ウイスキー消費を若年化・大衆化した立役者といえばサントリーの「角ハイボール」ですが、この「ハイボール」、すなわち「ソーダ割り」がジンやラム、テキーラなどさまざまなお酒に急速に拡大。“原酒+ソーダ”という飲み方がお酒トレンドを席巻しています。
この流れは2025年以降も続く見込み。そこで原酒ソーダにおすすめの銘柄から、好みの炭酸強度・味わいで自宅で手作りできるレシピまでを紹介しましょう。
CONTENTS
ハイボールの次は?
「原酒ソーダ」トレンドの流れをおさらい
今回お話をうかがったのは、東京・丸の内ビルディングにある立ち飲みバー併設型のリカーショップ「SAKE COLLECTIVE &SPIRITS(サケ コレクティブ アンドスピリッツ)」。同店はロンドン最大級の日本酒専門店と、東京最大級の蒸留酒専門店のコラボレーションストア。代表の黒田亜衣さんにトレンドなどを教えていただきました。まずは昨今人気となっている背景から。なぜ近年、原酒ソーダが盛り上がっているのでしょうか?
「理由はいくつかあります。振り返ると、ルーツは2008年ごろに始まった、『角』を起点とするウイスキーのハイボールブーム。これは近年の日本におけるウイスキーブームのきっかけにもなりました。飲食店で飲まれていたハイボールが徐々に家庭にも浸透。いまや、大定番酒のひとつとなりました」(アンドスピリッツ株式会社 代表・黒田亜衣さん、以下同)
ハイボールをはじめとする原酒ソーダ人気の理由のひとつは、ベースとして使われるウイスキーやジンといった蒸留酒が、ビールやワインなどの醸造酒よりも糖質が低いというヘルシーさ。こうした認知が広がるなかでウイスキーやハイボールが市民権を獲得し、その後、「レモンサワー」ブームへと続きました。
「代表的な商品は、『檸檬堂』と『こだわり酒場のレモンサワー』。EXILEが監修した『レモンサワースクワッド』も話題でした。街にもレモンサワーの専門店や、テーブルにレモンサワーが出る蛇口を取り付け、それを飲み放題で楽しめるようにしたお店などが続々とオープンしましたよね」
このトレンドを後押ししたのが、2018年ごろに起きた「強炭酸水」ブームです。
このころに、「カナダドライ」ブランドの「 ザ・タンサン・ストロング」や、サントリーとスノーピークがコラボした「サントリー 南アルプススパークリング」などがデビューしました(ともに現在は終売したものの、そのDNAは最新ブランドに引き継がれています)。
「『こだわり酒場のレモンサワー』は、RTD(Ready to Drinkの略。缶や瓶など、フタを開けてそのまま飲める飲料のこと)よりも前に、『こだわり酒場のレモンサワーの素』を発売していました。これは、いわばアルコール入りの割り材。強炭酸水ブームとの親和性の高さもあり、自宅などでハイボールやレモンサワーを飲む人が増えていきました」
ジン人気の理由と現在地。
火付け役のブランドは?
その裏で、ジワジワと勢力を拡大させていたのが「ジン」です。特にお酒好きやバー業界のあいだでは、小規模蒸留所による個性的な味わいのクラフトジンが注目を集めていました。
そのムーブメントの世界的なパイオニアである「シップスミス」は2009年に英国ロンドンで誕生。日本初のクラフトジンは、京都蒸溜所の「季の美」で、2016年にデビューしました。
「ジンはジュニパーベリーというスパイスを使うこと以外は定義がゆるく、異なる多彩なボタニカルが生み出すフレーバーが魅力です。ウイスキーのように必ずしも樽で長期間熟成させる必要がないので、比較的早く出荷できるというメーカー側の利点もあります」
ジンのヒットを決定づけたのは、サントリーの「翠(SUI)」。2020年にデビューし、2022年にはRTD「翠ジンソーダ缶」が発売され、ともに大ヒット。ハイボールのように家飲みの新定番として定着しました。
「コロナ禍によって家飲み需要が増したことも大きかったと思います。蒸留酒の魅力に目覚める人も多く、ウイスキーやジン以外に、ラムやテキーラ、焼酎なども脚光を浴びるようになり、いまの原酒ソーダブームにつながりました」
仕事柄、海外のつくり手やバーテンダーとの情報交換を頻繁にするという黒田さんですが、原酒ソーダは日本独自のカルチャーだとか。ほかの国では、カクテルのほうが人気が高く、原酒をソーダで割って飲む文化はあまり根付いていないといいます。
「日本でソーダ割りが人気なのは、料理に合わせてお酒を楽しむ文化があるからだと思います。ソーダで割るとアルコール度数が高いお酒でも飲みやすくなりますし、爽快で食事にも合わせやすい。また、日本人は欧米人にくらべてお酒に弱いので、お酒を覚えたてのころにストレートのまま飲むという人はあまりいません。
東京の下町では、ウイスキーハイボールから転じた焼酎ハイボールが戦後から大衆酒場で親しまれていますし、日本人はDNA的にもソーダ割りが好きなんだと思います」
「冷やすこと」を意識するとおいしく仕上がる
では、自宅などで原酒ソーダを楽しむ際、どうやって作るとお店のようにおいしく仕上がるのでしょうか?
「まずは、できるだけ冷やすことです。炭酸ガスには、水の温度が低いほうが溶け込みやすいという性質があるので、冷たくしたほうが爽快感を得られます」
「また、氷が溶けると水っぽくなり風味が変化してしまうので、それを可能な限り防ぐという意味でも冷たいほうがいいですね。そういった意味では、製氷機で作った氷よりもお店で売っているような溶けにくい氷を使うのがおすすめです」
お店の味を再現!
おいしい原酒ソーダの作り方
なるほど! とはいえ論より証拠。同店バーテンダーさんの実践を交えつつ、黒田さんに解説していただきました。
「まずはグラスに氷を入れ、バースプーンやマドラーでかき混ぜてグラスをしっかり冷やします。次にスピリッツを注入。アルコール度数が40%なら、スピリッツ1:ソーダ4で約8%、1:5なら約6.6%になりますが、比率はお好みでご調整ください」
「ソーダは、炭酸ガスが抜けないようにできるだけやさしく注ぎます。注ぎ終わったらマドラーなどで氷を上に4〜5回持ち上げ、全体をなじませれば完成です」
ウイスキーからカシャッサ、メスカルまで
原酒ソーダに合うおすすめ銘柄
「SAKE COLLECTIVE &SPIRITS」は、嗜好性の高い品ぞろえが特徴で、個性的なブランドがずらり。今回はそのなかから、原酒ソーダにオススメの銘柄をピックアップしてもらいました。
ウイスキー
・スコッチウイスキー(シングルモルト)
「スコットランドのアイラ島でつくられるアイラモルトはスモーキーな香りが魅力。ストレートやロックなどもオススメですが、ぜひハイボールも楽しんでみてください。なかでも『キルホーマン』は、たくましい燻香と甘やかなコクがたまりません」
・ウェルシュウイスキー
「個人的に推したいのは、英国南西部のウェールズでつくられているウェルシュウイスキーのシングルモルト『アバフォールズ』。現地でも、100%ウェールズ産の麦芽を使用している蒸留所であり、ほんのりとしたスパイス感と果実味、甘味が絶妙。ハイボールには特にオススメです」
・アメリカン(バーボン)ウイスキー
「アメリカンウイスキーからは『ミクターズ』を。米国最古のウイスキー蒸留所をルーツに持つブランドで、少量生産のクラフトディスティラリーとしても屈指の人気。樽由来のバニラ香や、濃厚な果実味がハイボールとも好相性です」
・アイリッシュウイスキー
「近年人気急上昇中のアイリッシュからは『クロナキルティ』を。カカオや完熟フルーツのリッチな果実味がおいしいです」
・スコッチウイスキー(ブレンデッド)
「スコッチのブレンデッドウイスキーからは『ザ グラッドストンアクス』のブラックアクス。アイラモルトとハイランドモルト(ハイランド地方のモルトウイスキー)のブレンドで、スモーキーかつリッチな味わいが特徴です」
ジン
・ジャパニーズジン
「野沢温泉蒸留所の『シソジン』は、赤紫蘇のやさしい甘味が特徴で、ジンソーダの新たな魅力に気づかせてくれるはずです」
・ロンドンドライジン
「正統派のロンドンドライジンからは、3年連続で“英国で最も愛されているプレミアムジン”に選ばれている『ウィットリーニール』。柑橘の風味と土っぽいスパイス感、苦味や甘味のバランスが心地よいおいしさです。
そして、音楽好きに有名な英国のアンプメーカー『マーシャル』ブランドのジンも、意外なおいしさでオススメ。ジュニパーベリーのビター感に、コリアンダーシードのハーバルや柑橘の香りが加わった、爽やかな飲み心地が魅力です。音楽好きの方へのプレゼントにもぜひ」
ラム・カシャッサ
・ホワイトラム
「ラムは、樽熟成やスパイスの添加の有無、主原料となるサトウキビの甘味などで、味わいが多彩に変化します。イチオシは、日本人醸造家の井上育三さんがラオス人と共創した『ラオディ』。ピュアで濃厚なホワイトラムです」
・ダークラム
「スイーツ好きの方へのおすすめは、ブルーノ・マーズがプロデュースする『セルバレイ』のチョコレートラム。パナマのジャングルで作り出されるリッチな風味と、奥深いカカオのフレーバーが心地よく、それでいて甘すぎない繊細な味です」
・カシャッサ(ピンガ)
「ブラジルには、同じサトウキビが原料でも、製法などがラムとは若干異なる『カシャッサ(ピンガ)』という伝統酒があり、そこで推したい銘柄が『イピオカ』です。栗の樽で6か月以上熟成させていて、独特のコクや甘味が特徴の魅惑的な味です。ヤシの葉で巻かれたボトルもかわいいですよ」
テキーラ・メスカル
・テキーラ
「ブルーアガベからつくられるテキーラも、リッチな甘味や熟成の有無などで個性が異なり面白いです。『オルメカ』のシルバーは、ハーバルかつスパイシーで柑橘香も感じられ、ソーダ割り入門に最適なバランスのいい一本ですね」
・メスカル
「テキーラは、メキシコのハリスコ州や周辺地域産であることなど細かな定義があるお酒。それに対し、同じくメキシコで自由な発想でつくられているのが、より伝統的な『メスカル』です。スモーキーかつ個性的な味わいや、おしゃれなデザインが注目されていて、近年人気が高まっています。
例えば『メスカル アハル』は、燻製の香りのなかにオレンジ、ピーチ、アップルのような果実味があって絶品!
よりエントリー向けなら、燻製香がおだやかで上品な味わいの『サン コスメ』。メキシコ屈指の有名なバーで、ハウスワインならぬ“ハウスメスカル”としても使われている由緒正しき銘柄です」
チャチャ・アップルブランデー・シンガニ
最後に、カシャッサやメスカルのように、日本ではまだあまり知られていない世界の蒸留酒からソーダ割りに合うお酒も紹介していただきました。
・チャチャ
「まずはジョージアの伝統酒の『チャチャ』。世界最古の蒸留酒のひとつと言われるぶどうのスピリッツです。なかでもこの『ダクラッツェ』は優良栽培地域のぶどう園を所有するワイナリーがつくったチャチャで、ブーケのような華やかな香りが素晴らしいです」
・アップルブランデー
「ぶどうで作られることの多いブランデー(果実を主原料とした蒸留酒)のなかで、りんごでつくれらたブランデーを『アップルブランデー』といいます。アップルブランデーで有名な商品は『カルヴァドス』が、今回おすすめしたいのはソーダ割りに最適な『アプルヴァル』。やわらかな口当たりと、ふんわり香るりんごの余韻がたまらないおいしさですよ」
・シンガニ
「 そして3つめは、ボリビア伝統のマスカットの蒸留酒、『シンガニ』から『ロス パラレス』。マスカット・オブ・アレキサンドリアのリッチな甘やかさ、爽やかな香りが調和して、ソーダ割りにも好相性だと思います」
手軽に入手できる新作ジンソーダのRTDは
味も意匠も個性的
続けて、嗜好性がありつつも比較的入手しやすいRTDのおすすめを聞きました。すると黒田さんは、2024年11月に発売されたばかりのジンソーダ「LASTジンソーダ缶」をレコメンド。こちらは東京・蔵前にある「エシカル・スピリッツ」初のRTDで、首都圏を中心にスーパーなどでも販売されているそうです。
「ジュニパーベリーのニュアンスにラベンダーの華やかさが重なり、さらにリコリスや酒粕を思わせる甘やかさ、まろやかなニュアンスが楽しめる個性派です。アルコール度数5%と、ジンのRTDとしては飲みやすいのも魅力。250mlの手ごろなサイズや、おしゃれなデザインもお気に入りです!」
世界には多様な美酒が数多。
ソーダ割りでどんどん試そう!
原酒ソーダのトレンドは2025年以降も拡大していきそうですが、黒田さんはこのムーブメントをどう見ているのでしょうか?
「今年は大手のキリンからRTDの『KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香』が新発売されるなど、ジンのソーダ割のラインナップが充実しましたし、しばらく話題性が続くスピリッツといえばジンかなと思います。付随するトピックスとしては、ジントニックでしょうね。こちらも、コンビニなどで買える缶入りの商品が続々と登場しています」
また、ラムやテキーラを筆頭に、メスカルやカシャッサなどのアナザースピリッツも徐々に浸透していくはずだと予想。「大手メーカーさんがどこまでPRをするかで、市場拡大のスピードや広がる規模感が変わるとは思いますが」と前置きしつつ、次のように語りました。
「ここ数年を振り返ると、グローバル化やSNSの発達もトレンドに大きく影響してきたと思います。特に若い世代は顕著で、20~30代でもお酒好きの方のなかにはマニアックな銘柄に詳しい方がたくさんいます。それでいて、酔い潰れるなどはせず、スマートに嗜む方が多い印象です。若い世代という意味では、若いつくり手もどんどん増えているんですよ」
黒田さんはあらためて、アルコール度数が高いお酒をソーダ割りで飲みやすくするという日本独自の嗜み方に言及。「この文化が多彩な原酒を試すハードルを下げる好習慣となっていて、銘柄の認知拡大にもひと役買っているのでは」と推察します。
「バー業界でも、年々ソーダ割りのオーダー率が増えているという話を聞きます。もちろん当店も同様ですね。私としては、チャチャやシンガニなどの知名度が低い美酒も、ソーダ割りを入口にして知っていただけるよう、よりプッシュしていきたいです」
Profile
アンドスピリッツ株式会社 代表 / 黒田亜衣
2021年に「&SPIRITS」の事業責任者として同店を立ち上げ、2022年に独立し、アンドスピリッツ株式会社を創業。2023年に「SAKE COLLECTIVE &SPIRITS」をオープンし、これら2店舗の運営ほか、輸入卸売業、オリジナル商品の開発、イベントの企画・運営などを行っている。
アンドスピリッツ株式会社
取材・文=中山秀明 撮影=鈴木謙介