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FCバルセロナと日本の街クラブサッカーが激突!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2023」で
再確認した大会の価値とは

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11回目を迎えた「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」(通称ワーチャレ)。今年は8月24日から27日、千葉のフクダ電子アリーナや周辺のグラウンドで開催されました。“ワールドチャレンジ”と銘打つ本来の姿が戻ってきたことを感じさせた、今大会のハイライトをレポートします。

ジェフ千葉の本拠地、千葉市のフクダ電子アリーナで決勝・準決勝・3位決定戦が行われた。

国際色豊かな本来の“ワールドチャレンジ”が復活

ジュニア世代を対象とした、11人制サッカーのインターナショナルなサッカー大会として、すっかりお馴染みとなった本大会。通常、小さなコートを使って7〜8人で戦うジュニア世代の諸大会と一線を画し、スペインのFCバルセロナ(バルサ)を筆頭に世界的強豪クラブのジュニアチームと、フルコートのサッカーで勝負ができる点が、参加チームにとっても大きな魅力となっています。

今回の2023年大会では、欧州からFCバルセロナとユベントスFCが前年に続いて参戦したうえ、コロナの影響で途絶えていたアジアやアフリカを中心とした海外チームの招待も復活。中国から2チーム、インドネシアから1チーム(直前で事情により出場辞退)、さらには政情不安が続くミャンマーからもU-12チームが参加するなど、国際色豊かな本来のワーチャレとなりました。

スペインからは、常連かつ大会の象徴的存在となっているFCバルセロナが昨年に引き続き参戦。

U-12、つまり小学生でありながら、海外の強豪チームと試合ができる機会はほとんどないでしょう。とくに島国・日本の選手たちにとっては、その機会を作ることも容易ではありませんが、逆に機会を得ることができたチームや選手にとっては、得難い経験となることは間違いありません。

振り返れば、2013年の第1回大会では、現日本代表の久保建英(くぼたけふさ)選手を擁するFCバルセロナのジュニアチームが圧倒的な強さを見せつけ優勝。日本のサッカー指導者たちに大きな衝撃を与えました。以来、ワーチャレはバルサを筆頭とした世界の強豪クラブと勝負でき、かつ世界の最先端のプレー技術や戦術、指導技術に触れることができる大会として、ジュニアチームのコーチたちの間で注目度を増していきました。

一方では、この10年の間に日本におけるジュニアサッカーのレベルも着実に進歩を遂げています。当初は歯が立たなかった強豪の海外招待チームとの対戦も、僅差の勝負となる好ゲームが増え、実際コロナ禍直前の2019年、そして昨年の2022年の大会——FCバルセロナは出場した直近2大会で、決勝に辿り着けていません。それ以前の大会では、全出場大会で決勝に進出、優勝を果たしていたのです(準優勝は1回のみ)。

「ワーチャレは子どもたちが世界に“憧れる”のではなく、『自分たちもやれるぞ!』と肌で感じてもらうことで、今後の成長を引き出すという意図をもって開催しています」と話すのは、大会実行委員長の浜田満さん。コロナ禍を乗り越えた同大会への国内からの参加要望増加に応え、本大会に出場するための国内予選の枠も大幅に拡大されました。以前は別々だったJクラブと街クラブの垣根も取り払って、全国8カ所で予選を敢行。その結果、“天王山”であるフクダ電子アリーナには有名無名を問わず、全国から非常にレベルの高いチームが集まりました。

大会の発起人で、実行委員長を務めるAmazing Sports Lab Japan代表の浜田満さん。

その効果は、結果からも感じられます。グループリーグではどの試合も接戦、熱戦となり、FCバルセロナやユベントスFCとの試合でも、大差がつく試合が見られません。大会後、浜田さんは「日本のチームがこの大会に力を入れるようになってくれて、大会のレベルがとても上がりました」と感想を語っています。ワーチャレの開催意義が着実に日本のジュニアサッカー界にも広がり、その成果は今大会にも色濃く反映された——。そう見て間違いないでしょう。その象徴が、今大会の決勝の対戦カード、FCバルセロナ対SORRISO SELECT(ソレッソ・セレクト)でした。

決勝は、スペインから参戦したFCバルセロナと熊本・鹿児島・宮崎・長崎と九州4県からの選抜チーム、ソレッソ・セレクトという顔合わせ。

バルサの猛攻に、街クラブによる席巻……
今大会を象徴するような戦いの行方

今大会ではFCバルセロナの気合いの入り方が、これまでとは違って見えました。来日した選手たちは、ここ2大会で決勝進出を逃していたことを、先輩たちから聞いていたそうです。つまり彼らは、プライドを賭けて優勝を狙いに来ていたのです。“バルサ招聘”を実現させてきた浜田さんも、「今年のバルサはすごくいいチームで、トップレベルの選手たちが出てくれた」と語ったことにも現れています。

彼らの優勝への強い思いが炸裂したのが、準決勝の横浜F・マリノスプライマリー戦。炎天下での連戦の疲れなどまったく感じさせず、開始早々から、1タッチ、2タッチで流れるようにつないでいく持ち前のパスサッカーと、とくに前線の3人の選手たちの個人技とスピードで、横浜F・マリノスプライマリーを防戦一方へと押し込んでいきます。また攻撃のみならず、ボールを失った後に猛然と奪いにいく選手たちの戦う姿勢には、勝利への執念が見られました。

バルサは決定機を量産。大量8ゴールを奪い、Jクラブのジュニアでも最高峰クラスのチームに圧勝を遂げました。横浜F・マリノスプライマリーは、終盤になって意地のゴールをもぎ取りましたが、それが精一杯の抵抗でした。これがバルサの真の実力か、そう思わせました。

Jクラブチーム同士の対戦となった3位決定戦は、決着がPKにまでもつれ込んだ。

もう一方の準決勝では、ソレッソ・セレクトがヴィッセル神戸U-12を下して、決勝に進出します。勝者のソレッソは、熊本を拠点として2002年に設立された街クラブで、九州各地でスクールも展開しており、その各地から集めた選抜チームということで“セレクト”を名乗ったそう。

驚くべきは、「5カ所から何人かずつ集めたチーム」(広川靖二監督)が並みいる強豪たちを抑え、決勝まで進出してきたことでしょう。いわば即席のチームが、決勝でバルサと対戦する。そんな痛快なことが実現してしまうのがワーチャレの真骨頂であり、まさにこの年代の選手たちの、草の根からのレベルアップを感じさせた出来事といえました。

決勝戦に向かうソレッソ・セレクトの選手たち。決勝に駒を進めた喜びが伝わってくる。

世界のバルサと地方の街クラブが激突

迎えた決勝でも、驚きは続きました。気合十分で試合に臨んだFCバルセロナのメンバーにまったく臆することなく、ソレッソ・セレクトの選手たちも前へと圧力をかけ、開始早々にコーナーキックのチャンスを得ます。ニアに送ったボールをバルサの選手が頭でそらすと、ボールはそのままバルサゴールへ……。なんとオウンゴールでソレッソが先制点を奪います。

まさかの失点でしたが、バルサも慌てることはありませんでした。ただそれ以上に、中盤に人数をかけ、執拗に圧力をかけてくるソレッソの選手たちに、手を焼いているのは明らかでした。それでも9分には、中盤深めの位置からのスルーパスに、今大会で見事なゴールを重ねてきたFWのエクトル・ネストル・アスム・オヤナ選手が反応。同点に追いつきます。

エクトル・ネストル・アスム・オヤナ選手。その抜群のスピードとテクニックは、今大会でも屈指のFWといえる存在だった。

ソレッソは同点に意気消沈することなく、とにかく走って身体を寄せ、交わされてもカバーを繰り返します。とくに速さと巧さを兼ね備えたFWのエクトル選手やディバイン・イケナ・エジョフォル・ジョン選手のマークを任された切通武琉選手と河崎心太郎選手の身体を張ったディフェンスは、ソレッソのピンチを何度も救い、とうとう前半は1-1の同点で終了しました。

ディバイン・イケナ・エジョフォル・ジョン選手と競り合う切通武琉選手。FW登録の選手だが、決勝では実に粘り強い密着マークで相手FWを困らせた。
後半から投入されたマルビン・チュックウブンケン・ドゥル・ドゥル選手と、負けず劣らぬ走力を見せる河崎心太郎選手。彼もまた切通選手とともにバルサのFW陣を苦しめた。

準決勝でJクラブのジュニアを完膚なきまでに叩きのめしたバルサでしたが、決勝では街クラブのソレッソに善戦を許すという構図は、今大会を象徴していたといえます。スーパーな選手がいるわけではないソレッソでも、戦い方次第でバルサでさえ苦しめることができる。まさに浜田さんの言う「世界に憧れるのではなく、『自分たちもやれるぞ!』と肌で感じる」を、ソレッソは体現していました。

ソレッソ・セレクトの守護神は、井 友惺(い・ゆうせい)選手。決勝ではDF陣とともに、鋭い飛び出しと的確なセービングでピンチを何度となく防いだ。

迎えた後半、ソレッソは変わらずハイプレッシャーでバルサに挑んでいきます。とはいえ、バルサの選手たちもしたたかでした。32分(後半7分)、後半から入ったマルビン・チュックウブンケン・ドゥル・ドゥル選手が一瞬のスキを突いてマークについていた相手を振り切って後方からのパスに飛び出すと、そのまま見事なゴールを決めます。逆転ゴールの歓喜に、ベンチから選手も飛び出し大喜び。それは、バルサの選手たちが本気で勝利を求めていた証でした。

その後もソレッソは懸命に走り続け、時にチャンスを迎えたこともありましたが、ゴールには及ばず。逆に48分(後半23分)には、今大会のMVP、ジャン・リソス・トレス選手に3点目を決められ、勝負は決しました。優勝杯は2018年以来となるFCバルセロナが獲得。準優勝はソレッソ・セレクト、そして3位はJクラブ同士の熱い3位決定戦をPK戦で制したヴィッセル神戸U-12 という結果でした。

チームにトロフィー、各自にメダルが授けられた。
トロフィーを円陣の中央に置いて、優勝を喜ぶバルサのチームメンバー。
グループリーグから決勝まで、ハイスピードドリブルを武器にゴールを量産したジャン・リソス・トレス選手には、大会を通じてたった1名の選手にのみ与えられるDaiwa House MVP賞が授与された。

日本中のサッカー少年少女に
ポジティブな経験を受け継ぐ

決勝の試合後、ソレッソの広川靖二監督が語った言葉が印象的です。

「ぼくらが(決勝まで)来られたということは、誰にでもチャンスがあるということ。それをチームとして表現できたことは、日本中のサッカーをしている子どもたちにとってポジティブなことだと思います」

バルサやユベントスといった世界の強豪ジュニアを招待するだけでなく、街クラブ選抜チームを作るなど、常に日本サッカー界の裾野を支える街クラブに門戸を開いてきたことも、ワーチャレのもうひとつの特徴。今大会の結果は、その試みに対する1つの成果がもたらされたといえます。街クラブでもやればできるとなれば、市井で奮闘する街クラブの指導者の皆さんを勇気づけるとともに、Jクラブにも大きな刺激を与えることにもなります。

ソレッソ・セレクトの選手たちは勇敢に戦い、日本サッカーの裾野の広さ、豊かさの一端を垣間見せてくれました。一方のバルサの選手たちは、プレーの巧みさや賢さに加え、気持ちの強さも披露。選手たちがこの大会で得た経験は、きっと豊かな土壌となって、今後の成長を一段も二段も押し上げてくれるのではないでしょうか。

決勝戦直後。ソレッソ・セレクトの選手たちは善戦していただけに、その顔に悔しさがあふれる。
大会終了直後のアリーナでは、バルサと国内参加チームや観客たちとの交流も見られた。
「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」は第1回大会より、大和リビングをはじめとする大和ハウスグループが協賛して開催。近年はメディアやゲーム会社などスポンサーのラインナップも多様化しつつある。

「今大会を経て、このワーチャレの趣旨というものを、また多くの方に理解していただけるのではないかと思います。ここ数年は、コロナ禍の影響で海外チームを連れてくることが難しかったのですが、今年、またイチから新たな歴史を作っていけると感じました」(浜田さん)

コロナ禍を乗り越え、U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジもまた新たなステージへ。次はどのような戦いが繰り広げられるのか、早くも2024年が楽しみでなりません。

取材・文=マイヒーロー 撮影=真名子