゼットの前に物を置かないという方法しかないので、使いやすさの改善は難しいですね。ただし、視覚的にクローゼットの圧迫感を軽減することは可能です。白壁の部屋だとしても、クローゼットの色は濃い目のブラウンになっている、ということも多いと思います。この場合、DIY用のシートをクローゼットに貼り、壁の色と同化させることで、圧迫感は少なくなり、視覚的に広く見えるようになります。クローゼットの圧迫感が気になる方は試してみてください」

部屋を借りる際に間取り選びに気をつけることは大切。また現在住んでいる部屋なら、家具やインテリアを工夫することでより住みやすい部屋にすることができます。すべてにおいて完璧な部屋を見つけるのは大変ですが、気になるところは工夫をしながら住み心地のいい部屋づくりにチャレンジしていきたいですね。

後編では、間取りに問題はなくとも、暮らすうえでよくある部屋の悩みと解決策を教えていただきます。

Profile

インテリアコーディネーター / 広島知範

札幌で活躍するフリーのインテリアコーディネーター、照明コンサルタント。YouTubeチャンネルでは「快適な住まいづくりをサポートする」をコンセプトに、週2回動画を更新。インテリアのポイントや工夫する方法を、3D画像などを使いながら視覚的に分かりやすく解説している。
HP
YouTube

取材・文=清水由香利(Playce) パース画像提供=広島知範