湯呑みや急須、ティーポット、ドリッパーなど、お茶や紅茶、コーヒーを楽しむための喫茶道具。家時間が長くなったコロナ禍以降、より特色の濃いアイテムが増えているといいます。
飲み物がある時間を心地良く過ごすための最新の10点を、飲み物文化に詳しいフリーライターの納富廉邦さんに選抜していただきました。
自分で淹れる飲み物をもっとおいしく。
楽しみ方に現れた変化は?
近年、家で飲み物を楽しむ機会が増えているそう。
「とくにパンデミック中のステイホーム期間を経て、その傾向はさらに顕著になりました。多くの人が在宅時間を充実させるために、自分でおいしい飲み物を作ることに目覚めたのです。
そんなニーズを汲むように、良質なコーヒー豆や茶葉が手に入りやすくなり、さまざまな道具も揃うようになりました。プロの技術がなくても、良い道具を使うことでおいしさを引き出したり、自分好みの飲み方を研究したりすることができるように。一方で、比較的安価な豆や茶葉でも、少し工夫することでその味をアップグレードする楽しみ方も広がっています。
その日の気分や状況に合わせて、いろいろな道具を使い分けるのが今のトレンドと言えるでしょう」(フリーライター・納富廉邦さん、以下同)
ひと手間を楽しむ、素材の良さを引き出す。
目利きが選んだ喫茶道具 10選
喫茶道具自体にも、変化が見られるようです。
「全自動ですべてやってくれる道具よりも、ひと手間をかける楽しみを与えてくれるような道具が増えてきたように思います。たとえば、淹れ方を工夫して自分の好みを探す楽しみを提案してくれたり、手軽に素材の良さを引き出してくれたり。バリスタやティーブレンダーのような知識や技術がなくても、上手に淹れられるドリッパーや急須は最たるものです。
また、飲み物の雰囲気にあった茶器などは、機能面だけでなく、見た目にもこだわる楽しさも教えてくれます。最近は、ほどよく両者を兼ね揃えている道具が多いですね。プロでなくても気軽に使える機能性をもち、本格派な味に仕上がり、カフェ仕様のスタイリッシュさを兼ね備える、といったところがポイントでしょう」
ここからは、納富さんが実際に使って納得した喫茶道具を紹介します。
1.手元が熱くなりすぎない内底が丸い「湯呑み」
秋田道夫「80mm」/職人.com
3300円(税込)
プロダクトデザイナーの秋田道夫氏がプロデュースした湯呑み。茶渋が取りやすいように底に丸みを持たせたデザインで、高さと直径が80mmの飲みきりサイズなのが特徴。おいしいお茶を楽しめる“ちょうど良さ”にこだわっています。
「焼き物なのに二層構造というユニークな湯呑みです。飲み物のほどよい温かみを手に感じながら、保温(保冷)もできるということですね。シャープな造形なのに、やわらかい口当たりが楽しめて、機能面も見た目も申し分ない名品。技術的に製造するのが難しいようで、年に一度、100個ほどしか販売されません。出会ったときが購入のチャンスです」
2.お茶のある時間をじっくり味わいたい人の「タンブラー」
COCOO「真空漆『KISSUL黒』」
6600円(税込)
温度をキープできる真空魔法瓶構造に、天然漆をコーティングしたタンブラー。漆ならではのしっとりとした口当たりを楽しめます。漆は天然の抗菌性に優れ、丈夫で長持ちするのが特徴。傷がついてしまった場合は、漆で修理しながら使い続ける楽しみも味わえます。
「真空二層のタンブラーと言えば、ステンレスやチタン製のものが一般的。保温と保冷性に優れていますが、無機質な感じがしたり、金物のニオイが気になることも。このカップは、真空二層構造はそのままに、内外に漆をコーティングしています。見た目のやわらかさを楽しめるだけでなく、飲み物の風味も壊しません」
3.一つで多様な味わいを楽しめる不思議な「酒器」
ナガエプリュス「TRAVEL CHOCO」
1万6500円(税込)
錫(すず)製のぐい呑みです。特徴はアシンメトリーな飲み口の形状で、ラッパ型、ストレート型、ツボミ型に対応しています。口の中に入ってくる量や流速などが異なることによって、同じ飲み物であっても味わいの変化を楽しめます。熱伝導率が高いので火傷には要注意。
「口を当てる位置によって味わいが変わる不思議なカップです。日本酒用に開発されたものですが、日本茶や紅茶、ワイン、コーヒーでも、ほかの器との違いを体験できます。錫製なので味がまろやかになりますね。小ぶりで頑丈なので旅先にサッと持って行き、地酒や地産のお茶を楽しむのもいいでしょう」
4.スタイリッシュに日本茶を淹れられる「急須セット」
伊藤園「Ocha SURU? Glass Kyu-su 01」
5390円(税込)
グラス3種(大中小)と急須、茶漉しの5点セット。グラスと急須は、インドのムンバイに本社をおくガラスメーカー、BOROSIL社の「VISION GLASS」を採用。茶漉しも新潟・燕三条産の本格派です。洋式の生活にも馴染むスタイリッシュなデザインも美点。
「見た目はスタイリッシュですが、機能的にも考え抜かれています。急須は取っ手がなく片づけやすいほか、平たくて茶葉がよく見えるので、蒸らし具合、茶葉の開き具合などが見やすく、失敗なくお茶を淹れられます。フラットに作られた茶漉しが洗いやすいのも魅力です。急須、茶こし、湯呑み3個をスタッキングしてコンパクトに収納できるのもいいですね」
5.ドリップバッグのおいしさを引き出す「専用スタンド」
珈琲考具「ドリップバッグスタンド」
880円(税込)
カップにセットしたドリップバッグの位置を底上げするスタンド。お湯を注いだ際にドリップバッグ自体がコーヒーに浸かることなく、嫌な雑味を抑えます。カップの中が見えやすくなるので、適量を注げるのもメリット。シンプルなデザインで、使用後のお手入れも簡単。
「ドリップバッグの味を最大限に引き出してくれるのがこのアイテム。お手頃な価格で購入できるドリップバッグでも、ちょっと手間をかければこんなにもおいしくなるものか、と驚かされます。ほとんどペーパードリップ同様に丁寧に淹れられますよ」
6.旅先やアウトドアに持参したい、くるんと丸められる「ドリッパー」
Zebrang「V60 フラットドリッパー01 Zebrang」
1760円(税込)
1枚のシリコンプレートを円錐状に丸めるとドリッパーに早変わり。内部のスパイラルリブ構造が、お湯の軌道を中心に流れるように誘導することで、コーヒーの味と香りの成分をしっかり抽出します。お湯を注ぐ早さや勢いを調整すれば、一種類の豆でも味の変化を楽しめます。
「ドリッパーの名品として定評のあるV60を携帯できるようにした製品です。本体はシリコンゴム製でペロンと平べったくなります。場所を取らず、持ち運びも簡単なので、自宅保管用にも旅行にも便利です」
7.コーヒーのまろやかな口当たりを楽しめる「フィルター」
cerapotta「セラミックコーヒーフィルター」
6930円(税込)
髪の毛よりもさらに細い“多孔質素材”を使用することで、コーヒーの雑味を丁寧に濾過(ろか)してくれるペーパーレスのセラミックフィルターです。ドリップのスピードがゆっくりなので、スローな家時間を過ごすのにぴったり。使用後の基本的なお手入れは水で洗い流すだけでOK。
「流行のセラミックコーヒーフィルターの中では、きちんとメンテナンスも考えられていておすすめです。一番の推しポイントは、安価なコーヒー豆で淹れたときも、特有の舌に刺さる様な感じや鼻にツンとくるような風味もなく、やわらかい味わいを楽しめるところ。ペーパーレスの仲間にはステンレスフィルターもありますが、セラミック製はとくにドリッパーの個性が引き立つので面白いですよ」
8.“水出しコーヒー”初心者に使ってほしい「コーヒーメーカー」
イワキ「ウォータードリップコーヒーサーバー」
3630円(税込)
水タンク、フィルター、サーバーのセット。水と粉をセットするだけで水出しコーヒーを簡単に作れます。抽出後の本体は、サーバーとして使用可能。耐熱ガラス製なので電子レンジにも対応。水出しコーヒーならではのコクと澄んだ香りを楽しめます。
「イワキ製品はコストパフォーマンスがとても高く、デザインも良いので個人的にも信頼を寄せています。そもそも水出しコーヒーは、渋みがほとんどなくて甘みが強く出るので、おいしいんですよ。抽出まで時間はかかりますが、放っておけばいいので手間はかかりません。牛乳と混ぜて電子レンジで加熱すればカフェオレができるなど、アレンジも効きます」
9.紅茶が好きなら持っておきたい「ティーポット」
サーモス「真空断熱ティーポット TTE-450」
4180円(税込)※公式オンラインストア価格
お茶を淹れられ、保温・保冷もできるステンレス製魔法瓶構造のティーポット。茶葉を入れるストレーナー(茶漉し)は取り外しが可能。抽出後にすぐ外せば、味のクオリティも保てます。高い保温力で、飲み頃の温度をキープします。
「紅茶を淹れる際に大変なのが、抽出時の温度管理。ティーポットを使う場合はキルティング生地でできたティーコゼーを被せるなどして工夫するところを、このアイテムを使えば簡単においしい紅茶を楽しめます。写真の450mlのほかに700mlもあるのでお好みで」
10.お茶の持ち歩きが楽になる、ありそうでなかった「茶漉し」
家事問屋「筒形茶こし」
1980円(税込)
縦に長いマグカップやタンブラー、水筒に直接入れて使える茶漉し(ちゃこし)。深型なので、茶葉がしっかりと浸かり、ジャンピングしておいしくでき上がります。自立するので、調理の合間にちょっとお皿や台所に仮置きしたいときにも便利。
「タンブラーなどに直接入れて、お茶や紅茶を淹れられる優れもの。これを手に入れてからは、外出時にお茶を持ち出すのが本当に楽になりました。おいしい水出し緑茶をつくる時にも便利です。高さのあるガラス製のコップに茶漉しを入れて冷蔵庫で一晩寝かせれば、朝にはでき上がり。これがまた甘くておいしいんです」
家で、オフィスで、旅先で、など飲み物を淹れるシチュエーションは多様です。好みにも照らしながら、欲張りに道具を使い分け、楽しいカフェタイムを過ごしてみてはいかがでしょうか。
Profile
フリーライター / 納富廉邦
おもに文具、生活雑貨、装身具、バッグや革小物といったグッズのほか、日本茶、中国茶、紅茶、コーヒーを中心に飲み物全般と茶器や食器、伝統芸能全般などに関するレビューが得意。書評や音楽評論、美術評論などを書籍や雑誌、ウェブメディアなどで執筆する。著書に『二十一世紀の名品小物101』『逆光写真集』『珈琲は飲みものです』(ともにKindle ダイレクト・パブリッシング)、共著に『ローリング・ストーンズ完全版』『ボブ・ディラン完全版』(ともに河出書房新社)がある。
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取材・文=染谷遥