世界トップレベルのクラブと真剣勝負ができる————。ジュニア年代のサッカー少年・少女たちに、そんな機会を与えてくれているのが、『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ』という大会です。
今年で5回目を迎えるこの大会は、回を追うごとに規模が拡大し、海外からはFCバルセロナ(スペイン)、アーセナルFC(イングランド)、パテアドーレス(アメリカ)、ダニーデンテクニカル(ニュージーランド)、広州富力足球倶楽部(中国)の5クラブが参戦。また、国内ではJクラブ予選を勝ち抜いた9つのJクラブ下部組織(鹿島アントラーズジュニア、大宮アルディージャジュニア、柏レイソルU-12、川崎フロンターレU-12、松本山雅FC U-12、清水エスパルスU-12、名古屋グランパスU-12、ガンバ大阪ジュニア、サガン鳥栖U-12)に加え、5つの街クラブ——ACジュニオール(北海道・東北予選)、バディサッカークラブ(関東予選)、スクエア富山FC U-12(東海・北信越予選)、アイリスFC住吉(関西・四国予選)、福山ローザス・セレソン(中国・九州予選)が同じく地区予選を勝ち上がりました。そのほか、東京ヴェルディジュニア、ワールドチャレンジ街クラブ選抜、東京都U-12、湘南ベルマーレスクール選抜、本田圭佑選手(パチューカ/メキシコ)がプロデュースするソルティーロ・ワールド・セレクトを合わせた計24クラブが参加しました(昨年度は16クラブが参加)。
スター選手が集まる憧れのビッグクラブと対戦
国内外の強豪クラブがナンバーワンを競い合うビッグイベント。その最大の魅力は、FCバルセロナと対戦できることでしょう。FCバルセロナは言わずと知れた世界でも指折りのビッグクラブ。メッシ選手(アルゼンチン)をはじめ、世界各国からスター選手が集まるこのクラブは、この大会でも無類の強さを誇っています。第1回大会から連覇を果たし、唯一タイトルを獲れなかったのが2015年の第3回大会。準決勝で東京都U-12にPK戦の末に敗れましたが、それ以外はすべて頂点へと上り詰めているのです。
ジュニア世代においても、名実ともにナンバーワンの座にあるFCバルセロナを、どのクラブが倒すのか。「打倒・バルサ」を合言葉に、予選リーグから激しい戦いが行われました。そして大会最終日の8月27日、味の素フィールド西が丘では予選リーグを経て決勝トーナメントを勝ち上がってきた4クラブが集結。決勝の舞台へたどり着いたのは、FCバルセロナと東京都U-12でした。
準決勝では、FCバルセロナが名古屋グランパスU-12を5対0で下したのに対し、東京都U-12は昨年度のファイナリストである大宮アルディージャジュニアに2対1で勝利。くしくも、2年前にFCバルセロナに土をつけたことのある因縁の相手、東京都U-12との対戦となったのです。
決勝に先駆けて行われた3位決定戦は名古屋グランパスU-12が大宮アルディージャジュニアを2対1で破り、3位に。スコアレスドローの前半を経て、後半は点の取り合いとなって、スタンドもヒートアップ。興奮冷めやらぬなか、いよいよ決勝を迎えました。
バルサ相手に一進一退の攻防を展開!
FCバルセロナの選手たちがピッチに登場すると、スタジアムの空気は一変。観客たちは、彼らのプレーに釘付けとなりました。
FCバルセロナがディフェンスラインからボールをつないで攻撃してくるのに対して、東京都U-12は前線から素早いプレッシャーをかけて対抗。ビルドアップがうまくできない時間帯が続くなか、それでもFCバルセロナは一瞬のスキをついて、流れるようなパスワークから22番のジャン・モリナ・ビラセカ選手がフィニッシュし、先制ゴールを奪いました。
早い時間帯でリードを奪ったFCバルセロナがこのまま試合を支配するかと思われたものの、東京都U-12は高い集中力を発揮。前線からのハイプレスと鋭いカウンターで応戦していくなか、19番の吉荒開仁選手のミドルシュートで同点に追いつきました。
FCバルセロナのダビド・サンチェス・ドメネ監督は、「持ち味だと感じたのはスピードと献身性。ビルドアップからプレスに来るスピードがすごかった。さらに後半になっても運動量が落ちない。どの試合でも日本人選手の規律正しさには驚かされたが、東京都U-12の選手は特に素晴らしかった」と振り返ったように、1対1で折り返した後半は、まさに一進一退の攻防を繰り広げました。その後はお互いに決定的なシーンを何度も迎えるなか、終了間際、ロングボールから抜け出した12番のアマドゥ・バルデ選手が決勝ゴールをゲット。FCバルセロナが2年連続4度目の優勝を果たし、東京都U-12は2度目の準優勝となりました。
あと一歩のところまで追い込んだ東京都U-12をはじめ、対戦相手の激しいプレッシャーを受けながらも、最終的には勝利をたぐり寄せたFCバルセロナ。前述したとおり、FCバルセロナはこれまで過去すべての大会に参加し、唯一の敗戦は2年前のPK戦負けのみ。公式大会においてPK戦は引き分け扱い。いまだFCバルセロナは無敗クラブということになります。
世界との差を痛感し経験を次に活かすこと
この『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ』を通して、FCバルセロナのレベルの高さを見て、日本サッカー界の関係者たちはどんな想いを持っているのでしょうか。
日本サッカー界をリードするガンバ大阪のジュニアチームを指揮する足高裕司監督は、この大会を通して世界との差を痛感することで、つねに日本の指導者が危機感を持つことが大切であると言います。
「僕自身、昨年に続いて2度出場させてもらっていますが、FCバルセロナとの差は縮まっているように見えて、やはり明らかな差があることを感じざるを得ません。それはとてもショッキングなことです。同じ年代で同じ期間サッカーをしているのに、どうして差が生まれるのか。この時点でこれだけの差が出ているわけですから、その差を埋めるのはなかなか難しいのではないか。こういった大会に参加して、彼らとの差を体感して、みんなで埋めていく必要があると感じています」
2015年から後援をするJリーグの村井満チェアマンも、若いうちから世界で戦うことの重要性を強調しています。
「ゴールデンエイジであるこの世代は、競技成績の結果うんぬんというより、勝者のメンタリティを身につけることが大事。そのためには、国際大会の場を経験することが重要だと感じています。2014年ブラジル・ワールドカップ決勝でマリオ・ゲッツェが決勝ゴールを決めました。その彼がドルトムントに入団したのは9歳くらい。ドイツを優勝へと導いた彼らの世代のプロセスを見ると、この世代からの経験はとても大事。日本サッカーにとって、判断スピードとか技術の習得はもちろん必要なことですが、世界と対等に戦うといった“戦う気持ち”を養うことが、すごく大切なんじゃないかと思っています。このような大会を通して、自分たちも世界と戦えるんだ、という気持ちを持てることが大きい。心の成長というところにも期待しています」
そして、大会実行委員長の浜田満さんも、「本大会に参加するみなさん、自分の現時点での能力を100パーセント出し切っても勝てないチームとの対戦があるでしょう。ただ、100パーセントで戦うこと、これがスタートラインです。100パーセントで戦ったときに自分が気づいた世界と、今までとのギャップ、これを埋めることが成長につながります。U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジでの経験が、みなさんの成長曲線を引き上げるきっかけになることを心より願っております」と、大会オフィシャルホームページにおいて宣言しています。
このように関係者が口を揃えるように、『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ』を通して、“世界最強”のクラブと切磋琢磨できるのですから、いまの日本のサッカー少年・少女たちは幸せと言えるでしょう。早い段階からトップレベルの経験を味わうことが、世界への近道——。『打倒・バルサ』を合言葉に、日本サッカーの今後の成長を、誰もが期待しています。
取材・文=小須田泰二 撮影=n.プロジェクト