日本の津々浦々でサッカーをプレーする少年少女たちに“世界”を体験してもらいたい……「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」は初開催から、世界最高レベルの育成機関を持つFCバルセロナの招聘(しょうへい)が実現し、ジュニア世代に貴重な体験を提供してきました。ところが、コロナ禍によりこの2年間は国内チームのみの大会に。
そして今夏、3年ぶりに海外クラブが参加する本来のスタイルに回帰。そこで何が起きたのか、レポートします。
今年で10周年。
第1回には久保建英選手が海外チームの一員として参加
日本のジュニア世代にとって、世界の強豪クラブと対戦できるのはまさに夢。しかも、国内でそうした機会にチャレンジできることは、選手だけでなく指導者にとっても大きな意義があることです。
そこで2013年、日本の子どもたちや指導者に“世界レベル”を体験してもらうことを目的に始まったのが、「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」。現在もメインスポンサーである大和ハウスグループの強力なサポートにより、スペインの強豪・FCバルセロナ(バルサ)の招聘に成功し、当時バルサに所属していた現日本代表の久保建英(くぼ・たけふさ)選手も参加したことは、大きな話題となりました。@Livingでは同大会の模様を幾度となく取り上げてきましたが、あらためておさらいしておきましょう。
街クラブの子どもたちが
闘将たちの薫陶を受け戦うチャンス!
第1回の国内参加チームは主にJリーグの下部組織でしたが、第2大会から街クラブの枠が設けられ、一般のクラブチームも参加。また2018年の第6回大会からは「多くの子どもたちに世界の強豪チームと対戦する機会を提供したい」と街クラブ選抜チームも結成。2019年からは「大和ハウスDREAMS」と「大和ハウスFUTUERS」の2チームで参戦しています。元日本代表の岩政大樹さん、久保竜彦さん、播戸竜二さんらが監督を務めています。
会場はJリーグチームの本拠地!
会場は、読売ヴェルディやガンバ大阪、ジェフ千葉といったJリーグの名門チームが本拠地とするスタジアム群など。国内指折りの設備を存分に使い、11人制のゲームに挑むことになります。
2017年までは東京の味の素スタジアムとヴェルディグランド、18年と19年は大阪のパナソニックスタジアムなど万博競技場、20年は福島のJヴィレッジ、21年は再び大阪、そして今回は千葉で開催されました。
前置きが長くなりましたが、この「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」の2022年大会では、海外チームが一部復帰したことでどのような戦いぶりが見られたのか、最注目のバルサから見ていきましょう。
3年ぶりに参加のバルサは
3決に回るも怒涛のゴール
3年ぶりの大会参加となったバルサは、グループリーグを1位通過。順調に準決勝進出したものの、ヴィッセル神戸U-12の堅い守りを攻略できずにスコアレスドローとなり、PKで惜しくも敗退。湘南ベルマーレアカデミー選抜との3位決定戦に進むと、前半は湘南に先制ゴールを許すも、後半は怒涛のゴールラッシュを繰り広げました。
後半開始1分に快足のルスラン・エムバ・エルナンドが抜け出し同点ゴール。このあと流れをつかんだバルサは後半25分間で8ゴールを挙げ、8対1で実力の差を見せつけました。前半の1点が、今大会のバルサが喫した唯一の失点でもありました。
試合後、アルベルト・プッチ・アルカイデ監督は「普段は7人制でプレーしているのが、ここでは11人制で、またこういう環境でプレーするのも初めてと、いろいろプレッシャーもありました。ただ今回は、たくさん試合ができて早く慣れることができましたし、5日間チームメイトと一緒にいられたことで、チームが結束する時間を持つことができました」と大会の収穫を振り返りました。
一方、同じく海外から参戦したイタリアの名門・ユベントスFCは今回が初参加。決勝トーナメント進出はなりませんでしたが、最終日も会場に残ってゲームを観戦し、帰国の途につきました。
バルサが3位決定戦に回ったことで、決勝戦は国内チームで激突。そのゆくえは?
海外クラブ参加の大会で
初の国内クラブ同士の決勝戦
コロナ禍で3大会ぶりに海外クラブが参加した記念すべき第10回大会。決勝戦に進んだのは、意外にも国内クラブの2チームでした。挑んだのは、全国に24校を展開する街クラブ malvaの選抜チーム「malva future select」(マルバ)と、Jリーグの下部組織「ヴィッセル神戸U-12」。
日本初のサッカーとフットサルを融合させた選手育成プログラムを採用するマルバは、前半開始1分で小林龍聖選手が先制ゴール。その後もマルバのペースでゲームは進みますが、お互い決定機がないまま、後半も残り8分でヴィッセルの山口隼澄選手のクロスを細野陸十選手が頭で合わせ同点。決勝戦らしい互角の攻防が続くなか、残り2分でマルバのオツコロ海桜選手がカウンターから一人で約70mを持ち込みゴール。しかし、これで終わらず1分後にヴィッセルの池田惇羽選手が技ありのロングシュートで同点。そのままタイムアップで決着はPK戦にもつれこみます。
バルサとの準決勝でPKを3本セーブしたヴィッセルのGK田口創一朗選手に対し、今大会初のPK戦に挑むマルバ。ここでもお互い譲らず9本目のヴィッセル、決勝で同点ゴールを決めた山口選手のボールをマルバのGK、若杉颯太選手がファインセーブし、マルバ9人目の長井健選手が決めて、頂点に立ちました。
大会にとっては10年の節目でも、
選手には一度きりのチャンス
「日本と海外の違いには、優れているところもあれば、残念ながら足りていないところもあります。小学生の頃から子どもたちにはその差を、直接肌で感じてもらいたい。指導者の方も直接対決することによってさまざまな気づきが生まれるだろうと、我々も考えています」と大会開催の意義を大会実行委員の尾形寿紀さんは語ります。
大会は記念すべき10回目を迎えました。とはいえ、昨年までの2年間はコロナ禍で海外クラブの招聘が難しく、開催すべきか悩んだそう。
「『ワーチャレ』という名前でやっていいのかということも含めて、いろいろ苦慮しました。ただ、大会実行委員長の浜田満から『子どもが諦めていないのに、大人が簡単に諦めるな』と言われて。我々もできることは何か、いつならできるかを考える2年間でした」
「コロナ禍で多くの大会がなくなり、そのなかで僕たちまでなくしたらいけないという思いがありました。なんとか全国レベルの大会は開催していかないと、という思いで。チームからは『開催してくれてありがとう』という言葉をたくさんいただきました。
参加する子どもたちの9割は6年生です。我々にとっては10回目ですけど、彼らにとっては最初で最後の1回。この時期でしか得られない体験、この時期だからこそ感じられることもあるはずという気持ちで、やり続けなければいけないと思いました」
また、この2年間で趣旨は変わっても、逆に特別な意味をもらった、とも話します。
「2019年には10チーム近くの海外のチームに来ていただきましたが、今回は2チーム。だんだん出口が見えてきたので、また次になにか新しいことができればと考えています」
今回3年ぶりに海外の強豪チームが参加し、本来の「ワーチャレ」が戻ってきましたが、大会主催者は完全復活が目標ではなく、さらなる展開を考えています。選手にとっては貴重な体験、そして私たちにとってはジュニア世代の純粋な頑張りに感動をもらえる大会。10回の節目を迎えましたが、今後の開催からも目が離せません。
取材・文=佐々木一弥(マイヒーロー) 撮影=泉山美代子