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仁義なき“厚底シューズ戦争”の勢力図はどうなる?ナイキの高速モデルから始まる
私たちの最新「ランニングシューズ」選び

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本来であれば“オリンピックイヤー”となるはずだった2020年は、ランニングシューズメーカー各社が、こぞって新モデルを発売。2021年に延期となったオリンピックに向け、熾烈なシェア争いが新たに繰り広げられようとしています。

この仁義なきシューズ戦争の背景にあるのが、ソールテクノロジーの進化です。業界を大きく揺るがした分厚いミッドソールは、マラソン界にどのような影響を与えてきたのでしょうか? 駅伝やマラソン大会で記録ラッシュを招いた、一足の厚底高速シューズがもたらしたイノベーション、そして最新ランニングシューズ事情について、スポーツライター の酒井政人さんに聞きました。

 

始まりは、長距離界の常識を覆した“魔法の靴”の登場だった

ナイキ「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」(写真提供/ NIKE)
ナイキ「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」(写真提供/ NIKE)

かつては、レース用で使うスピードタイプのシューズといえば、“軽くて薄い”のが当たり前でした。その常識が覆ったのが2017年。5月に開催されたフルマラソンで2時間切りを目指すNIKEのプロジェクト「Breaking2」で、リオ五輪男子マラソン金メダリストのエリウド・キプチョゲ選手が2時間0分25秒でフィニッシュ。これは、世界記録(2時間2分57秒)を大きく上回る驚愕のタイムでした。

「非公認とはいえ、世界最速タイムを刻んだキプチョゲ選手をはじめ、『Breaking2』の挑戦者たちが履いていたシューズの最新テクノロジーを搭載したのが、2017年7月に発売された『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%』でした。レース用なのに最も厚い部分で4cmもある厚底シューズ。分厚いソールに使用されている素材は航空宇宙産業で用いられるもので、その中にはバネのような役割を果たすカーボンファイバー製のプレートが搭載されていました。以後、世界のメジャーレースをNIKEの厚底シューズが席巻し、“トップランナー向けシューズは厚底”という新たな流れが加速しました」(スポーツライター・酒井政人さん、以下同)

 

3年弱で有力選手の多くが厚底シューズを履くように

2018年になると、厚底トレンドはますます色濃くなっていったといいます。

「箱根駅伝では、厚底シューズを履いた東洋大学が、往路優勝を飾りました。僕の学生時代はアシックスとミズノが二強で、多くの選手がいずれかのシューズを履いていましたが、この年、箱根駅伝ランナーのシューズシェア率で初めてナイキがトップに立ったのです。世界の主要大会では厚底シューズを履いた選手が次々に結果を残し、履いていなかった選手の興味を一気に高めました。厚底に履き替える選手も増えましたね。さらに、現在は日本記録保持者であり、日本人で初めてナイキの厚底シューズを履いた大迫傑選手や、歴代2位の記録を持つ設楽悠太選手の活躍により、厚底シューズは市民ランナーにも広がっていきました」

その後、あまりにも好記録が連発するため、世界陸連が設ける新規制でレースでの着用の可否が議論に。しかし、今年2月に発売された最新モデル「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」は、「複数のプレートを靴底に内蔵してはならない」「靴底の厚さは40mmまで」という世界陸連の新規定をクリアし、五輪での着用が可能となりました。

「東京オリンピックは2021年になりましたが、まだアルファフライを履いて公式レースを走っている選手は少ないですから、今後も記録は伸びるのではないかと思っています」

 

次世代厚底シューズ「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」とは?

ナイキ「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」(写真提供/ NIKE)
ナイキ「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」(写真提供/ NIKE)

東京五輪での着用をめぐり、発売前から世界中の熱い視線が注がれた「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」。ナイキがキャッチコピーにしている「厚さは速さだ」をさらに推し進めたこのシューズは、一体、どのようなシューズなのでしょうか?

「まず、靴底の厚さが最大限に厚くなりました。前作ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%の37mmから39.5mmにアップ。エネルギーリターンも向上しました。そして最大の特徴が、前足部分にエアが入ったことです。『ズーム エア』と呼ばれるナイキが作ったこのソール素材は1978年から使われていて、それ自体は目新しいものではないのですが、注目すべきは使い方。アルファフライは、前足部に左右2つ並べて配置し、蹴り出す際の反発力をさらに高めています。僕はアルファフライを履いたことがないので何とも言えないのですが、履き心地もよくなったようです」

アルファフライ は、2019年10月、エリウド・キプチョゲ選手がウィーンで非公認ながらフルマラソン2時間切りを達成したシューズの市販モデル。(写真提供/ NIKE)
アルファフライ は、2019年10月、エリウド・キプチョゲ選手がウィーンで非公認ながらフルマラソン2時間切りを達成したシューズの市販モデル。(写真提供/ NIKE)

今年3月の先行販売では、規定記録をクリアしたランナーのみが購入することができたアルファフライ 。タイムによる購入条件が設けられなかった6月2日の再販では、瞬く間に完売しました。気になるのは、どんな人が履いても速く走れるのかということ。一般のランナーが履いても、その機能を十分に使いこなせるものなのでしょうか?

「前作のヴェイパーフライ ネクスト%以上にエネルギーリターンが高まっているので、どのレベルのランナーでも“速く走れる”という感覚は味わえると思います。ただ、速く走れてしまうため、ゆっくり走ることには向きません。目的に応じてシューズ選びをしてほしいと思います。ナイキはアルファフライなどのスピードを求めるレーシング、リアクトのように快適に毎日走るためのエブリデイラン、足を鍛えるためのナイキフリーなどに代表される短い距離を走るショーターラン、トレイルを走るためのトレイルシューズの4種類に分けてシューズを出していますし、メーカーによるコンセプトも微妙に違います。複数のシューズを履き比べると、その違いが理解できるのではないでしょうか。目的と自分の足に合うシューズを選んで、ランニングを楽しんでいただけるのが一番だと思います」

 

一年後の東京五輪に向けて、どう変わる? 各社ランニングシューズ総括

「METARACER™(メタレーサー)」(写真提供/アシックス)
「METARACER™(メタレーサー)」(写真提供/アシックス)

6月12日にアシックス初のカーボンプレート搭載シューズ「メタレーサー」が先行発売されることを皮切りに、今年の夏から秋にかけて各メーカーから「厚底の軽量ミッドソール×カーボン製プレート」を採用したランニングシューズが発売されます。いずれも東京五輪延期を受けて、元は4月に予定していた発売を延期していたオリンピックに向けてのモデルです。メーカー各社が独自の最新イノベーションで、ナイキ一強に勝負を挑みます。

「アシックス史上最も先進的なランニングシューズと言われているメタレーサーは、新しい発想でつくられていて、かなり評判がいいようです。前足部分が弓状になった靴底に、軽量で高剛性のカーボンプレートを組み込み、重心の移動をスムーズにしています。ニューバランスは独自のカーボンプレートを使用した『FuelCell 5280』を昨年9月に発売。神野大地選手は同モデルをベースにしたシューズを履いていました。アディダスも今夏以降にカーボンプレートを搭載した最上位モデルの『adizero Pro』を登場させます。ミズノも靴底に反発性の高い素材を使って、独自に開発したプレートを挟んだシューズを発売します。プレートを使ったシューズをどこまで精度の高いものにしていけるのかというところが、今のポイントなのかなと思います。また、今後について言うと、靴底の厚さはこれ以上厚くできないので、これまでとは違う発想でシューズを作っていかなくてはいけないわけなんですね。今後も斬新なシューズが誕生してくる可能性があるので、大逆転も考えられると思います。シューズメーカーの戦いは、より熾烈になってくるでしょう」

 

元箱根駅伝ランナー・酒井さんオススメ!
普段使いもできるおしゃれなランニングシューズ

ホカオネオネ「BONDI 6」(写真提供/ ホカ オネオネ)
ホカオネオネ「BONDI 6」(写真提供/ ホカ オネオネ)

外出自粛による生活の変化で“コロナ太り”が話題になりました。そうした中、ランニングを始めたり、積極的にランニング習慣を持ったりした人は多いのではないでしょうか?

アシックスは、新型コロナウイルス感染症影響下におけるランニングに関する意識調査(※)を実施。その結果、回答者の3分の1以上の人が、新型コロナウイルス感染症拡大前よりも現在の方がより活発にランニングを含むエクササイズをしていることがわかりました。また、同社が提供するフィットネス・トラッキング・アプリ「ASICS Runkeeper」(アシックス ランキーパー)」のデータを解析したところ、同アプリ利用者のうち、週に一度以上ランニングをする人は日本で118%増加したとのこと。特筆すべきは、79%の人が、ランニングやエクササイズによって気分が晴れ、自分自身をコントロールできていると実感していると回答したことです。

感染拡大の“第2波”が懸念され、しばらくは落ち着かない日々が続く中、ランニングは心身のリフレッシュとストレス解消に大きく貢献してくれることでしょう。ウィズコロナ時代の今後も、ランナー人口の増加が予想されます。

ここでは、ハイテク技術の恩恵を受けた、普段履いてもおしゃれでちょっとしたランニングにも使えるモデルを、東京農業大学1年時に箱根駅伝10区を走った酒井さんにピックアップしてもらいました。

(※)調査期間:2020年4月1日~5月31日調査対象:定期的にエクササイズを行っている世界12カ国の一般の方14000人 調査方法:インターネット

1.反発力はもちろんのこと、着地時の安定性でケガを予防

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ナイキ「ナイキ リアクト インフィニティ ラン フライニット」
(カラー:トゥルーホワイト/ホワイト/ピュアプラチナム/メタリックシルバー)
1万7600円(税込)

90年代にハイテクスニーカーの一大ブームを巻き起こした「ナイキ エア マックス」の最新モデル「エアマックス720」の好調など、ランニング以外のシューズでも存在感を放つナイキ。怪我ゼロを目指して開発されたこちらのシューズは、やさしいカラーリングとボリュームのあるソールが抜け感のあるコーディネートを演出します。
「着地時において踵からに爪先にスムーズに流れるようなデザインが施されており、ケガの発生率が減少。反発力があるだけでなく、ベースの幅が広いので着地時の安定性も高い一足です」

 

2.弾むような爽快な走り心地でランをもっと楽しく!

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アシックス「NOVABLAST」
(カラー:BLACK/BLACK)
1万7600円(税込)

アシックスは楽しく走れるスペックとデザインを備えたシューズを展開し、新たなファン層の獲得に成功。2月末のローンチ以降、良好なセールスを記録しているNOVABLASTは、コロナ下にランの魅力を発見した人にもおすすめのモデルです。

「トランポリンから着想したバネ感のある履き心地を実現。現代的なカラーリングとエッジの効いたフォルムも素敵で、弾むようなランニングが楽しめます」

 

3.超長距離だけでなくビギナーにもおすすめの一足

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ニューバランス「NB HANZO U W M2」
(カラー:WHITE/RED)
1万4850円(税込)

ニューバランスの2020年春夏は、さまざまなランナーのレベルやシーンにフィットしたシューズを展開。HANZOシリーズは、エリートランナーからエントリーランナーまでのレースに適した機能を備えます。
「軽量性と反発性を両立するミッドソールなど多彩な機能が安定感のある走りをサポートしてくれます。ウイズ(足幅)は3種類あり、高いフィット性も魅力。脚に不安のあるビギナーにもおすすめです」

 

4.ランニングもおしゃれもおまかせ! 新鋭ブランドのベストセラーシューズ

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On「Cloud」
(カラー:All ❘ White)
1万5180円(税込)

2010年、「ランニングの世界を変える」という目標を掲げ、チューリッヒの一角でスタートしたOn。アウトソールに採用したゼログラビティフォームと特許技術のCloudTec®は優れたクッショニングとソフトな着地を実現し、世界中のランナーが「雲の上の走り」を体感しています。
「スイス生まれの高機能ランニングシューズOnは近年人気急上昇中。そのベストセラーモデルはランニングだけでなく普段使いもおしゃれに見えます。カラーバリエーションはウィメンズだけで8種類あります」

 

5.マシュマロのようなクッション性の元祖厚底シューズ

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ホカ オネオネ「BONDI 6」
(カラー:アンティグアサンド/カリビアンシー)
2万3100円(税込)

ホカ オネオネは、もとは山岳マラソン用シューズからスタートしたシューズブランド。最大の特徴は、ボリュームのあるミッドソール。軽くて衝撃吸収性に優れ、極上の履き心地と快適な走りを提供します。BONDIは、ホカ オネオネを代表するモデル。
「2009年に誕生したプレミアムランニングシューズブランドで、“元祖厚底”といわれるホカ オネオネ。そのロードシューズで最もクッション性が高く、楽に長く走りたいランナーにおすすめの一足です」

 

著書『ナイキシューズ革命 “厚底”が世界にかけた魔法』のエピローグで、「人類がフルマラソンで2時間を切る日は、そう遠くないように思う」と綴っていた酒井さん。その予想は的中し、本が発行された5か月後にはエリウド・キプチョゲ選手が非公認ながらマラソン史上初となる1時間59分40秒を記録します。今後、ソールテクノロジーはどう変化していくのでしょうか。ランナーは、さらに速くなり続けるのでしょうか。

2021年の東京五輪に向けて、選手たちの活躍はもちろんのこと、進化の一途をたどるランニングシューズ界からますます目が離せません。

Profile

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スポーツライター / 酒井政人

東京農業大学1年時に箱根駅伝10区出場。故障で競技の夢をあきらめ、大学卒業後からライター活動を開始。現在は雑誌、WEBを含め様々な媒体で執筆している。著書に『ナイキシューズ革命 “厚底”が世界にかけた魔法』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。

 

取材・文=羽田朋美(Neem Tree)