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日焼け止めが海と地球に与える影響とは?人にも環境にもやさしい
日焼け止めの選び方

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日焼けをはじめとする紫外線の肌への影響を気にして、日常的に使われるようになった日焼け止め。ジェルやスプレーなど、テクスチャや形状もさまざまあり、シーンに合わせて使い分けが可能ですが、やはり夏の海や川を訪れる際には、いつも以上にUVカット効果が高い日焼け止めを使うはず。

ところが近年、この日焼け止めが海に悪影響を与えていると言われるようになりました。いったいなぜ? どんな日焼け止めならセーフ? サンゴ礁保全と観光産業の持続可能な発展を目的とした、国際的なダイビング・シュノーケリングのガイドライン「Green Fins」の日本導入を担当する積田彗加さんにうかがいました。

海遊びに必須な日焼け止めが
サンゴを弱らせている?

日焼け止めから、年間約6000〜1万4000トンもの化学成分が海に流れ込んでいるそう。スタンフォード大学の論文「Conversion of oxybenzone sunscreen to phototoxic glucoside conjugates by sea anemones and corals(イソギンチャクとサンゴによって日焼け止めに含まれるオキシベンゾンが光毒性のあるグルコシド結合体へ変換される)」によると、この日焼け止めに含まれる化学物質が、海洋生態系に致命的な影響を与えることが証明されています。

研究グループの実験によると、サンゴと似た生態のイソギンチャクや、サンゴの仲間であるクサビライシを使って、多くの日焼け止め成分に含まれる「オキシベンゾン」と疑似太陽光の影響について調査を実施。オキシベンゾンを取り入れ、疑似太陽光を当てた条件では、17日以内に全滅するという結果が出たのです。

「米国ハワイ州では、2021年1月より紫外線吸収剤の「オキシベンゾン」や「オクチノキサート」を含んだ日焼け止めの販売を禁止する法案が施行されました。さらに西大西洋に浮かぶパラオ諸島では、紫外線吸収剤に加え、「フェノキシエタノール」をはじめとする10種類の化学物質が含まれる日焼け止めもサンゴへの悪影響があるとみなし、2020年1月より、国内での販売および持ち込みを禁止する徹底ぶりをみせています。それだけ、日焼け止めによるサンゴへの悪影響を重んじているといえます」(「Green Fins」導入担当・積田彗加さん、以下同)

さらに、多くの日焼け止め成分に含まれている「酸化亜鉛」と「酸化チタン」ですが、近年ナノ粒子化された商品が多く出ています。成分が非常に小さいとサンゴが吸収してしまい、正常に成長することができなくなってしまうのだとか。禁止されていない成分でも、ナノ粒子化されることでマイクロプラスチックのように目には見えない影響が出てきていると言えるでしょう。

サンゴへ悪影響を及ぼす原因は、日焼け止めのほかにも、温暖化による気候変動、沿岸開発、レジャー時の踏む、蹴るなどによる人的被害など、さまざま考えられます。すべて私たちでコントロールすることはできませんが、日焼け止めに関しては、自分たちの意思と知識さえあれば、環境にやさしいものを積極的に選択できるはず。日焼け止めを購入する前に、どんな成分が含まれているか確認することから始めてみましょう。

なぜサンゴ礁を守らないといけないの?

そもそもなぜサンゴ礁を守る必要があるのでしょうか? 人間たちを魅了するような観光資源だけでなく、サンゴ礁は、海の生態系を支え、私たちの生活に不可欠な役割を担っていると、積田さんは話します。

「サンゴ礁は赤道近くに分布しています。地球の表面積のうちわずか0.1〜0.2%程度にしかなりませんが、地球上の海洋生物の約25%の種類が生息する場所でもあります。つまりサンゴ礁がなくなってしまうことは、海洋生物にも大きな影響を与えてしまうのです」

サンゴ礁の役割

・生き物の棲家(生物多様性を支える)
・温暖化の抑制
・防波堤
・観光および漁業資源

サンゴ礁が減少するとどうなる?

・海洋生物の25%の種類が生息する重要な生態系が破壊される
・食料が減る可能性がある
・防波堤の役割を果たせなくなる
・観光業への経済的な打撃も大きくなる

「私が駐在する沖縄県恩納村にも、さまざまなサンゴが生息しています。この村は、もずくやあおさ、海ぶどう養殖が盛んです。実は村のサンゴが大規模白化した年に、養殖物の漁獲量が一気に下がってしまったことがあったそうです。地元の漁師さんの中には、サンゴの状態と漁獲高の関係性を意識してサンゴの養殖を始めた人がいます。サンゴを守ることで、漁師さんの暮らしを守り、きれいなサンゴを見たいと観光客がやってくる。サンゴ保全の意識を高めることは、そこに住まう人だけでなく、観光で訪れる人にも大切な営みです」

普段使いできる
海の生き物たちにやさしい日焼け止め

私たちがサンゴを守るための一番身近な手段のひとつに、日焼け止めがあります。積田さんは、海遊びの時だけでなく日常的に使う日焼け止めやUVカットの化粧下地の成分もチェックしてほしいと言います。

「日焼け止めは、体や顔を洗った後に下水へ排出され、最後は海に流れていきます。食器や洗濯洗剤の成分、洗濯時に繊維から落ちるマイクロプラスチックが海に流れていくことと同じですね。海で遊ぶ際に使う日焼け止めだけでなく、日常的に使用するものも、地球環境にやさしい成分を選べると良いでしょう」

日焼け止めを選ぶ際には、この2つのキーワードが入っているかチェックしましょう。

【選ぶ際にチェックしたい表示】

・紫外線吸収剤不使用
・ノンナノ(酸化チタンや酸化亜鉛をナノ粒子化していないもの)

「表示を見てもわからないという人は、パラオで販売されている日焼け止めを購入するのがおすすめです。パラオはサンゴ保全国最先端の一つで、10種類の成分を規制しています。規制されている成分が入った日焼け止めを、パラオ国内に持ち込むことすらできません。つまりパラオで売っている日焼け止めは、すべて環境にやさしいものであると言えます」

ここからは積田さんおすすめの海の生き物たちにやさしい日焼け止めを4つ紹介します。

・「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証」を取得!海にも川にもやさしい

BADGER「Adventure Mineral Sunscreen Cream – SPF 50」
$17.99(USD)=2609円($1 USD = 145円で換算・ 8月29日時点)
紫外線予防効果:SPF50

サンゴやウミガメ、その他の水生生物に無害な製品にしか与えられない「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証※」の日焼け止め。肌の新陳代謝を促すビタミンE配合で美肌効果もあり。石けんでオフ可能。

※サンゴや環境に有害な日焼け止めの法規制を高めた論文の一つを発表した「米国バージニア州のハエレティクス環境研究所では、海洋および淡水の小川や川も含めた生態系に悪影響を及ぼす有害物質のリストを発表。このリストにある有害物質をすべて排除した製品に与えられるのが、「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証」です。

環境にやさしいノンナノの酸化亜鉛を使用しているがゆえに白浮きしやすいですが、そのおかげで水をはじき、約80分の耐水時間を誇ります。

・海とサンゴを思う気持ちが名前にも込められた日焼け止め

ジーエルイー「サンゴに優しい日焼け止め ホワイト40g」
3273円(税込)
紫外線予防効果:SPF50+、UVA★★★★

100パーセント自然由来成分でできた日焼け止め。自社ブレンドのラベンダーやユーカリ等4種の精油が保湿効果とリラックス効果をもたらします。ウォータープルーフ仕様ですが、石鹸とぬるま湯でオフすることができます。容器は再資源化が容易なスチール缶です。

「沖縄出身の金城由希乃さんによって開発された日焼け止め。ビーチでシュノーケリングをしようとしていた時に、『日焼け止めを塗ると、サンゴが死んじゃうんだよ』と近くにいたダイバーに教えてもらったのが開発のきっかけだそうで、商品名からも思いが込められていることが伝わってきますね」

・ハワイ産の良質な天然成分だけで生まれたカバー力抜群の日焼け止め

リトルハンズハワイ「【ベージュ】スティックタイプLittle Hands Hawaii(リトルハンズハワイ)」
4400円(税込)
紫外線予防効果:SPF35~40

ハワイの豊かな自然環境に育まれた、100%天然素材のみを使用した日焼け止め。紫外線予防効果で未来のシミ、しわも防ぎます。ウォータープルーフなのに石けんでするっとオフできる使いやすさも魅力です。パッケージは、プラスチックフリーで環境負荷を最小限に抑えています。

「ノンナノ成分の日焼け止めは、環境にはやさしい一方で、伸びにくかったり、白浮きしやすかったりと使用感がネックになることも。でも、この商品は自然に色がつくので使いやすいです。私はベージュカラーを日焼け止め兼ファンデーションとして使っています。手が汚れないスティックタイプは、ササッと塗れて忙しい朝や、アウトドア時にも便利」

・国内最高レベルのUV指数なのに肌にも自然環境にもやさしい

モアニオーガニクス「DAILY ESSENTIAL SUNSCREEN」
3960円(税込)
紫外線予防効果:SPF50+、PA++++

国際的な有機認定機関「ECOCERT」による厳しいオーガニック基準に合格した日焼け止め。100%天然由来成分でできていながら、紫外線B波(UVB)、A波(UVA)ともに高い予防効果があり、紫外線が強い野外にも安心です。汗や水にも強いのに、石けんで簡単に落とすことができます。

「ミルクタイプのテクスチャーで、肌によく伸びて使用感もいいです。べたつかずさらっとしていて着け心地も抜群ですよ」

サンゴや環境に配慮した日焼け止めを使うことは大切ですが、そもそも肌をださない様にするのも対策のひとつ。「シュノーケリングや海遊びをするときには、長袖のラッシュガードを着るようにすれば、日焼け止めを塗る面積もセーブできて、肌にも海にも優しいですよ」と、積田さん。少しの工夫を楽しみながら、環境にも自分にも優しくいられるといいですね。

Profile

「Green Fins」 / 積田彗加

神奈川県出身。早稲田大学卒業。新卒でIT企業に入社するものの、ダイビング好きが高じ、ダイビングの楽しみ方を広げたいという思いで海とダイビングのウェブメディア「ocean+α」に2018年に転職。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。「Green Fins」の導入推進を担当している。同団体の日本窓口でアセッサー。

取材・文=染谷遥 編集協力=つるたちかこ