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SDGsが悪用されている!?「グリーンウォッシュ」の問題と
私たちができること

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サステナブル、エコ、地球にやさしい……。あらゆるモノやサービスに添えられる環境保護のうたい文句ですが、何を根拠にその言葉を信じるか、自分なりに考えてみたことはありますか? いま世界中で起こっている見せかけだけのエコ=「グリーンウォッシュ」の問題と、賢い消費者になるために今日からできることについて考えます。

「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」とは?

「グリーンウォッシュ」とは、英語でごまかし・粉飾といった意味をもつ「ホワイトウォッシュ」という言葉に、環境やエコといった意味をもつ「グリーン」の単語を組み合わせた造語です。主に企業のサービスや製品において、環境に配慮しているような取り組みをアピールしているにも関わらず、その実態がともなっていないことを指します。簡単にいえば、見せかけのエコということです。

「グリーンウォッシュは、アメリカの環境活動家が1986年に書いたエッセイで作り出した造語です。その後、環境に対する意識が世界的に高まるにつれてこの言葉がクローズアップされるようになり、’90年代の後半にはイギリスのオックスフォードという辞書に単語が掲載されるようになりました」

そう教えてくれたのは、国内外のサーキュラーエコノミー=循環型経済に関する情報発信や企業・自治体支援などを行っているプラットフォーム「Circular Economy Hub」で編集長を務める那須清和さんです。近年では「グリーン」の部分に「SDGs」という言葉を当てはめた「SDGsウォッシュ」「サーキュラーウォッシュ」という造語まで派生するなど、企業の広告コミュニケーションにおける「グリーンウォッシュ」はますます見逃せない問題になっているそう。

「サステナビリティやサーキュラーエコノミーへの取り組みは、今や企業にとって欠かせない戦略です。つまり、より環境に配慮した製品やサービスを提供している企業に、消費者(購入を通じて)、投資家(投資を通じて)からお金が集まる時代になったことが、この問題の背景にあると言えるでしょう。一方で私たち消費者は、企業の製品が作られる本当のプロセスや原料などに関して、まだまだ限られた情報しか得られないケースが大半です。企業と消費者の間にあるこのパワーバランスが、グリーンウォッシュを生むひとつの大きな要因になっていると言えます」(「Circular Economy Hub」編集長・那須清和さん、以下同)

何が問われる? グリーンウォッシュの「7つの罪」

企業におけるグリーンウォッシュ問題が顕在化してきたのは、2000年代以降だといわれています。特に環境意識の高いヨーロッパでは、誰もが知る世界的なファストフード・チェーンから自動車メーカー、アパレルブランド、航空会社まで、過去に少なからぬ大企業がグリーンウォッシュを非難されてきました。

では、具体的にどんな問題が起こっているのでしょうか? グリーンウォッシュには、以下に挙げる「7つの罪」があるとされています。

1.トレードオフ隠蔽の罪
一部の良い属性だけをアピールして、その製品やサービスに関わるすべてのプロセスが環境に配慮しているかのようにうたうこと。

2.証拠がないことの罪
その製品やサービスがどのように環境に配慮しているか、具体的に証明していないこと。

3.あいまいさの罪
「環境にやさしい」「サステナブル」といった曖昧な表現で消費者の誤解を招くこと。

4.誤ったラベル表示の罪
実際には存在しない第三者機関の認証ラベルなどを貼って、安心や安全を偽装すること。

5.無関係の罪
真実ではあっても、その製品やサービスを通して消費者が求めている環境配慮とはズレた的外れな部分で、エコをアピールすること。

6.「かろうじて良い」罪
その製品カテゴリーの中では「良い」とされる部分をアピールし、より大きな環境負荷、問題から消費者の注意をそらすリスクがあること(たとえば『有機タバコ』はこれにあたる可能性がある)

7.うそをつく罪
うそをついて、消費者をだますこと。

出典:UL「Sins of Greenwashing」https://www.ul.com/insights/sins-greenwashing

どれも消費者を裏切る悲しい行為ですが、那須編集長はこの中でもとくに気をつけるべき罪があるといいます。

「いま日本を含め世界中で起こっている問題の多くは、『1.トレードオフ隠蔽の罪』ではないでしょうか。例としてよくあるのは、原料だけ見れば環境に良さそうな製品だけれど、製造工程や物流といったライフサイクル全体で見ると多くのエネルギーを消費していて、エコと言いづらい……といったケースです」

一方で、これらの罪や『2.証拠がないことの罪』に関しては、今後の企業の取り組み次第で改善の余地もあるといいます。

「グリーンウォッシュへの問題意識がとくに高いヨーロッパでは、QRコードからその製品に関するサスティナビリティ情報を閲覧できる『デジタルプロダクトパスポート(DPP)』という仕組みが生まれようとしています。これによって、消費者がより詳しい情報を得て、信頼できる製品を選べる機会が増え、結果的に循環型経済を推し進めることにつながると期待されているんです。まだ検討段階ではありますが、EUでの導入が始まったなら、その流れはいつか日本にも波及するかもしれません」

それって本当に地球にやさしい?
だまされない消費者になるために

街のお店やSNSの広告など、日々あらゆるところで「エコ」「サステナブル」といった言葉やイメージを目にする時代。グリーンウォッシュにだまされない賢い消費者になるため、私たちにできることとは?

「まずはそういった言葉や表現に出会ったら鵜呑みにせず、注意して製品やサービスの情報を調べてみること。また、情報が多く表示されている製品を購入することなども考えられます。エコマークや有機JASマークのような認証ラベルの有無は、ひとつの判断材料にはなると思います。あとは、聞いたことのない名前の企業なら、検索して公式サイトで情報収集する心がけも大切ですね。また、SDGsやグリーンウォッシュについて基本的なことを知りたかったら、電通が公開している『『サステナビリティ・コミュニケーション』ガイド』という資料がわかりやすくておすすめです」

また、見逃されがちだけれど意外と有効な判断材料になるのが、「産地」についての情報だそう。

国内にも存在する場合は、できるだけ自分の暮らす場所から近い産地で作られたモノを買うという判断軸を持つといいですよね。たとえば外国で大量生産された木製品よりも、日本の職人が国産の木材を使って作ったモノの方が、製品に関する情報の透明性は高くなるはずです」

「地球にやさしいこと」や「効率の良いこと」をしているつもりで、実はそうではなかった…というパターンは、近年どんどん身近になっているあのサービスにも潜んでいるかもしれません。

「意外に思われるかもしれませんが、環境負荷として注意が必要なのは、便利な『サブスク』サービスです。サブスクでモノを所有せずに利用するアイデアは良いことも多いといえます。しかしここで新たに発生する物流や梱包資材が、どれほどのCO2を排出するか? もしかすると、日々の洗浄やクリーニングで大量の水を汚しているのではないか? そういった視点を持ってサービス全体をチェックすると、全く違う側面が見えてきたりします。実際、ライフサイクル全体での環境負荷を抑えるため、再利用できる梱包資材を導入したり、既存の物流ラインを生かしてコストを抑えたりといった努力をしている企業も出てきていますから、できるだけそういったサービスを選びたいですよね」

ひとことにグリーンウォッシュといっても、その問題は複雑多岐。とくに日本はヨーロッパに比べると、問題に対する消費者の認識もまだまだ低いのが現状です。そんななかで企業によるウォッシングを少しでも減らすためには、消費者自らがリテラシーを高めていくことが不可欠だと那須さんは言います。

モノを買うときに、“ライフサイクル”という視点で製品を選ぶことがその第一歩になると思います。長く使えるか、メンテナンスはしやすいか、壊れたときに修理が頼めるのか、ライフスタイルが変化したときに対応できるか、リサイクルできるのか。すべての情報を得ることは難しかったとしても、買った後のことを自分なりに考えてイメージしてみることはできるはず。目先のエコ、サスティナブルといった言葉に踊らされず、モノの本質的な価値をちゃんと見ようとする意識が大切なのではないでしょうか」

Profile

Circular Economy Hub 編集長 那須清和

Circular Economy Hub 編集長 / 那須清和

大学(紛争学専攻)卒業後、教育関連企業・経営支援団体を経て、Circular Economy Hubに参画。また、サークルデザイン株式会社を設立する。サステナビリティ、特にサーキュラーエコノミーに特化して、共創・調査・研修などを行う。2004年に実施したエクアドルでの鉱山開発を巡る紛争のフィールドワークをきっかけに、サステナビリティに関心を持ち、後にサーキュラーエコノミーを追求・推進するようになる。
Site=https://cehub.jp/

取材・文=小堀真子