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コーヒーの、一歩先の楽しみ方。浅煎りから深煎りまで
初心者も自在に操れるポット型焙煎機

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コーヒーの香りや味わいを左右するのは、焙煎による部分が大きいといわれています。これを家で手軽に楽しめる新型家電が今春発売されました。焙煎というと、繊細なチューニングを必要とするプロの世界という敷居の高さがありましたが、いったいどこまで“手軽”になったのでしょうか? フードアナリストの中山秀明さんに、焙煎にまつわる基本的な情報とともに解説していただきました。

コーヒーこだわり派のネクストステップが「焙煎」

焙(あぶ)って煎(い)ると書いて「焙煎」。英語でローストともいいますが、コーヒー豆は焙煎することで芳しい香りや味わいを放つようになります。さらに、焙煎はコーヒーの味の方向性を決定づけるものであるとともに、コーヒーの善し悪しを決めるもっとも重要なポイントのひとつともいえるのだそう。

「コーヒーの楽しみ方は十人十色。カフェやコンビニで買ったり、自宅などで手軽にインスタントコーヒーで楽しんだり。はたまた、買ってきた豆をミルで挽いて、ハンドドリップで淹れる愛好家も少なくありません。そんな、こだわり派のネクストステップが自家焙煎だといえるでしょう。

コーヒー豆は、より専門色の強いお店に行けば生の状態でも販売されています。その見た目は、やや緑がかった乳白色。この豆を焙煎することで褐色になるのですが、加熱する温度や時間によって浅煎りになったり深煎りになったり。加えて、焙煎したコーヒー豆はその香りもいっそうボリューミー。一般的に焙煎した3日後から7~10日後ごろが飲み頃といわれており、こうしたおいしさのピークをコントロールしながら楽しめるのも、コーヒー焙煎の醍醐味です」(フードアナリスト・中山秀明さん、以下同)

“サードウェーブ”は焙煎機の市民権獲得にも影響

自家焙煎にはコンロを使う直火式もありますが、ムラなく狙った煎り加減にローストするには技術が要るもの。そこで便利なのが、電動式の焙煎機です。もともとはプロ用の高価で大型のタイプが主流でしたが、近年では小型で比較的安価なモデルも登場するように。

「背景には、社会環境やライフスタイルの変化が深く関係しています。例えばコーヒーのトレンド。2000年以降に高付加価値のスペシャルティコーヒーが日本でも注目を集め、その後2010年代中頃からはより親しみやすいカルチャーとしてサードウェーブコーヒーがトレンドになるなど、こだわりのコーヒーを楽しむ文化が身近になりました。その流れとともに焙煎所併設の店が続々誕生し、コーヒーを自家焙煎する愛好家も増えていきました。

また、インターネット回線の高速化や、スマホ社会の到来も見逃せません。コーヒーに関するマニアックな情報を容易に手にできるようになり、焙煎のテクニックも動画などで簡単に学べるようになりました。こうして焙煎に興味を持つ人が増えるとともに、コーヒーのニーズが多様化したことも、家庭用の電動焙煎機発売に大きく関係しているといえるでしょう」

いまや市場にはさまざまな製品が存在します。なかでもいま注目度の高い新型モデルが、ストーブや加湿器などでお馴染みのダイニチ工業が作った「MR-F60A」です。

ダイニチ「コーヒー豆焙煎機 MR-F60A」
3万4760円(税込)

簡単な操作で、5段階から好みのレベルに焙煎が可能。所要時間は1回約25分とスピーディーで、高さ280×幅241×奥行186mm、重さ約2.3kgというコンパクトなサイズも特徴。

熱風の通り道に2つの温度センサーを搭載。上流センサーは熱風を狙った温度に調整し、下流センサーは気温や豆量の変化による温度のズレを修正する。また、渦状に下から噴き上げることで、ムラの少ない安定した焙煎精度を実現。

本体と天窓付きのフタとの間に「チャフコンテナ」というユニットがあり、ここにチャフ(豆の薄皮)が集まる設計。

使い方は生豆を入れてスイッチを操作するだけ

「MR-F60A」の使い方は至って簡単です。その手順を紹介しましょう。生豆は各種コーヒー豆の専門店ほか、オンラインショップでも。ダイニチ工業公式の「ダイニチWebShop」でも販売されています。

1.焙煎釜に生豆を入れる。

「MR-F60A」のフタを開け、焙煎釜に付属スプーン1杯(約60g)の生豆を投入します。

2.仕上がりのレベルを選んで焙煎開始。

フタをしてスイッチをオン(写真下部左端)にし、焙煎レベルを1~5で選択。スタートボタンを押せば焙煎が始まります。所要時間は焙煎運転15分と、冷却10分の計25分ほど。

3.ライブ感が楽しめるのも魅力。

熱風で混ざりながら焙煎され、コーヒー豆が徐々に茶色くなっていく様子が天窓から見られます。ちなみに、稼働中はそれなりに音がするので、深夜などは避けたほうがいいでしょう。やがて終了するとブザー音が鳴り、スタートランプも消灯します。

4.チャフは自動で分別。

直火式の焙煎機はチャフが燃え煙も出やすいものですが、火を使わない「MR-F60A」は熱風とチャフコンテナにより分けられるため燃えることがありません。チャフはコンテナを裏返して捨てるだけでよく、処理も簡単。

5.焙煎が完了。

焙煎されたコーヒー豆は、本体を傾けて各種容器へ。もちろんすぐ挽いて淹れてもいいのですが、飲み頃は香りや味わい深さが安定する3日後から7~10日後頃だといわれています。

左から、焙煎レベル5(深煎り)、3(中煎り)、1(浅煎り)。そして右端が生豆。ぜひ焙煎の違いで飲み比べてみましょう。

代表的な5つの産地の豆を3種の焙煎でテイスティング

焙煎レベルの違いによって、味はどのように変化するのでしょうか? 続いて、さまざまな国のコーヒー豆を「MR-F60A」で焙煎し、テイスティングの上、特徴を解説していただきました。

左から、焙煎レベル1(浅煎り)、3(中煎り)、5(深煎り)のコーヒー豆を抽出。飲んでみると、同じ豆でも焙煎度合いに寄って酸味やビター感などに違いが出ることがよくわかる。

■ ブラジル

コーヒー豆生産量で他を圧倒する世界一の生産国。味の特徴としては苦味と酸味がほどよく調和し、好バランスなのでブレンドのベースにも重宝されます。

・浅煎り
「酸味はあるものの主張が弱く、全体バランスもちぐはぐな印象です」

・中煎り
「苦みが出て酸味も落ち着き、コーヒーらしいトーンが伸びやかな味わいに」

・深煎り
「コクと苦みの力強さが印象的な、正統派のビターコーヒーですね」

■ コロンビア

南米、ブラジルの北西部に位置する赤道直下の国。ブラジル同様にバランスが良くブレンドのベースにもされやすいですが、こちらは酸味やフルーティな甘みがより豊かです。

・浅煎り
「特有の酸味や、柑橘を思わせるフルーティな甘みがしっかり出る爽やかな味です」

・中煎り
「果実味にコクが加わり、苦味と香りがバランスよく調和しています」

・深煎り
「深煎りならではのボディが出るものの、コロンビア特有の果実味は消えてしまい、ポテンシャルが発揮されませんでした」

■ モカ

「モカ」とは、アラビア半島南部のイエメンとアフリカ中東部のエチオピア産豆の総称。エチオピアはコーヒー発祥の地ともいわれ、果実味あふれる香りや豊かな酸味、甘み、コクが魅力です。

・浅煎り
「花を思わせる上品な風味や、優美な果実味が魅力。酸味もクリアでまろやかなテイストです」

・中煎り
「心地良い果実味にコクがプラスされています。苦味と香りがバランスよく引き立て合うおいしさです」

・深煎り
「苦みやコクが出るぶん魅力的な酸味や香りが弱くなり、単調な味わいになってしまいました」

■ マンデリン

インドネシアのスマトラ島で採れる高級品種のことを指します。深く上品な苦味とコクがある一方、酸味は控えめで、ほんのり香るハーブやスパイスのニュアンスも特徴。

・浅煎り
「フローラルかつフルーティな香り。苦味が少なく、酸味と甘みが調和した上品な味です」

・中煎り
「マンデリン特有の優雅なビター感に、華やかな香りが調和しています」

・深煎り
「甘みやコクに重厚感がある、堂々としたビターテイスト。ミルクともよく合いそうです」

■ キリマンジャロ

インド洋に面した東アフリカの国、タンザニア北東部にあるキリマンジャロ山が名の由来。しっかりした酸味とコクに加わる、甘やかな香りが魅力です。

・浅煎り
「重厚感のある酸味が特徴的。シャープなニュアンスが前面に出た、明るさを感じるテイスト」

・中煎り
「酸味が抑えられたぶんコク深さが出て、グッとふくよかな味わいに」

・深煎り
「ナッツのような風味と、心地良い苦みが主張。深く香ばしい、王道のビターテイストです」

コーヒー豆は生産地によって香りや味わいもさまざまですが、豆によって得意・不得意な風味があります。そういったポテンシャルを引き出すのが焙煎。「MR-F60A」を使えば簡単に煎り分けができ、好みの豆や焙煎度合いも知ることができるでしょう。コーヒーのより奥深いおいしさを知りたいなら、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

Profile

フードアナリスト / 中山秀明

食品全般のトレンドに詳しいライター。コーヒーは得意分野のひとつで、コーヒー豆店、焙煎士、焙煎所、焙煎機、喫茶店、バリスタなど取材経験も幅広い。「MR-F60A」も所持しており、飲み方はハンドドリップはもちろん、愛用のエスプレッソマシンで淹れることも。夏は水出しコーヒーをよく飲む。

撮影=湯浅立志