6月16日は和菓子の日。西暦848年、ご神託を受けた仁明天皇が、6月16日に16の数にちなんだお菓子やお餅を神前に供え、厄除けや健康招福を祈って「嘉祥(かじょう)」に改元したことが由来とされています。
日本の伝統的スイーツである和菓子ですが、最近ではモダンなデザインのものが登場したり、コーヒーやお酒とのペアリングが楽しめたりと、大きく進化。さらに、動物性由来の原料が使われていないものが多いところも、今の時代に再注目されるべきポイントです。そこで今回は、今あらためて知りたい和菓子の魅力やおすすめの和菓子について、和菓子コーディネーターのせせなおこさんに教えていただきました。
和菓子のトレンドを知るキーワード「和洋折衷」
ひとことで「和菓子」と言っても、その種類はさまざま。そのなかで今、トレンドとなっているのはどのような和菓子なのでしょうか? せせさんにうかがいました。
「昨今の和菓子のトレンドについて、キーワードを一つ挙げるとするなら『和洋折衷』です。これまでにも、和菓子屋さんがチョコレートやキャラメルといった洋の食材を取り入れた和菓子を作ることはありました。しかし、今トレンドとなっているのは、洋菓子屋さんなど和菓子業界以外の方たちが和菓子の製法を取り入れて作る、新しい和洋折衷のスイーツです。
そもそも和菓子に使われている原料はとてもシンプル。そのため和菓子屋さんのなかには、油分が含まれているナッツなど、洋の食材を扱うことに慣れていないお店も多くあります。その一方で、洋菓子屋さんは幅広い食材を扱うため、洋の食材を和菓子に取り入れることが得意なお店が多い印象があります。さらに、コロナ禍で新商品を開発したお店も多く、ここ最近で続々と新しいスイーツが生まれています。
例えば、ピスタチオやベリーなど洋菓子で人気の食材を取り入れたものや、洋酒や紅茶、チーズやスパイスといった、今まで和菓子にあまり使われなかった素材を活用したものなど。和と洋が調和した新しい和洋折衷のスイーツは、これまで以上に幅が広がってきていると感じます」(和菓子コーディネーター・せせなおこさん、以下同)
実は最先端⁉
今こそ再注目したい、伝統的な和菓子
和と洋がマッチした新しいスイーツがトレンドになっている一方で、「伝統的な和菓子を今ほど推せる時代はない!」と、せせさん。その背景には、地球や体にやさしい食への関心が高まっていることがあります。
「私は今の時代にこそ、昔ながらの製法で作られる伝統的な和菓子にも注目すべきではないかと考えています。現在『ヴィーガンスイーツ』が注目されていますが、そもそも和菓子の定義の一つが、動物性由来の食材を使わずに作ることなんですよね。和菓子にはたくさんの種類がありますが、原料の多くは、米・あんこ・水などのシンプルなもので、それらが多様な製法で作られています。日本に昔からある原料ばかりなので、自然に近いものが多く、体にもやさしい。これが伝統的な和菓子の大きな魅力の一つだと思います」
さらに、そもそも“エコ”な考え方から生まれた和菓子も多いのだとか。
「例えば、飛鳥時代に中国から伝わったと言われているあんこ。もともとは饅頭の中の肉や野菜のことを指していましたが、当時の日本では肉食を避ける文化があり、代わりに小豆を使用したことが今のあんこの始まりだといわれています。これは代替肉の考え方と似ていますよね。江戸時代に生まれた桜餅も、もともとはたくさん落ちていた桜の葉を何かに活用できないかと考え、塩漬けにしてお餅を挟んで売り出したのが始まりだと言われています」
このように、昔ながらの和菓子のなかには、今の時代の最先端とも言える考え方から生まれたものも。
「新しい和菓子も魅力的ですが、昔ながらのシンプルな和菓子の良さも、もっと多くの人に知ってもらいたいです」
今こそ食べてほしい!
せせさんおすすめの和菓子4選
ここからは、せせさんおすすめの和菓子を紹介。和菓子の魅力を再発見できるような、とっておきの和菓子を4つ挙げていただきました。
■ 伝統的なみそせんべいをキャラメリゼ
田中屋せんべい総本家「まつほ」
648円(税込・2枚入り)
「岐阜県にある『田中屋せんべい総本家』は、創業160年を誇る老舗のおせんべい屋さん。名物は、小麦粉・砂糖・味噌・ゴマ・水だけを原料に使った『みそ入大垣せんべい』です」
「私がおすすめしたい『まつほ』は、このみそせんべいにキャラメルペーストを塗り、オーブンでキャラメリゼしたもの。一口目はキャラメルの味をわりと強く感じるのですが、噛み応えのあるおせんべいなので噛めば噛むほどみその旨味も感じられて、甘じょっぱい味がくせになります。伝統を活かしながら今の時代に合わせた商品を作られているところが本当に素晴しくて、味も絶品なので、おすすめを聞かれたら必ず紹介しています!」
■ バターカステラを使い、洋菓子のケーキのような感覚
村岡総本舗「丸シベリア」
3240円(税込)
「羊羹やあんこをカステラに挟んだお菓子『シベリア』。羊羹とカステラは九州でなじみ深い銘菓ですが、これまで九州でシベリアを見かけることはほとんどありませんでした。そこに注目したのが、羊羹やカステラを長年つくり続けてきた佐賀県の和菓子店『村岡総本舗』。“令和のシベリア” として、2種類のシベリアが生まれました」
「私のおすすめは『ポルトガル風バターカステラ』を使用した『丸シベリア』。バターカステラの間には、自家製の粒あんと羊羹がサンドされていて、しっとりとした食感とやさしい甘さを感じられます。洋菓子のケーキのような感覚で食べられるので、和菓子をあまり食べ慣れていない方にもおすすめ。おしゃれでかわいらしいパッケージも魅力です」
■ 小豆の煮汁を再利用し卵白の代わりに
亀屋良長「吉村和菓子店 鳳瑞〈あづき茶〉」
袋入/桐箱入1210円/1372円(税込・各9個)
「そもそも鳳瑞(ほうずい)とは、泡立てた卵白に砂糖を加えて、寒天で固めたお菓子のこと。しかし亀屋良長の『焼き鳳瑞〈あづき茶〉』は、卵白の代わりにあずき茶(小豆の煮汁)を、砂糖の代わりにココナッツシュガーを使用し、乾燥焼きして作られています。
小豆の煮汁は、ポリフェノールやカリウムなどの成分が含まれていますが、本来は捨てられてしまうことがほとんど。それをお菓子の原料として再利用しています。さらに、白砂糖の代わりに使われているココナッツシュガーは、血糖値が上がりにくいので、体にやさしいところもうれしいポイントです。いくつかフレーバーがある中で、私は特に抹茶といちごがお気に入り。メレンゲのようなサクッとした食感で口溶けがよく、コーヒーにもよく合います」
■ 素材の味を感じられる自然でやさしい甘み
甘納豆かわむら
「とら豆」390円(税込)
「能登大納言」440円 (税込)
「2001年に石川県の金沢西茶屋街で開業した、甘納豆かわむら。甘納豆と言えば、砂糖がたくさんまぶしてあるイメージですが、こちらのお店の甘納豆にはあまりかかっておらず、甘さは控えめです。しかし、しっかりと蜜漬けされているので、自然でやさしい甘みを感じることができます」
「どの甘納豆も本当においしいのですが、私が特に好きなのは『とら豆』と『能登大納言』。『とら豆』は虎のような模様をした豆で、ねっとりとした食感が特徴です。『能登大納言』は石川県産の高品質な大納言小豆です。さらに豆だけでなく、さつまいも、ブラッドオレンジ、栗、フランスオリーブなど、さまざまな種類の商品があります。パッケージもとてもおしゃれなので、ちょっとしたギフトにもぴったりです!」
食べるだけじゃない!
和菓子ならではの魅力と楽しみ方
スイーツを探そうとデパ地下やコンビニに行くと、和菓子以外にもたくさんの商品が並んでいます。その中で、和菓子ならではの魅力や楽しみ方はどのようなところにあるのでしょうか?
「私が考える和菓子ならではの魅力は、和菓子一つ一つにその地域の歴史や文化を感じられるところです。例えば和菓子のなかには、戦の時に食料として持って行ったり、お殿様に献上したり、権力の象徴になったりした歴史をもつものがあります。一嗜好品にとどまらない、歴史や文化を感じられる和菓子のような存在は、他の国にはなかなかないものではないでしょうか。
だからこそ和菓子は、ただのスイーツではなく、地域の歴史や文化を知ったり、人と触れ合うきっかけをつくったりするツールにもなり得ると思います。例えば旅行をしたときに、その地域ならではの和菓子を探したり、和菓子をきっかけにお店の人や地元の人と話してみたりすることも楽しみ方の一つだと思います」
このように和菓子を通して『体験』を楽しめるお店は、都内にもたくさん。そのなかから、せせさんがお気に入りのお店を紹介していただきました。
■「たいやき わかば」(東京・四谷)
「東京三大たい焼き店の一つとも呼ばれる名店。行列が絶えないお店ですが、その場で食べられる店内の小さなスペースは意外と空いていることもあり、穴場のスポットです。また、たい焼きが描かれた湯呑みでお茶を飲めるサービスも魅力。お昼休みにビジネスマンがおやつとして買いに来る姿を見かけることもあり、オフィス街の中でもどこか生活感が漂っている素敵なお店です」
「たい焼き」210円(税込)
■「銀座若松」(東京・銀座)
「明治27年に創業した、あんみつ発祥のお店。私はもともと寒天と黒蜜があまり得意ではなかったのですが、ここのあんみつを食べて “本物のおいしさ” に出会えました。お店は銀座のど真ん中にありますが、ゆったりとした時間が流れているところも魅力。ここに来ると日々の忙しさを忘れられます。近くに行ったときには必ず立ち寄り、人にもよくおすすめしています」
「元祖あんみつ」950円(税込)
まだまだ広がる、和菓子の可能性
最後に、せせさんが考えるこれからの和菓子の可能性についてうかがいました。
「最近、韓国で日本の和菓子が流行っていることを知り、とても驚きました。今いろいろとリサーチしているところなのですが、日本の上生菓子の作り方を教えたり、お店をやったりしている先生もいるようです。まだ実際に食べてはいないのですが、見た目はすごくおしゃれでセンスが良く、日本も負けていられないなと思っています(笑)。日本の和菓子に興味を持ってくれている方たちが韓国にもたくさんいると思うと、とてもうれしいです。韓国以外のアジアの地域でもお餅やあんこなどの食材に馴染みがあるところは多いので、これから日本の和菓子をもっと広めていくことができるのではと感じています」
また、もちろん国内でも、和菓子の魅力をもっと伝えていきたい、と話すせせさん。
「とくに若い世代の中には、和菓子に対してなんとなく敷居が高いと思っている方もいると思います。しかし和菓子は、コンビニやスーパーなど、食べたいと思ったときに買える場所で手に入れたらいいし、お茶ではなくコーヒーや紅茶と一緒に楽しんでもいいんです。日常的に食べる習慣がない方は、桜が咲いている時期には桜餅、子どもの日には柏餅など、季節や行事をきっかけに食べてみるのも良いと思います。そうやって少しずつ和菓子に触れる機会を増やし、『もっと食べてみたい』と思ったら、百貨店のデパ地下などを巡って、自分の好みの味を探してみるのもおすすめです。ぜひ、和菓子をもっと気軽で自由なものとして捉え、楽しみながら食べてもらえたらと思います」
Profile
和菓子コーディネーター / せせなおこ
あんこが大好きな和菓子女子。和菓子を好きになったきっかけはおばあちゃんとつくったおはぎ。日本の地域文化や歴史がつまっている和菓子に魅力を感じ、和菓子の研究を行う。その他、和菓子メディア「せせ日和」の運営、和菓子の商品開発や和菓子専用のコーヒーのプロデュースなど。
Instagram
取材・文=土居りさ子(Playce) 撮影=鈴木謙介