オリンピックや箱根駅伝など、昨今スポーツイベントがあるたびに注目される最新鋭のランニングシューズ。ナイキの厚底シューズが話題を集めたのが記憶に新しいところですが、その勢力図は刻々と変化しています。そこで、ランニングギアの専門誌『Runners Pulse(ランナーズパルス)』編集長の南井正弘さんに、ランニングシューズの最新事情をヒアリング。加えて、自分に合ったランニングシューズを見つけるポイントなども教えていただきました。
さらに記事の後半では、オン/オフ問わず活躍するランニングシューズをピックアップ。スタイリストによる、私服とのコーディネートのコツも紹介していきます。
ランニングシューズのトレンドは? “厚底”のメリット・デメリット
まずは、ランニングシューズのトレンドをチェック。どのようなデザイン・形状のモデルが増えているのでしょうか?
「ランニングシューズは少し前まで、“走るときにだけ履くもの”という考え方が一般的でした。そのため、普段履くには少しスポーティーすぎたり、そもそもファッショナブルでなかったりするものが多かったんです。ところが最近では、走るときだけでなく、オフシーンでもおしゃれに履けるデザインのランニングシューズが増え、ランナーたちの間でも人気が高まっています。
形状は、ここ5年くらいは“厚底”がトレンドです。そもそも厚底は、それまで主流だった薄底と比べて足の疲労が少ない点がメリット。薄底は蹴る力が地面にダイレクトに伝わりますが、その分足に負担が大きく、トップの選手であってもフルマラソンの終盤などは、足がかなり辛い状態になってしまうんです。それに比べて厚底は、地面への衝撃を吸収しながら、地面から反発する力をもらうことができるため、足へのダメージが軽減されるのです。
でもこれは、あくまでもトップ選手に限った話。一般のランナーの間でも、ある程度は厚底がトレンドになっていますが、トップの選手ほど“厚底偏重”ではありません。理由は、着地したときのバランスが取りづらかったり、シューズによってはペースが上がりすぎてコントロールしづらかったりと、扱いづらい側面もあるためです。それでもトップの選手と同様に、衝撃吸収と反発力を兼ね備えたシューズを選ぶ人が増えていると思います」(南井正弘さん、以下同)
トップ選手たちが履いているのは?
一般のランナーたちも常に注目しているという、トップ選手たちのランニングシューズ。2021年に開催された東京オリンピックや2022年1月の箱根駅伝では、選手たちはどのようなシューズを履いていたのでしょうか?
「2020年までの大きなレースでは、8~9割の選手がナイキのシューズを履いていました。2021年の東京オリンピックのマラソンでも、男子のトップ3の選手全員が履いていたのは、ナイキのシューズ。しかし女子は、1位の選手がアディダス、2位がナイキ、3位がプーマと見事にバラバラでした。少しずつではありますが、国際的なレースでナイキが独占する市場は変わりつつあるのではないかと感じています。
また、箱根駅伝でも、2021年はなんと約95%の選手がナイキのシューズを履いていたのに対して、2022年は約73%と減少しました。しかしながら箱根駅伝の1区から10区で、それぞれトップ3の選手が履いていたシューズの多くはナイキ。そう考えると、トップクラスの選手たちは、ほとんどがナイキを履いていたという見方もできるんですよね。全体の比率は減少したとはいえ、7割のシェアはすごいこと。箱根駅伝でもナイキが独占する市場は変わりつつあるとはいえ、まだまだナイキがリードしているのが現状だと思います」
主なランニングシューズメーカーの最新事情をチェック!
トップランナーの世界でも、少しずつ変化しているランニングシューズ事情。続いては、主なメーカーがここ最近販売しているランニングシューズについて、特徴や進化したところなどを教えていただきました。
1.ランニングシューズ業界をリードする「ナイキ」
「スタイリッシュでかっこよく走れるシューズが揃っているナイキ。見た目のおしゃれさはもちろん、アパレルとのコーディネートがしやすいところも大きな魅力で、シューズとカラーリングがマッチしたランニングウェアも販売されています。もともと強みだったファッショナブルさに加え、ここ5年くらいで、厚底シューズを筆頭にレースでの強さもよりプラスされたシューズが増えました。現在、世界的に見ても絶好調なブランドだと言えると思います」
2.新たな挑戦をはじめ、トップシーンでの強さを見せる「アシックス」
「アシックスは、レースでの強さが魅力。2021年に販売を開始した『METASPEED』シリーズは、東京オリンピックや箱根駅伝でも履いている選手がいました。そしてここ最近のアシックスは、昔ながらの伝統的なつくりのシューズに加えて、底がゆりかごのように転がるタイプや、トランポリンのように跳ねるタイプなど、新たなシューズもつくるように。ここ数年は“ナイキ一極集中”とも言われていましたが、アシックスにもトップシーンでの強さが戻ってきています」
3.一般ランナー向けのランニングシューズがより洗練された「アディダス」
「アディダスはここ1,2年で、トップシーンはもちろん、一般ランナー向けのシューズもかなり洗練されたという印象があります。もともと一般ランナーの間でポピュラーだった『ADIZERO JAPAN』『ADIZERO BOSTON』は、2021年に発売されたモデルにかなりの人気が集まりました。さらに以前よりもシューズとアパレルのコーディネートがしやすくなったところも、最近の傾向として挙げられると思います」
4.衝撃吸収と反発力を兼ね備えたシューズが増加する「ミズノ」
「ミズノの強みの一つは、反発性に優れた素材を自社で開発しているところです。最近では『ミズノエナジー』と呼ばれる高反発素材を開発。ミズノエナジーを採用することによって、今まで以上に着地した衝撃を吸収し、地面からの反発力が強化されたランニングシューズが増えました。またシューズのカラーリングなども、よりスタイリッシュになってきている印象があります」
5.普段履きとしても人気! 厚底シューズの元祖「ホカ」
「ホカは、厚底のランニングシューズを初めて販売したブランドと言われています。底がコロンと転がるような形状になっていたり、足にやさしいマシュマロのようなクッションが使用されていたりするところがシューズの特徴です。以前は、山を走るトレイルランニングでよく履かれていましたが、最近ではロードランニングでもメジャーになってきています。シックなカラーリングのシューズもあって、普段履きとしても人気。今、ランニングの世界で旬なブランドの一つです」
6.シンプルでスタイリッシュなデザインが魅力の旬ブランド「オン」
「ランニング業界で今が旬のもう一つのブランドが、スイスの『オン』です。独自のクッション構造である『クラウドテック』が用いられたシューズは、着地の衝撃を自然に吸収して爆発的に力を跳ね返してくれます。さらにオンのシューズは、ラインなどがあまり入っていないシンプルでスタイリッシュなデザインも魅力で、オフィスにも履いていけるようなカラーリングのものもあります」
およそ1500足のシューズを所有する南井さん。現在愛用している一足に、オンのシューズもあるそう。
「今、気に入っているランニングシューズが、オンの『Cloud Waterproof』です。このシューズは防水なのですが、通常の防水シューズのような“ゴツさ”がなく、普通のランニングのときでも履きやすいのが魅力の一つです。もちろん防水の機能も抜群。最近は大雨が降ったり、東京でも雪が降ったりすることがありますが、そうしたときに履いても履き口以外からは全く水が入ってきません。さらにシューレスはゴム紐なので楽に履くことができます。欠点をあげるとすれば、このシューズを玄関に置いておくとこればかりを履いてしまうこと(笑)! そのくらいやみつきになる一足です」
自分にぴったりのランニングシューズを選ぶには?
たくさんのシューズがある中で、自分のお気に入りの一足を見つけるためにはどうすればいいのでしょうか? アドバイスいただきました。
「ランニングシューズを選ぶときには、自分の足とシューズの形が合っているかどうかを確かめることが一番大切です。自分の足に合っていないのに、色やデザインが気に入っているからと言って無理に履き続けてしまうと、足の病気や怪我につながることもあります。
そのためには、まずはお店で試し履きすることが欠かせません。同じサイズでもメーカーによって大きさが微妙に違ったり、同じメーカーでも種類によってサイズ感が変わったりするので、初めて履くモデルのシューズは必ず足を入れてみることをおすすめします。また、メーカーの直営店などでは、足のサイズを計測してくれて、ぴったりな形や合わない形を教えてくれるところもあります。自分の足について今まで知らなかったことも知れるので、プロの方に見ていただくのもいいと思います。
そして選ぶときにもう一つ大切なのが、自身のランニングシューズの使い方を考えること。例えば、ランニングだけでなく普段履きもしたい人は、私服にも合わせやすいカラーやデザインのシューズを選んだほうがいいですよね。また、普段そこまでスピードを出して走ることがない人は、トップランナーが履いているような厚底シューズを選ぶ必要はないはず。このように自分の用途に合うものは何かを考えながら選んでみてください」
最後に、今後のランニングシューズの勢力図について、南井さんにお聞きしました。
「ランニングシューズの現時点でのリーディングブランドは、やはりナイキ。しかしアシックス、アディダス、ミズノといった他メーカーも続々と新機軸を打ち出していて、少しずつシェアを伸ばしています。そのため今後は、一時のような『ナイキ一極集中』はなくなってくるのではと考えています。さらに、ファッショナブルなランニングシューズは増えていくはず。オンオフ問わずに履けるデザインはこれからも人気が高まっていくと思います」
次のページでは、現在トレンドになっている、オンオフ問わず履けるランニングシューズを紹介。スタイリストがコーディネートの際のポイントも合わせて解説します。